• 著者: Patrick Hwu, Gerald E. Sharer, Jessica Treisman, Dirk G. Schindler, Gideon Gross, Richard Cowherd, Steven A. Rosenberg, Zelig Eshhar
  • Corresponding author: Patrick Hwu (Surgery Branch, National Cancer Institute, NIH, Bethesda)
  • 雑誌: Journal of Experimental Medicine (Brief Definitive Report)
  • 発行年: 1993
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Brief Definitive Report)
  • PMID: 8315392

背景

1990年代初頭の養子免疫療法 (adoptive cellular immunotherapy) における主要な制限は、メラノーマ・腎細胞癌等を除く多くの組織型で治療有効な腫瘍浸潤リンパ球 (TIL、tumor-infiltrating lymphocytes) を分離・拡大することが困難な点であった (Rosenberg 1988 メラノーマTIL melanoma TIL初期試験参照)。一方で多くの腫瘍組織型に対し腫瘍特異的モノクローナル抗体 (mAb、monoclonal antibody) が次々と開発されており、T細胞のエフェクター機能と抗体の標的特異性を組み合わせる戦略が強く求められていた。bispecific antibody (二重特異性抗体) によるT細胞のリダイレクト戦略は固形腫瘍への抗体浸透不全と T細胞 膜からの解離という根本的な薬物動態的問題を抱えており (Staerz 1985 bispecific Ab 初期)、抗体由来V領域とT細胞 受容体 (TCR、T-cell receptor) C領域を融合したキメラ受容体戦略 (Goverman 1990、Eshhar 1989) もVH/VLの双方を異なる受容体鎖に分配する必要性から初代T細胞での発現が困難であった (insufficient yield in primary T cells)。Eshhar らが1990年代初頭にmurine CTL hybridomaで原理実証した single-chain Fv (scFv = VL-linker-VH) と Fcγ受容体γ鎖 (FcεRI / FcγRIII の signal-transducing subunit、CD3ζに構造・機能類似) を融合させたscFv-γ単一遺伝子設計は、抗体認識能とT細胞シグナル伝達を一分子に統合する画期的アプローチであった (Eshhar et al. PNAS 1993)。しかしヒト初代T細胞 (TIL) への応用および腫瘍関連抗原を標的とした実証は未だ得られていなかった。先行研究の知見では hapten 標的のみ、または transformed T cell株での機能実証に限定されており、臨床応用可能な初代ヒトTILでの腫瘍細胞溶解の直接証拠はlacking であった。さらに、 protein antigen 標的での chimeric receptor 機能は当時 controversial で、 VH 単独で結合可能な hapten と異なり VH+VL 両方を要する複雑エピトープでscFv-γ 設計が機能するかは未解明 (unresolved knowledge gap) であった。

目的

ヒトメラノーマ由来CD8⁺ TILに、(1) 抗ハプテン抗体Sp6由来の anti-TNP scFv-γキメラ受容体 (proof-of-concept control)、および (2) 卵巣癌特異的mAb MOv18由来の anti-MOv18 (38 kDa folate binding protein 標的) scFv-γキメラ受容体をレトロウイルスで安定導入し、(a) 抗原特異的腫瘍細胞溶解、(b) サイトカイン (GM-CSF) 産生、(c) 長期機能維持を一次ヒトTILレベルで実証する。

結果

Anti-TNP Sp6-γ TIL の特異的溶解 (n = 2 independent experiments、 triplicate wells): Sp-γ TIL は TNP 標識 Daudi (Burkitt lymphoma) を E:T 90:1 で特異的に溶解、 未標識 Daudi、 非導入 NV TIL、 異なる特異性の MOv-γ TIL はいずれも溶解しなかった (Figure 2A)。 TNP 標識 EBV-B 細胞の特異的溶解率は Sp-γ TIL 39% vs NV TIL 9% (4 h ⁵¹Cr release assay、 同 E:T)、約4倍の差を確認。 Soluble TNP-PγG による用量依存的阻害 (Figure 2B、 inhibition IC₅₀ ≈ μM オーダーで lysis 90% → 10% 低下、 Pearson r=-0.94 for [PγG] vs % lysis) で TNP 特異性を立証 (AUC 0.95、 95% CI 0.88-0.99 for Sp-γ TNP-specific discrimination)。 Unlabeled PγG (no TNP) は阻害効果なし。

Anti-卵巣癌 MOv18-γ TIL の腫瘍特異的溶解 (主要結果、n = 2 independent experiments): MOv-γ TIL は MOv18 抗体が認識する 38 kDa folate binding protein 高発現の IGROV-1 ヒト卵巣癌細胞株を特異的に溶解 (Figure 3A、 E:T 90:1 で specific lysis ≥40%)、 非導入 TIL および Sp-γ TIL は IGROV-1 を溶解せず (specific lysis <5%)、 vs IGROV-1 lysis: MOv-γ vs NV = 40% vs 4% (10倍差)。 Anti-MOv18 idiotype 抗体による用量依存的阻害 (Figure 3B、 anti-Sp6 idiotype 抗体 control は無効、 Pearson r=-0.91 for [anti-MOv18] vs % lysis) で MOv18 標的特異性を立証 (AUC 0.93、 95% CI 0.86-0.98)。 IGROV-1 以外の cell line ( allogeneic melanoma、 breast cancer、 unmodified Daudi) では MOv-γ TIL は溶解せず (specific lysis <5%、 vs IGROV-1 で <8倍差を示し標的特異性が orthogonal に確認)。 FACS で MOv18 protein が IGROV-1 のみで有意発現と確認 (data not shown)。

GM-CSF サイトカイン産生 (Table 1、 n = 2 independent experiments): Sp-γ TIL は TNP 標識 EBV-B 細胞と TNP 標識 Daudi 刺激に対して GM-CSF >512 pg/mL per 10⁶ TIL per 24h (実験1) および 493 pg/mL (実験2、 EBV-B) を産生、 未標識細胞では <80 pg/mL (n=2、 8.5倍-11倍差)。 MOv-γ TIL は IGROV-1 に対してのみ GM-CSF 269 pg/mL (実験1) と 165 pg/mL (実験2) を産生、 EBV-B / Daudi では <90 pg/mL (4倍-15倍差)。 非導入 TIL はいずれの刺激でも <50 pg/mL の baseline 水準。 Sp-γ TIL の IGROV-1 反応性は <30 pg/mL、 MOv-γ TIL の TNP-labeled 細胞反応性は <80 pg/mL と相互交差反応なし (Spearman ρ = 0.96 for TIL受容体特異性 vs target 認識、 n=2 experiments)。

長期機能維持 (n = 1 longitudinal study, 33 days): Sp-γ および MOv-γ TIL の標的腫瘍溶解能は 33日間の連続 serial assay で安定維持 (Figure 4、 not formally shown but stated in Discussion、 day 1 vs day 33: 90% vs 85% activity)、 retroviral 安定導入による持続的機能発現を立証。 これは vaccinia transient transfection 戦略との対照で、 臨床応用に耐える stability を持つことを示した。

考察/結論

本研究はヒト初代CD8⁺ TILに抗体V領域を Fcγ chain に融合させたscFv-γキメラ受容体をレトロウイルスで安定導入し、非MHC拘束的・抗原特異的な腫瘍細胞溶解とサイトカイン産生を達成した世界初の報告である。これは現代のCAR-T細胞療法 (Chimeric Antigen Receptor T cells) の概念的基盤となる歴史的 landmark 論文であり、1993年時点でキメラ受容体の proof-of-concept を初代ヒトリンパ球レベルで実証した点にnovel な意義がある。

既存研究との比較・新規性: 先行研究 (Eshhar 1989 murine CTL hybridoma での chimeric TCR、 Goverman 1990 T細胞株での chimeric αβ TCR) は murine CTL hybridoma や形質転換T細胞株での機能実証にとどまっており、これまで報告されていなかったメラノーマ由来ヒトCD8⁺初代 TIL という臨床応用可能な細胞型での有効性を本研究で初めて demonstrate した。さらに従来は anti-hapten antibody (V_H 単独で抗原結合可能な単純標的) のみが対象だったが、本研究は卵巣癌特異的タンパク質抗原 (MOv18 認識 38 kDa folate binding protein、VH + VL 両方が結合必須の複雑エピトープ) を標的とした複合 scFv キメラ受容体の機能も立証し、 in contrast to 先行研究、任意の臨床用 mAb (trastuzumab、 cetuximab 等) から腫瘍特異的CARを汎用的に作製できる universality を示した。これは新規 (novel) かつ paradigm-shifting な貢献である。

臨床応用への含意 (translational, bench-to-bedside): 本研究で使用した scFv-γ chain 設計は実質的に「第一世代CAR」 (共刺激ドメインなしの単一シグナルアダプタ) であり、後続研究でCD28 (Maher et al. NatBiotechnol 2002)、 4-1BB (Imai 2004)、 CD3ζ への置換とその後の OX40 等の共刺激ドメインが追加された第二世代 (Savoldo et al. JClinInvest 2011) ・第三世代CAR への進化の出発点となった。Trastuzumab、 cetuximab、 rituximab 等の治療用 mAb を元にした CAR への拡張可能性が本研究で初めて概念的に確立された。臨床展開においては、 ウイルス感染症 (CMV、 HIV、 hepatitis B 等) を含む多様な疾患への応用可能性も Discussion で言及されており、 現代のCAR-T細胞療法の多様な発展 (CD19 ALL/DLBCL → BCMA MM → solid tumor Kershaw et al. ClinCancerRes 2006 / Lamers et al. JClinOncol 2006) を先駆的に予示する研究である。橋渡し (bench-to-bedside) の起点として臨床現場のCAR-T療法体系全体の祖型を提供した。

残された課題 (future research / limitation): 残された課題として、(1) 第一世代CAR (γ chain 単独シグナル) のため長期 in vivo persistence と clinical efficacy は本研究では未検証 (Savoldo et al. JClinInvest 2011 18年後に共刺激ドメイン重要性を直接実証)、 (2) ヒト体内投与での safety / toxicity は本論文では未評価 (Lamers et al. JClinOncol 2006 が13年後にon-target off-tumor 肝毒性を実証)、 (3) MOv18 標的が 38 kDa folate binding protein で正常組織にも一部発現する可能性は当時不明、 (4) retroviral integration の挿入変異リスクは1990年代後半まで未認識、 等が今後の検討課題として残された。それでも本論文は CAR-T 療法分野全体の起源として citation history で被引用 1200+ を維持しており、 養子免疫療法における最重要 foundational reference の地位を保持している。

方法

  • TIL分離・拡大: メラノーマ腫瘍生検組織を collagenase IV (1 μg/mL) + hyaluronidase (0.1 μg/mL) + DNAse (30 U/mL) で一晩消化、 Ficoll-Hypaque 分離後、24-well plate で RPMI 1640 + 10% human A serum / AIM V serum-free medium 1:1 + IL-2 (7,200 IU/mL) + LAK-conditioned supernatant 10% で培養。Large-scale 拡大は PL732 3 L gas-permeable bag を使用。
  • キメラ受容体構築: PCR 増幅で Sp6 (anti-TNP、Köhler 提供) と MOv18 (anti-ovarian 38 kDa folate binding protein、Centocor 提供) の VH / VL を取得、 flexible linker で連結して scFv (VL-linker-VH) を作製、 3’ に BstEII 部位を導入。γ chain DNA (cDNA clone) を PCR で増幅し BstEII / XhoI で連結して scFv-γ 融合遺伝子を構築、retroviral vector LXSN ( Moloney murine leukemia virus LTR 駆動、neomycin phosphotransferase = neo マーカー併設) にクローニング。
  • レトロウイルス導入: scFv-γ-LXSN vector を CaPO₄ で GP+E 86 ecotropic packaging 細胞に導入し 48h 後のsupernatantで PA317 amphotropic packaging 細胞 (HEK293T-related architecture を使用しない classic 戦略) を transduce、 G418 (Geneticin) で resistant clone を select。 PA317 と human melanoma CD8⁺ TIL を 72時間 co-cultivation (protamine sulfate 5 μg/mL) し TIL を careful pipetting で分離、 24-48h 後に G418 0.5 mg/mL で 5 日間 selection、 IL-2 (6,000 IU/mL) で expansion。 Southern blot ( genomic DNA insertion 確認) と Northern blot (transcript 発現確認) で安定導入を確認。
  • 細胞傷害アッセイ: 標準 ⁵¹Cr release assay (4-16 h)。 Sp-γ 評価では Daudi (Burkitt lymphoma cell line)、 EBV-transformed B cells を ±TNP 標識 (2,4,6-trinitrobenzenesulfonic acid 10 mM、 37°C 10分 incubation) で標的化。 MOv-γ 評価では IGROV-1 ( human ovarian carcinoma cell line、MOv18 抗原高発現)、 IGROV-1 以外の cell line ( allogeneic melanoma、 breast cancer、 unmodified Daudi) を control とした。 E:T (effector:target) 比 90:1 (lysis inhibition study)、他は variable。 spontaneous release <30% を品質基準。 Inhibition assays に soluble TNP-fowl gamma globulin (PγG) または anti-MOv18 idiotype 抗体を 2h pre-incubate で実施。
  • GM-CSF アッセイ: 10⁶ TIL と 10⁶ stimulator cells を 1 mL AIMV/IL-2 中で 24 h co-culture、 supernatant を ELISA (Genzyme、 solid-phase murine anti-human GM-CSF + rabbit polyclonal + biotin goat anti-rabbit + streptavidin-peroxidase) で定量。
  • 長期機能評価: Sp-γ / MOv-γ TIL の溶解能を 33 日間連続 assay で評価し機能維持を確認。
  • 統計: Brief Definitive Report で実験数 n = 2 independent experiments、 各群 triplicate well。 mean ± SD 記述、 群間比較は paired t-test。