• 著者: Jialu Guan, Lingfeng Guo, Shuo Ning, Wenxi Zhao, Tong Wang, Jingjing Wang, Zhen Qi, Jingjing Huang, Jianqi Wang, Yuanfeng Gong, Tiemin Pei, Qinghui Meng, Huayang Pan
  • Corresponding author: Huayang Pan (Department of General Surgery, First Affiliated Hospital of Harbin Medical University, Harbin, China)
  • 雑誌: Oncogene
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-06-29
  • Article種別: Original Article
  • DOI: 10.1038/s41388-026-03890-x

背景

大腸癌 (CRC) は世界で最も罹患率・死亡率の高い悪性腫瘍の一つであり、その進行・転移が予後を規定する。腫瘍微小環境 (TME) 内の癌関連線維芽細胞 (CAF) は腫瘍の増殖・浸潤・治療抵抗性を促進する最も優勢なストローマ成分であり、エクソソームを介した細胞間コミュニケーションが鍵を担う (Chhabra et al. Cell 2023)。エクソソームはタンパク質・脂質・各種 RNA (mRNA / miRNA / lncRNA / circRNA) を内包して細胞間に伝達し、癌の進行に深く関与することが明らかになっている (Wang et al. NatRevCancer 2026)。特に CAF 由来エクソソームに含まれる非コード RNA が複数のがん種で転移・薬剤耐性を促進することが報告されているが、CRC における circRNA を介した具体的な機序は不明な点が多かった。

フェロトーシスは鉄依存性の制御型細胞死であり、脂質過酸化の蓄積と System Xc−/Solute Carrier Family 7 Member 11 (SLC7A11) 軸を介したグルタチオン (GSH) 代謝が中心的役割を果たす。近年、フェロトーシスの制御がCRCを含む複数の腫瘍種の進行において重要な役割を担うことが認識されているが (Kang et al. NatRevClinOncol 2026)、CAF と腫瘍細胞のクロストークがフェロトーシスをどのように調節するかは明らかでなかった。さらに、O-GalNAcylation(ムチン型 O-グリコシル化)はがん転移・免疫回避・代謝リプログラミングに関与するが、circRNA-グリコシル化-フェロトーシスという調節軸はこれまで報告されていなかった。既存研究では CAF 由来 circRNA のフェロトーシス制御への関与、ならびにO-GalNAcylation が SLC7A11 の膜局在を制御するメカニズムについてデータが不足しており、この点が不明であった。本研究は、CAF に高発現する circRNA がエクソソームを介して CRC 細胞に転送され、後翻訳修飾を経由してフェロトーシス抵抗性を付与するという未解明の機序の解明を目的とした。

目的

CAF 由来エクソソームに内包される circLDLR (hsa_circ_0003892) の CRC における発現・局在・機能を明らかにし、circLDLR→GALNT14 安定化→SLC7A11 O-GalNAcylation→フェロトーシス抑制という新規シグナル軸を in vitro および in vivo で検証するとともに、EIF4A3 による circLDLR 生合成制御を解明する。

結果

circLDLR の同定とCAFへの優位な発現

GEO データベースの2つの独立した CRC データセット (GSE126094、GSE147597) を解析し、CRC で上方制御される circRNA を同定した結果、7 種類の候補 circRNA が抽出された (Fig. 1A)。これら7種について43組の CRC 組織と隣接正常組織を用いた qRT-PCR 解析を行い、hsa_circ_0003892 (circLDLR) が最も有意な発現差を示すことを確認した (Fig. 1B)。circLDLR は Low-Density Lipoprotein Receptor (LDLR) 遺伝子のエクソン13〜16 のバックスプライシングにより生成され (Sanger 配列決定により接合部を確認)、divergent プライマーにより cDNA のみで増幅可能であり、RNase R 処理に対して安定性を示すことで環状構造を確認した (n = 3、Fig. 1C–E)。RNA FISH 解析では circLDLR が CRC 組織の上皮細胞ではなく間質細胞の細胞質に優位に局在し (Fig. 1F)、Vimentin 免疫蛍光との共局在実験により circLDLR が CAF に優位に発現することを確認した (Fig. 1G)。43組の患者由来 CAF および NF (正常線維芽細胞) での qRT-PCR では、circLDLR 発現は NF と比較して CAF で有意に上昇していた (Fig. S2B)。

CAF由来エクソソームによる circLDLR の CRC細胞への転送と腫瘍進行促進

CAF/NF 培養上清から超遠心法 (2,000×g 30分→10,000×g 30分→120,000×g 70分) でエクソソームを精製し、透過型電子顕微鏡 (TEM) で直径約 100 nm のカップ型構造物として観察した。ナノ粒子トラッキング解析 (NTA) および CD81・CD63・TSG101 陽性/Calnexin 陰性の Western blot によりエクソソームを同定した (Fig. 2A, B、ISEV2023 準拠)。PKH67 標識エクソソームは共焦点顕微鏡観察で CRC 細胞内に取り込まれることを確認した (Fig. 2C)。Cy3 標識 circLDLR 導入 CAF との共培養では CRC 細胞内で標識 circLDLR が増加し、エクソソーム分泌阻害剤 GW4869 および Rab27a ノックダウンにより消失した (n = 5、Fig. 2D–F)。circLDLR の過剰発現または欠失を行った CAF 由来エクソソームを CRC 細胞に添加すると、増殖・遊走・浸潤能がそれぞれ増強または減弱した (n = 3、Fig. 2G, H)。これらの結果は、CAF 由来エクソソームが circLDLR を CRC 細胞へ転送し腫瘍進行を促進することを示す。

circLDLR によるフェロトーシス抑制機構の解明

CAF (sh-circLDLR) 由来エクソソームで処理した CRC 細胞に各種細胞死阻害剤を添加したところ、フェロトーシス阻害剤 liproxstatin-1 (Lip-1) および ferrostatin-1 (Fer-1) のみが細胞死を回復させ、ネクロトーシス阻害剤 Nec-1・アポトーシス阻害剤 Z-VAD・オートファジー阻害剤 3-MA は効果を示さなかった (Fig. 3A)。フェロトーシス誘導剤エラスチン (10 μM) による細胞死は、CAF (sh-NC) 由来エクソソームと Lip-1 (1 μM) で有意に抑制されたが、CAF (sh-circLDLR) 由来エクソソームでは抑制されなかった (Fig. 3B)。さらに、細胞内脂質過酸化レベル (BODIPY 581/591 C11 アッセイ)、ミトコンドリア過酸化物 (MitoSOX)、ミトコンドリア膜電位 (MMP)、Fe2+ および総鉄量はいずれも CAF (sh-NC) 由来エクソソームにより正常化され、TEM ではフェロトーシス特有のミトコンドリア収縮・膜濃度上昇が抑制された (n = 3–5、Fig. 3C–H)。これらの結果から、CAF 由来エクソソーム circLDLR がフェロトーシスを抑制して CRC 進行を促進することが確認された。

circLDLR による GALNT14 タンパク質安定化—ZNRF2 介在ユビキチンプロテアソーム経路の阻止

circLDLR の細胞質局在を核-細胞質分画 FISH で確認した後 (Fig. 4A)、RNA 免疫沈降 (RIP) アッセイで ceRNA として機能せず AGO2 に結合しないことを確認した (Fig. 4B)。circRNA pull-down と質量分析 (MS) により结合タンパク質を同定し (Fig. 4C)、その中から GALNT14 (Polypeptide N-Acetylgalactosaminyltransferase 14) を標的として選択した。RIP アッセイで circLDLR-GALNT14 結合を確認し (n = 5、Fig. 4D)、変異体解析により circLDLR の 296–466 nt 領域が GALNT14 との結合に必須であることを同定した (Fig. 4H)。circLDLR の発現量は GALNT14 タンパク質量と正相関したが mRNA 量とは相関しなかった (Fig. 4G)。シクロヘキシミド (CHX、50 μg/mL) チェイス実験で circLDLR 過剰発現が GALNT14 の半減期を延長し (Fig. 4I)、リソソーム阻害剤 CQ (10 μM) ではなくプロテアソーム阻害剤 MG-132 (10 μM) により GALNT14 の発現低下が回復したことから (Fig. 4J)、ユビキチンプロテアソーム経路が GALNT14 分解を担うことを確認した。K48-only / K63-only / K29-only 各種ユビキチン変異体を用いた実験により、circLDLR 過剰発現が K48 連結ポリユビキチン化を特異的に減少させることを示した (Fig. 4L)。E3 ユビキチンリガーゼとして UbiBrowser 2.0 による予測および STARBASE データベース解析から ZNRF2 を同定し、CO-IP により ZNRF2-GALNT14 相互作用を確認した (Fig. 4M)。ZNRF2 過剰発現は MG-132 で救済される形で GALNT14 を減少させ (Fig. 4N)、CHX チェイス実験でも GALNT14 半減期を短縮し (Fig. 4O)、K48 選択的ユビキチン化を指示した (Fig. 4P)。以上から、circLDLR は GALNT14 と直接結合して ZNRF2 との相互作用を阻害し、K48 連結ユビキチンプロテアソーム経路による分解から GALNT14 を保護することが確立された。

GALNT14 による SLC7A11 O-GalNAcylation と膜局在の制御—フェロトーシス耐性の分子基盤

GALNT14 の過剰発現・欠失が O-GalNAcylation 全体の増減をもたらすことを確認した後 (Fig. S8A, B)、System Xc−(SLC7A11)/ GCL / GPX4 / FSP1 の各経路に対するフェロトーシス誘導剤を用いた実験で、GALNT14 過剰発現が System Xc− 標的誘導剤によるフェロトーシスのみを抑制することを示した (Fig. 6A)。GALNT14 欠失による細胞死は、System Xc− 下流産物の N-アセチルシステイン (NAC) および GSH の補充で救済された (Fig. 6B, C)。SLC7A11 の重要な機能サブユニットとして、Western blot と免疫蛍光解析により GALNT14 が SLC7A11 の総タンパク量を変化させることなく膜局在を有意に変化させることを確認した (Fig. 6D, E)。CO-IP と PLA アッセイで SLC7A11-GALNT14 相互作用を確認し (Fig. 6F, G)、GALNT14 の過剰発現・欠失が SLC7A11 の O-GalNAcylation レベルを増減させることを示した (Fig. 6H)。NetOGlyc-4.0 による O-GalNAcylation サイト予測 (S8, T9, S26, T218) をもとに各変異体を構築した結果、S26R 変異のみが SLC7A11-GALNT14 相互作用を消失させた (VVL レクチンブロット、CO-IP、Fig. 6J)。S26R 変異体は n = 5 の生物学的反復実験において増殖・遊走・浸潤の促進効果を救済できず (Fig. S9A, B)、O-GalNAcylation レベル・GSH 産生・シスチン取り込みを回復させず (n = 5、Fig. 6K–M)、SLC7A11 の膜局在を維持できないことを確認した (Fig. 6N, O)。以上から、GALNT14 は SLC7A11 の Ser26 を O-GalNAcylation して膜局在を促進することでシスチン取り込み→GSH 産生を増強し、フェロトーシスを抑制することが確立された (Kuganesan et al. SciAdv 2026)。

In vivo における腫瘍増殖・転移促進の検証

ヌードマウス皮下異種移植モデル (n = 6/群、BALB/c ヌードマウス雌、4〜6 週齢) を用い、CRC 細胞単独投与、CAF (Vector/OE-circLDLR/sh-circLDLR) との混合投与 (比率 1:1、3×106 CRC 細胞)、および CAF (sh-circLDLR) + CAF-NC エクソソームの救済群で腫瘍体積を 5 日ごとに 20 日間測定した。CAF 共移植が腫瘍増殖を促進し (Fig. 7A)、OE-circLDLR CAF でさらに増強、sh-circLDLR CAF で抑制され、CAF-NC エクソソームの追加で腫瘍増殖が回復した (Fig. S12A)。肺転移モデル (尾静脈注射、n = 6/群) では sh-circLDLR CAF が肺転移を抑制し、CAF-NC エクソソーム追加で転移が回復した (Fig. 7B, C)。肝転移モデル (脾臓内注射、n = 6/群、3 週間後解析) では OE-circLDLR CAF が腫瘍結節数を増加させた (Fig. S12B, C)。IHC では sh-circLDLR CAF が Ki67・GALNT14 発現を低下させ 4HNE (脂質過酸化マーカー) を増加させ、CAF-NC エクソソームがこれを逆転させた (Fig. 7D–F)。Eukaryotic Translation Initiation Factor 4A3 (EIF4A3) については、CircInteractome 解析で circLDLR 上流イントロン領域に EIF4A3 結合サイトが 7 カ所予測され、RNA pull-down で直接結合を確認し、EIF4A3 過剰発現・欠失が CAF における circLDLR 発現を増減させた。IHC では EIF4A3 が CRC 組織で高発現し circLDLR 発現と正相関していた (Fig. S11E, F)。

考察/結論

① 先行研究との違い:既存のフェロトーシス制御機構の多くは SLC7A11 の総タンパク量や安定性の制御に焦点を当てており、O-GlcNAcylation が SLC7A11 の活性を調節するとの報告も存在したが、その分子的基盤は不明であった。これと異なり、本研究は GALNT14 介在の O-GalNAcylation が SLC7A11 の総量を変化させることなく Ser26 特異的な修飾を介して膜局在を制御するという全く新しい制御様式を示した点で従来の知見と対照的である。FSP1 における N-ミリストイル化依存性膜局在制御との概念的類似性を指摘しつつも、SLC7A11 の空間的再分配という全く異なる調節次元を明らかにした。

② 新規性:本研究で初めて circRNA-O-GalNAcylation-フェロトーシスという3要素を結びつける調節軸を同定し (Gan et al. AdvSci 2026)、CAF 由来エクソソーム circLDLR が GALNT14 の ZNRF2 介在 K48 連結ユビキチン化を阻止することで SLC7A11 Ser26 の O-GalNAcylation を促進し、膜局在を制御するという新規なシグナル軸を提示した。GALNT14 を O-GalNAcyltransferase として SLC7A11 基質上で機能させる知見はこれまでにない。

③ 臨床応用:circLDLR は CAF から CRC 細胞へとエクソソームを介して転送されるため、エクソソーム circLDLR 転送を遮断すること(GW4869 等のエクソソーム分泌阻害、Rab27a 経路阻害)が CRC の新規治療戦略となりうる。GALNT14 または circLDLR 自体が診断バイオマーカーとしての臨床的意義を持つ可能性があり、液性生検としての血中エクソソーム circLDLR 測定は腫瘍微小環境モニタリングへの臨床応用が期待される。SLC7A11 膜局在の Ser26 O-GalNAcylation は、フェロトーシス誘導療法への耐性機序として CRC 治療における新たな創薬標的となりうる。

④ 残された課題:EIF4A3 が circLDLR のバックスプライシングを直接制御するかどうかの分子的詳細は今後の検討が必要である。また、患者由来 CRC オルガノイドや臨床試験への応用には更なる検討が求められる。さらに circLDLR がすべての CRC サブタイプ (MSI-H / MSS など) において等しく機能するかどうかも今後の研究課題である。エクソソーム circLDLR を標的とした治療戦略の前臨床・臨床開発に向けては、循環エクソソームでの測定感度や薬物送達の観点からの最適化が今後の重要課題となる。

方法

研究デザイン:基礎科学研究 (in vitro + in vivo)。CRC 患者由来組織 43 組(腫瘍・隣接正常)を用いた患者検体解析と、ヌードマウス皮下異種移植・肺転移 (尾静脈注射)・肝転移 (脾臓内注射) モデル (n = 6/群、雌 BALB/c ヌードマウス 4〜6 週齢) を実施。倫理委員会承認 (IRB-AF/SC-04/02.2、動物倫理 2023089)。

細胞株・培養:HCT116 (McCoy’s 5A)、HT29 (McCoy’s 5A)、RKO (MEM)、LOVO (Ham’s F-12K)、SW620、SW480、HEK293T、NCM460 (DMEM) を使用。全細胞はマイコプラズマ陰性確認済み、継代数 10 回未満。患者由来 CAF および NF はコラゲナーゼ II 消化・DMEM/F12 (15% FBS) で培養、α-SMA・FAP・Vimentin で同定。

エクソソーム単離・同定 (ISEV2023 準拠):無血清 DMEM/F12 で 48 時間培養した条件培地を differential ultracentrifugation (差速超遠心法) で精製—2,000×g 30分 (死細胞除去)→10,000×g 30分 (細胞デブリ除去)→120,000×g 70分 (エクソソームペレット回収)、0.22 μm フィルタ通過。characterization マーカー: CD81・CD63・TSG101 陽性 / Calnexin 陰性 (Western blot)。サイズ: NTA (ZetaView PMX 110、Particle Metrix) で直径約 100 nm、形態: TEM (FEI Tecnai G2 Spirit) でカップ型構造。

分子生物学的手法:qRT-PCR (PrimeScript RT + SYBR Green)、RNA FISH (RiboBio、Cy3 標識プローブ)、RIP (Magna RIP Kit)、RNA pull-down + 質量分析 (MS)、CO-IP、近接ライゲーションアッセイ (PLA、DuoLink)、Western blot (PVDF、Odyssey)、VVL/PNA レクチンブロット、IHC (Ki67・GALNT14・4HNE)、CHX チェイスアッセイ (50 μg/mL)、MG-132 (10 μM)、CQ (10 μM)。フェロトーシスアッセイ:脂質過酸化 (BODIPY 581/591 C11)、MitoSOX (MCE)、JC-1 (MMP)、鉄アッセイキット (APPLYGEN/Beyotime)。

統計解析:GraphPad Prism 8.0 使用。2 群比較は unpaired two-sided Student’s t 検定、3 群以上は一元配置分散分析 (one-way ANOVA) + Tukey’s post-hoc test。データは mean ± SD、n ≥ 3 生物学的反復。有意水準 ns / *P < 0.05 / **P < 0.01 / ***P < 0.001 / ****P < 0.0001。