• 著者: Sitthideatphaiboon P, Galan-Cobo A, Negrao MV, Qu X, Poteete A, Zhang F, Liu DD, Lewis WE, Kemp HN, Lewis J, Rinsurongkawong W, Giri U, Lee JJ, Zhang J, Roth JA, Swisher S, Heymach JV
  • Corresponding author: John V. Heymach (The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2020-12-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33323404

背景

放射線療法は、局所進行非小細胞肺がん (NSCLC) における根治的治療の主要な柱であるが、放射線治療後の局所再発 (LRR) は依然として高率であり、放射線感受性や抵抗性を予測するバイオマーカーは確立されていない。STK11/LKB1はNSCLCで2番目に頻度の高い腫瘍抑制遺伝子であり、肺腺癌の約17〜23%に変異を認めることが報告されている Cancer et al. Nature 2014。STK11によりコードされるLKB1タンパク質は、AMPキナーゼ (AMPK) のキナーゼキナーゼとして、代謝・エネルギー感知経路を制御する重要な役割を担う。

LKB1欠損細胞では、AMPKを介したシグナルが低下し、KEAP1によるNRF2の負の制御が緩和されることで、NRF2が恒常的に活性化されることが知られている Shibata et al. ProcNatlAcadSciUSA 2008。KEAP1/NRF2経路は、多くの癌腫において放射線抵抗性機序として知られており、NRF2による活性酸素種 (ROS) スカベンジャーの誘導とDNA損傷修復の促進が主たるメカニズムとして挙げられる。STK11/LKB1変異NSCLC腫瘍はKEAP1変異との共存も多く、KEAP1/NRF2変異自体が局所再発を予測することが先行研究で示されていたが、LKB1欠損が放射線抵抗性に与える直接的な臨床的・機序的証明はこれまで未解明であった。また、LKB1欠損と免疫抑制微小環境との関連も報告されており Koyama et al. CancerRes 2016、PD-1/PD-L1阻害薬への抵抗性も示唆されている Skoulidis et al. CancerDiscov 2018。しかし、放射線治療におけるLKB1変異の臨床的意義、特に放射線治療後の局所再発に対する影響については、大規模な臨床コホートでの検証が不足しており、治療戦略の最適化に向けた知見が求められていた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指す。

目的

本研究の目的は、STK11/LKB1変異とNSCLC患者の放射線治療後の臨床転帰との関連を後方視的コホートで検証することである。特に、LKB1欠損が放射線抵抗性を引き起こすメカニズムを、KEAP1/NRF2経路の活性化とレドックス恒常性維持の観点から詳細に解明することを目指した。さらに、LKB1欠損腫瘍の放射線感受性を増強する新たな治療戦略として、グルタミナーゼ (GLS) 阻害、特にグルタミナーゼ阻害薬CB-839の可能性をin vitroおよびin vivoモデルで評価し、その臨床応用への道筋を示すことを目的とした。これにより、STK11/LKB1変異を有するNSCLC患者に対する個別化された放射線増感療法の開発に貢献する。

結果

STK11/LKB1変異がステージIII NSCLC患者の放射線治療後の予後不良と関連: STK11/LKB1変異を有するステージIII NSCLC患者 (n=12) は、野生型患者 (n=152) と比較して、1年累積局所再発率 (LRR) が有意に高かった (25.0%, 95% CI 4.8-53.1 vs. 10.8%, 95% CI 6.5-16.5, 競合リスク法 p=0.0108)。また、無病生存期間 (DFS) も有意に短縮し (HR 2.530, 95% CI 1.375-4.657, p=0.0029)、全生存期間 (OS) もSTK11/LKB1変異群で有意に不良であった (HR 2.198, 95% CI 1.097-4.405, p=0.0263)。5年DFSはSTK11/LKB1変異群で0%に対し野生型群で14.6% (p=0.0020)、5年OSは15.6%に対し42.0% (p=0.0228) であった。多変量解析でも、年齢で調整後、STK11/LKB1変異は独立した予後不良因子として同定された (HR 2.123, 95% CI 1.060-4.252, p=0.0337)。1年遠隔転移率 (DM) はSTK11/LKB1変異群で数値的に高かったが、統計的有意差は認められなかった (66.7% vs. 39.3%, p=0.1129)。KRASサブグループ解析では、KRASとSTK11/LKB1共変異 (KL群, n=7) の患者は、KRASとTP53共変異 (KP群, n=20) の患者と比較して有意に短いDFSを示した (p=0.0211)。STK11変異群はKP群およびその他全遺伝子型群と比較して、1年LRR率が最も高かった (STK11変異群25%、KP群10.5%、その他群10.9%、p=0.0379)。(Figure 1A, 1B, 1C, Table 2, Table 3, Table 4, Table 5)

LKB1欠損による放射線抵抗性のKEAP1/NRF2経路依存性メカニズム: Isogenic細胞株を用いた検討では、LKB1再発現はLKB1欠損A549細胞の放射線感受性をDER=1.4で増強した (生存分画0.5での値; 2 Gy: p=0.0057、4 Gy: p<0.0001、6 Gy: p<0.0001)。H460細胞でも同様にLKB1過発現により2 Gyでの生存分画が32% vs. 55%へ有意に低下した (p=0.007)。逆に、Calu-6細胞でのLKB1ノックダウンは4 Gyでの生存分画を13.4% vs. 23.7%へ有意に上昇させた (p=0.023)。KEAP1の役割については、A549細胞へのwild-type KEAP1再発現がNRF2、NQO1、GCLCの発現低下を伴い、DER=1.4の放射線増感を誘導した (2 Gy: p<0.0001、4 Gy: p<0.0001、6 Gy: p=0.012)。KRASのみ変異のマウスLKR13細胞でも、Lkb1 (KL) および/またはKeap1 (KK、KLK) 欠損が有意な放射線抵抗性を示し、KEAP1/NRF2軸依存性が確認された。照射 (8 Gy) 後72時間でのROS測定では、LKB1発現細胞がLKB1欠損A549コントロール細胞と比較して照射後のROS増加が有意に大きく、LKB1欠損がROS産生を減弱させることが示された。KEAP1発現によるNRF2経路抑制は、NRF2経路抑制を介してアポトーシス誘導を有意に増強した (p=0.0164)。(Figure 3B, 3C, 3D, 3F, 3G, 3H)

グルタミナーゼ阻害によるLKB1欠損腫瘍の放射線増感効果と特異性: グルタミナーゼ阻害薬CB-839 (1 μmol/L) と放射線 (IR, 8 Gy) の併用は、A549コントロール (LKB1/KEAP1欠損) 細胞の照射後ROS産生を単独照射より有意に増大させた。このROS増強効果は、LKB1再発現またはKEAP1再発現により著明に減弱し、GLS阻害薬 (GLSi) 誘導ROSがLKB1・KEAP1経路に依存することが確認された。クロノジェニックアッセイでは、GLS阻害によりA549コントロール細胞でDER=1.8 (生存分画0.5での値) の強力な放射線増感効果が得られた。LKB1再発現細胞ではCB-839の放射線増感効果がほぼ消失 (DER=0.8)、KEAP1再発現細胞でも同様の阻害が観察された。マウスKLK細胞ではCB-839がDER=2.19、KL細胞ではDER=1.63の放射線増感を示したのに対し、K細胞やKL (KEAP1正常) 細胞では増感効果が見られなかった。in vivo実験では、KEAP1を再発現させたA549腫瘍でのみIRが有意な腫瘍増殖抑制とPFS延長をもたらした (p≤0.04)。これらのデータは、LKB1欠損および/またはKEAP1欠損腫瘍において、グルタミン代謝の阻害がレドックス恒常性を損ない、酸化的ストレスへの耐性を低下させることで、LKB1欠損腫瘍細胞の放射線増感につながることを示している。(Figure 4E, 4F, 5A, 5B, 5C, 5I)

考察/結論

本研究は、STK11/LKB1変異がステージIII NSCLCにおける放射線抵抗性の臨床的バイオマーカーであることを後方視的コホートで初めて実証した。1年LRR率25.0%対10.8%というエンドポイントの差異は、局所進行NSCLCにおけるLKB1変異陽性患者の臨床的意義を明確に示している。

新規性: 本研究で初めて、LKB1欠損がKEAP1/NRF2経路の活性化を介してグルタチオン産生を亢進させ、ROSを低減することで放射線抵抗性を促進するという機序を、isogenic細胞株モデルで段階的に実証した。これは、KEAP1/NRF2変異自体の放射線抵抗性 (Jeong et al. Cancer Discov 2017) とLKB1欠損を介した間接的KEAP1/NRF2活性化による放射線抵抗性を、同一のグルタチオン依存メカニズムとして統合する概念的枠組みを提示するものである。

先行研究との違い: 過去の研究では、LKB1発現が放射線感受性を調節する可能性が前臨床実験で示唆されていたが、STK11/LKB1変異と放射線抵抗性の関連を臨床データで直接的に検証した報告はこれまでなかった。本研究は、このギャップを埋め、臨床的意義を明確にした点で、これまでの報告と異なる。

臨床応用: グルタミナーゼ阻害薬CB-839は臨床開発が進んでおり、LKB1/KEAP1欠損NSCLCに対する放射線治療との併用療法への展開が有望である。STK11/LKB1変異はゲノムプロファイリングで容易に同定でき、治療選択バイオマーカーとして即座に活用可能である。CB-839の放射線増感効果がLKB1再発現またはKEAP1再発現で消失する選択性の実証は、この組み合わせ療法の患者選択 (LKB1/KEAP1欠損陽性者への限定) の妥当性を裏付ける。in vivoではKEAP1再発現A549 xenograftのみで放射線感受性回復が観察された点も、標的治療の特異性を支持する重要な根拠である。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。まず、後方視的コホートのサイズが限られている点 (STK11変異群n=12) が挙げられる。これにより、統計的検出力が制限される可能性がある。また、本解析はPD-L1阻害薬デュルバルマブの維持療法が標準となる以前の患者を対象としているため Antonia et al. NEnglJMed 2017、デュルバルマブ併用時のLKB1変異と臨床転帰の関連は未解明である。今後は、前向き臨床試験でのCB-839+放射線療法の効果検証、LKB1変異の有無を前向きに層別した際の最適な放射線増感レジメンの確立、およびデュルバルマブ維持療法との組み合わせでの安全性と有効性の評価が残された課題である。さらに、LKB1欠損による放射線抵抗性が、細胞自律的なメカニズムだけでなく、腫瘍免疫微小環境への影響を介している可能性も示唆されており、免疫能を有するin vivoモデルを用いたさらなる検討が必要である。

方法

臨床解析: MD Anderson Cancer CenterのGEMINI (Genomic Marker Information for NSCLC Initiative) データベースから、次世代シーケンシングを受け確定的放射線治療を受けたNSCLC連続194例 (ステージI〜III、うちステージIII 164例) を後方視的に解析した。ステージIII患者では、中央追跡期間4.0年 (範囲0.3〜13.1年) でLRR (局所再発率)・DM (遠隔転移率)・DFS (無病生存期間)・OS (全生存期間) を評価した。LRRはDM/死亡を競合イベントとして競合リスク法で、DFSとOSはKaplan-Meier法で評価した。KRASサブグループ解析 (K群: KRAS変異単独、KL群: KRAS+STK11変異、KP群: KRAS+TP53変異) も実施し、各群間の生存曲線はログランク検定で比較した。多変量Cox回帰モデルを用いて、STK11/LKB1変異が独立した予後因子であるかを評価した。統計解析はGraphPad Prism 6.00、SAS 9.4、R 3.3.3を用いて、Studentのt検定、Mann-Whitney U検定、または一元配置分散分析 (ANOVA) を適用した。P値は両側検定で、p≤0.05を有意とした。

細胞株モデル: LKB1欠損NSCLC細胞株 (A549、H460) にwild-type LKB1 cDNAを安定発現させたisogenic pair、およびLKB1発現細胞 (Calu-6) にshRNAでLKB1を安定ノックダウンした系の計3組のisogenic pairを構築した。これらの細胞株は、ATCCから購入し、RPMI1640培地で維持した。放射線感受性はクロノジェニック生存アッセイ (0〜6 Gy照射) で定量し、DER (用量増強比) を算出した。A549細胞にwild-type KEAP1を安定発現させたisogenic pairでもKEAP1/NRF2経路の役割を検証した。細胞株の認証はフィンガープリンティングとマイコプラズマ検査で定期的に実施した。

GLS阻害実験: グルタミナーゼ阻害薬CB-839 (1 μmol/L) を照射4時間前に投与し、照射 (8 Gy) 後72時間でDCFDAを用いた細胞内ROS測定およびAnnexin-V/7-AADアポトーシスアッセイを実施した。クロノジェニックアッセイにより照射 (0〜6 Gy) とCB-839 (10 nmol/L) 併用の放射線増感効果をDERで定量した。in vivo実験として、アチムスヌードマウス (Invigo社製、6〜8週齢) にA549 xenograftモデル (右下肢皮下移植、腫瘍250〜300 mm³で無作為化、n=7〜8 animals/群) を構築し、γ線5 Gy照射を行い腫瘍増殖曲線とPFS (無増悪生存期間) を評価した。腫瘍体積は (L × W²) / 2 (mm³) の式で算出した。