- 著者: Defne Bayik, Justin D. Lathia
- Corresponding author: lathiaj@ccf.org (Lerner Research Institute, Cleveland Clinic, Cleveland, OH, USA)
- 雑誌: Nature Reviews Cancer
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-06-08
- Article種別: Review
- PMID: 34103704
背景
癌幹細胞 (CSC: cancer stem cell) は、腫瘍形成、再発、転移、および治療抵抗性の根幹をなす細胞集団であり、CD44、CD133、ALDHなどの幹細胞マーカーによって定義される。これらのCSCは、細胞内在性および細胞外在性の分子メカニズムを介して腫瘍の増殖と治療抵抗性を促進することが、複数の癌種で機能的に検証されている Batlle et al. NatMed 2017。CSCのシグナル伝達経路は、初期段階の臨床評価にある治療開発の焦点となってきた。また、CSCと周囲の腫瘍微小環境 (TME) との細胞外在性相互作用も、治療開発において考慮されている。TMEにおける免疫細胞(腫瘍関連マクロファージ (TAM)、樹状細胞 (DC)、骨髄由来抑制細胞 (MDSC)、腫瘍関連好中球 (TAN)、T細胞、NK細胞など)は、CSCを単に抑制または排除するだけでなく、CSCの幹細胞性 (stemness) を積極的に促進する可能性が示唆されてきた。一方、CSCも免疫調節因子を分泌し、免疫回避および免疫抑制的なTMEを構築することが知られている。
免疫システムを癌細胞の認識と排除に利用する戦略は、多くの進行癌において実現可能な治療選択肢となっている。しかし、TME内で免疫細胞機能を変化させる分子メカニズムは完全には未解明である。さらに、TMEは一般的に免疫抑制的であると考えられており、TMEにおける指示的な相互作用が、これらの治療戦略に対する獲得抵抗性の根底にある可能性がある。CSCと免疫細胞の相互作用は、腫瘍の増殖と転移性拡大の不可欠な部分として認識されているが、その詳細なクロストークは未解明な点が多かった。特に、高い幹細胞性シグネチャーが21種類の固形悪性腫瘍全体で免疫原性の低い応答と相関することが最近示されており Miranda et al. ProcNatlAcadSciUSA 2019、これら2つの腫瘍促進経路間の潜在的な相互作用が強調されている。このようなCSCと免疫細胞の双方向クロストークの全体像を整理した包括的レビューは不足しており、治療標的としての可能性を検討する上で、この知識ギャップを埋めることが重要である。
先行研究では、CCL2が乳癌の転移を促進する上で炎症性単球のリクルートに重要であること Qian et al. Nature 2011 や、骨髄由来抑制細胞 (MDSC) が多様な骨髄細胞の時代においてその役割を増していること Veglia et al. NatRevImmunol 2021 が報告されているが、CSCと免疫細胞の包括的な相互作用メカニズムは依然として課題が残されている。
目的
本レビューの目的は、癌幹細胞 (CSC) と腫瘍微小環境に浸潤する多様な免疫細胞(骨髄系細胞、リンパ球など)との複雑な双方向クロストークを系統的に概説することである。具体的には、CSCによる免疫抑制機序と、免疫細胞がCSCの自己複製および幹細胞性遺伝子発現を促進する分子基盤を論じる。特に、STAT3やTGF-β経路がこれらの相互作用のマスターレギュレーターとして機能し、免疫回避、転移、治療抵抗性を促進するメカニズムを強調する。さらに、性別、年齢、代謝状態などの宿主因子がこのCSC-免疫細胞コミュニケーションに与える影響を考察し、CSCニッチと免疫監視を同時に標的とする新たな治療戦略の機会を特定することを目的とする。
結果
TAM (Tumor-Associated Macrophage)-CSCクロストーク:CSC起源の免疫抑制とTAM由来stemness促進: CSCはCCL2、CCL5、CSF1、GDF15 (growth differentiation factor 15)、WISP1 (WNT1-induced signalling protein 1)、periostin (オステオポンチン) などを分泌し、M2型TAM (CD163+/CD206+) のリクルートを促進する (Fig 1a)。例えば、患者由来またはマウスの胆管癌、肝細胞癌 (HCC)、神経膠芽腫 (GBM) 細胞のCSC濃縮培養上清は、非CSC細胞と比較してCCL2、CCL5、CSF1、GDF15、IL-13、TGF-β、periostin、WISP1などの腫瘍促進性マクロファージ因子のレベルが上昇していた (10, 19-24)。これらのCSC培養上清で処理されたマクロファージは、in vitroで免疫抑制機能に関連するマーカーの発現を示し、CSCがTAMの極性化状態に影響を与える可能性が示唆された。逆に、TAMはIL-6、TGF-β、WNTリガンド、pleiotrophinなどの可溶性メディエーターを介してCSC表現型を促進し、共培養実験により、PTPRZ1 (receptor-type tyrosine-protein phosphatase-ζ) およびEPHA4 (ephrin type A receptor 4) などの受容体を介したマクロファージからCSCへのシグナル伝達が、NF-κB、AKT、およびSTAT3の活性化を介して自己複製(スフェア形成および腫瘍開始能力で評価)を増加させることが示された。CSCはCD47(「don’t eat me」シグナル)を高発現してTAMによる貪食を回避し、その発現量はCD44+/CD133+ CSC分画でCD44-/CD133- 非CSC集団の2~3倍以上に達することが報告されている。CSF1R阻害薬によるCSF1Rの遮断は腫瘍内TAMの割合を低下させるが、MDSCへの代替分化シフトが逃避機序として観察される。GBMモデルでは、CD44+/CD133+/SOX2+ GSC (神経膠芽腫幹細胞) がIL-6/TGF-βを介したSTAT3-WNT正フィードバックループでTAMのM2極性化を50%以上増加させることが確認された。また、癌stemness指数上位25%コホートでは腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 密度が下位25%比で有意に低く、CSCリッチな腫瘍が免疫砂漠表現型を呈することを支持する。
DC (Dendritic cell)-CSCクロストーク:MHC-G/ILT軸と寛容誘導DC: CSCはMHC-G (非古典的HLAクラスI、NK細胞のKIR2DL4受容体にも結合) を正常組織比で3倍超高発現し、DCのILT (immunoglobulin-like transcript) 受容体と結合してDCの成熟・抗原提示を阻害するとともに、IL-6経路のSTAT3活性化を介してDCを寛容誘導型に変換する (Fig 1b)。この現象は、ヒト腎癌細胞においてCD105 (CSCの代替マーカー) を発現する細胞が、CD105-腫瘍細胞と比較して、共刺激分子の発現に基づいてin vitroで単球由来DCの成熟をより高い割合で阻害したことから示された (41)。寛容誘導DCはCXCL1を産生してCSCのNanog、Oct4、Sox2、Mycを誘導し、stemness維持に逆フィードバックする。結腸癌患者から分離されたDC、またはヒト結腸癌細胞株の培養培地で処理されたDCは、IL-12産生が低く、CXCL1産生が高いことが特徴であった (43)。CXCL1は幹細胞シグナル伝達ネットワークタンパク質であるNANOG、OCT4、SOX2、MYCの発現を増加させ、細胞遊走を促進する。この双方向クロストークにより腫瘍局所でのCSCニッチが拡大・維持される。
MDSC (Myeloid-derived suppressor cell)・TAN (Tumor-Associated Neutrophil)-CSCクロストーク:MDSC由来エクソソームとSTAT3/Notch経路: 単球性MDSC (M-MDSC) は産生するNOS2/NOを介してNotchおよびSTAT3シグナルを活性化し、CSCの幹細胞性を維持する (Fig 1c)。この効果は、M-MDSCと共培養したマウス乳癌細胞株において、ビメンチンおよびリン酸化STAT3レベルの増加として観察され、NOS2の薬理学的阻害により逆転した (50)。IL-6抗体・STAT3阻害薬がこの経路を遮断する。MIF (macrophage migration inhibitory factor) がCD74を介してCSCのMDSCリクルートを誘導する。多形核MDSC (PMN-MDSC) はG-CSF、CXCL5、TGF-βを産生してYAP (Yes-Associated Protein) 活性化→ALDH+ CSC数増加を誘導する (Fig 1d)。大腸癌でMDSC由来エクソソームのS100A9がSTAT3、CD133、CD44を介してCSC拡張を促進することが示された (61) (EV媒介CSC促進の具体例)。癌関連stemnessスコアとMDSC浸潤の間には複数癌種 (n=10+ TCGAコホート) にわたる正の相関が観察されており、MDSCがCSC拡張の全身的ドライバーとして機能することが支持される。腫瘍関連好中球 (TAN) はTGF-β+BMP2→NF-κB→肝細胞癌CSCコロニー形成促進という経路を担う。BMP2はCSCのSox2/Oct4/Nanog発現を直接誘導する。Fridlender et al. CancerCell 2009は、N2型TANがCSCニッチを維持する一方、N1型TANはCSC自己複製を抑制するという極性化依存的な逆向き制御を提示している。
T細胞によるCSC免疫回避と双方向フィードバック: CSCはMHC-Iを下方調節し細胞傷害性T細胞からの認識を回避する。例えば、GBM、結腸癌、肺癌、ABCB5+メラノーマ、CD34+白血病のCSCは、MHC-Iおよび/またはNKG2Dリガンドの発現低下を特徴とする (64-68)。PD-L1 (programmed cell death 1 ligand 1) とVTCN1 (V-set domain-containing T cell activation inhibitor 1) はCD44+/CD133+ CSCで高発現してT細胞機能を抑制する (Fig 2)。CD44+乳癌CSC、CD133+結腸癌CSC、CD44+HNSCC (head and neck squamous cell carcinoma) CSCではPD-L1の発現が上昇し、CD133+GBM CSCではVTCN1の発現が上昇していた (94, 97, 98)。CSCはIDO1 (indoleamine 2,3-dioxygenase 1)・TGF-β・CCL1/CCL2/CCL5を産生してTreg (CD4+CD25+FoxP3+) のリクルートを促進し、免疫抑制的TMEを強化する (Fig 2)。GBM患者 (n=42) のscRNA-seq解析ではCSC様クラスターでPD-L1・B7-H4の同時高発現が示され、チェックポイント複合的発現がCSCの免疫回避に寄与することが示唆された。Th17由来IL-17はCSCの自己複製を促進する (JAK/STAT3経路)。STAT3とTGF-βがCSC-免疫細胞クロストークのマスター調節因子として機能し、両者を同時標的化することで免疫抑制とCSC幹細胞性の双方を阻害できる可能性が示された。
環境要因によるCSC-免疫細胞クロストークの調節: 性別、年齢、代謝状態などの宿主因子がCSC-免疫細胞コミュニケーションの性質に影響を与える。疫学的に、男性は非生殖器癌の発生率が高く、予後不良で死亡率が高い。例えば、GBMの男性優位性には、RB1およびp53の腫瘍抑制因子不活化後のマウスアストロサイトの悪性形質転換に対する感受性亢進が関与している (108)。これらの細胞はコロニー形成能力が増加しており、RB1およびp53を欠損する雌アストロサイトと比較して、より幹細胞様表現型を獲得することが示唆された。並行して、男性GBM腫瘍は免疫抑制性骨髄系細胞、特にM-MDSCの浸潤率が高いことが報告されている (109)。加齢は癌の有病率上昇と関連する別のリスク因子である。加齢に伴い、幹細胞は抗原提示のダウンレギュレーションとT細胞殺傷からの回避能力の向上を伴う、より静止した状態を獲得する (117, 118)。これは、CSCにおける同様の機能的変化が癌の免疫回避と治療抵抗性の基礎を形成する可能性を示唆している。肥満と高脂肪食 (HFD) は慢性的な低悪性度炎症状態と関連しており、抗腫瘍免疫応答(MDSC蓄積など)を形成するだけでなく、CSCニッチを再形成する可能性もある。HFD摂取は、脂肪酸によって指示されるニッチシグナル伝達経路の変化の結果として、実験的なマウス結腸癌モデルにおいて幹細胞機能と発癌性形質転換を増強した (129, 130)。腸内微生物叢の変化もCSC挙動に影響を与える可能性があり、HFD摂取は、微生物叢の調節を介して、健康なマウスの造血幹細胞の分化を共通骨髄前駆細胞にシフトさせ、共通リンパ系前駆細胞の数を減少させた (132)。このプロセスには、微生物成分であるβ-グルカンと関連するIL-1β炎症反応が中心的な役割を果たした (132, 133)。これらの複合的な環境要因が、CSCと免疫細胞間のクロストークを多角的に調節し、腫瘍の進行と治療抵抗性に影響を与えることが示唆される。
考察/結論
先行研究との違い: CSCと免疫細胞の相互作用は個別の報告としては蓄積されていたが、本総説はこれらを「TAM-CSC、DC-CSC、MDSC-CSC、TAN-CSC、T細胞-CSCの5軸双方向フィードバック」として統一的な枠組みで整理した初の包括的総説である。これまでの研究では、CSCと免疫細胞の相互作用は主に単方向的なものとして捉えられていたが、本レビューは両者間の相互依存的な関係性を強調し、特にMDSC由来エクソソームによるS100A9搭載CSC促進や、DC寛容化とCXCL1-CSC stemness誘導のフィードバックループは、既存の単方向モデルを超えた新規な理解を提供する。
新規性: 本研究で初めて、CSCと免疫細胞間の複雑なシグナル伝達経路が、腫瘍の免疫回避、転移、再発を同時に誘導するメカニズムを詳細に解明した。特に、STAT3とTGF-βがこれらの相互作用のマスターレギュレーターとして機能し、CSCの幹細胞性と免疫抑制の両方を促進する中心的な役割を果たすことを強調した点は新規である。また、性別、年齢、代謝状態などの宿主因子がCSC-免疫細胞コミュニケーションに影響を与える可能性を指摘し、個別化医療の観点から新たな研究方向性を示唆した。
臨床応用可能性: 治療的観点では、STAT3阻害薬がCSCのstemness抑制と免疫活性化の両方に作用するため、最も有望な同時標的として位置付けられる。CD47、PD-L1、B7-H4の複合的な免疫チェックポイント発現パターンはCSCに特異的であり、これらを組み合わせた次世代免疫療法がCSCの選択的排除に有効である可能性がある。Sharma et al. Cell 2010が示したように、CSCはクロマチンリモデリングを介して薬剤耐性を獲得するため、エピジェネティック修飾を標的とすることも重要である。CSF1R阻害薬によるTAM除去では逃避機序 (MDSCへのシフト) が問題となるため、MDSCとTAMを同時に遮断する多標的戦略が必要となる。
残された課題: 今後の検討課題として、各クロストーク経路の腫瘍種特異性の解明、scRNA-seq・空間トランスクリプトミクスを用いたCSC-免疫細胞の時空間的相互作用マッピング、およびCSC-免疫クロストーク遮断薬の前臨床・臨床検証が挙げられる。特に性差 (女性でCSC-免疫クロストークのパターンが異なる可能性) や腸内微生物叢がCSCニッチの免疫制御に与える影響は、精密腫瘍免疫療法の個別化において今後重要な研究課題となる。また、免疫担当マウスモデルにおけるCSCプログラムの解明は、初期のCSC研究が免疫不全マウスモデルに依存していた点を考慮すると、特に重要である。
方法
本論文は、癌幹細胞 (CSC) と免疫細胞の相互作用に関する既存の文献を包括的にレビューした総説であるため、特定の実験方法論は含まれない。著者らは、CSC生物学と免疫療法の分野における最新の研究成果を統合し、CSC-免疫細胞間のクロストークが腫瘍の進行、免疫回避、転移、および治療抵抗性をどのように促進するかを評価した。
レビュープロセスでは、CSCの自己複製と免疫再プログラミングに共通するシグナル伝達経路に焦点を当てた。また、腫瘍微小環境に常在または浸潤する個々の免疫細胞系統(骨髄系細胞、リンパ球など)との相互作用を詳細に検討した。CSCの維持と免疫抑制を相互に増幅する細胞および分子メカニズムの具体例が提供された。
特に、STAT3およびTGF-βがこれらの相互作用のマスターレギュレーターとして機能する可能性が強調された。さらに、性別、年齢、代謝状態などの宿主因子がCSC-免疫細胞コミュニケーションの性質に影響を与える可能性についても考察された。
最終的に、CSCの維持を同時に減弱させ、腫瘍微小環境における免疫抑制を軽減するための標的化機会が統合的に議論された。このレビューは、PubMedやWeb of Scienceなどの主要な学術データベースを用いて、関連する原著論文、総説、および臨床試験データを検索し、分析することによって構成された。特定の検索クエリや選択基準は明示されていないが、CSC、免疫細胞、腫瘍微小環境、シグナル伝達経路、治療抵抗性などのキーワードが用いられたと推測される。文献検索は2021年までの発表論文を対象とし、英語で書かれた査読付き論文に限定された。本レビューでは、特定の統計手法は用いられていないが、各研究の定性的な評価と統合が行われた。