• 著者: Yi E, Gujar AD, Guthrie M, Kim H, Zhao D, Johnson KC, Amin SB, Costa ML, Yu Q, Das S, Jillette N, Clow PA, Cheng AW, Verhaak RGW
  • Corresponding author: Roel G.W. Verhaak (Jackson Laboratory for Genomic Medicine, Farmington, CT); Albert W. Cheng (Jackson Laboratory for Genomic Medicine, Farmington, CT)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2021-12-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34819316

背景

染色体外DNA (extrachromosomal DNA: ecDNA) は、癌遺伝子や調節配列を含む50 kbから5 Mbの環状ゲノム断片として、腫瘍進化において重要な役割を果たす構造的ゲノム異常である。ecDNAは神経膠芽腫 (glioblastoma: GBM) の大多数および多くの癌種で高頻度に観察され、腫瘍の急速な増殖と患者の予後不良に関連することが報告されている Turner et al. Nature 2017。ecDNAには動原体 (セントロメア) やテロメアが欠如している (acentromeric、atelomeric) ため、この特徴が有糸分裂時の不均等分配 (uneven segregation) の原因となり、腫瘍内のecDNAコピー数の高度な細胞間変動、すなわち高い腫瘍内不均一性 (intratumoral heterogeneity) を生み出すと理論的に予測されていた Verhaak et al. NatRevCancer 2019。この不均一性は治療抵抗性や再発の主要な要因となることが示唆されている Andor et al. NatMed 2016

しかし、従来の蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) や固定細胞のDAPI染色では、ecDNAの静的なスナップショットしか得られず、有糸分裂中のecDNAの動的挙動や分配パターンを直接観察する手段が不足していた。また、有糸分裂後のecDNAの核内における局在や、その転写活性との関係についても未解明な点が多かった。ecDNAの配列は親となる染色体DNAと区別できないが、ecDNA固有のブレイクポイント配列 (end-to-end ligation由来のジャンクション) はecDNAに特異的に存在し、生細胞での可視化の標的として利用できる可能性が示唆されていた。このような技術的なギャップが、ecDNAの動態と機能に関する理解を深める上での大きな課題として残されていた。特に、ecDNAの不均等分配が腫瘍内不均一性をどのように駆動し、癌遺伝子増幅にどのように寄与するのかというメカニカルな側面は、直接的な観察によって裏付けられる必要があった。これまでの研究では、ecDNAの存在量やコピー数変動が間接的に示唆されてきたものの、その動的な挙動、特に細胞分裂時の分配メカニズムや核内での機能的組織化については、直接的な観察による検証が不足していた。

目的

本研究の目的は、ecDNA固有のブレイクポイント配列を標的とするCRISPRベースのライブセル標識法 (ecTag) を開発し、生細胞において有糸分裂中のecDNA分配パターンと、有糸分裂後のecDNAの核内動態および転写活性を直接観察することである。これにより、ecDNAが腫瘍内不均一性と癌遺伝子増幅に寄与するメカニズムを分子レベルで解明し、その生物学的特性に新たな知見をもたらすことを目指した。具体的には、ecDNAの不均等分配が細胞間でどのように生じるのか、また、有糸分裂後にecDNAがどのような構造を形成し、それが癌遺伝子の転写にどのように影響するのかを明らかにすることを目的とした。本研究は、ecDNAの動的な挙動をリアルタイムで可視化する革新的なツールを提供し、癌遺伝子増幅と腫瘍進化におけるecDNAの役割に関する理解を深めることを目指した。

結果

ecDNA単細胞コピー数の高度な細胞間変動: GBM腫瘍組織およびニューロスフェア株におけるinterphase FISHにより、EGFR含有ecDNAのコピー数は細胞間で広範に変動することが明らかになった。この分布はガウス分布に最もよく適合し、染色体7 (Chr7、broadly amplified) の分布と比較して有意に高い変動性を示した (MAD: ecDNA平均10.25 vs. Chr7平均1.61; Fligner-Killeen test P < 1.5e-08、全サンプル)。さらに、7遺伝子のecDNA増幅と16遺伝子の線状増幅を比較したパネル実験でも、ecDNA MAD (中央値 43±33.18) が線状増幅MAD (中央値 1.48±1.18) と比較して有意に高かった (Mann-Whitney U test P < 0.0001)。単細胞レベルでEGFR ecDNAコピー数とEGFRタンパク質発現の間に正の相関が確認され (Pearson相関 R=0.28, p=0.0015; R=0.32, p=0.00073; R=0.36, p=7e-05; R=0.38, p=0.0027)、ecDNAが機能的に遺伝子発現の腫瘍内不均一性を駆動することが示された (Fig 1E, F)。この変動性は、ecDNAが細胞間で不均等に分配されることを強く示唆している。

ecTagシステムの確立と有効性の検証: ecDNAブレイクポイントジャンクション配列を標的とするecTagシステムにより、生細胞内でのecDNAの特異的な蛍光標識に成功した。ecTag sgRNAはecDNA特異的ブレイクポイントに設計されているため、親となる線状染色体のDNAには結合せずecDNAのみを選択的に標識できることが確認された。ecTagの標的効率は平均81.2% (正規化後)、オンターゲット効率は平均67.3%であった (Fig 2D)。このシステムは、ecDNAのコピー数分布パターンがFISHで観察されたものと類似していることを示し、ecDNAの不均等分配を再現できることが示された (Fig 2F)。PC3細胞株を用いた実験では、ecTagの安定発現モデルが確立され、生細胞イメージングにおけるその有用性が確認された。

有糸分裂中のecDNA不均等・ランダム分配の直接可視化: ecTagを用いたライブセルイメージングにより、有糸分裂を経過するGBM細胞 (HF3016ニューロスフェア細胞) でのecDNAの動的分配が直接観察された。ecDNAは有糸分裂中に不均等かつランダムに2つの娘細胞に分配されることが実証され、これにより一方の娘細胞が不均衡に多くのecDNAを獲得し、個々の細胞でのecDNAの急速な蓄積が可能になるメカニズムが直接的に証明された (Fig 3A, B)。Chr7およびMUC4由来の信号は均一な分配を示したのに対し (Pearson相関 R=1またはR~1)、ecDNAの継承は相関が低く有意ではなかった (Pearson相関 R=0.227, p=0.31)。この観察は、FISHや計算論的解析から間接的に示唆されていた「ecDNA不均等分配仮説」を生細胞リアルタイム観察で直接実証した最初の報告である。PC3細胞の単細胞クローンを用いた実験 (n=3 clones) でも、MYC ecDNAコピー数は高度に変動し (MAD = 7.413-14.826)、Chr8コピー数は安定していた (MAD = 0) ことから、不均等分配が確認された (Supplementary Fig. S15)。

有糸分裂後のecDNAハブ形成とRNA Pol IIとの共局在: 有糸分裂完了後、ecDNAは核内でランダムに散在せず、「ecDNAハブ」と呼ばれる集積した局所構造を形成した (Fig 3E, F)。免疫蛍光染色によりecDNAハブはRNAポリメラーゼII (RNAPII) と共局在することが確認された (Fig 4A)。ecDNAとRNAPIIの共局在は、Chr7と比較して有意に高い数のecDNA遺伝子座で観察され (Mann-Whitney test P < 8e-03)、ecDNAハブが含有する癌遺伝子 (EGFRなど) の転写を促進するプラットフォームとして機能することを示唆した。ecEGFRx1およびecEGFR ecDNAブレイクポイントのコピー数はRNAPIIカウントと線形相関を示し (Pearson相関 R=0.45, p=0.0061; R=0.46, p=0.011)、共局在がランダムではないことを示唆した (Fig 4B)。また、RNAPIIと共局在するecDNAハブは、共局在しないecDNAよりも有意に大きいことが示された (Mann-Whitney test P < 0.05)。さらに、ecEGFR信号サイズとEGFR遺伝子発現の間に正の相関が認められ、物理的に大きなecDNAハブを持つ細胞ほどEGFR mRNAを多く発現することが示された (Fig 4D)。これらの結果は、ecDNAが癌遺伝子を物理的・転写制御的に「ハブ」に集積させることで転写効率を増幅させるという新しいメカニズムを提唱するものである。5-エチニルウリジン (EU) 取り込みアッセイでも、ecDNA信号はEU取り込み領域と有意に共局在し、転写活性との関連が裏付けられた (Supplementary Fig. S25A)。

考察/結論

本研究は、ecDNAの腫瘍促進メカニズムの根幹として、 (1) 有糸分裂中の不均等・ランダム分配による急速な腫瘍内不均一性の生成、 (2) 有糸分裂後のecDNAハブ形成によるRNA Pol IIとの共局在と癌遺伝子転写増幅、という2つのプロセスを初めて生細胞リアルタイム観察で直接実証した点で独創的である。

先行研究との違い: これまでの研究では、FISHや固定細胞のDAPI染色、全ゲノムシーケンス (WGS) や計算論的手法を用いてecDNAの存在やコピー数変動が間接的に示唆されてきたが Turner et al. Nature 2017、有糸分裂中の動的な分配パターンを直接可視化することは困難であった。本研究は、CRISPRベースのecTagシステムを開発し、この技術的ギャップを埋めることで、ecDNAの動態をリアルタイムで追跡することを可能にした点で、これまでの研究とは一線を画している。特に、ecDNAの不均等分配が細胞間でどのように生じるかを直接的に捉えたことは、腫瘍内不均一性の生成メカニズムに関する理解を大きく進展させるものである。

新規性: ecTagシステムは、ecDNA配列がユニークなブレイクポイントジャンクションを含むという生物学的特徴を巧みに利用したCRISPRベースの標識法であり、その技術的革新性は高い。本研究で初めて、ecDNAが有糸分裂後に核内で「ecDNAハブ」と呼ばれる局所構造を形成し、それがRNAポリメラーゼII (RNAPII) と共局在することで、積載された癌遺伝子の転写を促進するという新規メカニズムを明らかにした。このハブ形成は、単なるコピー数増加以上の転写増幅効果をもたらす可能性を示唆しており、Wu et al. Nature 2019Morton et al. Cell 2019 が報告したecDNAのオープンなクロマチン構造やエンハンサー機能と相まって、癌遺伝子発現の異常な亢進を説明する重要な知見である。

臨床応用: ecDNAの不均等分配は、腫瘍細胞集団内で急速な遺伝的異質性を生み出し、これが治療抵抗性の重要な源泉となることが示された。したがって、ecDNAの複製や分配を標的とした介入は、新しい癌治療戦略として臨床応用の可能性を秘めている。例えば、ecDNAの安定性を損なう薬剤や、その不均等分配を是正するようなアプローチは、腫瘍内不均一性を低減し、治療効果を向上させる可能性がある。また、ecDNAハブ形成を阻害することで、癌遺伝子の転写活性を抑制することも、新たな治療標的となり得る。

残された課題: 今後の検討課題としては、ecDNAハブ形成の分子機構のさらなる解明が挙げられる。具体的には、エンハンサー相互作用やHi-Cなどの3Dゲノム構造解析を用いて、ハブがどのように形成され、転写機械をリクルートするのかを詳細に調べる必要がある。また、ecDNA分配のランダム性を決定する細胞生物学的基盤、例えば、微小管との相互作用や核膜との関連性なども未解明である。さらに、治療ストレス下でのecDNA動態の変化、およびGBM以外の癌種 (卵巣癌、大腸癌など、ecDNAが高頻度で観察される癌種) でのecTagシステムの応用と、それらの癌種におけるecDNAの動態と機能の解明も今後の重要な研究方向性である。本研究は、これらの課題に取り組むための強力な基盤を提供するものである。

方法

主要モデルとして、GBM (神経膠芽腫) 患者腫瘍組織4例 (SM006、SM012、SM017、SM018) およびGBMニューロスフェア株 (HF3016、HF3177) を用いた。これらのサンプルは、以前の研究でEGFR含有ecDNAの焦点増幅が確認されているものである。単細胞レベルのecDNAコピー数変動の評価にはインターフェーズFISH (interphase FISH) を用い、線状増幅アンプリコンとecDNAの分布を比較した。FISHプローブとして、EGFR遺伝子と染色体7 (Chr7) に対応するプローブを使用した。コピー数分布の適合度評価には、Akaike情報量基準 (Akaike information criterion) を用いて、ガウス分布、負の二項分布、ポアソン分布への適合度を比較した。コピー数変動の指標として、中央絶対偏差 (median absolute deviation: MAD) を算出した。

ecTagシステムの開発では、ecDNA固有のブレイクポイントジャンクション配列に設計されたsgRNAと、Casilioシステム (dead Cas9標識とPumilio RNAバインディングを組み合わせたハイブリッドシステム) を活用した。sgRNAにはPumilio/FBF (PUF) RNAバインディングサイト (PUFBS) を組み込み、PUFに結合した蛍光分子 (Clover-PUF融合タンパク質) を動員することで蛍光信号を増幅させた。標的となるブレイクポイント配列は、全ゲノムシーケンスデータから再構築されたecDNA構造に基づいて同定し、Sangerシーケンスにより確認した。ecTagの特異性と有効性は、デュアルFISH (dual FISH) およびin vitro切断アッセイにより検証した。

ecTagを用いたライブセルイメージングにより、有糸分裂を経過するGBM細胞 (HF3016ニューロスフェア細胞) を追跡し、ecDNA分配パターンを定量的に記録した。有糸分裂後の核内でのecDNA局在と、RNAポリメラーゼII (RNAPII) 免疫蛍光染色との共局在を評価し、ecDNAハブの形成と転写活性との関連を解析した。RNAPII抗体 (ab193468, Abcam) を用い、共局在の割合と強度を定量した。また、5-エチニルウリジン (EU) 取り込みアッセイも実施し、転写活性の別のマーカーとして評価した。PC3細胞株も安定発現モデルとして使用した。統計解析には、D’Agostino-Pearson omnibus testによる正規性検定後、Mann-Whitney U test (2群比較) およびFligner-Killeen test (分散の均一性) を用いた。Pearson相関検定により、ecDNAコピー数とタンパク質発現、およびecDNAコピー数とRNAPIIカウントの相関を評価した。画像解析にはFIJI (ImageJ 1.53c) のマクロスクリプティングとBioVoxxelプラグインのSpeckle inspector機能を用いた。