- 著者: Shohei Koyama, Esra A. Akbay, Yvonne Y. Li, Amir R. Aref, Ferdinandos Skoulidis, Grit S. Herter-Sprie, Kevin A. Buczkowski, Yan Liu, Mark M. Awad, Warren L. Denning, Lixia Diao, Jing Wang, Edwin R. Parra-Cuentas, Ignacio I. Wistuba, Margaret Soucheray, Tran Thai, Hajime Asahina, Shunsuke Kitajima, Abigail Altabef, Jillian D. Cavanaugh, Kevin Rhee, Peng Gao, Haikuo Zhang, Peter E. Fecci, Takeshi Shimamura, Matthew D. Hellmann, John V. Heymach, F. Stephen Hodi, Gordon J. Freeman, David A. Barbie, Glenn Dranoff, Peter S. Hammerman, Kwok-Kin Wong
- Corresponding author: Kwok-Kin Wong; Peter Hammerman; Glenn Dranoff (Dana-Farber Cancer Institute / Novartis Institutes for BioMedical Research, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Cancer Research
- 発行年: 2016
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 26833127
背景
STK11/LKB1は非小細胞肺がん (NSCLC) において最も頻繁に不活化される腫瘍抑制遺伝子の一つであり、特にKRAS変異肺腺癌の約1/3に認められる。この遺伝子欠失はTP53欠失とは相互排他的な関係にあることが報告されている (Ji et al. Nature 2007)。KRAS/LKB1ダブル変異を有する腫瘍は、KRAS単独変異腫瘍と比較して、より浸潤性・転移性の表現型を示し、患者の生存期間が短いことが知られている (Ji et al. Nature 2007)。近年、免疫チェックポイント阻害剤 (特に抗PD-1抗体) の臨床試験がNSCLC患者に対して有望な結果を示しているが (Garon et al. NEnglJMed 2015)、STK11/LKB1変異サブグループにおけるこれらの治療法への応答性はこれまで十分に解明されていなかった。
がん遺伝子 (KRAS、EGFR、MYCなど) が免疫回避機構を直接活性化することは先行研究で示されているが (Akbay et al. CancerDiscov 2013)、腫瘍抑制遺伝子 (STK11/LKB1) の不活化が免疫微小環境を変化させ、PD-1:PD-L1軸とは異なる免疫回避経路を活性化するという概念は未検討であった。特に、KRAS変異NSCLCにおけるSTK11/LKB1欠失が、腫瘍微小環境の炎症性サイトカイン産生や免疫細胞浸潤にどのように影響し、免疫チェックポイント阻害剤への感受性を変調させるのかについては、詳細な分子メカニズムが不明なままであった。この知識のギャップは、STK11/LKB1変異を有するNSCLC患者に対する最適な免疫療法の開発を妨げる要因となっていた。
本研究は、STK11/LKB1欠失がKRAS変異NSCLCの腫瘍免疫微小環境に与える影響を包括的に解析し、特に好中球の動員、T細胞の抑制、PD-L1発現、およびサイトカイン産生の変化に焦点を当てることで、抗PD-1療法への耐性メカニズムを明らかにすることを目的とした。また、この耐性を克服するための代替治療戦略を探索することも重要な課題であった。KRAS変異NSCLCは治療抵抗性が高く、新たな治療標的の同定が強く求められており、STK11/LKB1欠失が免疫回避に果たす役割の解明は、このアンメットニーズに応える上で極めて重要であると考えられた。既存のPD-1/PD-L1経路に焦点を当てた研究だけでは、STK11/LKB1変異を有するKRAS駆動性NSCLCの免疫回避メカニズムを完全に理解するには情報が不足していた。
目的
本研究の目的は、KRAS駆動性NSCLCマウスモデルにおいてSTK11/LKB1欠失が腫瘍免疫微小環境に与える影響を詳細に解明することである。具体的には、STK11/LKB1欠失が好中球の動員、T細胞の抑制、PD-L1発現、および炎症性サイトカイン産生にどのように影響するかを明らかにすることを目指した。さらに、これらの変化が抗PD-1療法への耐性を誘導する機序を究明し、STK11/LKB1欠失を有する腫瘍に対する代替治療戦略を探索することを目的とした。最終的には、腫瘍抑制遺伝子の不活化が免疫回避に果たす役割という新たな概念を確立し、臨床応用可能な治療標的を同定することを目指した。本研究は、STK11/LKB1欠失が免疫微小環境に与える影響を包括的に解析することで、KRAS変異NSCLCの治療抵抗性を克服するための新たなアプローチを提案することを目指す。
結果
KL腫瘍における好中球の大量動員と炎症性サイトカイン産生: Kras/Lkb1 (KL, n=8 mice) 腫瘍では、Kras (K, n=8 mice) 腫瘍と比較して、CD11b+Ly-6G+腫瘍関連好中球 (TAN) が腫瘍局所、脾臓、末梢血で著明に増加した (p<0.01~p<0.001)。一方で、CD11c+腫瘍関連マクロファージ (TAM) は有意に減少した。腫瘍細胞のRNAシークエンシング解析により、KPL細胞はCXCL7 (Ppbp)、Cxcl3、Cxcl5 (これらはいずれもCXCR2リガンドである) およびG-Csf、Il1aを高発現することが判明した (Figure 1C)。対照的に、リンパ球を誘引するCcl5およびCxcl12の発現は低下していた。タンパクレベルでも、KPL細胞株 (n=3 cells) はKP細胞株 (n=3 cells) と比較してCXCL7、G-CSF (顆粒球コロニー刺激因子)、IL-6 (インターロイキン-6) の産生が有意に増加した (p<0.001)。BALF (気管支肺胞洗浄液) においてもCXCL7、G-CSF、MFG-E8、IL-10が有意に上昇していた (Figure 1E)。IL-1alpha (インターロイキン-1アルファ) (0、5、20 ng/mL) 投与により、KPL細胞のIL-6、CXCL7、G-CSF産生が用量依存的に増強され、IL-1alphaを介したIL-6フィードフォワードシグナルの存在が確認された (Figure 1H)。KL腫瘍ではIL-6下流のリン酸化STAT3 (pSTAT3) が有意に亢進しており (Figure 1F)、IL-6シグナルの持続的活性化が示された。さらに、KL由来のTANのRNAシークエンシングでは、IL-6、CXCL7、Lgals9、S100a8/a9が高発現しており、K由来TANよりも炎症促進性・免疫抑制性の表現型を示すことが明らかになった。
KL腫瘍におけるT細胞機能障害と多重免疫抑制シグナル: KL腫瘍では、Kras腫瘍と比較してCD4およびCD8 T細胞数が有意に減少し (p<0.01)、PD-1、TIM-3、LAG-3、CTLA-4といった共抑制受容体の発現が著明に上昇し、T細胞が多重免疫チェックポイント活性化による深刻な疲弊状態にあることが認められた (Figure 2B)。FOXP3+Treg/CD4比も増加し、IFNgamma (インターフェロンガンマ) 産生能およびKi-67陽性率が有意に低下しており (p<0.05)、機能的な疲弊が示唆された (Figure 2C)。RNAシークエンシングでは、KL腫瘍のTANがTIM-3のリガンドであるLgals9を高発現していた。好中球をCD8 T細胞と共培養すると、好中球依存的にT細胞のIFNgamma産生が有意に抑制され (p<0.05)、好中球-Lgals9-TIM-3経路によるT細胞の直接抑制が示された。さらに、TANからのIL-6産生がT細胞への抑制シグナルをパラクライン的に増幅し、IL-6-STAT3軸がT細胞活性化阻害に寄与することもin vitro実験で確認された。
PD-L1低発現と抗PD-1療法への耐性機序: マウスKras/Lkb1腫瘍細胞では、Kras腫瘍細胞と比較してPD-L1のMFI (Mean Fluorescence Intensity) が有意に低下した (p=0.0384) (Figure 2D)。KPL細胞株でもKP細胞株と比較してPD-L1発現が有意に低下した (p=0.0495) (Figure 2E)。ヒトTCGAデータセット (n=230例超のNSCLC) の解析では、STK11変異NSCLCはPD-L1低発現と相関し (p=0.00004)、MD Anderson PROSPECT外科検体 (n=108 LKB1 WT, n=44 LKB1 mutant) ではLKB1変異がTIL (tumor-infiltrating lymphocyte) の減少と関連することが示された (Figure 3C, F)。in vivo治療実験では、抗PD-1抗体 (29F.1A12) はKras腫瘍の増殖を有意に抑制したが (p<0.05)、Kras/Lkb1腫瘍には無効であり、LKB1欠失が抗PD-1耐性をもたらすことが直接証明された (Figure 4A)。
IL-6中和および好中球枯渇による免疫回復と腫瘍増殖抑制: IL-6中和抗体 (MP5-20F3) 投与は、Kras/Lkb1マウスにおいて腫瘍内CD4およびCD8 T細胞数とIFNgamma産生能を有意に回復させ (p<0.05)、MRIで確認された腫瘍体積増加を有意に抑制した (Figure 4A, E)。好中球枯渇抗体 (抗Ly6G) 投与も同様にT細胞機能を有意に回復させ、腫瘍抑制効果を示した。抗PD-1抗体はKras腫瘍の増殖を有意に抑制したが、Kras/Lkb1腫瘍には無効であり、IL-6遮断と好中球枯渇がPD-1耐性LKB1変異NSCLCに対する代替治療戦略となりうることを実証した。IL-6中和抗体治療を受けたKras/Lkb1マウスは、対照群と比較して有意に生存期間が延長した (p=0.0002, n=6 vs 12 mice) (Figure 4B)。IL-6中和によりBALF中のIL-6およびG-CSFレベルが有意に減少し (p<0.05)、TAN数も有意に減少した (p<0.01) (Figure 4C, D)。さらに、IL-6中和は腫瘍細胞の増殖を抑制し (Ki-67陽性率 p=0.0049)、アポトーシスを増加させた (TUNEL陽性率 p=0.0024) (Figure 4F)。
考察/結論
本研究は、腫瘍抑制遺伝子STK11/LKB1の欠失がKRAS変異NSCLCにおいてPD-L1非依存的な免疫回避経路を活性化するという新規概念を提示した。IL-1alpha→CXCL7/G-CSF→好中球大量動員→IL-6/Lgals9産生→T細胞多重疲弊というシグナルカスケードが、PD-1:PD-L1軸とは独立した免疫抑制微小環境を形成することが示された。PD-L1が低発現であるにもかかわらずT細胞が高度に疲弊しているという逆説的な表現型は、LKB1欠失腫瘍が好中球媒介性免疫抑制を主要戦略として採用していることを示す重要な知見である。
先行研究との違い: これまでの研究ではPD-1:PD-L1経路がNSCLCの主要な免疫チェックポイントとして同定されていたが、本研究はLKB1変異腫瘍では抗PD-1が無効であり、PD-L1非依存的な好中球-IL-6軸が支配的な免疫抑制機序として働くことを初めてin vivoで実証した点で、先行研究とは対照的な結果を示している。その後、Rizvi et al. Science 2015やSkoulidis et al. CancerDiscov 2015などの臨床研究でSTK11変異がNSCLCの抗PD-1耐性予測因子として確認されており、本研究が2016年に示した前臨床的根拠は臨床的に重要な貢献をした。
新規性: 本研究で初めて、STK11/LKB1欠失がIL-1alphaを介した炎症性サイトカイン産生を促進し、CXCL7やG-CSFによる好中球の大量動員、およびIL-6やLgals9を介したT細胞の多重疲弊を引き起こすという、PD-L1非依存的な免疫抑制メカニズムを新規に同定した。このメカニズムは、腫瘍抑制遺伝子の不活化が免疫微小環境を劇的に変化させるという、これまで報告されていない概念を確立するものである。
臨床応用: 本知見は、STK11変異NSCLC患者に対する新たな治療戦略の臨床応用に直結する。臨床的意義として、STK11変異NSCLCでは抗PD-1単独療法よりも、抗IL-6抗体 (トシリズマブなど) やCXCR2阻害剤、あるいは好中球枯渇療法との併用戦略が有効である可能性が示唆される。これは、好中球媒介性免疫抑制を標的とした新規治療開発の方向性を提示するものである。
残された課題: 今後の検討課題として、LKB1欠失によるAMPK経路シャットダウンが炎症性サイトカイン産生亢進につながる詳細な分子機序の解明が残されている。AMPK非依存的なLKB1基質 (MARK、SIK等) を介したエピジェネティック調節が関与する可能性も考えられる。また、STK11変異とKRAS・TP53変異の相互作用が腫瘍微小環境を変化させる詳細な機序の解析、および抗IL-6抗体やCXCR2阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の最適な組み合わせの検証が必要である。本研究ではIL-6中和抗体と抗PD-1抗体の併用効果は認められなかったが、これは抗体のアイソタイプによる技術的限界や投与スケジュールの最適化が必要である可能性も示唆される。
方法
本研究では、Kras単独変異 (K) マウスとKras/Lkb1ダブル変異 (KL) マウスの肺腫瘍モデルを確立し、MRIを用いて腫瘍量を揃えた上で比較解析を行った。各群n=8匹のC57BL/6Jマウスを用いた。免疫細胞集団の解析にはフローサイトメトリーが用いられ、CD11b+Ly6G+好中球 (TAN)、CD11c+腫瘍関連マクロファージ (TAM)、T細胞 (CD4、CD8、Treg)、好酸球、炎症性単球、樹状細胞 (DC) などの細胞が定量された。
腫瘍細胞 (CD45-EpCAM+) およびTANの遺伝子発現プロファイルを解析するため、RNAシークエンシングが実施された。気管支肺胞洗浄液 (BALF) および細胞培養上清中のサイトカイン・ケモカイン濃度は、ELISAなどの手法を用いて定量された。さらに、Kras/p53ダブル変異 (KP) およびKras/p53/Lkb1トリプル変異 (KPL) マウス細胞株を用いたin vitro刺激実験が行われた。この実験では、IL-1alphaを0、5、20 ng/mLの濃度で投与し、サイトカイン産生の変化が評価された。IL-6シグナルの活性化状態を評価するため、腫瘍組織におけるリン酸化STAT3 (pSTAT3) のウェスタンブロット解析も実施された。
ヒトNSCLCにおけるSTK11変異の臨床的意義を評価するため、TCGA (The Cancer Genome Atlas) データセット (n=230例超) およびMD Anderson PROSPECT (Profiling of Resistance Patterns and Oncogenic Signaling Pathways in Evaluation of Cancers of the Thorax and Therapeutic Target Identification) 外科検体 (n=108 LKB1 WT, n=44 LKB1 mutant) が解析された。これらのデータセットを用いて、STK11変異とPD-L1発現、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 浸潤の相関が検討された。PD-L1発現はフローサイトメトリー、mRNAシークエンシング、RPPA (Reverse Phase Protein Array)、および免疫組織化学 (IHC) によって評価された。TILについては、CD3およびCD8陽性細胞のIHC染色による密度が解析された。ヒト肺癌細胞株であるH441、H1792、A549細胞株を用いて、shRNAによるLKB1ノックダウンまたはLKB1の再構成を行い、PD-L1発現およびサイトカイン産生の変化を評価した。
治療戦略の評価として、in vivo治療試験が実施された。Kras/Lkb1マウスにIL-6中和抗体 (MP5-20F3)、好中球枯渇抗体 (抗Ly6G)、または抗PD-1抗体 (29F.1A12) を投与し、腫瘍増殖抑制効果と免疫細胞機能の変化が評価された。統計解析には、2群比較にはStudentのt検定、3群以上の比較にはTukeyのpost-testを伴う一元配置ANOVAが用いられた。生存曲線にはログランク検定が適用された。ヒト腫瘍サンプルにおけるPD-L1およびT細胞マーカーとLKB1ステータスの相関評価にはMann-Whitney U検定が用いられた。