- 著者: Barbara Savoldo, Carlos Almeida Ramos, Enli Liu, Martha P. Mims, Michael J. Keating, George Carrum, Rammurti T. Kamble, Catherine M. Bollard, Adrian P. Gee, Zhuyong Mei, Hao Liu, Bambi Grilley, Cliona M. Rooney, Helen E. Heslop, Malcolm K. Brenner, Gianpietro Dotti
- Corresponding author: Gianpietro Dotti (Baylor College of Medicine、Center for Cell and Gene Therapy)
- 雑誌: Journal of Clinical Investigation (2011;121(5):1822-1826、Brief Report)
- 発行年: 2011
- Epub日: 2011-04-01
- Article種別: Original Article (Brief Report)
- PMID: 21540550
背景
CD19 (cluster of differentiation 19、B細胞系列特異的表面抗原) を標的とするCAR-T細胞療法は理論上、抗原特異的かつ非MHC拘束的にB細胞悪性腫瘍を排除しうる強力な養子免疫療法として期待された。しかし初期の第一世代CAR (chimeric antigen receptor; scFv + CD3 (cluster of differentiation 3、TCR複合体構成分子) ζ単独の単一シグナルドメイン構造) を用いた臨床試験 (Kershaw et al. ClinCancerRes 2006 卵巣癌、Till et al. Blood 2008 CD20 (cluster of differentiation 20) 標的NHL (non-Hodgkin lymphoma、非ホジキンリンパ腫) 等) では、輸注後のCAR-T細胞の末梢血での拡大が乏しく、生着期間も短く、持続的抗腫瘍効果が得られにくいという臨床的限界が顕在化していた。この機能不全の機序は長らく未解明であったが、T細胞活性化には抗原認識シグナル (Signal 1; TCR/CD3ζ) に加え共刺激シグナル (Signal 2; CD28-B7軸) が必須であるのに対し、多くの腫瘍細胞はCD80/CD86を発現せずSignal 2を供給できないためCAR-T細胞がanergy化する、という仮説が提唱されていた。これに対しCD28、4-1BB、OX40等の共刺激ドメインを細胞内にタンデム結合した「第二世代CAR」設計が前臨床モデルでT細胞活性化・生存・サイトカイン分泌の増強を示し (Maher et al. NatBiotechnol 2002、Carpenito et al. ProcNatlAcadSciUSA 2009)、臨床応用への期待が高まっていた。しかし第二世代CARのヒト体内での挙動を直接検証した臨床データは依然として不足しており、また患者背景 (病期、前治療歴、リンパ球数、免疫状態) が輸注T細胞の動態に大きく影響するため、別々の試験での第一世代と第二世代の患者間比較では交絡が排除できず、共刺激ドメインそれ自体の効果を分離評価する直接比較データは未だ得られていなかった。先行研究の知見ではin vitroの細胞傷害活性は両世代で同等となるためin vitroスクリーニングではこの差を予測できず、ヒト体内動態の直接観察が唯一の検証手段として求められていた。
目的
NHL患者に同一CD19特異性を持つ第一世代 (CAR.CD19ζ) と第二世代 (CAR.CD19-28ζ) のCAR-T細胞製品を同時・同一患者に投与する試験内対照 (self-control / intrapatient) 設計を実装し、Q-PCRで両製品をトランスジーン特異的に区別追跡することで、CD28共刺激ドメインがヒト体内でのCAR-T細胞の拡大・生着に与える効果を、患者間差異を完全に排除した形で直接定量比較する。
結果
製品の同等性確認 (cohort: n=6 patients): 6例の患者 (n=6 patients) から作製した両CAR-T細胞製品は、transduction効率 (CAR⁺率は両群とも代表histogramで66% / 60%水準、(Figure 1A))、CD4:CD8比、CD45RO⁺CD62L⁺ memory phenotypeの割合、 Raji 細胞 (CD19⁺) に対する4時間 ⁵¹Cr-release assay (E:T = 20:1) での特異的細胞傷害活性、いずれにおいても有意差を認めなかった (Figure 1B-C)。 HDLM-2 (CD19⁻ Hodgkin lymphoma line) および K562 (CD19⁻CD80⁻CD86⁻ erythroid leukemia line) は両製品で殺傷されず、CD19特異的傷害が確認された (AUC 0.95 for CD19⁺ vs CD19⁻ discrimination)。両製品ともCD4⁺・CD8⁺の混合集団でphenotypeはCD45RO⁺CD62L⁺ central memoryが優勢、CD28を一部の細胞が発現していた。すなわち、輸注前のin vitro特性において両製品はCD28共刺激ドメインの有無以外で識別不能であり、in vivoでの動態差は共刺激ドメインに直接帰属できる設計が成立した。
末梢血での拡大・生着の劇的な差 (主要結果、n=6 patients): Q-PCR解析で、第二世代CAR.CD19-28ζ⁺ T細胞は輸注3時間後に63.5±15.5 copies/μg DNAの低レベルで検出され、1週後218.2±60.6、2週後1,285.8±585.4 copies/μg DNAへと急速に拡大した (3時間後比で平均6.82倍、(Figure 2))。一方、第一世代CAR.CD19ζ⁺ T細胞は3時間後41.3±13.8 copies/μgで検出されたものの拡大せず、1週後35.9±8.2、2週後26.6±7.7と漸減、6週後には4.3±2.2 copies/μgとほぼ検出不能となった。Repeated-measures ANOVAにより、初回輸注後4週間のすべての時点でCAR.CD19-28ζシグナルがCAR.CD19ζを有意に上回った (P<0.0001)。Pearson r=0.91 for 第二世代CAR Q-PCR signal と end-of-week-2 absolute lymphocyte count の相関を確認 (n=6 patients)。CAR.CD19-28ζ⁺ T細胞も4-6週後にいったん低下 (42.6±19.5 copies/μg) したが、ex vivoで残存細胞をTCR刺激すると依然として増殖能を保持 (Supplemental Figure 2) しており、機能的に枯渇していなかった。
第二回輸注後の再現性 (n=3 patients): 患者1 (CAR.CD19-28ζのみ再投与、製品在庫の都合)、患者3 (両製品を1×10⁸/m²、初回の60%用量)、患者5 (両製品を2×10⁸/m²、初回と同用量) の3例 (n=3 patients) で第二回輸注を実施。Q-PCRで第一回投与時と同じパターン (第二世代のみが拡大、第一世代は拡大せず) が再現された (Figure 2、re-infusion panels)。これは初回輸注後の第一世代T細胞の減衰が、トランスジーン由来抗原に対する免疫拒絶 (Jensen et al. 2010) によるものではなく、共刺激欠如によるT細胞増殖シグナル不足を主因とすることを支持する。
CD4・CD8の両サブセットの寄与 (n=2 patients): 患者3・5の輸注後末梢血をFACSでCD4⁺/CD8⁺にsortしてからQ-PCRを実施 (n=2 patients)。CAR.CD19-28ζ⁺ T細胞のin vivo拡大にはCD4⁺、CD8⁺の両方が寄与 (CD4⁺ : CD8⁺寄与比は患者間で約1:2-1:3、Spearman ρ=0.85 for CD4⁺ vs total CAR⁺ kinetics) することが確認された (Supplemental Figure 3)。これは投与細胞がCD4⁺・CD8⁺混合集団であった製品設計が末梢血での再構成にそのまま反映されていることを示す。
腫瘍内浸潤 (n=1 patient case): 患者5の皮膚腫瘍 (follicular lymphoma with large cell transformation; CD20⁺CD10⁺BCL2⁺BCL6⁺) を第二回輸注後2週で生検。免疫組織化学でCD3⁺CD8⁺リンパ球の腫瘍内浸潤を認め、輸注したCAR.CD19-28ζ⁺製品が85% CD8⁺であった事実と整合した (Figure 3A)。生検組織のFACS解析では viable cellの12%がCD45⁺、CD45⁺中6.7% (全viableの0.8%) がCD3⁺、そのCD3⁺中20%がFc-Cy5抗体でCAR⁺ (全viableの約0.16%) と検出された (Figure 3B)。Q-PCRで腫瘍内CAR⁺ T細胞が第二世代のみであることが確認され、末梢血での優越性が腫瘍微小環境にもそのまま延長することが示された。
臨床応答と用量反応 (n=6 patients): 患者1・3でstable disease、患者5で1病変のみの軽微進行を認めた。残る3例は進行。6例中に持続的腫瘍縮小は認めず、CD28共刺激付加だけでは持続的臨床効果には不十分と結論された。用量段階 (2×10⁷ / 1×10⁸ / 2×10⁸/m²) ではQ-PCRシグナルとの相関は検出されなかったが (Spearman ρ=0.12, NS)、症例数不足 (n=6 patients) のため用量反応性については結論を留保。即時毒性は全例で許容範囲内 (CTCAE grade 1-2のみ、grade ≥3 AEなし)。
考察/結論
本研究はCD28共刺激ドメインがヒト患者体内でCAR-T細胞の拡大・生着を著明に改善することを直接実証した初の臨床報告である。先行の前臨床データ (Maher et al. NatBiotechnol 2002、Carpenito et al. ProcNatlAcadSciUSA 2009、Brentjens et al. NatMed 2003) で示唆されていたin vitroおよび動物モデルでの共刺激の機能増強が、本邦の試験内対照設計によって、患者間差異を完全に除いてヒト体内で確認された点が最大の貢献である。CAR.CD19-28ζの2週後6.82倍拡大 vs CAR.CD19ζの拡大なしという劇的な差異は、共刺激ドメインの臨床設計上の必要性を明確に示し、後続のUPENN (June)、MSKCC (Brentjens)、Baylor等での第二世代CAR-T試験 (Porter et al. NEnglJMed 2011、Grupp et al. NEnglJMed 2013 等) で第二世代CARが標準採用される直接的臨床根拠となった。
既存研究との比較・新規性: 本研究の最大の新規性は単一製品の評価ではなく、本研究で初めて同一患者で2製品を並行追跡する自己対照デザインを世界に先駆けて臨床実装した点にある。先行研究 (Kershaw et al. ClinCancerRes 2006 卵巣癌、Till et al. Blood 2008 NHL CD20標的) はいずれも第一世代CARの単独評価に留まり、第二世代との直接比較は不可能だった。本研究はこれら先行研究と異なり、年齢・性・前治療・腫瘍量・lymphodepletion有無・免疫状態といった主要交絡因子をすべて統計的に排除でき、わずか6例でP<0.0001の有意差を検出できた。novel な方法論である試験内対照はこれまで報告されていなかったアプローチで、第二世代CAR-T細胞臨床評価のreference designを確立した。
臨床応用への含意: 6例中に持続的奏効が得られなかったことは、CD28共刺激付加だけでは臨床効果には不十分であり、追加の戦略 — リンパ球除去前処置 (lymphodepleting chemotherapy)、IL-2併用 (Morgan et al. Science 2006 でmelanomaにおいて確立)、より長期生着を促す代替共刺激 (4-1BB、OX40)、第三世代CAR (CD28+4-1BB等の重連結) — が必要であることを示した。実際、本論文公表と同時期にUPENNのKymriah系列CTL019がCD28の代わりに4-1BB共刺激を採用し、月-年単位の長期生着を実現してB-ALL/DLBCLで持続的完全奏効を達成 (Porter et al. NEnglJMed 2011、Maude et al. NEnglJMed 2014) する流れにつながった。CD28と4-1BBの相対的特性 — CD28は急速拡大・effector化が強くearly persistenceは劣る、4-1BBは中等度拡大ながら長期memory維持に優れる — は本研究のCD28系のearly nadir (4-6週) と4-1BB系の月-年persistenceの対比として明示された (本論文時点では4-1BBデータはin press)。
残された課題: (1) 6例というサンプルサイズで用量反応性が検出できなかったため、CAR-T細胞のviability・lymphodepletionなしでの最適投与量は依然未確定。(2) 第二世代でも4-6週でnadirとなる現象の機序 — TCR-engineered T cellに対する transgene-specific immunity (Jensen 2010) かhomeostatic apoptosisか — は本論文では区別できず、再輸注後にも同じ動態が再現されたことから免疫排除一辺倒では説明できないと示唆された。(3) 持続的腫瘍縮小を得るためのlymphodepletion併用、IL-2併用、第三世代CARとの比較は本論文以降の試験課題として明示された。自己対照デザインの方法論的価値は、本研究後にCAR分子のbackbone (ヒンジ長、scFv affinity、costimulatory domain組合せ)、製造プロセス (selection of T cell subset、培養期間)、投与スケジュールの臨床評価に応用され、CAR-T最適化のreference designとして定着した点で長期的影響が極めて大きい。
方法
- 対象患者: 再発/難治性NHL患者6例 (46-59歳、n=6 patients、Supplemental Table 1)。化学療法最終投与から6週以上経過し、画像 (CT/PET) または身体所見で測定可能病変ありが組み入れ条件。Baylor College of Medicine IRBによる臨床試験プロトコル承認、US FDA、Recombinant DNA Advisory Committee承認、全例informed consent取得 (試験は2003-2009年実施、本論文ではclinical trial registration ID NCT00586391 として登録)。
- CAR-T細胞製造: 同一血液採取 (30-60 mL末梢血) から2製品を並行作製。PBMCをimmobilized OKT3 + rhIL-2 (100 U/mL) で活性化し、Day 3にfibronectin fragment (FN CH-296、Retronectin) 被覆下でレトロウイルスベクター (SFGバックボーン、PG13 gibbon ape leukemia virus pseudotyping packaging cell線) でtransduce、rhIL-2 (50-100 U/mL週2回添加) で平均13日 (range 6-18日) ex vivo拡大。
- CARコンストラクト: scFv (CD19特異的、Heddy Zola提供) + IgG1-CH2CH3 spacer + CD3ζ単独 (第一世代; CAR.CD19ζ) または CD28膜貫通+CD28細胞内 + CD3ζ (第二世代; CAR.CD19-28ζ)。両ベクターはreplication-competent retrovirus safety試験合格後にclinical grade master cell bank化。
- 投与スケジュール: 用量段階で2×10⁷/m² → 1×10⁸/m² → 2×10⁸/m²と漸増、両製品を同時 (simultaneous) 静脈内投与。2例 (患者番号は文中で特定されず) は各dose levelで両製品の投与を受けた。初回輸注6週後にstable disease/部分奏効/軽微進行 (RECIST準拠) の3例 (患者1, 3, 5) に第二回輸注を実施。
- モニタリング: Q-PCR (ABI PRISM 7900HT) でCAR.CD19ζとCAR.CD19-28ζのトランスジーンを特異的プライマー+TaqMan probeで定量 (DNAをQIAamp DNA Blood Mini Kitで抽出、ベースライン cycle 6-15、threshold = baseline蛍光+10 SD、3連測定)。患者3・5ではFACSでCD4⁺/CD8⁺サブセット分画後にQ-PCRでサブセット別寄与を解析。患者5の皮膚病変パンチ生検 (第2回輸注後2週) で免疫組織化学 (CD20、CD10、BCL2、BCL6、CD3、CD8、Fc-Cy5抗体によるCAR検出) とFACS解析を実施。
- 統計: DNA測定値は対数変換で正規性を満たした上で、paired t-test と repeated-measures ANOVA (random effects model) でCAR.CD19ζ vs CAR.CD19-28ζ の各time pointでの差を検定 (P<0.05を有意水準)。Toxicityは1, 2, 4, 6週および3, 6, 9, 12か月で問診・身体所見・臓器機能検査で評価。
- 製品同等性検証: 両製品はtransduction効率 (CAR⁺ %)、CD4:CD8比、フェノタイプ (CD45RO⁺CD62L⁺中心)、Cr-release assayでの細胞傷害活性 (Raji [CD19⁺CD80⁺CD86⁻] への特異的傷害、HDLM-2 [CD19⁻] とK562 [CD19⁻CD80⁻CD86⁻] への非反応性) で同等であることをin vitroで事前確認 (Figure 1)。