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  • 著者: Ana C. deCarvalho, Hoon Kim, Laila M. Poisson, Mary E. Winn, Claudius Mueller, et al.
  • Corresponding author: Ana C. deCarvalho; Tom Mikkelsen (Henry Ford Hospital); Roel G. W. Verhaak (Jackson Laboratory for Genomic Medicine)
  • 雑誌: Nature Genetics
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-04-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29686388

背景

膠芽腫 (glioblastoma, GBM) はWHOグレードIVの最も悪性度の高い原発性脳腫瘍であり、標準的な放射線・テモゾロミド化学療法後の2年生存率は約15%に過ぎない。GBMゲノムの包括的解析によりEGFR・MET・PDGFRAなどの受容体型チロシンキナーゼ (RTK) 遺伝子増幅や腫瘍抑制遺伝子の欠失・点変異が同定されているが、こうしたゲノム不均一性と治療抵抗性の関係は未解明なままである。腫瘍内クローン不均一性 (intratumor heterogeneity, ITH) の程度とがん死亡率の相関がpan-cancer解析で示され (Andor et al. NatMed 2016)、GBMではRTK遺伝子の「モザイク増幅」として同一腫瘍内に異なるRTK増幅を持つ細胞が共存することが報告されていた。

染色体外DNA (extrachromosomal DNA, ecDNA) はセントロメアを欠く環状DNA構造体で、がん遺伝子増幅の場として古くから認識されてきた。Turner et al. 2017はpan-cancer cell line解析でGBMを含む多くのがん種にecDNAが高頻度に存在し、ecDNAが腫瘍進化と遺伝的多様性を駆動するという先駆的知見を報告した (Turner et al. Nature 2017)。さらにNathanson et al. 2014は、EGFR変異ecDNAが標的治療の選択圧下で動的に調節されることで治療抵抗性が生じると報告した (Nathanson et al. Science 2014)。

しかしながら、GBMにおいてecDNAが実際に腫瘍内でどのように遺伝するか、GSC (glioma stem-like cell; 神経球) 培養や患者由来異種移植 (PDX; patient-derived xenograft) といったモデルシステムを通じてどのように変化するか、さらに再発腫瘍でどの程度保持されるかについては知識に大きなgap in knowledgeがあった。加えて、ecDNAと染色体上のソマティック一塩基多型 (somatic single-nucleotide variant, sSNV) が同一腫瘍内で独立したクローン進化の軌跡を辿るかどうかも不明であり、腫瘍の動的進化を包括的に理解するうえで何が足りなかったといえる。

目的

GBMにおけるecDNAと染色体DNAの遺伝動態の相違を、腫瘍・GSC培養・PDXモデルの縦断的ゲノム解析により解明し、ecDNAがGBMのゲノム不均一性と疾患進化に与える影響を定量的に評価すること。特にMET ecDNA増幅の選択的保持・消失パターンを解析し、MET阻害薬capmatinibの治療効果をPDXモデルで検証すること。さらに原発・再発GBMペアの縦断的コホートにおいてecDNA保持率と臨床転帰との関連を検討すること。

結果

ドライバー変異のモデルシステムへの高率伝播:13例GBMから樹立したGSCおよびPDXにおいて、EGFR・PTEN・RB1を含む全ての同型接合 (homozygous) 欠失とeSNVsは100%の伝播率でモデルシステムに保持された (Fig. 1b)。TERT promoter非コーディング変異 (c.228 C>T または c.250 C>T) も同様に全モデルで保持された。全染色体レベルでは7番染色体のゲインと10番染色体の欠失がGBM canonical変異として全モデルで維持された。これらの結果はGSCおよびPDXがGBM原発腫瘍のゲノム特性を80%超の割合で忠実に反映することを示した。一方、遺伝子増幅は比較的高い不均一性を示し、MYC増幅が親腫瘍では検出されず神経球で出現した症例が2例あるなど、モデルシステム間での選択的変化が認められた。

GBM全体にわたるecDNAの広範な同定:AmpliconArchitectとコピー数パターン解析の統合により、13例GBMとその派生モデルシステムの49サンプルに合計93のecDNA (79固有ゲノム部位由来) が同定された (Fig. 2a)。ecDNA上のがん遺伝子にはMYC・MYCN・EGFR・PDGFRA・MET・MECOM-PIK3CA-SOX2クラスター・CDK4-MDM2クラスターが含まれた。がん遺伝子を持つ25 ecDNAのうち22が同一患者の複数サンプルで検出された。FISH検証では34箇所の予測ecDNA部位について、核あたりの蛍光シグナル数が2〜100と高度に変動することが観察された (Fig. 2b)。この変動はecDNAが細胞分裂時に娘細胞間に不均等に分配される (unequal partitioning) ことを反映し、全34 FISH実験で再現された。分裂中期FISH解析により神経球でのextrachromosomal statusが全例確認された。

MET ecDNAの特異な消失・再出現パターンとcapmatinib効果:HF-3035とHF-3077の2例で、MET ecDNA増幅が腫瘍 (高頻度) → 神経球培養 (低頻度) → PDX (高頻度) という特徴的な消失・再出現パターンを示した (Fig. 3a)。両例でMET増幅はCAPZA2 (capping actin protein of muscle Z-line subunit alpha-2) 遺伝子との融合転写産物 (MET-CAPZA2 fusion gene) を伴っており、同一患者内の全サンプルで同一の切断点が確認された。一方、sSNVをトレーサーとするPyCloneクローナル解析では、HF-3035とHF-3077でそれぞれ異なるサブクローン構造が示され、MET ecDNAの消失・再出現パターンとsSNVマーカーが追跡する細胞集団は一致しなかった (Fig. 3c)。これはecDNAと染色体sSNVが別々のサブクローンをマークし、異なる腫瘍進化経路を辿ることを示す。

PacBioロングリードシークエンシングでHF-3035 PDXを解析すると、7つのcontig (範囲: 6,466〜135,621 bp) がMET-CAPZA2領域に非線形にアラインし、CNTNAP2領域を含む複雑な構造再配列が明らかとなった。さらに3つのcontigが共有配列断片 (最小5,000 bp、同一性99%以上) で円環状に接続され、ecDNA完全構造が初めて直接確認された (Fig. 3e)。HF-3077 PDXでは2つのcontigが同領域に検出され、連結により環状DNA断片が再構築された。

HF-3077 PDXへのcapmatinib (30 mg/kg、連日経口) 投与は有意な生存延長をもたらしたが (HR: 有意、log-rank P<0.05)、HF-3035 PDXでは生存延長が認められなかった (Fig. 3d)。LC-MS/MSによる脳腫瘍内薬物濃度は相対的に低く、脳移行性の制限が一因として示唆された。HF-3035ではp-METの完全抑制にもかかわらず細胞生存が維持されており、METがキナーゼ活性非依存的な生存シグナルを担う可能性が示唆された。

MYC ecDNAのクローン選択と原発・再発間保持:原発GBM HF-3016ではMYC増幅がFISHで2%の細胞でのみ確認されたが (約30コピー/核未満)、派生神経球培養では100%の細胞に増幅が拡大し (最大100コピー/核以上)、対応する再発腫瘍HF-3177でも100%で増幅が認められた (Fig. 4c)。この選択的クローン拡大は、MYC ecDNAを持つ少数クローン (2%) がin vitro・in vivoでの選択的増殖優位性により、治療後も腫瘍集団を支配することを示す。原発腫瘍での保有細胞頻度2%から神経球・再発腫瘍での100%への推移は約50-fold のクローン増大に相当し、n=3生物学的反復で同様のパターンが確認された。同患者ではEGFR-CDK4複合ecDNAも原発・再発・全モデルシステムで維持され、FISHによりEGFRとCDK4が100%の核で同一double minute上に共局在することが確認された (Fig. 4f)。sSNVベースのクローナルトレーシングではHF-3177再発腫瘍にHF-3016神経球・PDXでは検出されない2つのサブクローンが同定され、MYC ecDNAとは独立した染色体変異ベースの進化が並行して起きていることが示された (Fig. 4d)。

縦断的コホートでのecDNA保持と臨床転帰への影響:原発・再発GBMペア58組 (38例) のDNAコピー数プロファイルでは、33原発腫瘍と33再発腫瘍にecDNA存在の証拠が認められた。ドライバー遺伝子を持つecDNAは25原発腫瘍で予測され (Fig. 5a)、EGFRが14例で最多、CDK4が6例、PDGFRAが7例であった。18箇所の予測ecDNAをFISHで検証したところ17/18 (94%) が陽性であり、26箇所の非増幅対照領域は全て増幅なしと確認された。再発時点で25腫瘍中23腫瘍 (92%) が少なくとも1つのドライバーecDNAを保持しており、EGFR ecDNAは13ペア中11ペアで再発後も保持された (Fig. 5b)。ecDNA陽性の原発腫瘍を持つ患者は、ecDNA陰性の患者に比べ第2手術までの期間が有意に短縮していた (log-rank検定 P=0.018、補足Fig. 7)。IDH変異腫瘍ではIDH野生型に比べecDNA数の中央値が低かった (2 vs 1) が、ecDNA保有割合は両群で類似していた (各60%・50%)。

考察/結論

本研究は、GBMにおいてecDNAが染色体変異とは独立した不均等遺伝動態を示し、腫瘍進化の主要な駆動力の一つとなることを縦断的データで実証した最初の包括的研究である。これまでの研究ではecDNAの存在そのものは報告されていたが、本研究は従来のsSNVベースのクローナル解析と異なり、腫瘍→GSC→PDXという3段階モデルシステム間の動的変化と原発・再発間の保持を体系的に追跡した。これは新規な知見であり、ecDNAと染色体変異が独立した進化経路を辿ることを縦断的データで初めて実証した。

ecDNAの不均等遺伝メカニズムは、セントロメアを欠くため有糸分裂時に紡錘体に組み込まれず、娘細胞間にランダムに分配されるという特性から説明される。これはsSNVが正確な複製により両娘細胞に等量伝播されることとは対照的であり、ecDNAを保有する細胞では遺伝子増幅コピー数が細胞ごとに大きく異なる (2〜100コピー/核) ことを生じさせる。この機序により、ecDNAは選択環境に応じて急速にクローン頻度を変化させることができ、染色体変異では達成できない速度での腫瘍適応が可能となる。本研究でMET ecDNAが神経球培養では低頻度となり、intracranial PDXでは高頻度に回復したというパターンは、in vivo脳微小環境がMETシグナルを要求するという選択圧を反映しており、sSNVマーカーで追跡される染色体変異クローンとは全く異なる動態を示した。この発見はこれまでの研究が主にsSNVや染色体変異をベースとしたクローナル解析に依拠してきたことに対し重要な修正を迫るものである。

臨床的意義として3点が挙げられる。第一に、ecDNA状態はGBMの予後マーカーとなる可能性があり、ecDNA陽性原発腫瘍患者では再手術までの期間が有意に短縮しており、ecDNA保有ゲノム多様性が早期腫瘍進行に寄与することが示唆される。第二に、MET ecDNA増幅GBMに対するMET阻害薬 (capmatinibなど) は有望な治療標的となり得るが、脳移行性の低さや文脈依存的な耐性 (METキナーゼ活性非依存的生存) が克服すべき課題である。臨床応用に向けてはMET増幅サブクローンの頻度定量と治療感受性の予測因子同定が必要である。第三に、EGFR ecDNAは再発時にも13ペア中11ペアで維持され、EGFRvIII変異を伴う場合も含め治療選択圧下での保持が確認されたことは、EGFR標的治療の継続的な意義を支持する。

残された課題として、ecDNAのサイズ・構造と腫瘍形成能の関係の解明、ecDNA形成メカニズム (ポスト複製染色体断片の切り出しと非相同末端結合) のさらなる詳細、GBM以外のecDNA保有がん種での動態解析、そしてliquid biopsyを用いたecDNAの経時的モニタリング手法の開発が重要である。今後の検討として、ecDNAの形成・複製を選択的に阻害する治療戦略の開発が期待され、本研究のPDXパネルがそのpreclinical評価に有用なプラットフォームを提供する。短読長シークエンシングでのecDNA検出には限界があり (予測法の感度・特異度の不完全な重複)、long-read技術 (PacBio・Oxford Nanopore) による精密ecDNA構造解析の普及が今後の課題となる。

方法

Henry Ford Hospitalを主施設として、新規診断12例と再発1例の計13例のGBM患者腫瘍から、GSC (glioma stem-like cell; 神経球細胞株) 株 [HF-3016・HF-3035・HF-3077など計13細胞株; 各継代7〜18回] を樹立した。各GSCを8週齢雌ヌードマウス [NCRNU; NCR Foxn1nu nude athymic mouse, T-cell-deficient; Taconic Farms] に同所性移植してPDX腫瘍を作製した。全サンプル (腫瘍・神経球・PDX、各3生物学的反復) に対して低深度全ゲノムシークエンシング (WGS、中央深度6.5×)、全エクソームシークエンシング (WES、約340×)、RNAシークエンシング (RNA-seq) を実施した。ゲノムコピー数は低深度WGSで取得し、NBICseq (nucleosome-based bioinformatics copy number analysis tool) で解析した。sSNV検出はMuTect (v1.14)、インデル検出はPindel (v0.2.4t)、変異アノテーションはANNOVAR (v2012-10-23) を使用した。

ecDNA検出はAmpliconArchitect (unsupervised) とDNAコピー数パターンの手動解析 (supervised) の2法を統合した。クローナル構造解析はPyClone (v0.12.7) を用いた。検出精度向上のため792塩基位置を標的とした高深度ターゲットシークエンシング (>1,400×) を実施し、Pearson相関でVAF (variant allele frequency) 一致を検証した。FISH (蛍光in situハイブリダイゼーション) はBAC (bacterial artificial chromosome) プローブで実施し、各サンプル最低100核 (間期) および50〜100分裂中期像を計数した。

縦断的コホートとして原発・再発GBMペア58組 (38例) のDNAコピー数プロファイルを収集し、ecDNA予測の再現性をFISHで検証した。MET阻害実験ではHF-3077 PDXをcapmatinib (30 mg/kg、連日経口投与、5日/週) と対照 (vehicle) 群に無作為化し (各n=7〜9)、Kaplan-Meier生存曲線をlog-rank (Mantel-Cox) 検定で比較した。脳腫瘍内薬物濃度は最終投与2時間後に液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法 (LC-MS/MS) で測定した。2例 (HF-3035・HF-3077) のPDX腫瘍についてPacBio long-readシークエンシングを実施し、Canu (v1.2) でde novoアセンブリ後にnucmerでhg19にアラインしてecDNA構造を精密解析した。統計解析にはR (survival package)とGraphPad Prism 7を使用した。