• 著者: Julie B. Noer, Oskar K. Hørsdal, Xi Xiang, Yonglun Luo, Birgitte Regenberg
  • Corresponding author: Yonglun Luo (Aarhus University, Aarhus, Denmark); Birgitte Regenberg (University of Copenhagen, Copenhagen, Denmark)
  • 雑誌: Trends in Genetics
  • 発行年: 2022
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 35277298

背景

正常なヒト体細胞は23対の染色体に全遺伝情報を線状クロマチンとして保持し、有糸分裂で一度だけ複製され姉妹染色分体が均等に分配される。しかしがん細胞ではこの制御がしばしば破綻し、がん遺伝子のコピー数増幅が腫瘍化の最も一般的な遺伝的変化の一つとなる。染色体外環状DNA (eccDNA, extrachromosomal circular DNA) は、こうしたがん遺伝子増幅・腫瘍内不均一性・治療耐性の理解の鍵を握る分子として近年急速に注目を集めている。eccDNAは1964年にHotta & Basselが雄猪精子・コムギ胚で電子顕微鏡により最初に観察し、1965年にはCox et alが小児がん細胞の分裂中期像で大型のDM (double minutes) を発見した。

しかしこの分野の理解は歴史的に断片化していた。第一に命名の混乱があり、同一実体が時代・研究手法によってspcDNA・microDNA・episome・テロメア環・DM・ecDNAなど多様な名称で呼ばれ、文献間の知見統合を妨げてきた。第二に、small eccDNAと大型のがん特異的ecDNA (circular extrachromosomal DNA) を分離した知見が混在し、どの所見がどのサブセットに妥当かの整理が不足していた。先行研究として、Turner et al. Nature 2017 が複数がん種でメガベース規模ecDNAを系統的に示し (Kim et al. NatGenet 2020 が予後との関連を、Nathanson et al. Science 2014 が耐性機構を報告した) ものの、形成機構・small eccDNAの機能・検出技術の体系的整理は依然として手薄で、多くが未解明のまま残されていた。とりわけsmall eccDNAの生物学的機能はほとんど未解明であり、反復配列含量の推定値が報告間で食い違う (controversial) など、知見の統合が進んでいないという問題があった。本レビューはこのgap in knowledge (未解明の空白) を埋めることを企図した。

目的

本レビューはeccDNAの研究史を四つの軸で整理することを目的とする。第一に、1960年代以降にeccDNAが繰り返し発見・命名されてきた経緯を時系列で整理し、eccDNAとecDNAの階層的定義を提示する。第二に、NHEJ・HR・MMR・クロモスリプシス・BFB (breakage-fusion-bridge) サイクルといった形成・維持メカニズムを実験的証拠とともに分類する。第三に、ecDNAのがんにおける機能 (がん遺伝子増幅・クロマチンアクセシビリティ・エンハンサー相互作用・不均等分配・薬剤耐性) とsmall eccDNAの機能 (免疫刺激・調節RNA産生) を区別して評価する。第四に、WGS・Circle-Seq・ロングリードシークエンシング・イメージング・CRISPR-C (CRISPR-Cas9-based circular DNA generation) といった検出/機能解析技術を比較し、診断・予後・治療標的・液体生検としてのeccDNAの臨床的意義と残された課題を論じる。

結果

命名の変遷と階層的定義の確立:eccDNAは時代と手法によって多様な名称で呼ばれてきた。1972年にHeLa細胞から密度分離・電子顕微鏡で可視化されたものはspcDNA (small polydisperse circular DNA) と呼ばれ、サイズは<100-10 000 bpで主に反復配列を含むとされた。2012年にマウス・ヒト細胞株から密度精製されたものはmicroDNAと命名され、大多数が200-3000 bpで遺伝子の5′・3′末端やGC含量の高い領域に偏在した。テロメア環 (telomeric circles) はALT (alternative lengthening of telomeres) 機序に関与する特殊なeccDNAで、100-30 000 bpの範囲をとり全がんの10-15%でテロメア維持を担う。一方、light microscopyで観察可能な大型eccDNAは1965年にDMとして発見され、自律複製能を持つものは1980年代にepisomeと命名された。NGSの普及後、メガベース規模 (典型的に1-5 Mb) でがん遺伝子を含む亜集団がecDNAと再定義され、17種のがん由来細胞株の46%でがん遺伝子を載せたecDNAが報告された (n=17 cancer types)。本レビューは「eccDNA=全ての核・非プラスミド・染色体外環状DNA」、「ecDNA=がん遺伝子を含む大型サブセット」とする階層的統一定義を採用した。

形成メカニズムの多様性:eccDNA形成は染色体DNA損傷と誤ったDNA修復の産物として説明される。最も支持される経路はNHEJ (nonhomologous end joining) で、同一染色体上の2つのDSB (double-strand break) が切除されて環状化する (Fig 1A)。CRISPR-Cas9で2か所にDSBを誘導すると相同性のない領域で内因性eccDNAが実際に形成され、この経路が直接実証された。HR (homologous recombination) による形成も報告されるが、主にS. cerevisiaeで観察され哺乳類では少数寄与とされる。DNA修復欠損細胞を用いた解析では、MMR (mismatch repair)・MMEJ (microhomology-mediated end joining)・損傷DNA切除に関わる遺伝子の欠損でeccDNA量が低下し、これらの経路の関与が示された。アポトーシス誘導時にはDNase γとDNAリガーゼ3依存的にeccDNA量が著増し、約200 bp周期のヌクレオソーム様ラダーパターンを示した。反復配列はeccDNAで72%、全ゲノムで52%と推定する報告がある一方、同等とする報告もある。大型ecDNAについてはクロモスリプシス (染色体破砕、Fig 1B) とBFB (breakage-fusion-bridge) サイクル (Fig 1C) が主要な単一段階的・反復的形成イベントとして提示され、両者は機構的に連関する。

ecDNAのがん遺伝子増幅と発現亢進:ecDNA上にはEGFR・MYC・MYCNといったがん遺伝子が高頻度に載り、染色体増幅より速くコピー数増幅を達成する。ecDNA上のがん遺伝子は単なるコピー数増幅では説明できない転写増大 (単位コピーあたりの転写量が染色体コピーの2-fold以上に達する) を示し、これはオープンなクロマチン構造によって部分的に説明される (Wu et al. Nature 2019)。さらにecDNAはエンハンサーの組織化を改変し、通常は遠位にあるエンハンサーを取り込んでMYC・MYCN・EGFRの過剰発現を駆動する (Morton et al. Cell 2019)。ecDNAの3Dトポロジー解析では、染色体上の遺伝子には見られない新規の調節要素接触が同定された。ecDNAは染色体に再挿入してHSR (homogeneously staining region) を形成し増幅を安定化させ、HSRから再びecDNAが生じる可逆性も示唆される。COLO320-DMとCOLO320-HSRというアイソジェニック細胞株ペアは、染色体上とecDNA上のがん遺伝子増幅を比較する標準モデルとして利用されている。

不均等分配による腫瘍内不均一性の加速:ecDNAの維持機構の核心はその分配様式にある。ecDNAは細胞周期に一度複製されるが、通常の染色体や環状染色体と異なり認識可能なセントロメアを欠くため、有糸分裂紡錘体による均等分配を受けない (Fig 2)。生細胞イメージングでは、ecDNAが紡錘体極から最も遠い染色体末端に「ヒッチハイク」して娘細胞へ移行する様子が観察された (Yi et al. CancerDiscov 2022)。娘細胞への分配は二項ランダム分布あるいはガウス分布に従うと報告され、いずれにせよ細胞ごとに大きく変動する。この不均等分配により、選択圧下でEGFR等の増殖優位性を与えるecDNAを高度に蓄積した亜集団が急速に優勢化し、腫瘍内不均一性とコピー数増加が同時に加速される。グリオブラストーマでは染色体性とecDNA性のDNA要素が不一致に継承され、動的な疾患進化に寄与することが示された (deCarvalho et al. NatGenet 2018)。

薬剤耐性・ecDNAハブ・small eccDNAの機能:ecDNAは薬剤標的遺伝子やトランスポーターの増幅を介して薬剤耐性に寄与する。グリオブラストーマ異種移植モデルでは、EGFRvIIIを載せたecDNAがEGFR阻害薬投与下で選択的に減少し、薬剤除去後に再蓄積するという可逆的な「hide and seek」型耐性機構が示された。またecDNA分子はがん細胞核内で転写活性の高いハブを形成し、染色体DNAや他のecDNAとtransで相互作用してがん遺伝子発現を協調的に増大させる (Hung et al. Nature 2021)。一方、small eccDNAについては機能解明が遅れているが、microDNAはプロモーターなしでmiRNAやsiRNAを含む機能的調節RNAを転写でき遺伝子発現を抑制しうる。さらにeccDNAやテロメア環が細胞質に漏出するとcGAS (cyclic GMP-AMP synthase) を活性化しI型インターフェロン応答を誘導する内在性免疫刺激能を持つが、がん文脈での意義は未確立である。ecDNA陽性がん患者は陰性患者より有意に短い生存を示す (Kim et al. NatGenet 2020)。

検出技術の比較と臨床応用への展望:検出技術は大きく分かれる (Fig 3)。WGS (whole genome sequencing) は高度増幅ecDNAをコピー数異常として捉え、円接合部をまたぐsoft-clipped readsと不一致リードペアからAmpliconArchitect等のアルゴリズムで円形構造を推定するが、低コピー数eccDNAの検出は困難である (Fig 3A)。Circle-Seqはアルカリ変性・再生で直鎖DNAを除去後、残存環状DNAをローリングサークル増幅してシークエンスするため低コピー数eccDNAも捉えられるが、小eccDNAを過剰増幅する偏りがある (Fig 3B)。ロングリードシークエンシングは非連続配列からなるキメラecDNAや反復配列を含む構造のde novo組み立てを可能にする (Fig 3C)。クロモスリプシスの大規模解析ではn=2,658のヒトがんがWGSで解析され、ecDNA形成の重要な駆動因子であることが裏付けられた (Cortes et al. NatGenet 2020)。CRISPR-CはCas9で任意の2か所にDSBを作りカスタムecDNAを人工生成する機能研究ツールである (Fig 4)。臨床面では、血漿中の細胞遊離eccDNAが腫瘍マーカーとして探索され、ヒト肺腫瘍がeccDNAを循環へ放出することが示された。治療標的化の試みとして、進行卵巣がん患者n=16へのhydroxyurea経口投与でecDNAコピー数低下が示され、放射線照射もMYC・MDR1 (multidrug resistance 1) を載せたecDNA量を有意に減少させた。

考察/結論

本レビューはeccDNAの約60年にわたる断片的研究を、命名・形成・機能・検出技術の四軸で統合した。これまでの研究では同一実体が異なる名称で別個に扱われ知見が分断されていたのに対照的に、本論文はeccDNAとecDNAの階層的定義を明示し、small eccDNAとecDNAで妥当な知見を峻別する枠組みを提示した点に意義がある。

新規な貢献として、ecDNAのセントロメア欠如に起因する不均等分配を腫瘍内不均一性と急速ながん遺伝子増幅の中心機構として位置づけ、転写活性ハブやエンハンサーハイジャックといったコピー数非依存の発現増大機構を統合的に整理した。既報Nathanson et al. Science 2014 が示したEGFRvIII ecDNAの可逆的耐性や、Turner et al. Nature 2017 のecDNAの普遍性という知見を、形成機構から臨床帰結まで一貫した文脈で接続した。

臨床応用の観点では、ecDNA陽性が独立した不良予後因子であること、血中eccDNAが液体生検マーカーとなりうること、hydroxyureaや放射線によるecDNA枯渇が治療標的化の足がかりとなりうることが整理され、bench-to-bedsideの橋渡しの方向性が示された。

一方で残された課題も多い。今後の検討課題として、(1) small eccDNAのがん表現型への寄与の解明、(2) ecDNAを特異的に標的とする治療法 (CRISPR/Cas9による breakpoint 配列標的化等) の開発、(3) 血中eccDNAの液体生検としての臨床的妥当性の確立 (現状は血漿中の量が低く定量法が未整備という limitation がある)、(4) single-cell eccDNAシークエンシングによる細胞間不均一性の定量化、(5) in vitro/in vivoでの機能研究を可能にする細胞・動物モデルの成熟が挙げられる。これらの future research の進展により、eccDNAは最も悪性度の高いがん細胞集団を標的とする新規治療戦略・進行モニタリング・耐性克服の基盤となりうる。

方法

本論文はナラティブレビューであり、1964年以降のeccDNA・ecDNA研究の主要一次文献を体系的に整理した。文献はNCBI PubMedおよびWeb of Scienceのデータベース検索を通じて収集され、計105件の引用文献に基づいて議論が構成されている。レビューの分析対象は (1) eccDNAの歴史的命名と定義の変遷、(2) 形成機構を示す実験的証拠 (junction配列解析・DNA修復欠損細胞での定量・CRISPR-Cas9によるDSB誘導実験)、(3) ecDNAとsmall eccDNAのがん機能、(4) 検出技術の原理と比較 (短鎖ペアエンド/ロングリードシークエンシング・Circle-Seq・FISH・dCas9イメージング) の4側面である。論文中では特定の統計検定 (生存解析等) は実施されないが、引用元研究の知見を機構別・サブセット別 (small eccDNA対ecDNA) に層別化して統合する枠組みを採った。モデル生物としてはSaccharomyces cerevisiae (パン酵母) のeccDNA研究が形成機構の証拠として重視され、ヒトがん細胞株 (COLO320-DM (colon carcinoma cell line bearing double minutes)/COLO320-HSR等のアイソジェニックペア) が機能比較の identifier として参照されている。eccDNAのサイズ範囲 (<100 bp〜メガベース規模)、由来 (核染色体配列に相同で非プラスミド・非ミトコンドリア)、検出感度といったパラメータを技術横断で比較した。