• 著者: Morton AR, Dogan-Artun N, Faber ZJ, MacLeod G, Bartels CF, Piazza MS, et al.
  • Corresponding author: Rich JN (UCSD); Scacheri PC (Case Western Reserve University)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-11-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31761532

背景

染色体外環状DNA (ecDNA) は多くの固形腫瘍で高頻度に観察される癌遺伝子増幅様式であり、メンデル遺伝に従わない娘細胞間での不均等分配によって腫瘍不均一性と薬剤耐性の加速的進化を促進する (Turner et al. Nature 2017)。従来の「遺伝子中心」的な増幅解析は、アンプリコンの最小共通領域内にある候補癌遺伝子の同定に焦点を当て、遺伝子境界外の非コード配列は機能を持たない乗客配列として軽視されてきた。しかし近年、TAD (トポロジカル関連ドメイン) が転写制御の機能単位として機能することや、スーパーエンハンサーが細胞アイデンティティと疾患において中心的役割を担うことが明らかにされており (Hnisz et al. Cell 2013)、遺伝子境界外の非コード配列も転写制御において本質的な寄与をする可能性が生じていた。

加えて、トランスロケーション・逆位・その他のゲノム構造変異がエンハンサーを癌原遺伝子近傍に移動させる「エンハンサーハイジャック」機構が複数の腫瘍型で報告されており (Northcott et al. 2014、Groschel et al. 2014)、アンドロゲン受容体遺伝子とその専用エンハンサーの共増幅が転移性前立腺癌の進行に寄与することも示されていた (Takeda et al. 2018)。膠芽腫 (GBM) ではEGFR高レベル増幅 (約50%) の多くがecDNA様式で生じることが知られていたが、ecDNAアンプリコン内の非コード配列がどの程度機能的エンハンサーを含み、それらが癌細胞の転写プログラムや増殖に与える影響は不明であり、この領域は研究が手薄であった。ecDNA形成機構であるクロモスリプシスが非コード調節配列の再配置を伴いうることが示唆されていたが、ecDNA上のエンハンサー機能と転写制御再配線を包括的に評価した研究は存在せず、「非コードゲノムがecDNA増幅の進化的選択においていかなる役割を担うか」というgap in knowledgeが明確に存在していた。

目的

GBMにおけるEGFR ecDNA増幅を主要モデルとして、(1) アンプリコン境界外非コード配列の選択的共増幅パターンの統計的定量化、(2) 共増幅エンハンサーの起源細胞特異性の評価、(3) CRISPRiによるエンハンサーの細胞適応度への直接的寄与の検証、(4) ecDNA環状化がクロマチン接触トポロジーに与える影響の解明、(5) 多癌種における癌遺伝子-エンハンサー共増幅の普遍性の検証を目的とした。

結果

EGFRアンプリコンにおける2つの機能的エンハンサーの選択的共増幅:TCGA GBM 174症例のEGFRアンプリコン解析では、173/174例 (99.4%) がEGFRコード配列の上流130 kbに及ぶ非コード領域を含んでいた。モンテカルロ置換検定 (10,000回反復) により、この上流領域への偏りは統計的に高度に有意なアンプリコンスキューであることが確認された (p<0.0001; Fig 1B)。スキュー領域内に2つのH3K27acシグナルピーク (エンハンサー1: EGFR上流86 kb、エンハンサー2: EGFR上流130 kb) が同定され、両者はほぼ全ての増幅症例でEGFRと共増幅していた (Fig 1C)。H3K27acシグナル強度はEGFRコピー数と正相関しており (Pearson相関、n=174、p<0.0001)、増幅コピー全数でエンハンサーアセチル化が生じていることが示唆された (Fig S2B)。両エンハンサーはATAC-seq・POLR2A ChIP-seq・エンハンサーRNA発現により機能的活性が確認された (Fig 1D)。EGFR非増幅GBM株 (G361) でのCRISPRi実験では (N=3実験/sgRNA)、E1またはE2のいずれかの抑制によりEGFR mRNAがプロモーター標的化と同程度に有意に低下し (約0.45倍、N=3実験/sgRNA、t検定 p≤0.05)、8日間培養後の細胞生存能も低下した (p≤0.05; Fig 1F, 1G)。対照として同様に設計した無関係ロキサス (SQLE) 標的sgRNAではEGFR発現への影響は認められなかった (Fig S1A)。さらに、n=9のEGFR増幅GBM培養株において両エンハンサーは全例で共増幅されており、一部の株では内因性エンハンサーのコピー数がEGFR本体を上回っており (Fig 3B)、エンハンサー自体が癌遺伝子を超えた追加の選択圧下にある可能性が示された。

起源細胞特異的エンハンサーの選択とecDNA環状化によるトポロジー再配線:Roadmap Epigenomics Consortiumの134組織のH3K27acプロファイルとGBMスキュー領域のPearson相関解析では、EGFR上流の2つのエンハンサープロファイルが神経系組織 (海馬標本・胚性神経球) に最も高い類似性を示した (Fig 2B)。両エンハンサーはSOX2 (neural progenitor cell; 神経前駆細胞の維持に必須な転写因子) の結合部位も含んでいた (Fig 2C)。非増幅GBMにおいてEGFRはCTCF結合部位で画定される480 kbループドメイン内に存在し、4C-seqではEGFRプロモーターから両上流エンハンサーおよびEGFR遺伝子ボディ内の複数エンハンサーへの高頻度接触が確認された (Fig 4B)。EGFR増幅GBM (GBM3565) の4C-seqでは、内因性エンハンサーとの接触保持に加え、通常のドメイン境界外への新規接触が生成されており (Fig 4C)、CTCFはドメイン境界で結合を維持しながら境界ループ強度が明らかに低下していることが確認された (Fig S4B)。GBM3565のecDNAでは3つの非連続ゲノムセグメントが通常は2つの別個のTADにまたがる領域を含んで環状化されており (Fig 3E)、線状染色体では不可能な新規3D転写制御トポロジーが実証された。これらの結果は、ecDNA環状化が既存の調節ネットワークを保持しつつ、新たなエンハンサー-癌遺伝子接触を生成する独立した機構であることを示す。

大規模CRISPRiスクリーンによるエンハンサー機能の網羅的定量と新規エンハンサー同定:9,559ガイドRNA (EGFR遺伝子座100領域以上をカバー、400本の非ゲノム標的対照ガイドを含む) を用いた21日間プロリフェレーションドロップアウトスクリーン (Benjamini-Hochberg FDR<0.01) では、CRISPRiスコア (-log10 p値に基づく20 sgRNA rolling average) がH3K27acピーク強度とほぼ完全に一致し、活性を持つほぼ全てのエンハンサーエレメントが細胞適応度に何らかの機能的寄与を示した (Fig 5C, 5D)。EGFR増幅株 (GBM3565) においてEGFRプロモーターが最高のCRISPRiスコアを示し、内因性エンハンサーE1・E2が次いで高いスコアを維持しており、高コピー数増幅コンテキストでも機能的重要性が保持されることが示された。ecDNA環状化によって新たに活性を獲得したエンハンサーとして、E4 (GBM3565特異的な活性獲得と4C-seqで検証された新規3D接触を持ち; 全ロキサス中2番目に高い適応度スコア)、E5 (H3K27ac増加を伴わず新規3D接触のみを介して高い適応度スコアを示す; 純粋なトポロジー変化でも転写制御が成立することを意味する) が同定された (Fig 5C)。一方、E3はGBM3565アンプリコン内で欠失しており増幅株での適応度シグナルが消失したことで、エンハンサーのアンプリコン内局在が機能的効果の前提であることが確認された。これらの結果は、ecDNA上のエンハンサー配置と3D接触地図が癌細胞の転写的適応度依存性を決定する主要因子であることを実証した。

多癌種における癌遺伝子-エンハンサー共増幅の普遍性:4,577例・9癌種 (GBM、乳癌、肺扁平上皮癌、頭頸部扁平上皮癌、肝細胞癌、膀胱癌、髄芽腫、神経芽腫、Wilms腫瘍) の解析では、743例にコピー数>7の高レベル焦点性癌遺伝子増幅 (COSMIC定義43遺伝子) が検出された (Fig 6A)。43増幅事象中30例 (約70%) でアンプリコン上に遠位エンハンサーの一貫した共増幅が認められ (Fig 6C)、モンテカルロ置換検定により15例で有意なアンプリコンスキューが検出された (p<0.0001; Table S1)。うち7例は非コード領域または既知の癌遺伝子機能のない遺伝子を含む領域への選択的スキューを示した (Fig 6D)。MYC (group 3 髄芽腫) では連続・非連続の両アンプリコン形式でスーパーエンハンサーとの共増幅が確認され (Fig S6)、MYCN増幅ではn=40の神経芽腫コホートで下流スーパーエンハンサーへの有意な3’スキューが検出された一方 (p<0.0001; Fig 6E)、n=15のWilms腫瘍コホートでは全く異なる5’上流スーパーエンハンサーへのスキューが観察された (p<0.0001; Fig 6F)。独立検証として取得したn=5原発Wilms腫瘍のH3K27ac ChIP-seqにより、神経芽腫では認められないWilms腫瘍特異的スーパーエンハンサーがMYCN増幅スキュー領域と一致して存在することが実証された。腫瘍起源細胞との対応では、神経芽腫のMYCNスーパーエンハンサーが胎児副腎組織 (神経芽腫の細胞起源) への最高Pearson相関を示し (Fig 6G)、MYCN・TWIST1・GATA3が占有した (Fig 6H)。Wilms腫瘍のMYCNスーパーエンハンサーは胚性腎臓 (Wilms腫瘍の細胞起源) への最高相関を示し (Fig 6I)、SIX1・SIX2 (腎発生に必須な中胚葉転写因子) が占有していた (Fig 6J)。全体として、腫瘍種ごとに異なる起源細胞固有の系統特異的転写因子が占有するエンハンサーが選択的に共増幅されるという普遍的パターンが多癌種にわたって確立された。

考察/結論

本研究は、ecDNA癌遺伝子増幅が単なるコード配列のコピー数増加にとどまらず、起源細胞で活性な機能的エンハンサーを含む調節配列の選択的共増幅と、ecDNA環状化によるクロマチントポロジー再配線を必須プロセスとして内包していることを多角的に実証した。本研究で初めて、「オンコ遺伝子座 (onco-locus)」として癌遺伝子・エンハンサー・それらのトポロジー的接触を一体とした機能単位が提唱された点は新規な概念的貢献である。

既存研究との相違と新規性Turner et al. Nature 2017 はecDNAの高頻度性と非メンデル的不均等分配による腫瘍不均一性促進を示したが、それらの転写制御機構にまで踏み込まなかった。本研究はこの点においてこれまで報告されていない新規な知見を追加した。既報のエンハンサーハイジャック機構 (構造変異による癌遺伝子近傍へのエンハンサー移動) とは対照的に、本研究が明らかにしたecDNA環状化によるエンハンサー再配線は独立した機構であり、chromothripsis後のランダムな断片再結合から選択が作用するプールを形成し、エンハンサーを含む配置が生存優位性を付与するという進化的枠組みを提示した点で既報と異なる。CRISPRiスコアとH3K27acシグナルが網羅的スクリーン全体にわたってほぼ完全に一致するという発見も、本研究で初めて大規模に実証されており、エピゲノムマーカーが機能的重要性を予測するツールとなりうることを示した。

臨床応用と治療的含意:ecDNA上のエンハンサーが腫瘍維持に不可欠であるという発見は、直接的な臨床的含意を持つ。BET阻害薬等のスーパーエンハンサー標的エピゲノム治療薬がecDNA陽性腫瘍に対して有効である可能性が示唆され、「undruggable」と考えられてきた癌遺伝子に対するエンハンサー側からの間接的標的化という bench-to-bedside 戦略の合理的根拠が提供される。GBMでは標準治療に対する耐性発現が極めて速く、ecDNA陽性腫瘍では薬剤耐性関連遺伝子の急速なecDNA増幅が可能であることを考慮すると、エンハンサー依存的転写プログラムの阻害が既存の分子標的薬と相補的な役割を担いうる。EGFR E1・E2エンハンサーはSOX2結合配列を含み、GBMの腫瘍幹細胞様状態の維持に関与する転写ネットワークの一部であることから、これらのエンハンサー依存性は腫瘍幹細胞性とも密接に関連した臨床的意義を持つと考えられる。

残された課題:ecDNA形成の初期段階においてエンハンサー選択が適応優位性付与に必須であるか、あるいは適応の結果として生じるかという時系列的因果関係は本研究では解明されていない。また、腫瘍種ごとのエンハンサー共増幅依存性の定量的差異、エンハンサー共増幅を持つecDNA陽性腫瘍における免疫チェックポイント阻害薬への反応性との相関、および他のゲノム増幅様式 (HSR; homogeneous staining region や低レベルタンデム重複) との機能的比較が今後の検討課題として残される。本研究の limitation として、多癌種解析で参照エピゲノムとして使用した細胞株・腫瘍標本が各癌種の「代表的」起源細胞と必ずしも一致しない点、ならびにWilms腫瘍以外の癌種では原発腫瘍サンプルではなく細胞株のエピゲノムデータを使用した点が挙げられる。ecDNA状態の診断的評価方法の標準化と、エンハンサー機能阻害戦略の前臨床検証がfuture researchの急務である。更なる検討として、41のGBM patient-derived cell cultures (Mack et al. JExpMed 2019) のような包括的エピゲノムアトラスとのecDNA解析の統合が、腫瘍種横断的なエンハンサー依存性の予測モデル構築に資すると考えられる。

方法

コピー数解析・アンプリコンスキュー解析: TCGA GBMコホートのEGFRアンプリコン (n=174症例) を対象にモンテカルロ置換検定 (10,000回反復) を用い、アンプリコンが癌遺伝子を包含しながらランダムにシャッフルされた場合との比較でスキューの有意性を評価した (有意水準: p<0.0001)。多癌種解析にはTCGA・TARGET (Therapeutically Applicable Research to Generate Effective Treatments)・複数個別研究から収集した4,577例・9癌種のAffymetrix SNP 6.0マイクロアレイデータを使用し、DNAcopy (DNA copy number analysis R package) およびRawcopy (raw copy number estimation R package) でセグメント化、log2(FC)≥1.8 (コピー数≧7相当) の高レベル焦点性増幅を抽出した。

エピゲノム解析: H3K27ac ChIP-seq (抗H3K27ac抗体、Abcam ab4729)、CTCF ChIP-seq (Cell Signaling #3418)、ATAC-seq、POLR2A (RNA Polymerase II subunit A) ChIP-seqを複数GBM細胞株 (GSC23 [glioblastoma stem cell line 23]、GBM3565、GBM3094等、高レベルEGFR増幅株n=9を含む) で実施した。シーケンスはIllumina NextSeq 500/NovaSeq 6000で実施し、Bowtie2/BWA-MEMでhg19へのアライメント後、MACS2 (Model-based Analysis of ChIP-Seq version 2、q<0.001) でピーク呼び出しを行った。スーパーエンハンサーはROSE (Ranking Of Super-Enhancers) アルゴリズムで同定した。Roadmap Epigenomics Consortiumの134組織データとのPearson相関解析でエンハンサーの組織特異性を評価した。

CRISPRi実験: doxycycline誘導性dCas9-KRAB (catalytically dead Cas9-KRAB repressor domain fusion、Addgene #50917) 発現系 (pHAGE TRE dCas9-KRAB) を用い、G361NS GBM細胞株で個別エンハンサー抑制実験を実施した (N=3実験/sgRNA、2-3技術的反復)。RT-qPCR (TBP [TATA-Box Binding Protein] 内部標準化、Bio-Rad CFX96) でEGFR発現を定量し、t検定 (p≤0.05/0.01/0.001) で有意性を評価した。細胞生存能はAlamar Blueで8日間培養後に測定した。大規模スクリーンとして9,559ガイドRNA (EGFR遺伝子座100領域以上) を用いた21日間プロリフェレーションドロップアウトスクリーンをGBM3565 (増幅) およびGSC23 (非増幅) で実施し、20 sgRNA rolling averageのCRISPRiスコアをBenjamini-Hochberg法でFDR<0.01に補正、CRISPR-SURF (CRISPR Screening Using Regression with Functionals) で検証した。

3D染色体構造解析 (4C-seq; Circular Chromosome Conformation Capture sequencing): DpnII+CviQI 2段階制限酵素消化後にライゲーションによる円形化を行い、EGFR遺伝子座に5つのビューポイント (E1、E2、5’CTCF境界、EGFRプロモーター±800 bp/2000 bp) を設定して4C-seqを実施した (GSC23・GBM3565の2モデル)。公開HiCデータ (Johnston et al. 2019) とCTCF ChIP-seqと統合し、ecDNA形成前後のトポロジー変化を解析した。DNA FISH (EGFR Spectrum Orange + CEP7 Spectrum Green) でecDNA存在を直接確認した。なお、Wilms腫瘍5例は既存病理標本からIRB承認のもと取得し (IRB-2018-2245)、H3K27ac ChIP-seqを実施した。