• 著者: John Maher, Renier J. Brentjens, Gertrude Gunset, Isabelle Rivière, Michel Sadelain
  • Corresponding author: Michel Sadelain (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Nature Biotechnology
  • 発行年: 2002
  • Epub日: 2002-01-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 11753365

背景

腫瘍抗原を標的とするT細胞の人工受容体導入は、がん免疫療法において極めて有望なアプローチである。これまでに報告された第1世代のキメラ抗原受容体である CAR (chimeric antigen receptor) は、TCRζ (T-cell receptor zeta) 鎖の細胞内ドメインを介した活性化シグナルである signal 1 のみを伝達する scFv-CD3ζ 構造であった。Eshhar et al. (1993) らの先行研究により、これらのCARはMHC非拘束的に腫瘍抗原を認識可能であることが示されていたが、腫瘍細胞は一般にB7.1やB7.2などの共刺激リガンドを発現しないため、signal 1 のみの刺激では完全なT細胞活性化に至らず、アネルギーやアポトーシスを誘導する問題が指摘されていた (Harding et al. 1992; Lenschow et al. 1996)。このように、腫瘍微小環境におけるT細胞の機能不全を克服するための効果的なCAR設計が不足している状況であった。

生理的なT細胞応答において、最適なリンパ球活性化にはCD28などの共刺激受容体を介した signal 2 の関与が必須である (Ward et al. 1996; Greenfield et al. 1998)。CD28シグナル非存在下でのsignal 1の伝達は、T細胞の増殖応答の低下やアネルギーを引き起こす。したがって、腫瘍抗原依存的に共刺激シグナルをT細胞に付与する「第2世代CAR」の設計は喫緊の課題であった。Krause et al. (1998) らは、scFv-CD28融合受容体が抗原依存的な共刺激シグナルを伝達し、T細胞の増殖を維持することを示したが、これは単独では細胞傷害活性を誘導しないため、完全な抗腫瘍効果には不足していた。

標的抗原として、PSMA (prostate-specific membrane antigen) は前立腺がん細胞膜に高発現し、J591抗体が臨床開発中であったため、scFv基盤として有望であった (Israeli et al. 1994; Liu et al. 1997)。しかし、単一のキメラ受容体でT細胞の増殖と細胞傷害活性の両方を誘導する設計原則は未解明であり、特にCD28とCD3ζのシグナル伝達ドメインの最適な配置については知識ギャップが残されていた。これまでの研究では、T細胞の抗腫瘍効果を最大化するためには、TCRζを介した活性化シグナルとCD28を介した共刺激シグナルの両方が必要であることが示唆されていたが、これらを単一のキメラ受容体で効率的に統合する具体的な方法論は確立されておらず、持続的な抗腫瘍効果を発揮する第2世代CARの設計原則が不足していた。

目的

本研究の目的は、PSMA (prostate-specific membrane antigen) 特異的J591 scFvを基盤として、CD3ζとCD28のシグナル伝達ドメインを単一のキメラ受容体である P28z (prostate-specific membrane antigen-specific chimeric receptor containing CD28 and CD3zeta, CD28 membrane-proximal) および Pz28 (prostate-specific membrane antigen-specific chimeric receptor containing CD3zeta and CD28, CD3zeta membrane-proximal) に組み込み、共刺激リガンドである B7.1 非存在下でもヒト初代T細胞のIL-2 (interleukin-2) 産生、増殖、および細胞傷害活性を惹起可能な構造を同定することである。特に、CD28ドメインとCD3ζドメインの相対配置がT細胞機能に与える影響を明らかにすることを目的とした。これにより、腫瘍微小環境におけるT細胞の機能不全を克服し、持続的な抗腫瘍効果を発揮する第2世代CARの設計原則を確立することを目指した。本研究は、単一のキメラ受容体でT細胞の完全な活性化と増殖を誘導し、がんの養子免疫療法におけるT細胞の機能維持と増増強に貢献する新たな設計戦略を提示することを意図している。

結果

PSMA特異的細胞傷害活性の誘導: P28z、Pz28、Pz1のいずれもPSMA+ NIH3T3標的に対して高い特異的溶解活性を示し、E:T=10:1の比率において60% vs 0% (対照群)、あるいは80% vs 0% の特異的溶解率 (lysis) を示した (Fig. 3A)。しかし、P28単独 (共刺激のみ) では細胞傷害活性は認められなかった。これは、細胞傷害機能にはCD3ζのITAM (immunoreceptor tyrosine-based activation motif) を介したsignal 1が必須であることを再確認する結果であった。P28zを発現するT細胞は、PSMA+線維芽細胞との共培養後もPSMA+標的に対する特異的溶解能を維持した (Fig. 3B)。LNCaP細胞 (PSMA+ヒト前立腺がん細胞株) に対してもPz1, P28z, Pz28は同等の細胞傷害活性を示した (Fig. 6A)。これらの結果は、CD3ζドメインを含む全てのキメラ受容体が抗原特異的な細胞傷害活性を誘導できることを明確に示した。Pz1導入T細胞の溶解活性は、P28zやPz28導入T細胞よりも若干高かったが、これはPz1の発現量が他の受容体よりも高かったためである可能性が示唆された。

B7.1非依存的IL-2産生: P28z受容体はB7.1非存在下でもPSMA依存的にIL-2を産生し、その産生量はB7.1存在下 (第1世代Pz1+B7.1共刺激) の40%から55%に達した (Table 1)。P28z導入T細胞のIL-2産生量は21,900 pg/ml (遺伝子導入効率で標準化した値は1,153) であった。一方、Pz28 (ζ膜近位構造) では有意なIL-2産生が認められず、Pz1単独ではB7.1非存在下でのIL-2産生はベースラインレベルである 50 pg/ml 未満に留まった。この結果は、CD28ドメインの膜近位配置 (P28z) がIL-2転写プログラムの活性化に必須であることを強く示唆する。Pz28導入T細胞のIL-2産生量は 50 pg/ml 未満であり、Pz1やP28zと比較して低かった。PSMAとB7.1の両方で刺激した場合、Pz1導入T細胞は164,236 pg/ml (標準化値3,285) のIL-2を産生し、P28z導入T細胞の52,936 pg/ml (標準化値2,786) と同程度の高い産生量を示した。

長期増殖能と機能維持: P28z+ T細胞はPSMA+ AAPCによる週次刺激で3週間にわたり100倍以上 (2-log以上) の増殖を達成し、これは第1世代Pz1+ T細胞の増殖 (5倍から10倍) を大きく上回った (Fig. 5E)。P28z+ T細胞は増殖後もPSMA特異的細胞傷害活性 (E:T=5:1で50%以上) を維持し、機能的疲弊を伴わない抗原刺激応答性を示した。Pz1+ T細胞はPSMA単独刺激では増殖が限定的であり、再刺激により細胞数が劇的に減少した (Fig. 5A, B)。対照的に、P28z+ T細胞はB7.1の有無にかかわらず、PSMA単独刺激で初回刺激後および再刺激後もCD4+およびCD8+ T細胞の両サブセットで細胞数が増加した (Fig. 5C, D)。LNCaP細胞との共培養においても、P28zのみが持続的な増殖を誘導した (Fig. 6B)。P28z導入T細胞は7日間で 8.6 ± 5.2 倍の細胞数増加を示した (n=8 experiments)。

CD4+・CD8+両サブセットでの機能: P28z受容体はCD4+ T細胞 (ヘルパーT細胞様機能) でもCD8+ T細胞 (細胞傷害性T細胞様機能) でもIL-2産生能と増殖能を付与可能であり、全T細胞レパトリーに適用可能な設計であることが確認された (Fig. 5F)。P28z導入T細胞のCD4+およびCD8+サブセットは、PSMA単独刺激後も細胞数が増加し、特にCD8+ T細胞は再刺激後も増殖を継続した。これは、P28zがT細胞の主要なエフェクターサブセットの両方で機能を発揮し、広範な抗腫瘍応答を可能にすることを示唆する。

構造-機能相関の決定的知見: 共刺激ドメイン (CD28) の膜近位配置 (P28z) と膜遠位配置 (Pz28) で機能が大きく異なり、P28zのみが完全な第2世代機能を発揮した。Pz28は細胞傷害活性やB7.1存在下でのIL-2産生・増殖能は有するものの、B7.1非存在下でのIL-2産生や持続的増殖能はPz1と同程度であり、共刺激能が著しく損なわれていた。ウェスタンブロッティング解析では、Pz28はP28zやPz1と比較してホモ二量体形成が少ないことが示唆された (Fig. 2C)。この二量体形成の欠如が、Pz28の機能不全の一因である可能性が考察された。P28z導入T細胞は、PSMA単独刺激で7日間で細胞数が 8.6 ± 5.2 倍に増加したが、Pz1導入T細胞は限定的な増殖に留まり、Pz28導入T細胞も増殖不良であった (Fig. 4C)。この結果は、CD28ドメインの膜近位配置が、T細胞の持続的な増殖とIL-2産生に不可欠な設計原則であることを明確に示している。

考察/結論

本研究は、単一分子内でsignal 1 (CD3ζ) とsignal 2 (CD28) を統合した最初の機能的「第2世代CAR」を実証し、現代のCAR-T細胞療法の技術的基盤を確立した記念碑的論文である。P28z構造がB7.1非依存的にIL-2産生、増殖、細胞傷害活性を完全に再構成することを示した点は、腫瘍細胞が共刺激リガンドを発現しないという免疫回避の根本的障壁を工学的に克服した初の成功例である。

先行研究との違い: これまでの第1世代CARやscFv-CD28融合受容体は、それぞれ単独で細胞傷害活性または共刺激シグナルのみを提供していた。本研究はこれらの先行研究と異なり、単一のキメラ受容体P28zが、共刺激リガンド非存在下でもT細胞の完全な活性化、増殖、および細胞傷害活性を誘導できることを示した点で画期的である。特に、Pz1がPSMA単独刺激でアネルギー様の挙動を示し、再刺激後に細胞数が劇的に減少したのに対し、P28zは持続的な増殖能を維持したことは対照的であった。

新規性: 本研究で初めて、CD28ドメインの膜近位配置が、T細胞の持続的な増殖とIL-2産生に不可欠な設計原則であることを明確に示した。この知見は、その後の全ての第2世代および第3世代CAR設計に採用された膜近位共刺激ドメイン配置の原則を確立した。また、P28zがCD4+およびCD8+ T細胞の両サブセットにおいて機能性を発揮し、抗原特異的な2-log以上の増殖と細胞傷害活性の両立を可能にすることを新規に実証した。

臨床応用: 本知見は、がんの養子免疫療法におけるT細胞の機能と増殖を維持する上で重要な臨床的意義を持つ。PSMAを標的としたP28zの設計は、前立腺がんに対するCAR-T細胞療法の開発に直接的な応用可能性を提示した。本設計思想は、その後のCD19標的CAR-T細胞療法の臨床開発へと発展し、最終的に複数のFDA承認製品として結実した。本設計原則はCD19以外のあらゆる腫瘍抗原標的CARで踏襲されており、その臨床的有用性は極めて高い。

残された課題: 今後の検討課題として、CD28共刺激と4-1BB共刺激によるT細胞の持続性 (persistence) とエフェクター機能 (effector function) のトレードオフの解明が残されている。また、共刺激ドメインを組み合わせた第3世代・第4世代CARの最適化、および腫瘍微小環境における抑制シグナルへの対抗戦略なども本研究を起点として発展した。本研究のlimitationとしては、評価がin vitroに限定されており、生体内での有効性や安全性についてはさらなる検証が必要である点が挙げられる。

方法

PSMA標的J591 scFvにCD8α hinge/膜貫通ドメインを連結した共通骨格を用い、4種類のキメラ受容体である Pz1 (prostate-specific membrane antigen-specific first-generation chimeric receptor containing CD3zeta only)、P28 (prostate-specific membrane antigen-specific chimeric receptor containing CD28 only)、P28z、Pz28を設計した (Fig. 1A)。Pz1は第1世代CARとしてsignal 1のみを伝達し、P28は共刺激のみを伝達する。P28zはCD28膜近位・ζ遠位の構造を持ち、Pz28はζ膜近位・CD28遠位の構造を持つ。これらのキメラcDNAは、eGFP (enhanced green fluorescent protein) をコードするSFG oncoretroviral vectorにクローニングされ、健常ドナー由来ヒト末梢血Tリンパ球 (PBL、CD4+およびCD8+両方) に遺伝子導入された (Fig. 1B)。レトロウイルス粒子はギボン類白血病ウイルスエンベロープ偽型化され、レトロネクチンをコートしたプレート上でT細胞に導入された。遺伝子導入効率はフローサイトメトリーで20%から70%の範囲であった (Fig. 2A)。CD4+およびCD8+T細胞サブセットは同様の効率で導入された (Fig. 2B)。

機能評価は以下の通り実施された。(a) PSMA+ NIH3T3細胞との共培養での 51Cr release 細胞傷害アッセイ、またはLDH (lactate dehydrogenase) 検出キットを用いた非放射性細胞傷害アッセイ、(b) ELISAでのIL-2上清濃度測定 (B7.1有無の条件)、(c) 週次PSMA+ AAPC (artificial antigen presenting cells) 刺激による3週間増殖アッセイ、(d) 抗原特異的持続的細胞傷害能の確認。対照はPSMA- NIH3T3親株およびPSMA非関連対照細胞であった。ウェスタンブロッティングにより、ζ鎖含有融合受容体の発現とホモ二量体形成が確認された (Fig. 2C)。統計解析には片側 Student’s t-test が用いられた。細胞培養はRPMI + 10%ヒト血清中で行われ、フィトヘマグルチニン (2 µg/ml) で2日間活性化された後、レトロウイルス導入が実施された。LNCaP細胞を用いた実験では、T細胞と腫瘍細胞の比率を5:1として毎週共培養された。細胞数は、経時的にトリパンブルー排除法により計測され、増殖曲線が作成された。IL-2産生は、共培養上清を回収し、ELISAキットを用いて測定された。検出限界は50 pg/mlであった。