• 著者: Michael H. Kershaw, Jennifer A. Westwood, Linda L. Parker, Gang Wang, Zelig Eshhar, Sharon A. Mavroukakis, Donald E. White, John R. Wunderlich, Silvana Canevari, Linda Rogers-Freezer, Clara C. Chen, James C. Yang, Steven A. Rosenberg, Patrick Hwu
  • Corresponding author: Patrick Hwu (The University of Texas M.D. Anderson Cancer Center, Houston, TX)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2006
  • Epub日: 2006-10-15
  • Article種別: Original Article (Phase I Clinical Trial)
  • PMID: 17062687

背景

悪性メラノーマに対する養子免疫療法 (adoptive immunotherapy) は、Rosenberg らが TIL (tumor infiltrating lymphocyte) 移入による劇的な腫瘍縮小を初報告して以来、腫瘍反応性リンパ球の選択・高用量 IL-2 (interleukin-2) 投与・事前リンパ球除去処置の3要素が重要であることが確立されていた (Rosenberg et al., Science 1986)。Dudley らは非骨髄破壊的リンパ球除去前処置を組み合わせた養子細胞移入で奏効率を大幅に向上させ (Dudley et al., J Clin Oncol 2005)、固形癌一般への応用への強い期待が生まれた。しかし卵巣癌においては内因性の腫瘍反応性 T 細胞を患者から再現性よく単離することが極めて困難であり、メラノーマと同様のアプローチを直接適用することには大きな gap in knowledge が存在していた。上皮性卵巣癌には FR (folate receptor)・Her-2 (human epidermal growth factor receptor 2)・TAG-72 (tumor-associated glycoprotein 72)・Lewis-Y などの腫瘍関連抗原が高発現していることが知られており、Hwu らは MOv18 抗体由来の scFv (single-chain variable fragment) を FcRγ (Fc receptor gamma) 鎖に連結した第1世代 CAR (chimeric antigen receptor、MOv-c) を設計し、これを導入した T 細胞が in vitro で FR 陽性卵巣癌細胞株を特異的に溶解することを示した (Hwu et al. JExpMed 1993)。マウスモデルでの in vivo 抗腫瘍効果も確認されていたが、ヒト患者における安全性・体内持続性・腫瘍集積能・臨床効果のデータは不足しており、共刺激シグナルを欠く第1世代 CAR の臨床的機能についての知見は手薄な状況にあった。一方で Haynes et al. Blood 2002Maher et al. NatBiotechnol 2002 が示した共刺激ドメイン付加による T 細胞増殖・持続改善の知見を踏まえると、第1世代 CAR の臨床的限界を実際のヒト試験で検証することが急務となっていた。

目的

FR 陽性の再発・残存上皮性卵巣癌患者を対象に、抗 FR 第1世代 CAR (MOv-c) を導入した自家遺伝子改変 T 細胞の養子移入療法の安全性・体内動態・臨床効果を評価する第 I 相試験を実施すること。高用量 IL-2 を併用する bulk CAR-T 細胞移入 (コホート1) と、同種 PBMC (peripheral blood mononuclear cell) との混合リンパ球反応により FR 反応性と同種抗原反応性を兼備した dual-specific T 細胞を移入し、続く同種 PBMC 皮下免疫で体内増幅を図る戦略 (コホート2) の2コホートを設定し、安全性・T 細胞体内動態・腫瘍集積・臨床奏効を比較する。

結果

T 細胞の拡大培養と dual-specific T 細胞の作製: コホート1 (n=8) では抗 CD3 刺激後の T 細胞を平均 47 日間 (範囲 25-56 日) 培養し、十分な治療用細胞数を確保した。コホート2 (n=6) では、同種 PBMC との1回目の MLR 後に 12-fold から 325-fold の範囲での初回拡大が得られ、2回目の同種再刺激によりさらに約 50-fold の追加増幅が達成された (Fig 1A)。培養後の T 細胞は全例で G418 耐性を示しており、フローサイトメトリーでの抗イディオタイプ抗体 (Id18.1) 染色により MOv-c キメラ受容体の発現が低レベルながら全患者の T 細胞で確認された (Fig 1C)。コホート2における CD4+ と CD8+ T 細胞の比率は患者間で大きく変動し、CD4+ 細胞が 2-82%、CD8+ 細胞が 13-85% と広範な個人差が認められ、その要因としてドナーの HLA (human leukocyte antigen) アレルによる刺激能の差異が示唆された (Fig 1B)。コホート2の in vitro での IFN-γ 産生は FR 陽性 IGROV-1 細胞に対して 1,295-9,050 pg/mL であり、FR 陰性メラノーマ細胞 (14-54 pg/mL) と比較して明らかに高い特異性を示し (Table 2)、同種 PBMC に対しても 603-5,625 pg/mL の産生が確認されて dual-specific 活性が検証された。

安全性プロファイルとコホート間の毒性比較: コホート1ではグレード3または4の有害事象として低血圧・呼吸困難・白血球減少・頻脈・下痢が認められた (Table 3)。これらはほぼすべて高用量 IL-2 に起因する既知の毒性パターンと一致しており、FR が生理的に発現している正常組織 (腎近位尿細管・脈絡叢等) への標的外毒性は認められなかった。特に2回の OKT3 刺激による長期培養後の T 細胞を投与した患者 (患者4サイクル2・患者7サイクル1) において、肺への T 細胞滞留延長に関連したグレード3の呼吸困難が報告された。コホート2では IL-2 を使用しなかったため全身性重篤毒性はなく、同種 PBMC 皮下注射部位の軽度紅斑 (グレード1-2) が最も多い副反応であり、一部で軽度の悪心が認められるにとどまった (Table 3)。コホート2のより低い毒性プロファイルは、コホート1の重篤毒性が IL-2 投与によるものであることを裏付けた。

臨床奏効の欠如と腫瘍への T 細胞集積不良: 全14例において CT / MRI による画像評価と血清 CA-125 測定を治療前後で実施したが、RECIST に基づく客観的腫瘍縮小 (CR; complete response または PR; partial response) は1例も認められず、CA-125 の有意な低下も観察されなかった。放射性標識 T 細胞による追跡を実施した患者 (n=5) では、投与 T 細胞は初期に肺に集積し、その後肝臓・脾臓に移行するパターンが観察されたが、腫瘍部位への特異的局在は再現性よく確認されなかった (Fig 2A, B)。2回 OKT3 刺激を受けた T 細胞 (3回移入) は1回刺激 T 細胞 (4回移入) と比較して肺への滞留時間が有意に延長しており (p=0.03, Fisher’s exact test)、呼吸困難との相関が認められた。患者4サイクル2の腹部前後像でのみ、投与48時間後に骨盤内転移腫瘍塊への微小な T 細胞集積が観察されたに過ぎなかった (Fig 2C)。

T 細胞の体内持続性の急速な減衰: 末梢血中の遺伝子改変 T 細胞は neo 遺伝子 PCR-ELISA で定量した。移入直後の数日間は全血単核球の 1% を超える割合で検出されたが、その後急速に減少し大部分の患者では投与後3週間以内に検出限界以下となった (Table 4)。同種 PBMC 皮下免疫による体内増幅を意図したコホート2の dual-specific T 細胞においても、コホート1と比較して持続期間の有意な延長は認められなかった。唯一の例外として患者12では移入12ヶ月後に末梢血単核球の 0.03% の遺伝子改変 T 細胞が低レベルで検出されたが、機能的意義は不明であった。持続性不良の原因として、長期培養による T 細胞の「疲弊 (exhaustion)」や in vivo での恒常性維持に必要な分子発現の低下が考えられた。また allogeneic 免疫による拡大効果が得られなかった理由として、本試験での同種 PBMC 用量 (4.5-7.5×10^9 個) がマウスモデルで最適とされた用量のヒト外挿値 (1×10^11 個超) に対して大きく不足していた可能性が示唆された。

治療後血清中の免疫グロブリン性 T 細胞阻害因子の発見: 治療後採取した患者血清をコホート1の in vitro IFN-γ 産生アッセイに添加したところ、試験した6例中3例 (50%) の治療後血清が FR 陽性 IGROV-1 腫瘍細胞に対する T 細胞の IFN-γ 産生を著明に阻害した (Table 5)。治療前血清では阻害活性は認められず、治療経過中に新たな阻害因子が産生されたことが示された。患者9の治療後血清は T 細胞の IFN-γ 分泌を 60% 以上抑制したが、プロテイン G ビーズによる血清免疫グロブリン除去処理を施すとこの阻害活性は完全に消失し IFN-γ 産生量が回復した (Fig 3)。血清中の可溶性 FR 濃度は患者間で変動し阻害活性との直接相関は認められなかった (Table 6)。以上の結果から、阻害の主体は MOv18 モノクローナル抗体由来のマウス scFv 領域を認識する HAMA (human anti-mouse antibody) 等の抗イディオタイプ抗体と考えられた。

考察/結論

本研究は、遺伝子改変 T 細胞を用いた卵巣癌に対する養子免疫療法を実施した世界初のヒト臨床試験として、第1世代 CAR-T 細胞が in vitro では強力な FR 特異的機能を保持しているにもかかわらず、ヒト体内では十分な持続性・腫瘍集積が得られず臨床効果も得られないという重要な実証データを提供した。合計14例・26回の輸注を通じて、安全性は許容可能と判断された。

先行研究との違い: マウスモデルで示された抗 FR CAR-T 細胞の強力な抗腫瘍効果や、in vitro で共刺激ドメイン付加が T 細胞の増殖・持続を大幅に向上させることを示した Maher et al. NatBiotechnol 2002Haynes et al. Blood 2002 の知見と対照的に、本ヒト臨床試験では共刺激シグナルを欠く第1世代 CAR では体内での持続性・増殖が著しく不良であることが実証された。また、マウスモデルで有効性が確認されていた dual-specific T 細胞と同種抗原刺激を組み合わせた体内増幅戦略は、これまでの研究成果とは異なり、ヒトにおいては同種 PBMC の投与量が不十分であったためか持続延長効果を示さなかった。さらに長期培養 T 細胞の肺滞留延長と呼吸困難との関連は、in vitro での完全なエフェクター機能獲得が in vivo の機能を損なうという既報知見と一致する。

新規性: 本試験において新規に見出された最重要知見は、治療後患者血清中に CAR 構造のマウス由来 scFv 成分に対する HAMA が産生され、この免疫グロブリンが CAR と FR 抗原の相互作用をブロックして T 細胞機能を著明に阻害するという現象である。CAR-T 細胞投与後に患者血清が免疫グロブリン依存性に T 細胞の in vitro 機能を阻害することはこれまで報告されていない知見であり、ヒト異種 (マウス由来) キメラ受容体が宿主免疫系によって認識・中和される novel な機序を示した。

臨床応用: 本試験で明らかになった3つの課題—①第1世代 CAR の体内持続性・増殖不足、②マウス由来 scFv の免疫原性による機能阻害、③固形癌における T 細胞のトラフィッキング障害—は、その後の CAR-T 療法開発における臨床的意義の大きいマイルストーンとなった。これらの知見は、共刺激ドメイン (CD28・4-1BB) 付加による第2世代・第3世代 CAR の設計、scFv 領域のヒト化・完全ヒト抗体への置換、腹腔内投与などの代替投与経路の探索という現代の臨床応用設計思想の直接的な礎となった。また非骨髄破壊的リンパ球除去前処置の導入が固形癌に対する CAR-T 療法においても有効である可能性を示唆する根拠も本試験が提供した。

残された課題: 固形癌に対する CAR-T 療法の確立に向けた残された課題は多い。腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment) の免疫抑制機構を克服するための戦略が未確立であり、T 細胞の腫瘍組織への効率的なホーミングを実現するための分子設計も必要である。limitationとして、本試験における 111In 標識 T 細胞のトラッキングは最大5日間と追跡期間が短く空間解像度も低いため、FDG-PET (fluorodeoxyglucose-positron emission tomography) などの分子イメージング技術を用いたより長期・高精度な体内動態解析の今後の検討が求められる。また allogeneic PBMC 免疫戦略については、マウスモデルの最適用量をヒスに外挿すれば 1×10^11 個超の投与が必要と推定されるが、本試験での投与量は 4.5-7.5×10^9 個にとどまっており、デンドリティック細胞 (DC; dendritic cell) 等のより強力な免疫源を用いたアプローチも含めた更なる検討が必要と考えられる。

方法

FR 陽性が生検で確認された再発・残存上皮性卵巣癌患者14例を対象とした。年齢 33-60 歳、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS 0-1、白金製剤・タキサン含有化学療法施行後の再発・難治例を適格とし、前治療は登録2週間以上前に終了していることを条件とした。

コホート1 (n=8) では、患者 PBMC をアフェレーシスで採取後に抗 CD3 抗体 (OKT3) と IL-2 600 IU/mL で3日間刺激し、レトロウイルスベクターで MOv-c 遺伝子を形質導入後に G418 選択培養を行った。投与細胞数は3サイクルにわたり段階増量 (3×10^9 → 1×10^10 → 3-5×10^10 細胞) し、IL-2 720,000 IU/kg を投与日から12時間毎に最大6回静注した。サイクル間隔は約4週間であった。

コホート2 (n=6) では、患者と MHC (major histocompatibility complex) クラス I 座位において少なくとも4アレルが異なるドナーの照射済み PBMC (5,000 cGy) と患者 PBMC を MLR (mixed lymphocyte reaction) で培養した後にレトロウイルス形質導入・G418 選択を実施し、続いて同一ドナーの PBMC による2回目の刺激で dual-specific T 細胞を調製した。T 細胞移入翌日と1週間後に同種 PBMC (2.0-4.0×10^9 細胞) を下肢4箇所に分割して皮下免疫した。サイクル間隔は8-12週間で、最大2サイクル施行した。

T 細胞の抗腫瘍活性は FR 陽性 IGROV-1 卵巣癌細胞株および FR 陰性メラノーマ細胞株 (Mel 526, Mel 624 等) との共培養後の IFN-γ (interferon-gamma) 産生 ELISA で評価した。体内分布は 111In-oxine 放射性標識 T 細胞をガンマカメラで最大5日間追跡し、末梢血中の持続性は neo (neomycin phosphotransferase) 遺伝子を標的とした PCR (polymerase chain reaction)-ELISA 法で定量した。治療後患者血清の T 細胞阻害活性は IFN-γ 産生抑制アッセイで評価し、プロテイン G による血清免疫グロブリン除去実験で阻害因子の同定を試みた。統計解析には Fisher’s exact test を使用した。