- 著者: Wu S, Turner KM, Nguyen N, Raviram R, Erb M, Santini J, Luebeck J, Rajkumar U, Diao Y, Li B, Zhang W, Jameson N, Corces MR, Granja JM, Chen X, Coruh C, Abnousi A, Houston J, Ye Z, Hu R, Yu M, Kim H, Law JA, Verhaak RGW, Hu M, Furnari FB, Chang HY, Ren B, Bafna V, Mischel PS
- Corresponding author: Chang HY (Stanford University); Ren B (UCSD); Bafna V (UCSD); Mischel PS (UCSD)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-11-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 31748743
背景
染色体外DNA (ecDNA: extrachromosomal DNA) 上のがん遺伝子増幅が多くのがんで普遍的に存在することは Turner et al. 2017 で初めて大規模に示されたが、ecDNAの物理的構造が本当に環状であるかどうか、そしてその構造的特性が遺伝子発現をどのように制御するかは未解明のままであった。先行研究として Turner et al. 2017 はecDNA増幅が多くのがんで普遍的であることを初めて大規模に示した。Kim et al. 2015 はEGFR ecDNAが治療抵抗性に寄与することを報告し、Nathanson et al. 2014 はecDNAの腫瘍内不均一性を示したが、これらの先行研究はいずれもecDNAのエピゲノム・転写制御機序の解明には取り組んでおらず、ecDNAが染色体増幅と比較して著明に高い発現をもたらす分子基盤が未解明のままであり、この点が主要な知識のギャップであった。
染色体DNAでは、クロマチン繊維が階層的な高次構造 (ヌクレオソーム・ループ・TAD [topologically associating domain: トポロジカル関連ドメイン]・コンパートメント) を形成し、転写因子やエンハンサーへのアクセスを厳密に制御している。ecDNAは染色体とは物理的に独立した核内粒子として存在するが、その内部クロマチン組織化とアクセシビリティ、ならびに転写調節への影響は不明であった。また、ecDNA上のがん遺伝子が染色体上の増幅がん遺伝子よりも著明に高い発現レベルに達する機序が未解明で、ecDNA増幅が治療抵抗性・予後不良の主要因となる分子基盤の解明が急務であった。何が足りなかったかとして、ecDNAのエピゲノム・クロマチン構造・三次元ゲノム組織化の包括的解析基盤が不足しており、コピー数以外の転写亢進メカニズムが全く解明されていないことが核心的な課題であった。
目的
複数のイメージング・シーケンシング・計算解析手法を統合してecDNAの物理的環状構造を直接実証し、ATAC-seq・ChIP-seq・Hi-Cを用いたecDNAのクロマチンアクセシビリティ・ヒストン修飾・三次元ゲノム構造を解析することにより、ecDNA上がん遺伝子が染色体上の対応遺伝子を大幅に上回る発現量を示す分子メカニズムを解明すること。
結果
ecDNAの環状構造の直接実証:新規ツールAmpliconReconstructor (WGS + BioNano光学マッピング統合) によりGBM39細胞の1.3 Mb円形ecDNA分子を単一コンセンサス構造として解決した (n=37 cancer cell lines; Fig. 1)。BioNano光学マッピングでは最大約160,000 bpの超長鎖リードを利用し、WGS単独では接合部同定が困難な領域を解決した。3D-SIM超解像顕微鏡ではCOLO320DM細胞のMYC ecDNAの核内円形粒子が直接可視化され、相関SEM・TEM解析でDAPI染色ecDNAが環状形態を取ることが独立して確認された (Fig. 2)。37種がん細胞株から同定した41種の円形増幅子 (n=41 samples) のサイズは168 kb〜5 Mbで、中央値1.26 Mbであった。GBM39細胞のEGFR ecDNAは推定40〜100コピーで存在し、単一の1.3 Mb円形分子として解決された。
ecDNA上がん遺伝子の超発現:TCGAパンキャンサーデータ (n=約8,000症例) とRNA-seqの統合解析により、ecDNA上のがん遺伝子 (EGFR・MYC・CDK4・MDM2・PIK3CA等) は全がんゲノムの転写産物発現において上位1%に属することが示された (Fig. 3a)。同一がん種において同一遺伝子がecDNA上に増幅された場合と染色体上のみに存在する場合を比較すると、ecDNA上では転写量が顕著に高く、コピー数あたりの転写量もecDNAで増加した (コピー数調整後も複数のがん遺伝子で有意差、Wilcoxon test p<0.05)。COLO320DM細胞のSNP解析でecDNA由来とchromosomal DNA由来の転写を独立定量した結果、mRNA転写の大多数がecDNA由来であることが確認された (Fig. 3b)。
ecDNAのクロマチン特性:高アクセシビリティと高次圧縮の欠如:ATAC-seq解析では、ecDNA上のクロマチンアクセシビリティは染色体上の同等領域と比較して著明に高く、ATACピーク密度はecDNA 714ウィンドウ (平均値) vs 線形増幅 268ウィンドウ vs ランダムゲノム 313,762ウィンドウという顕著な差を示した (n=37 cell lines; Fig. 4a)。この差は正規化後も有意で、ecDNAのアクセシビリティが構造的要因によることを示す。ChIP-seq解析でecDNAにはH3K27ac・H3K4me3等の活性型ヒストン修飾が染色体上の同等領域より豊富に観察され (2-fold enrichment)、エンハンサー活性の亢進を反映した。断片長解析では、ecDNAはヌクレオソーム間リンカーDNA由来の1,200 bp超の長断片シグナルが著明に欠如しており (>2-fold depletion vs chromosomal DNA)、染色体DNAに特有の高次クロマチン圧縮構造を形成していないことが実証された (Fig. 4c)。Hi-C解析でecDNAは染色体特有の高次構造 (TAD・コンパートメント・コンパクション) を欠いていた。
ecDNAの超遠距離クロマチン相互作用:Hi-C解析でecDNAは活性型クロマチンとの超遠距離インタラクションが染色体内の同等遺伝子より平均3-fold〜5-fold 多かった (Fig. 5)。PLAC-seq (proximity ligation-assisted ChIP-seq) 解析でもこの三次元的なオープンアクセシビリティが確認され、ecDNAの円形・非圧縮構造が空間的に転写因子・コアクチベーター・エンハンサーへのアクセスを促進することが示された。Hi-C解析ではecDNAと活性型ゲノムコンパートメント (A-compartment) との相互作用が染色体増幅遺伝子と比較して有意に増加しており (p<0.01)、これらの超遠距離インタラクションの増加はecDNA由来がん遺伝子が転写機械を染色体上の遺伝子より優先的に動員できる仕組みを説明する。
パンキャンサーへの汎用性:37種がん細胞株 (n=37) における41種の円形増幅子 (中央値1.26 Mb、168 kb〜5 Mb) の包括的解析により、ecDNAの高アクセシビリティとがん遺伝子超発現はEGFR・MYC・CDK4・MDM2等の多様なドライバー遺伝子で共通することが確認された。TCGAの複数のがん種でecDNA増幅がん遺伝子発現は染色体上の対応遺伝子を一貫して上回り、ecDNAクロマチン特性の臨床腫瘍への汎用性が支持された (n≈8,000症例の解析)。ecDNA増幅は多くのがん種で発現上位1%のがん遺伝子過剰発現と関連し、染色体上のコピー数増幅のみでは説明できない追加の転写亢進機序の存在が初めて示された。
考察/結論
先行研究との差異と本研究の新規性:先行のTurner et al. Nat Genet 2017がecDNAの腫瘍内での出現頻度と進化的役割を確立したのに対し、本研究はその分子的機序を初めてエピゲノム・転写・三次元ゲノム構造の観点から解明した点が最大の独自性である。これまでの研究ではecDNAの高発現はコピー数増加のみで説明されてきたが、本研究で初めて、ecDNA特有のエピゲノム状態 (開放的クロマチン・活性型ヒストン修飾・高次圧縮の欠如) がコピー数増加に加えてさらに転写を亢進させる二重メカニズムを発見した。染色体DNAではTAD・コンパートメントによる精密な転写制御が機能するのに対し、ecDNAはこれらの制約から完全に解放されているという構造的差異が、ecDNA増幅がん遺伝子の選択的優位性の分子基盤となっている。ecDNA増幅の高コピー数・高アクセシビリティはクローン選択圧としても機能し、Turner et al. Nature 2017の知見と本研究の転写亢進機序が統合されることで、ecDNA保有クローンが治療下で選択的に増殖する分子基盤の理解が深まる。
方法論的新規性:AmpliconReconstructor (光学マッピング+WGS統合) という新規ツールの開発・公開は、ecDNA研究の新標準手法を確立した方法論的貢献であり、単一コンセンサス環状構造の構築を初めて可能にした。3D-SIM・SEM・TEM相関顕微鏡によるecDNA環状形態の直接可視化も、従来の間接的証拠を超えた原理実証である。
臨床的含意:ecDNAの開放的クロマチン状態はBRD4等のエピジェネティックリーダーへの選択的依存性をもたらす可能性があり、BETブロモドメイン阻害薬 (JQ1等) がecDNA由来転写を優先的に抑制するという仮説が示唆される。ecDNA増幅を持つ患者は染色体増幅のみの患者と比較して、エピジェネティック治療への感受性が高い可能性があり、ecDNA検出を用いた患者層別化が治療戦略に直結する。また、ecDNAの高アクセシビリティはエンハンサーハイジャッキング (enhancer hijacking) や遠距離エンハンサーとの新規相互作用を促進する可能性があり、ecDNA増幅がん遺伝子の発現はその近傍エンハンサーのみならず広範な核内活性領域との相互作用に依存するという仮説が提起される。
残された課題:ecDNAの細胞周期・薬剤処理・腫瘍微小環境下でのクロマチン動態変化の解明、ecDNA上エンハンサーとプロモーターの機能的同定と相互作用の詳細解析、そして in vivo 腫瘍でのecDNAクロマチン特性の検証が残された課題である。特に、ecDNA amphficationがなぜ選択的に高クロマチンアクセシビリティを獲得するのかの進化的・機械的説明、およびecDNA-specific therapeutic vulnerability の前臨床・臨床検証が急務である。
方法
GBM39細胞 (glioblastoma cell line: EGFR増幅ecDNA保有膠芽腫細胞株) とCOLO320DM細胞 (colorectal cancer: MYC増幅ecDNA保有大腸癌細胞株) を主要モデルとして使用し、37種のがん細胞株から41種の円形増幅子を同定した。ecDNA構造解析には、全ゲノムシーケンシング (WGS: whole genome sequencing) とBioNano光学マッピング (最大約160,000 bpの超長鎖DNAリード解析) を組み合わせた新規ツールAmpliconReconstructor (AR) を開発し適用した。ecDNAの物理的円形性の直接可視化には3D-SIM (three-dimensional structured illumination microscopy: 三次元構造化照明顕微鏡)・SEM (scanning electron microscopy: 走査型電子顕微鏡)・TEM (transmission electron microscopy: 透過型電子顕微鏡) の相関顕微鏡法を用いた。
クロマチン解析にはATAC-seq (Assay for Transposase-Accessible Chromatin with sequencing: クロマチンアクセシビリティ)・ChIP-seq (chromatin immunoprecipitation sequencing: H3K27ac・H3K4me3等のヒストン修飾)・Hi-C (三次元ゲノム構造) を統合した。SNP (single nucleotide polymorphism) 解析によりecDNA由来転写と染色体DNA由来転写を区別し、RNA-seqと組み合わせた。TCGA (The Cancer Genome Atlas) パンキャンサーデータ (n=約8,000症例) との統合解析で臨床腫瘍への汎用性を検証した。断片長解析でecDNAのヌクレオソーム占有と高次クロマチン圧縮の有無を評価した。統計解析はWilcoxon rank sum test・paired t-testを使用し、複数検定はBenjamini-Hochberg FDR補正を実施した。