• 著者: Marco Ruella, David M. Barrett, Saad S. Kenderian, Olga Shestova, Thomas J. Hofmann, Jessica Perazzelli, Michael Klichinsky, Vania Aikawa, Farzana Nazarov, Miriam Kozlowski, Jennifer J.D. Morrissette, Simon F. Lacey, Jan Joseph Melenhorst, Stephan A. Grupp, Carl H. June, Saar Gill
  • Corresponding author: Saar Gill (University of Pennsylvania); Stephan A. Grupp (Children’s Hospital of Philadelphia)
  • 雑誌: Journal of Clinical Investigation
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-06-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27571406

背景

CD19特異的キメラ抗原受容体T細胞 (CAR-T) 療法 (CART19) は、再発・難治性B細胞急性リンパ性白血病 (B-ALL) 患者において70〜90%という高い完全奏効率を示す画期的な治療法であると、Maude et al. NEnglJMed 2014Davila et al. SciTranslMed 2014Lee et al. Lancet 2015らが報告している。しかし、治療を受けた患者の約30%がCD19陰性として再発し、特にCART19治療後では約60%の患者でCD19陰性再発が報告されており、これはCD19標的免疫療法の重大な課題として浮上している。CD19陰性再発のメカニズムとしては、CD19遺伝子の選択的スプライシング異常体の産生がSotillo et al. CancerDiscov 2015により報告されているが、ベースライン時にすでにCD19陰性の白血病サブクローンが存在し、CART19による選択圧の下で増殖・再発するという「免疫編集 (immunoediting)」仮説は実証されていなかったため、この点には未解明な点が残されていた。

IL-3受容体α鎖であるCD123は、急性骨髄性白血病 (AML) の白血病幹細胞 (LIC) マーカーとして知られており、複数の血液悪性腫瘍で発現が認められる。また、CD123はB-ALLにおいても広範に発現していることが報告されている。しかし、B-ALL、特にCART19再発後のCD19陰性B-ALLにおけるCD123の発現パターン、白血病幹細胞様サブクローンにおけるその意義、および治療標的としての可能性については、これまで詳細に検討されたことはなく、この領域には知識の不足が残されていた。抗原消失による再発を予防・治療するための新たなアプローチの開発は、この分野における重要な課題であり、この点に関する未解明な点が残されていた。

目的

本研究の目的は、以下の点を明らかにすることである。(1) B-ALL患者検体におけるCD123の発現パターンと、CD19陰性白血病サブクローンの性質を詳細に解析すること。(2) CD123を標的とするCAR-T細胞 (CART123) のB-ALLに対する抗腫瘍活性をin vitroおよびin vivoで検証すること。(3) CD19陰性抗原喪失再発モデルにおいてCART123の治療的有効性を示すこと。(4) CART19とCART123を組み合わせた治療戦略(特に1つのT細胞に両CARを共発現させる二重CAR)が、CD19陰性再発を予防できるかを検証すること。

結果

CD123発現とCD19陰性白血病幹細胞様サブクローンの存在: 42例のB-ALL患者検体において、IL-3受容体α鎖であるCD123は大部分の芽球で均一かつ高発現していた (Figure 1A, B)。CD123は、表現型的に定義されるLIC (CD34+CD38−) およびNSGマウスへの生着能を持つ機能的LICにおいても発現が確認された (Figure 1C)。B-ALL患者検体から、微小なCD19陰性CD123陽性CD45dimサブポピュレーションが同定され、FISH解析により6/6検体 (100%) でこのサブクローンが疾患関連染色体異常を保有していることが確認された (CD19−CD123−細胞は保有せず) (Figure 1D, E, Table 1)。このCD19陰性CD123陽性細胞は、NSGマウスへの注入後に元のB-ALL表現型を再現し、LIC機能を持つ白血病幹細胞様集団であることが示された (Figure 1F)。CART19治療後CD19陰性再発患者では、CD19発現は完全に消失していたが、CD123は大部分の患者で維持されていた (Figure 1G)。

CART123のB-ALLに対するin vitroおよびin vivo活性: CART123はNALM6細胞 (CD19+CD123+) に対して、CART19と同等のCD107a脱顆粒、用量依存的殺傷、CFSE増殖、およびサイトカイン産生を示した (Figure 2A-D)。また、CART123はCD19−CD123+のMOLM-14細胞を特異的に認識・殺傷したが、CART19は認識しなかった。in vivoでは、UPN#11由来の一次B-ALLを移植したNSGマウスにおいて、CART123群とCART19群はUTD群と比較して腫瘍の速やかな根絶と長期生存を達成した (中央値未到達 vs 75日、p<0.0001) (Figure 2E)。特異性確認として、CD123陰性CD19陽性の稀な白血病 (UPN#12) では、CART123は効果を示さず、CART19のみが有効であった (p=0.0003)。

CART123によるCD19陰性再発の治療および予防: UPN#09のCTL019後CD19陰性再発検体 (CD123発現維持) をNSGマウスに注入した抗原喪失モデルにおいて、CART123群はCD19陰性白血病を根絶し、CART19群 (中央値70日) およびUTD群と比較して長期生存を達成した (中央値未到達、p<0.0001) (Figure 3E, F)。このモデルでは、120日以上のフォローアップでCD123陰性再発は観察されなかった。 さらに、CD19+ベースラインとCD19−再発白血病 (1:1混合) をNSGマウスに注入したモデルでは、UTD群では両クローンが進行し、CART19群ではCD19陰性クローンのみが急速に進行した。一方、CART123単独またはCART123+CART19 (pooled同数) 群では、両クローンが消失した (Figure 4B, C)。Intravital 2光子顕微鏡による単細胞レベルの観察では、CD19+CD123+ベースライン白血病マウスにおいて、CART19の62.9% (±3.8%) とCART123の81.1% (±1.2%) が芽球近傍で停止した。しかし、CD19−CD123+再発白血病マウスでは、CART123の80.9% (±5.1%) が芽球近傍に停止し免疫シナプスを形成したのに対し、CART19はわずか12.4% (±2.2%) のみ停止し、残りは無目的に移動を続けた (p<0.01)。これは、CART19がCD19陰性白血病を認識できないことを単細胞レベルでリアルタイムに直接証明するものである。

二重CAR (Dual CART19/123) の優位性: Bicistronic lentiviral vectorにより作製された二重CART19/123は、Jurkat NFATレポーター細胞を用いた評価で、単一CARと比較して1時間後のNFAT活性化が有意に高かった (p<0.05) (Figure 5C)。Confocal免疫シナプス画像により、CART19とCART123の両方が同一の免疫シナプス内で同時に関与していることが実証された (Figure 5D)。In vivoでは、二重CART19/123は、同数の単一CAR T細胞またはpooled CART19+CART123と比較して、NALM6細胞移植モデルにおいて短期 (p=0.006) および長期 (day 63でp=0.02) ともに有意に優れた抗白血病活性を示した (Figure 6A, B)。また、末梢血でのCAR-T細胞のピーク拡大も有意に高かった (day 9でp<0.05) (Figure 6D)。プライマリB-ALL異種移植モデル (患者UPN#11) においても、二重CART19/123はpooled CART19+CART123と比較して、早期 (day 9) に優れた抗白血病活性を示し (Figure 6C)、これは末梢血におけるT細胞の有意に高い生着と相関した (Figure 6D)。

考察/結論

本研究は、CART19後のCD19陰性再発の重要なメカニズムとして、ベースライン時に存在するCD19陰性CD123陽性白血病幹細胞様サブクローンが、CART19による選択圧の下で増殖するという免疫編集の明確な例を初めて実証した点で画期的である。6/6患者検体でFISHにより白血病クローン由来であることが確認され、かつNSGマウスへの生着能 (LIC機能) を持つことから、これらの細胞が真の白血病幹細胞を構成する可能性が示された。

新規性: 本研究で初めて、CD19陰性再発白血病におけるCD123の治療標的としての有用性をin vitroおよびin vivoで詳細に検証した。特に、Intravital 2光子顕微鏡を用いた単細胞レベルでのリアルタイム観察により、CART19がCD19陰性白血病細胞を認識できない一方で、CART123が迅速に免疫シナプスを形成し、白血病細胞を排除する様子を直接可視化したことは、これまで報告されていない新規な知見である。さらに、bicistronic vectorを用いた二重CAR (Dual CART19/123) の設計が、単一CARやpooled CARと比較して優れた抗白血病効果をもたらすことを示したことは、多重標的CAR開発の重要な基盤となる。この二重CARは、同一T細胞内での2つのCARの共発現が、単なる量的効果を超えた相乗的な早期活性化とin vivoでの拡大を生じることを示唆している。

先行研究との違い: これまでの研究では、CD19陰性再発のメカニズムとしてCD19遺伝子の選択的スプライシング異常がSotillo et al. CancerDiscov 2015により報告されていたが、本研究はベースライン時に既に存在するCD19陰性CD123陽性LIC様サブクローンが免疫選択圧により増殖するという、これまでとは異なるメカニズムを実証した。また、Kloss et al. NatBiotechnol 2013Zah et al. CancerImmunolRes 2016などの先行研究では複数の抗原を標的とするCARが検討されてきたが、本研究は特にCD19陰性抗原喪失モデルにおいて、bicistronic vectorを用いた二重CARがpooled CARよりも優れた効果を示すことを初めて実証した。

臨床応用: 本知見は、B-ALL患者におけるCD19陰性再発の予防と治療に対し、重要な臨床的含意を持つ。第一に、CD123が再発患者でも維持されることから、CART19後CD19陰性再発に対するCART123の後続療法が有望である。第二に、二重CART19/123を初回治療から使用することで、CD19陰性再発を予防するアプローチが示唆される。これは、CD19単独標的療法における主要な課題の一つを克服する可能性を秘めている。

残された課題: 今後の検討課題として、CART123はCD123を発現する正常造血幹細胞 (HSC) にも作用し、骨髄毒性を引き起こす可能性があるため、その安全性プロファイルのさらなる評価が必要である。臨床応用においては、CART123投与後の同種HSCTによる造血回復策も含めた臨床デザインが必要となる可能性がある。また、最適な二重CARの投与タイミング、用量、およびB-ALL以外の血液悪性腫瘍 (AMLなど) への適用可能性の検証も残された課題である。

方法

臨床検体解析: CTL019臨床試験参加者14例を含む成人・小児B-ALL患者42例の検体を用いて、フローサイトメトリーによりCD123発現を解析した。CD19陰性CD123陽性細胞の白血病由来クローン性を確認するため、6検体でFISH (fluorescence in situ hybridization) を実施した。CART19治療後CD19陰性再発患者のアーカイブ検体において、CD123発現の維持を評価した。

In vitro機能評価: CART123 (抗CD123 scFv、CD8ヒンジ、4-1BB、CD3ζ、CTL019と同一バックボーン) を作製し、B-ALL細胞株NALM6 (CD19+CD123+)、AML細胞株MOLM-14 (CD19-CD123+)、および一次ALL検体に対して、CD107a脱顆粒、細胞傷害性、CFSE (carboxyfluorescein succinimidyl ester) 増殖、サイトカイン産生を指標に評価した。

In vivo試験 (NSGマウスモデル):

  1. 一次B-ALL異種移植モデル: 患者UPN#11由来の一次B-ALL (GFP/Luc+) をNSGマウスに投与し、CART123、CART19、または未処理T細胞 (UTD) の抗腫瘍活性を比較した。
  2. 抗原喪失再発モデル: 同一患者 (UPN#09) のベースライン (CD19+) とCART19後再発 (CD19−) 検体を用いてモデルを確立した。CD19−再発検体をNSGマウスに注入後、CART123、CART19、またはUTDを投与し、治療効果を評価した。
  3. 混合白血病モデル: CD19+ベースラインとCD19−再発白血病 (1:1混合) をNSGマウスに注入し、UTD、CART19、またはCART123+CART19 (pooled同数) を投与して、CD19陰性再発予防効果を評価した。二色ルシフェラーゼ (CBG/CBR) システムを用いて、同一NSGマウス内のCD19+とCD19−集団を独立して追跡した。

二重CAR (chimeric antigen receptor) 設計: CART19-BBζ-P2A-CART123-BBζのbicistronic lentiviral vector (コドン最適化により1:1等量発現) を用いて、dual CART19/123を製造した。Jurkat NFAT (nuclear factor of activated T-cells) GFPレポーター細胞を用いてNFAT活性化動態を定量し、CAR19-GFP + CAR123-mCherry融合構築体によるconfocal免疫シナプス可視化を実施した。

Intravital 2光子顕微鏡: 頭蓋骨骨髄内でのCART細胞と白血病細胞の相互作用をリアルタイムで観察した。CellTrace Violet標識CART19とCellTrace Orange/TRITC標識CART123を共注入し、注射24時間後にイメージングを行った。

統計解析: 全ての統計解析はGraphPad Prism 6を用いて実施された。2群間の比較にはStudent’s t test、多群間の比較には1-way ANOVA (Holm-Šidák補正付き) が用いられた。複数時点/比率での多群比較には、各時点/比率でStudent’s t testまたはANOVAが適用された。生存曲線はlog-rank testを用いて比較された。統計的有意性はp < 0.05と定義された。