• 著者: Kristen M. Turner, Viraj Deshpande, Doruk Beyter, Tomoyuki Koga, Jessica Rusert, Catherine Lee, Bin Li, Karen Arden, Bing Ren, David A. Nathanson, Harley I. Kornblum, Michael D. Taylor, Sharmeela Kaushal, Webster K. Cavenee, Robert Wechsler-Reya, Frank B. Furnari, Scott R. Vandenberg, P. Nagesh Rao, Geoffrey M. Wahl, Vineet Bafna, Paul S. Mischel
  • Corresponding author: pmischel@ucsd.edu (P.S. Mischel), vbafna@ucsd.edu (V. Bafna)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-02-08
  • Article種別: Original article
  • PMID: 28178237

背景

ヒトの正常細胞は23対の染色体を持つが、がん細胞では癌遺伝子が染色体内だけでなく、染色体外環状DNA (extrachromosomal DNA; ecDNA) としても知られるダブルミニッツ (double minutes) 上でも増幅されうる。これらのecDNAの頻度や機能的重要性については、これまで十分に理解されていなかった。従来のMitelman databaseに基づく推定では、ダブルミニッツはがん全体の1.4%に存在し、神経芽腫では最大31.7%に認められると報告されていたが、これは細胞遺伝学的検査の適用限界による過小評価である可能性が指摘されていた Andor et al. NatMed 2016。ecDNAはセントロメアを持たないため、細胞分裂時に娘細胞への分配が不均等となる特徴があり、これにより癌遺伝子コピー数の細胞間不均一性の主要な源として機能しうると考えられていた。しかし、DNAシーケンス技術はecDNAを染色体内増幅と空間的に区別することが困難であり、また細胞ごとにecDNAの数が異なるため、癌遺伝子コピー数が大幅に過小評価されてきた経緯がある。その結果、ecDNAの実際の頻度、その内容、および腫瘍進化への影響に関する系統的かつ定量的な評価は、これまで不足していた。特に、がんの遺伝的異質性が治療抵抗性や予後不良に繋がることが認識されている中で Yates et al. NatRevGenet 2012、ecDNAがこの異質性にどのように寄与し、腫瘍の進化を加速させるのかというメカニズムは未解明なままであった。さらに、がんゲノムのランドスケープに関する先行研究 Vogelstein et al. Science 2013 においても、ecDNAの包括的な役割については言及が限定的であり、その全体像を捉えるための統合的な解析手法の確立が課題として残されていた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、(1) 統合的なecDNA検出・解析ソフトウェア (ECdetect) を開発し、17癌種にわたるecDNAの頻度を系統的かつ非バイアスに定量すること、(2) ecDNA上に増幅されるドライバー癌遺伝子の内容と発現レベルを明らかにすること、(3) ecDNA増幅と染色体内増幅が腫瘍内遺伝的多様性に与える影響を数学的モデルで予測し、実験的に検証すること、(4) ecDNAが腫瘍進化および薬剤耐性の促進機構として機能するかを評価することにある。これらの目的を達成することで、ecDNAがヒトがんにおける癌遺伝子増幅と腫瘍進化の主要な推進力であるという仮説を検証する。

結果

ecDNAの頻度と分布: ecDNAは正常細胞ではほとんど検出されなかった一方で、腫瘍細胞に豊富に認められた (Fig. 2a)。合計2,049個の癌細胞、290個の不死化細胞、233個の正常細胞が解析された。腫瘍細胞株の約40%および患者由来脳腫瘍モデルの約90%がecDNA陽性と判定された (Fig. 2c, d)。ecDNAの約30%は対のダブルミニッツであった。ecDNA数は同一腫瘍培養内でも細胞間で著しく変動し、シャノン多様性指数で定量された高い腫瘍内異質性を示した (Fig. 2e-g)。原発・転移、治療前・治療後、放射線照射前・後間でecDNAレベルに有意差は認められなかった。

ecDNA上の癌遺伝子増幅と高発現: 全ての解析された増幅癌遺伝子はecDNA上のみ、あるいはecDNAと染色体内HSRの両方に同時に局在していた (Fig. 3b, c)。例えば、GBM39細胞ではEGFRvIIIがecDNA上に、MB411FH細胞ではMYCがecDNA上に増幅されていることがFISHにより確認された。ecDNA上の癌遺伝子 (EGFR/EGFRvIII、MYCを含む) はmRNAレベルで高発現を示し、qPCRで有意差が確認された (p<0.001 Mann-Whitney U検定) (Fig. 3d)。この高発現は、ecDNAの高いコピー数に起因すると考えられた。ecDNA内の癌遺伝子コピー数多様性は、同一癌遺伝子が他の染色体座位に存在する場合と比較して格段に高かった (Extended Data Fig. 7)。例えば、GBM39細胞におけるEGFRのコピー数多様性は、染色体上に存在するCCND1やERBB2と比較して顕著に高かった。

アンプリコン構造の解析とecDNAの動態: AmpliconArchitectソフトウェアを用いた解析により、GBM39細胞において高コピーのEGFR変異体EGFRvIII (exon 2-7欠失) が1.29 MbのecDNA上に存在し、独立レプリケート間で一致した円形構造を示した (類似性p=2.18×10⁻⁸) (Extended Data Fig. 8)。EGFRvIII含有ecDNAをHSRに持つサブクローンでは、同一のタンデム重複構造が確認され、ecDNAが染色体HSRに再組み込まれたことが示された (類似性p=1.98×10⁻⁵)。さらに、EGFR-TKI投与中および休薬後の細胞でも、EGFRvIIIアンプリコンの微細構造は保存されており、ecDNAが治療中に動的に染色体HSRに移動しつつ構造的特徴を維持することが確認された (Extended Data Fig. 9)。例えば、erlotinib投与後のGBM39細胞ではEGFRvIIIの平均コピー数が5.4に減少したが、薬剤除去後の再増殖細胞では100-105コピーまで回復し、その構造は維持されていた。

数学的モデルによるecDNA増幅の進化的優位性の予測と検証: ガルトン-ワトソン分岐過程モデルを用いて、ecDNA (独立不均等分配) とHSR (有糸分裂組み換えによる+1/-1変化) の2条件で腫瘍進化をシミュレーションした。初期集団10⁵細胞 (100細胞に1コピー増幅)、選択係数s=0.5-1、代謝制約を反映したlogistic選択関数f(k) (k=15で最大、m=100で0.5) の設定で、ecDNA増幅条件では癌遺伝子が染色体内増幅より格段に高いコピー数に到達することが示された (Fig. 4b)。モデル予測に一致して、実験データでもEGFRおよびMYCのコピー数はHSRよりecDNA上の方が有意に高かった (p<0.001 ANOVA/Tukey検定、n=52) (Fig. 4c)。腫瘍内コピー数多様性 (シャノン多様性指数) も、ecDNA条件では急速に上昇し高レベルを維持するのに対し、染色体内増幅では安定または低下することがモデルで予測され (Fig. 4d)、実験データ (シャノン指数 vs 平均ecDNA数の相関プロット) が予測を完全に再現した (Fig. 4e, f)。このことは、ecDNAが腫瘍の遺伝的多様性を促進し、進化を加速させる主要なメカニズムであることを強く示唆する。

TCGAデータとの比較による代表性の確認: 本研究で検出された焦点性増幅は、TCGAの同癌種データと高度に一致した (ランダム順列1,000,000回で一度のみ超過、p≤10⁻⁶) (Fig. 3a)。これにより、本研究のサンプルセットがパンキャンサーの代表性を持つことが確認された。また、本研究で最も頻繁に増幅された癌遺伝子14個のうち7個が、TCGAのパンキャンサー解析で報告されたトップ10癌遺伝子と共通しており、この一致は超幾何分布確率により統計的に有意であった (p<0.001)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、ecDNAががんにおいて極めて高頻度 (腫瘍細胞株の約40%、患者由来脳腫瘍の約90%) に存在し、ドライバー癌遺伝子の主要な増幅様式であることを初めて系統的に示した点で、これまでの研究と大きく異なる。従来Mitelman databaseの推定 (1.4%) との乖離は、過去の研究が細胞遺伝学的解析に依存し、かつ対象癌種が限定されていたことによる過小評価と考えられる。

新規性: 本研究で初めて、統合的なECdetectソフトウェアとAmpliconArchitectソフトウェアを開発し、WGSと細胞遺伝学的解析を組み合わせることで、ecDNAの頻度、内容、およびその動態を非バイアスに定量的に評価することに成功した。また、数学的モデルと実験的検証により、ecDNA増幅が染色体内増幅よりも効果的に癌遺伝子コピー数と腫瘍内多様性を高めるという新規なメカニズムを明らかにした。

臨床応用: ecDNA増幅が染色体内増幅より進化的に有利な理由として、(1) セントロメア不在による独立・不均等分配が高コピー数への急速な到達を可能にする、(2) 高コピー数状態では癌遺伝子発現が高まり選択的増殖優位を生む、(3) 細胞間コピー数多様性が高まることで変化する環境条件への適応が容易になる、の3点がモデルおよび実験データから示された。これらの知見は、がんの加速進化、遺伝的異質性、および薬剤耐性の根底にある分子メカニズムを理解する上で極めて重要であり、ecDNAを新たな治療標的として追求する臨床的意義を提供する。GBM39細胞でのEGFRvIII ecDNA⇔HSR可逆的変換の発見は、標的治療耐性 (EGFR-TKI耐性) がecDNAの動的な染色体再組み込みによって生じうることを示す先行知見 Nathanson et al. Science 2014 と一致し、臨床現場での薬剤耐性克服に向けた新たな戦略開発に繋がる可能性がある。

残された課題: 本研究は中央値1.19倍というlowカバレッジWGSを使用しており、ecDNA内の詳細な塩基配列変異の解析には限界がある。また、腫瘍purityや治療歴の多様性から、特定治療がecDNAレベルに与える影響の結論的評価は困難であった。今後の検討課題として、より高カバレッジのシーケンスデータを用いた詳細な構造解析や、特定の治療介入がecDNAの動態に与える影響を前向きに評価する研究が必要である。さらに、ecDNAの形成メカニズムや、特定の癌種で高頻度に見られる理由についても、さらなる分子生物学的解析が求められる。

方法

本研究では、17癌種の117癌サンプル (細胞株63、神経球19、癌組織35) に対して全ゲノムシーケンス (WGS) を実施した。WGSのカバレッジは中央値1.19倍であった (Extended Data Fig. 4)。これに加えて、DAPI染色された分裂期細胞の半自動解析をECdetectソフトウェアと組み合わせて統合解析を行った。合計2,572個の分裂期細胞 (癌サンプル72件から2,049例、不死化細胞株10件から290例、正常組織8件から233例) を解析対象とした。ECdetect (extrachromosomal DNA detection software) は、粗大適応閾値処理と精密閾値処理の2段階を用いてecDNAを検出し、手動判定との間で高い相関係数r=0.98 (p<2.2×10⁻¹⁶) を示した (Fig. 1f)。ecDNA陽性の保守的定義として、「20分裂期細胞中2例以上で≥2 ecDNA」を採用した。増幅アンプリコン構造の解析には、新たに開発したAmpliconArchitectソフトウェアを使用し、WGSペアエンドデータから染色体および染色体外アンプリコン構造を再構築した。癌遺伝子の局在はFISH (蛍光インサイチュハイブリダイゼーション) により確認した (Fig. 3b, c)。腫瘍進化の数学的解析には、ガルトン-ワトソン分岐過程モデルを使用し、ecDNA (独立分配) とHSR (染色体内;有糸分裂組み換えによるコピー数変化) の条件下でシミュレーションを実施した。選択関数f(k)は、k=15で最大値1に達し、その後ロジスティック関数に従って減衰し、k=100で0.5となるように設定された (Fig. 4a)。腫瘍内多様性の定量にはシャノン多様性指数を用いた。シーケンスリードはhg19 (GRCh37) ヒト参照ゲノムにBWAソフトウェアバージョン0.7.9a Li et al. Bioinformatics 2009 を用いてマッピングされた。コピー数変異 (CNV) はReadDepth CNVソフトウェアバージョン0.9.8.4で推論された。TCGAデータセットとの比較により、本研究のサンプルセットがパンキャンサーの代表性を持つことが確認された (p≤10⁻⁶)。細胞株としては、NCI-60パネル、患者由来異種移植 (PDX) 由来細胞株、リンパ芽球様細胞株、IMR90細胞、ALS6-Kin4細胞、正常ヒトアストロサイト (NHA) および正常ヒト皮膚線維芽細胞 (NHDF) を用いた。DNA抽出は標準プロトコルに従い、DNase処理はDAPI染色されたスライド上で実施された。統計解析には、Wilcoxon rank-sum test、ANOVA/Tukey’s multiple comparison test、Mann-Whitney U-testが用いられた。