- 著者: Alex Miranda, Phineas T. Hamilton, Allen W. Zhang, Swetansu Pattnaik, Etienne Becht, Artur Mezheyeuski, Jarle Bruun, Patrick Micke, Aurélien de Reynies, Brad H. Nelson
- Corresponding author: Brad H. Nelson (BC Cancer, Victoria, Canada; bnelson@bccrc.ca)
- 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-04-17
- Article種別: Original Article
- PMID: 30996127
背景
ICI (immune checkpoint inhibitor: 免疫チェックポイント阻害薬) の有効性は既存の抗腫瘍免疫応答の存在を前提とするが、多くの固形癌は免疫学的に「冷たい (cold)」状態、すなわちリンパ球浸潤が乏しく免疫監視が機能しない状態を示す。この cold tumor 表現型を生み出す機序は未解明であり、ICI適応患者選択において体系的解明が急務であった。
CSC (cancer stem cell: がん幹細胞) は自己複製能・腫瘍維持能を持つ細胞サブセットであり、治療耐性・腫瘍休眠・転移と関連することが多くの研究で示されていた (Smith et al. 2018; Malta et al. 2018; Hanahan et al. 2011)。「幹細胞性 (stemness)」という概念は、個別のCSCマーカーではなく、stem cell関連遺伝子発現プログラム全体としての特性を指し、がん種を超えて悪性度・予後と強く相関することが報告されていた。しかし幹細胞性と免疫応答の関係の体系的解析は不十分であり、汎がん種レベルでの統合解析は存在しなかった。
ITH (intratumoral heterogeneity: 腫瘍内不均一性) も免疫細胞浸潤との負の相関が一部報告されていたが (Andor et al. 2016; Thorsson et al. 2018)、幹細胞性・免疫抑制・ITHを統合した汎がん種解析は不足していた。また、stem cellがERV (endogenous retrovirus: 内在性レトロウイルス) をサイレンシングするという特性が、がん細胞でのIFN (interferon: インターフェロン) 応答抑制を介した免疫抑制機構として機能する可能性は提唱されていなかった。Malta et al. の先行研究はOCLR (one-class logistic regression) を用いた幹細胞性スコアを報告したが、免疫関連遺伝子 (IDO1 (indoleamine 2,3-dioxygenase 1)、LCK (lymphocyte-specific kinase)、KLRG2 (killer cell lectin-like receptor) 等) が正のweightを持つため、幹細胞性-免疫関係の偏りのない評価が手薄であった。
目的
21種固形癌にわたって、がん幹細胞性と抗腫瘍免疫・ITH・予後の関係を統合的に解析し、幹細胞性が免疫学的に cold な腫瘍微小環境を生み出す細胞内在的分子機構を明らかにすること。
結果
所見1: 幹細胞性は汎がん種で不良予後と強く相関: (Fig 1) 幹細胞性スコアは21癌種間で大きく変動し、癌種がその分散の54%を説明した (ANOVA)。中央値幹細胞性の高い癌種ほど全生存期間中央値が短く (Spearman ρ=-0.60、P=0.004、n=21癌種)、Cox回帰では21癌種の大多数でstemness高値が有意な不良予後因子となった (P<0.05)。pan-cancer Cox回帰ではssGSEA stemnessの対数ハザード比=0.23±0.03 (P<10-15) が示され、Malta et al. のmRNAsi法 (OCLR) では有意でなかったのと対照的であった。
所見2: 幹細胞性と抗腫瘍免疫の強い負の相関: (Fig 2) xCellを用いたCD8+ T細胞・NK細胞・B細胞の統合免疫スコアは21癌種のほぼすべてでstemness高値と有意な負相関を示した。CIBERSORT解析では、high-stemness腫瘍でマクロファージ優位・CD8+ T細胞枯渇型の白血球組成への偏りが全サンプルで確認された (癌種・腫瘍純度で調整した線形モデル、P<10-15)。IHCを用いた3独立コホートでもstemness とT細胞浸潤 (CD3 (cluster of differentiation 3) +/CD8+/CD4 (cluster of differentiation 4) + T細胞) の負相関が確認された。大腸癌コホート (Spearman ρ=-0.63、P<0.001、n=33 patients)、卵巣癌多部位データセット (P=0.0028、n=44 samples/12例) で統計的に有意であった。乳癌・子宮内膜癌のサブタイプ別解析でもこの関係はサブタイプ・腫瘍純度調整後も有意 (P<10-7) に維持された。
所見3: 高変異量・高CT抗原にもかかわらず免疫が低下するパラドックス: (Fig 5) 高stemness腫瘍は変異量が高く (癌種間 Spearman ρ=0.52、P=0.015、n=21癌種)、201種のCT抗原スコアも幹細胞性と正相関していた (8/21癌種でCT抗原スコア vs 免疫スコアは有意な負相関、P<0.05)。高変異量・高CT抗原発現にもかかわらず免疫が低下するという現象が観察され、幹細胞性依存的な細胞内在的免疫回避機構の存在が示された。
所見4: ERV抑制が幹細胞性の免疫抑制機序: (Fig 5D) n=4,252 samples のTCGAデータでERV発現とstemness・免疫スコアの関係を主成分制約分析 (redundancy analysis) で解析した結果、多変量ERV発現とstemness が有意な負相関を示した (P<0.001)。ERVK (endogenous retrovirus K: K型内在性レトロウイルス) ファミリーのみが免疫スコアと中等度の正相関を示した。CCLE 1,048細胞株でも3種のERVのうち2種が腫瘍組織を調整後もstemness と有意な負相関を示した (P<0.05 調整後)。正常stem cell (骨髄・胎盤・線維芽細胞等の多系統細胞の GEO データセット) でもIFNα/β シグナリングとstemness が強い負相関 (Spearman ρ=-0.81、P<10-15) を示した。
所見5: I型IFNシグナリングの細胞内在的サイレンシング: (Fig 6) TCGA全癌種でssGSEA I型IFN シグネチャー (reactome IFNα/βパスウェイ遺伝子セット) はほとんどの癌種でstemness と負相関した。CCLE 1,048株での解析でも IFN シグネチャーとstemness が有意な負相関 (Spearman ρ=-0.22、P<10-10) を示し、組織起源・造血系細胞株除外後も有意 (P<0.001、P=0.02) を維持した。肺癌scRNA-seq (>52,000細胞/5例) では5例中4例でがん細胞内在的なstemness とIFNα/β シグナリングの負相関が単細胞レベルで確認された。
所見6: 免疫抑制チェックポイントの発現増加: (Fig 6C-D) CCLE・TCGAデータの両方で解析した結果、複数の治療可能ターゲットがstemness と正相関することが示された。具体的には、CD276 (cluster of differentiation 276; T細胞活性化抑制の共抑制分子)、PVR (poliovirus receptor; 免疫抑制リガンド)、TGFB1 (transforming growth factor beta 1) の3分子が両データセットで一貫して確認され、いずれも免疫寛容誘導と制御性T細胞誘導に関与する治療標的である。これらの分子は現在開発中の抗体療法や小分子阻害薬の標的でもあり、幹細胞性高い腫瘍の免疫回避に対する治療戦略として ICI との組み合わせが期待される。
所見7: 腫瘍内不均一性との正相関: (Fig 4) Andor et al. のクローン解析データを用いた解析では、癌種の中央値stemness と中央値クローン数が強く正相関した (Spearman ρ=0.75、P=0.008、n=11癌種)。Thorsson et al. の大規模汎がん種解析でも同様の強い相関が観察された (Spearman ρ=0.64、P=0.002、n=21癌種)。癌種・腫瘍純度調整後も P<10-15 であり、高stemness環境が免疫選択を弱め、多様なクローンの共存を可能にすることを示唆する。
考察/結論
本研究で新たに示したのは、幹細胞性・抗腫瘍免疫・ITHを統合した汎がん種解析において、「変異量が多ければ免疫が豊富」という一般的な仮説に反するパラドックスが大規模データで明確に存在するという知見である。21固形癌種8,290例を対象に、幹細胞性が高い腫瘍は変異量・CT抗原が多いにもかかわらず抗腫瘍免疫が低く、これが細胞内在的なERV抑制とI型IFNシグナリングのサイレンシングによるものと提唱した。
先行研究とは異なり、Malta et al. のOCLR法では免疫関連遺伝子が正のweightを持つため幹細胞性-免疫関係を偏りなく評価できなかった点が大きな方法論的問題であった。本研究で採用した免疫遺伝子を除外したssGSEAベースのstemness シグネチャーは、pan-cancer Cox回帰で log HR=0.23 (P<10-15) を示し、OCLR法の非有意と対比してシグネチャー設計の重要性を明確に示した。また、腫瘍純度調整・scRNA-seq単細胞解析・CCLE細胞株解析の3系統の解析を組み合わせることで、免疫細胞混入による擬似相関を排除し、幹細胞性-免疫抑制の細胞内在的関係を確立した。
ITHとstemness の強い正相関 (Spearman ρ=0.64~0.75) は、高stemness環境がERV抑制によるIFN応答低下を通じてクローンの免疫選択を弱め、多様な変異クローンの共存を可能にするという免疫進化的機序を支持する。この解釈は先行研究が示したp53変異・腫瘍不均一性・免疫抵抗性の関係とも整合し (Zhu et al. CancerCell 2023)、当該知見を分子機序レベルで補完する。また汎がん種進化シグネチャー研究 (Yang et al. 2026) が示したクローン拡大と腫瘍免疫微小環境変化の動的関係とも符合し、成体幹細胞のstemness シグネチャーとその上皮がん侵攻性との関係を示した先行知見 (Smith et al. 2018) は本研究の分析基盤を裏付け、Marjanovic et al. CancerCell 2020 が示した高可塑性細胞状態 (high-plasticity cell state) の出現もstemness 駆動型の免疫回避と共通する機序を持つ。Zhu et al. CancerCell 2023 のp53変異・腫瘍不均一性・免疫抵抗性モデルは本研究の機序解釈を支持する外部エビデンスとなる。
臨床的含意として、stemness スコアはICI奏効予測バイオマーカーとなりうる。ERVの再活性化 (DNAメチルトランスフェラーゼ阻害薬等) や免疫抑制チェックポイント標的化 (CD276・PVR・TGFB1等) とICIの組み合わせが cold tumor の hot 化戦略として期待される。残された課題は幹細胞性によるERV抑制の具体的なエピジェネティック機序 (DNAメチル化・ヒストン修飾) の解明と、前向き試験での予測バイオマーカーとしての検証、さらに個別の固形癌種におけるステムネス介入戦略の最適化である。
方法
幹細胞性スコアの構築: Palmer et al. の間葉系幹細胞可塑性遺伝子セットを改良した109遺伝子シグネチャーをsingle-sample gene set enrichment analysis (ssGSEA) に適用した。免疫遺伝子クラスターと細胞増殖マーカーをシグネチャーから除外し、幹細胞性-免疫関係の偏りを防いだ。複数の検証データセット (正常幹細胞・非悪性細胞を含む多段階分化データセット) での multiclass area under the curve (AUC) は0.92で Malta et al. のOCLR法 (0.91) と同等の精度を示した。
データセット: TCGAの21固形癌種n=8,290 samples のRNA-seqデータ。他のstemness gene set (Nanog・SOX2・MYC シグネチャー等4種) との Spearman 相関 (ρ=0.43~0.74) を確認した。幹細胞シグネチャー検証には正常幹細胞・非悪性細胞の多段階分化 GEO データセット (検証セット、multiclass AUC=0.92) を使用した。
免疫解析: xCellによる免疫細胞浸潤推定 (CD8 (cluster of differentiation 8) + T細胞・NK細胞・B細胞の統合免疫スコア)、CIBERSORT (cell type identification by estimating relative subsets of RNA transcripts、改良版 CIBERSORT-X) による免疫細胞分画定量、IHCベースのT細胞浸潤スコアを持つ3独立コホート (大腸癌33例・肺癌35例・卵巣癌n=44 samples/12例) での検証。CCLE の1,048細胞株 (A549・MCF7 等多種固形癌細胞株を含む) を用いた細胞内在性解析。
統合解析: Cox比例ハザード回帰 (年齢・腫瘍純度で調整)、ITHとの相関解析 (Andor et al. のクローン解析: n=935 cases/11癌種、Thorsson et al. の汎がん種解析: n=6,791 samples/21癌種)、変異量・がん精巣 (cancer-testis: CT) 抗原・ERV発現・I型IFNシグナリングとの関連解析。肺癌scRNA-seq (>52,000細胞/5例) での単細胞レベル確認。