- 著者: Aliaa Amr Alamoudi, Yiming Mao, Giorgia Zadra, David P. Labbé
- Corresponding author: Giorgia Zadra (CNR-IGM, Italy); David P. Labbé (McGill University, Canada)
- 雑誌: Cancer Research
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- DOI: N/A
背景
MYC は c-MYC、MYCN、MYCL からなるファミリーを形成し、全ヒトがんの 70% 超において発現異常を示す代表的な癌遺伝子である (Dang, 2012)。MYC はグルコース取り込みや解糖系の亢進、グルタミン代謝の再編成、乳酸放出の促進を通じて、腫瘍細胞の旺盛な増殖に必要なエネルギーと生合成前駆体を供給する (Doherty et al., 2014)。こうした代謝リプログラミングは「Warburg 効果」として古くから知られており、有酸素条件下でも解糖系を優先的に使用する現象として腫瘍生物学の中心的テーマを形成してきた (Vander Heiden et al., 2009)。MYC は GLUT1 (glucose transporter 1)、HK2 (hexokinase 2)、LDHA (lactate dehydrogenase A)、ENO1 (enolase 1) などの主要な解糖系酵素および乳酸トランスポーター MCT1・MCT4 を転写活性化することが確立されている (Osthus et al., 2000; Kim et al., 2004)。また、グルタミン代謝についても、MYC がグルタミナーゼ GLS (glutaminase) を誘導してグルタミンの異化を促進するという in vitro 知見が報告されている (Wise et al., 2008)。
しかし、MYC の代謝機能はすべてのがんで均一ではないことが近年明らかになってきた。in vitro 細胞株モデルでは追加的な分子改変が多く、MYC 単独の寄与を分離しにくいという課題があった。この問題を克服するため、遺伝子操作マウスモデル (GEMM: genetically engineered mouse model) を用いた一連の研究が、MYC の代謝プログラムが組織起源、系統特異的転写因子、腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) との相互作用、さらには食事や肥満などの全身代謝状態によって大きく形成されることを示してきた (Dhanasekaran et al., 2022)。例えば、Tet 誘導型 MYC 過発現モデルでは、B 細胞リンパ腫 (BCL: B cell lymphoma)、T 細胞急性リンパ芽球性白血病 (T-ALL: T-cell acute lymphoblastic leukemia)、骨肉腫、肝細胞癌 (HCC: hepatocellular carcinoma)、腎細胞癌 (RCC: renal cell carcinoma)、肺腺癌、前立腺癌など多様な悪性腫瘍が誘導されており、各組織で独自の代謝プロファイルが生じることが明らかになっている (Yuneva et al., 2012)。
このような文脈依存的な MYC の代謝制御は、従来の普遍的な Warburg 効果という理解では説明しきれない複雑性を持つ。特に、グルタミン代謝については、MYC が GLS を誘導してグルタミン異化を促進するという in vitro 知見が、in vivo では組織ごとに相反する表現型を示すことが示されており、研究対象の文脈を考慮する必要性が指摘されていた (Yuneva et al., 2012)。また、MYC が脂質代謝、特に de novo 脂肪酸合成 (FAS: fatty acid synthesis) のマスターレギュレーターであることは多くの腫瘍で共通するが、その詳細なメカニズムや、脂肪酸酸化 (FAO: fatty acid oxidation) とのバランスは組織によって異なることが示唆されている (Gouw et al., 2019)。これらの知見を系統的に整理し、MYC 駆動型腫瘍における文脈依存的な代謝脆弱性を俯瞰し、治療標的となる合成致死的脆弱性を特定することが、依然として残された課題である。MYC 阻害薬の開発が困難である「undruggable」な標的とされてきた背景には、MYC の普遍的な機能と組織特異的な機能の区別が未解明であったことも一因として考えられる。本レビューは、これらの知識ギャップを埋めることを目指す。
目的
本レビューは、MYC 駆動型がん GEMM を中心とした in vivo モデルの知見を統合し、MYC 駆動型腫瘍代謝の文脈依存性を体系化することを目的とする。具体的には、以下の 4 つの主要な層に焦点を当てる。(1) 組織特異的・系統特異的な代謝プログラムの多様性、(2) 腫瘍微小環境 (TME) との双方向性クロストーク、(3) 食事や肥満などの全身代謝状態による MYC 代謝の修飾、(4) これらの知見から導かれる診断・治療戦略の可能性を論じる。これにより、MYC 駆動型がんにおける新たな治療標的と精密医療戦略を特定するための基盤を提供することを目指す。特に、in vitro モデルでは捉えきれない in vivo 環境における MYC の複雑な代謝制御メカニズムを解明し、合成致死的脆弱性を特定することで、MYC を直接標的とすることが困難な現状に対する新たな治療アプローチの道筋を示すことを意図する。
結果
解糖・グルタミン代謝における組織特異的再編成: MYC 活性化が解糖系の亢進をもたらすことは多くの腫瘍で共通するが、その程度と補完的な代謝経路の利用は組織によって著しく異なる (Table 1)。MYC 誘導性 HCC では 18F-FDG PET/CT による画像でグルコース取り込みの著明な増加が確認されており、HK2 タンパク質発現の上昇と肝臓特異的酵素グルコキナーゼの抑制が同時に生じ、LDHA 転写産物量と酵素活性も増加してロバストな乳酸蓄積をもたらす (Yuneva et al., 2012)。一方、MET 受容体チロシンキナーゼ過発現型 HCC も同様のグルコース取り込み増加を示すが HK2 上昇と乳酸急増は認めないことから、解糖系亢進のパターンは発がんドライバー分子に依存する腫瘍特異的なものである。肺腺癌 (LUAD: lung adenocarcinoma) では HK2 と LDHA が増加して解糖・乳酸産生型の代謝表現型となるが、さらにグルタミン蓄積とグルタミン合成酵素 (GS: glutamine synthase) 発現の増加も認め、HCC とは逆に生合成的なグルタミン利用が卓越する (Yuneva et al., 2012)。HCC での MYC は SLC1A5 (solute carrier family 1 member 5、グルタミントランスポーター) を上方制御し、GS を抑制、GLS 活性を高め、さらに成体肝臓型の GLS2 アイソフォームを胎児型の GLS1 に置換することでグルタミン異化を促進する (Xiang et al., 2015)。この GLS2→GLS1 アイソフォームスイッチはヒト原発性 HCC でも確認されており臨床的意義を持つ (Xiang et al., 2015)。加えて、HCC では MYC がグルタミン合成の律速酵素 GCLC (glutamate cysteine ligase catalytic subunit) を抑制して GSH (glutathione) レベルを低下させ、酸化ストレスへの感受性を高めるという治療的脆弱性も生じる (Anderton et al., 2017)。前立腺癌では、MYC 過発現と恒常的活性化 AKT (Akt Kinase Transducer) を持つ MPAKT (MYC plus activated AKT kinase) 比較 GEMM および多段階のヒト前立腺腫瘍データにおいて、乳酸蓄積と解糖系遺伝子セットの富化は AKT 活性化と相関し、MYC 高発現/AKT 低発現の腫瘍はむしろ解糖系の負の富化を示す (Priolo et al., 2014)。これは正常前立腺上皮が高亜鉛環境でミトコンドリア aconitase を阻害してクエン酸を蓄積させるという固有の代謝特性を反映しており、MYC が脂質代謝と脂肪酸合成を主に駆動する組織であることを示す (Priolo et al., 2014)。
脂質・アミノ酸・ヌクレオチド代謝の系統依存的再編成: MYC は脂質代謝においてほぼ全腫瘍型で de novo 脂肪酸合成 (FAS) を促進し、ACLY (ATP citrate lyase)、ACACA (acetyl-CoA carboxylase alpha)、FASN (fatty acid synthase)、SCD1 を転写レベルおよびタンパク質レベルで上方制御する (Gouw et al., 2019)。T-ALL、RCC、HCC、肺腺癌の Tet-conditional 複数 GEMM において同様のパターンが確認されており、MYC 誘導後の HCC では [³H] パルミタートから水溶性産物への変換が減少していることからも FAO (fatty acid oxidation) 抑制が直接示された (Dolezal et al., 2017)。ただし例外も存在し、トリプルネガティブ乳癌 (TNBC: triple negative breast cancer) では MYC が FAS よりも FAO を亢進させる (Camarda et al., 2016)。13C-パルミタートトレーシング実験で TNBC GEMM における FAO フラックスの増加が確認され、臨床 TNBC 検体でも FAO 関連遺伝子の上昇と FAS 関連遺伝子の低下が認められる (Camarda et al., 2016)。複合脂質ではグリセロホスホグリセロール (PG) 合成が RCC、HCC、T-ALL、肺腺癌の GEMM で一貫して増加する一方、ホスファチジルイノシトール (PI) の代謝は組織特異的であり、RCC/T-ALL では減少し肺腺癌では増加する (Gouw et al., 2019)。膵臓癌 Ela1-Myc モデルでは MYC が ELOVL6 (elongase 6、脂肪酸伸長酵素) の発現を直接調節し、脂肪酸伸長が腫瘍脂質ゲノムを変化させてアクチンコルテックスの硬さや膜透過性に影響し腫瘍悪性度と連動する (García García et al., 2025)。アミノ酸代謝では、Eμ-Myc BCL マウス (n=12 mice) で複数のアミノ酸トランスポーター遺伝子 (Slc1a4, Slc1a5, Slc3a2, Slc7a1, Slc7a5) が前悪性 B 細胞で上方制御され、低タンパク食飼育によって Eμ-Myc B 細胞の存在量と増殖能が有意に低下しアポトーシスが促進されることが示された (Fernandez et al., 2022)。ヌクレオチド代謝については、小細胞肺癌 (SCLC: small cell lung carcinoma) において MYC 増幅型と MYCL (MYC-like yet-distinct lung oncogene) 増幅型の 2 亜型が存在し、MYC 型はイノシン一リン酸脱水素酵素 IMPDH (inosine monophosphate dehydrogenase) を高発現してグアノシン三リン酸 GTP (guanosine triphosphate) 生合成を亢進させる (Huang et al., 2021)。また MYC 型は MYCL 型と比較して in vivo でのアルギニン枯渇に対する感受性が顕著に高く、系統特異的な代謝依存性が明確に異なることが示された (Chalishazar et al., 2019)。
MYC 代謝プログラムを形成する補助因子・制御ネットワーク: MYC 駆動型代謝は細胞自律的なものにとどまらず、組織特異的な cofactor によっても修飾される。前立腺癌では脱ユビキチン化酵素 OTUD6A (ovarian tumor domain-containing deubiquitinase 6A) が MYC タンパク質安定性を高め下流の代謝効果を増幅させる (Peng et al., 2022)。腎細胞癌 GEMM では MYC が miR-23a/b を抑制することでグルタミナーゼ発現を増加させてグルタミン代謝を促進し (Gao et al., 2009; Shroff et al., 2015)、HCC では miR-342-3p が乳酸トランスポーター MCT1 を標的として解糖系代謝を制限するという逆向きの制御も存在する (Komoll et al., 2021)。Notch (neurogenic locus signaling) シグナル経路との共活性化は MYC の代謝出力を別の表現型へシフトさせうることも示されており (Sellers et al., 2019)、これらの知見は MYC の代謝活性が単純な転写活性化だけでなく組織特異的調節ネットワークによって形成されることを強調する。
腫瘍微小環境との双方向性クロストーク:低酸素・免疫・間質細胞: TME は低酸素、免疫細胞、間質細胞、成長因子などの複合体として MYC 代謝を強力に修飾する (Figure 1)。低酸素誘導因子 HIF (hypoxia-inducible factor) との関係は特に複雑であり、HIF-1 は共通補助因子の競合や転写装置へのアクセス制限を通じて MYC 活性に拮抗する一方で (Zhang et al., 2007)、Burkitt リンパ腫では MYC と HIF-1 が共通標的の HK2、PDK1 (pyruvate dehydrogenase kinase 1)、VEGF (vascular endothelial growth factor) を協調的に活性化して解糖系と血管新生を促進する (Kim et al., 2007)。HIF-2 は逆に MYC の発現と活性を増強し (Gordan et al., 2008)、VHL (Von Hippel-Lindau gene) が高頻度に不活性化される淡明細胞腎細胞癌 (ccRCC) では HIF-2 優位型腫瘍が高い MYC 活性、増殖能亢進、複製ストレス耐性を示すのに対し、HIF-1/HIF-2 共発現型は AKT/mTOR および ERK/MAPK シグナル増強と解糖系亢進を示す (Gordan et al., 2008)。HIF-2 欠損マウスでは腫瘍内免疫活性化の増加が認められ (Hoefflin et al., 2020)、時空間的に異なる免疫関連役割が示唆された。間質細胞との相互作用については、乳癌細胞が分泌するエクソソーム miR-105 が癌関連線維芽細胞 CAF (cancer-associated fibroblast) の MXI1 (MAX interacting protein 1、MYC-MAX 二量体競合因子) を抑制し MYC を活性化させることで CAF での解糖系とグルタミン分解を亢進させ、生成された乳酸・酢酸・グルタミン酸を隣接腫瘍細胞に供給するというメタボリック共生機序が in vivo で確認された (Yan et al., 2018; Figure 2A)。免疫調節の観点では、MYC 駆動型有酸素解糖による乳酸蓄積が TME を酸性化してCD8+ T 細胞傷害活性を抑制し制御性 T 細胞 (Treg) の免疫抑制機能を維持するとともに (Dhanasekaran et al., 2023)、乳酸は HIF-1 依存的なメカニズムで腫瘍関連マクロファージの M2 様極性化を促進する (Colegio et al., 2014)。一方、免疫細胞は腫瘍代謝をも編集し、IFNγ (interferon-gamma) 刺激によるメラノーマ細胞での MYC 活性化が解糖系亢進・FAO 抑制をもたらして CD8+ T 細胞浸潤を減少させるというフィードフォワードループが存在する (Tsai et al., 2023)。CRISPR (clustered regularly interspaced short palindromic repeats) in vivo スクリーニングで FASN を含む 40 種超の MYC 制御代謝酵素が免疫回避に寄与することが同定されており、FASN 発現は CD8+ T 細胞浸潤と逆相関する (Tsai et al., 2023; Figure 2B)。
食事・全身代謝状態による MYC リプログラミングの増幅と治療戦略: MYC 代謝活性は食事や肥満など全身代謝状態によって大きく増幅される (Figure 1)。腸管特異的 MYC 発現は肥満者で上昇しており、マウスでも高脂肪食 (HFD: high-fat diet) 開始後 2 週間以内に腸管 MYC 転写産物とタンパク質量が増加する (Luo et al., 2021)。腸管特異的 MYC 欠失は HFD 誘導性の肥満、インスリン抵抗性、肝脂肪蓄積・線維化から保護し、グルカゴン様ペプチド 1 GLP-1 (glucagon-like peptide 1) 増加とインスリン分泌増強を伴う (Luo et al., 2021)。前立腺癌 Hi-MYC トランスジェニックマウスでは HFD が MYC 駆動型代謝変化を増幅させ乳酸蓄積を新たに誘導し、Treg 浸潤増加・M2 様腫瘍関連マクロファージ・血管新生シグネチャー富化を特徴とする免疫抑制 TME が形成されて腫瘍浸潤が加速した (Boufaied et al., 2024; Figure 2C)。全身の栄養素としての酢酸もMYC を修飾し、MCT1 依存的な酢酸取り込みが NSCLC モデルで MYC のリジン 148 アセチル化によるタンパク質安定化を促進し、解糖系亢進と PD-L1 依存的な CD8+ T 細胞活性化阻害を通じた腫瘍成長加速と死亡率増加をもたらす (Wang et al., 2024)。インスリンシグナル (PI3K: phosphoinositide 3-kinase 経路) も過インスリン血症を介して MYC をリン酸化・安定化させ、乳癌モデルでは MYC 活性化が増殖、がん幹細胞集団の拡大、転移を促進する (Ferguson et al., 2012; Lee et al., 2022)。治療標的の観点では、MYC/MYCN 増幅膠芽腫の患者由来オルソトピック異種移植 (PDX: patient-derived xenograft) モデルで NAD+ サルベージ酵素阻害がアポトーシス誘導と生存延長をもたらした (Tateishi et al., 2016)。MYC 駆動 HCC では β-カテニン駆動型 HCC とは異なり特異的に FASN 依存性が高く、FASN 遺伝的欠失が MYC/MCL1 誘導 HCC の腫瘍増殖を遅延させる (Jia et al., 2020)。さらに FASN 阻害薬 Fasnall は低脂肪食との組み合わせで最大の腫瘍増殖抑制効果を示し、内因性 de novo 脂肪酸合成と外来脂質取り込みの両方を同時に遮断する必要性を示した (Méndez-Lucas et al., 2020)。経口投与可能な FASN 阻害薬 TVB-2640 の臨床試験が複数のがん種で進行中である (NCT03808558, NCT03032484)。MYC 高発現 TNBC では CPT1 (carnitine palmitoyltransferase 1) 阻害薬エトモキシルによる FAO 阻害が TCA (tricarboxylic acid) サイクル中間体を減少させ AMPK (adenosine monophosphate protein kinase) リン酸化を増加させるとともに、MYC 高発現 GEMM および PDX の両モデルで腫瘍増殖抑制と生存延長をもたらし、MYC 低発現 PDX では同等の効果が得られないという選択的応答を示した (Camarda et al., 2016)。GLS1 (グルタミナーゼ 1) 阻害は MYC 駆動 HCC の生存を有意に延長するが (Xiang et al., 2015)、グルタミン分解の代償経路や TCA サイクルへのグルコース貢献増加による適応が生じうる (Méndez-Lucas et al., 2020)。IMPDH 薬理的阻害は MYC 駆動 SCLC および肝芽腫モデルで生存を有意に延長した (Huang et al., 2021)。オーロラキナーゼ阻害薬は MYC 型 SCLC で MYCL 型/MYCN 型よりも高い感受性を示し、シスプラチン・エトポシドとの併用により MYC 型 SCLC マウスモデルで生存改善が得られた (Mollaoglu et al., 2017)。診断バイオマーカーの観点では、超偏極 13C-MRI による [13C]-ピルビン酸から [13C]-乳酸への変換が MYC 誘導 HCC で周囲正常肝組織と比較して顕著に亢進し、MYC 阻害により劇的に回復した (Hu et al., 2011)。さらに [13C]-ピルビン酸から [13C]-アラニンへの変換は後に腫瘍結節に進展する前腫瘍肝臓の特定領域で優位に生じ、MYC 誘導腫瘍形成に先行する早期代謝変化の検出可能性が示唆された (Hu et al., 2011)。ドキシサイクリン誘導性乳癌モデルでも同様の変換亢進が MYC 阻害後の疾患再発を形態学的変化に先行して予測した (Shin et al., 2017)。
考察/結論
本レビューは、MYC 駆動型腫瘍代謝の「文脈依存性」という中心命題を GEMM 由来の豊富な in vivo 証拠により体系化し、いくつかの重要な概念的前進をもたらした。
先行研究との違い: 従来の MYC 代謝研究は主として in vitro 系に依拠しており、MYC は普遍的に Warburg 効果と解糖系依存性を高めるという単純な図式が信奉されてきた。これに対し、本レビューが整理する GEMM データは、前立腺癌での MYC は解糖系ではなく脂質代謝を主に駆動し、TNBC では FAS ではなく FAO が MYC の標的となるなど、組織によってこれまでの理解と全く異なる代謝表現型が生じることを明確に示している (Priolo et al., 2014; Camarda et al., 2016)。さらに、グルタミン「依存性」も HCC では異化 (GLS1) を高める一方で、肺腺癌では合成 (GS) を高めるという逆向きの制御が in vivo で確認されており (Yuneva et al., 2012)、in vitro で形成された「グルタミン依存性」という概念が過度に単純化されていたことが示された。
新規性: 本レビューで新規に確立される概念は、MYC が単一の普遍的代謝ドライバーではなく、組織起源・系統因子・TME・全身代謝状態という 4 層の文脈に動的に形成される「文脈依存的代謝モジュレーター」であるという枠組みである (Figure 1)。本研究で初めて体系化されたこの視点は、なぜ MYC 阻害の臨床試験が単純に成功しないかを説明し、合成致死的な組み合わせ標的 (例: FASN 阻害 + 低脂肪食、FAO 阻害 + MYC 高発現バイオマーカー) という新規な治療コンセプトを提示する。MIF (macrophage migration inhibitory factor) や exosomal miR-105 を介した間質細胞 TME との代謝共生ネットワーク、IFNγ による免疫細胞からのフィードバック、HFD による全身代謝状態との連動など、これまで報告されていない複合的なメカニズムの統合的提示が本レビューの新規貢献である (Figure 2A, 2B, 2C)。
臨床応用: MYC 代謝の文脈依存性は臨床試験デザインに直接の含意を持つ。FASN 阻害薬 TVB-2640 の複数の臨床試験 (NCT03808558, NCT03032484)、FAO 阻害薬エトモキシルの MYC 高発現 TNBC への選択的応用、GLS1 阻害薬の MYC 駆動 HCC への展開、オーロラキナーゼ阻害薬 + 標準化学療法の MYC 型 SCLC への優先的適用など、MYC 状態を層別化バイオマーカーとして患者選択に用いる精密医療的アプローチが提示される (Table 2)。超偏極 13C-MRI は MYC 代謝の非侵襲的な早期検出・モニタリング・再発予測を可能にし、臨床現場での MYC 機能の動態評価ツールとして有望である。また、TME 免疫分類 の観点から、MYC 駆動型乳酸産生による CD8+ T 細胞抑制機序は免疫チェックポイント阻害との相乗効果を予見させ、MIF 阻害 (imalumab など) が ICB 応答性を回復させる preclinical 証拠は臨床橋渡し (bench-to-bedside) の萌芽として重要である (Yan et al., 2024)。がんの表現型可塑性 との関連では、FAO と FAS の可逆的切り替えや GLS1/GLS2 アイソフォームスイッチが代謝可塑性の実体として位置付けられる。
残された課題: MYC 駆動型 GEMM がヒト腫瘍の代謝特性をどの程度忠実に再現しているかはまだ十分に検証されていない。また、宿主の年齢・性別が MYC 代謝リプログラミングや免疫構成・治療感受性に及ぼす影響は未解明である。単一代謝経路への標的化が代償的な代謝経路切り替え (例: GLS1 阻害に対する TCA サイクルへのグルコース転用) によって無効化される問題も今後の課題として残されており、代謝フレキシビリティを踏まえた多重標的化戦略の開発が今後の方向性として求められる。KRAS 駆動型 LUAD が酸化代謝に依存する一方で MYC 型は解糖・脂質合成に偏るという対比から (Davidson et al., 2016)、単一のがん種内での oncogene-specific 代謝脆弱性マッピングも将来研究の重要な軸となる。これらの limitation を克服し、より包括的な理解を深めることが、MYC 駆動型がんの治療成績向上に不可欠である。
方法
研究デザイン: 本研究は、MYC 駆動型腫瘍代謝に関する体系的な文献レビューとして実施された。主として MYC 駆動型遺伝子改変マウスモデル (GEMM) を用いた in vivo 研究を中心に、in vitro およびヒト臨床データを補足的に統合し、MYC の代謝機能の文脈依存性を包括的に評価した。文献検索は PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Science などの主要なデータベースが用いられた。検索期間は特定せず、MYC 駆動型腫瘍代謝に関する関連性の高い論文を網羅的に収集した。
データ抽出と評価: 選択された論文から、MYC 駆動型腫瘍の代謝特性、組織特異的代謝プログラム、腫瘍微小環境 (TME) との相互作用、食事や全身代謝の影響、および治療標的としての代謝脆弱性に関するデータを抽出した。抽出されたデータは、定性的に統合され、MYC 駆動型腫瘍代謝の文脈依存性に関する主要なテーマと概念を特定するために用いられた。各論文の証拠レベルは、主に in vivo GEMM データに基づいて評価された。
主要 GEMM モデル: レビュー対象となった主要な GEMM モデルには、Tet-conditional 誘導型 MYC 過発現モデル (T-ALL、RCC、HCC、肺腺癌)、Eμ-Myc B 細胞リンパ腫モデル、Hi-MYC 前立腺癌モデル、Ela1-Myc 膵臓癌モデル、条件的 MYC 過発現肝臓・乳腺モデルなどが含まれる。これらのモデルは、MYC の組織特異的な発現と、その後の代謝変化を詳細に解析するために用いられた。
統計手法: 本レビューは文献レビューであり、新規の統計解析は実施されていない。ただし、引用された各研究では、適切な統計手法(例: t検定、ANOVA、ログランク検定など)が用いられ、p値が報告されている。