• 著者: John Scholler, Troy L. Brady, Gwendolyn Binder-Scholl, Wei-Ting Hwang, Gabriela Plesa, Kristen M. Hege, Ashley N. Vogel, Michael Kalos, James L. Riley, Steven G. Deeks, Ronald T. Mitsuyasu, Wendy B. Bernstein, Naomi E. Aronson, Bruce L. Levine, Frederic D. Bushman, Carl H. June
  • Corresponding author: Carl H. June (University of Pennsylvania Perelman School of Medicine, Philadelphia, PA, USA)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-05-02
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22553251

背景

ガンマレトロウイルスベクター (gammaretroviral vector) は遺伝子治療の黎明期から広く用いられてきた主要な遺伝子導入ツールであるが、宿主ゲノムへのランダムな統合に伴う挿入変異誘発 (insertional mutagenesis) と、それに起因する発癌リスクが長年の懸念事項であった。実際に、X連鎖重症複合免疫不全症 (SCID-X1: X-linked severe combined immunodeficiency) に対する造血幹細胞遺伝子治療では、ベクターがプロト癌遺伝子である LMO2 (LIM domain only 2) 遺伝子近傍に挿入されたことで、複数の患者においてT細胞白血病が発症したことが報告されている (Hacein-Bey-Abina et al. 2008)。また、β-サラセミアの遺伝子治療においても、レンチウイルスベクターの HMGA2 遺伝子座への挿入に伴うクローン性増殖が観察され、遺伝子治療分野全体における長期安全性の評価は極めて重要な課題となった (Cavazzana-Calvo et al. 2010)。

CAR-T (chimeric antigen receptor T) 細胞療法などの成熟T細胞を対象とした遺伝子改変技術は、造血幹細胞とは異なり挿入変異に対する脆弱性が低い可能性が基礎研究レベルで示唆されていた。しかし、ヒトの体内における10年を超えるような超長期の安全性に関する大規模な臨床データはこれまで存在せず、成熟T細胞におけるレトロウイルス挿入の遺伝毒性リスクは未解明なままであった。さらに、これまでの遺伝子改変T細胞を用いた臨床試験では、投与された細胞の持続性が極めて低く、半減期は30日未満と報告されていた (Morgan et al. 2005、Riddell et al. 1996、Ranga et al. 1998)。このため、前処置としてのリンパ球枯渇療法を行わない条件下において、遺伝子改変T細胞が長期にわたって生着・持続できるかどうかについても大きな知識ギャップが存在していた。

このように、成熟T細胞におけるレトロウイルスベクターの長期安全性、および遺伝子改変T細胞の長期持続性に関するヒトでのエビデンスが決定的に不足しているという課題があった。本研究は、この重大な knowledge gap を解消するため、CD4ζ CAR-T細胞を投与されたHIV感染患者の長期追跡コホートを対象に、10年以上の歳月をかけた安全性と機能的持続性の評価を実施した。

目的

本研究の目的は、gammaretroviral vector を用いて遺伝子改変されたCD4ζ CAR-T細胞を投与されたHIV感染患者43名において、投与後10年以上の超長期にわたる安全性、持続性、および導入遺伝子の機能保持を検証することである。

具体的には、第一に、定量的PCR (qPCR) 法を用いて末梢血中のCAR-T細胞の長期的な動態を追跡し、その消失半減期を数学的モデルによって正確に推定する。第二に、linear amplification-mediated PCR (LAM-PCR: 線形増幅媒介PCR) 法とハイスループットシーケンシングを組み合わせ、ゲノム上のベクター挿入部位の分布パターンを網羅的に解析することで、特定のクローン性増殖や癌遺伝子近傍への挿入富化が生じていないかを検証する。第三に、長期間体内に存在したCAR-T細胞が、依然として導入遺伝子を転写・発現し、抗原刺激に対して特異的な機能的応答 (サイトカイン産生や増殖能) を維持しているかを ex vivo 解析により明らかにする。これらを通じて、成熟T細胞におけるレトロウイルス遺伝子導入の長期安全性を実証し、今後の幅広い疾患に対するCAR-T細胞療法の臨床応用における安全性の科学的基盤を確立することを目指した。

結果

長期的な生着持続性の実証: 3つの臨床試験に登録された43名の患者から得られた、投与後1年から11年までの計221サンプルのうち、212サンプル (95.9%) においてCD4ζ CAR-T細胞が安定して検出された (Fig. 1A)。特に、投与後11年が経過した時点においても、評価可能な患者の98% (42/43名) でCAR-T細胞の生着が確認された (Fig. 1B-D)。多くの患者において、PBMC中のCAR-T細胞の頻度は 0.01% から 0.1% の範囲で維持されており、一部の症例では 0.1% を超える高頻度での生着が10年以上にわたり持続していた。解析に用いたPBMCサンプルは、各測定ポイントにおいて十分な細胞数が確保された (n=1,000,000 cells)。

16年を超える推定消失半減期: 線形混合効果モデルを用いた統合解析の結果、投与後1年から9年までのCAR-T細胞の平均対数減衰率は -0.074 log10 copies/year (95% CI: -0.107 to -0.041, p=0.001) であった (Table 1)。この減衰率から算出されたCAR-T細胞の消失半減期 (t 1/2) は 16.0年 を超えると推定された。プロトコル別の解析では、Deeks試験で半減期 24.5年 (95% CI: 13.3-235.9)、Mitsuyasu試験で 16.5年 (95% CI: 10.5-50.1)、Aronson試験で 17.5年 (95% CI: 10.2-80.2) であった。この極めて緩やかな減衰速度は、事前のリンパ球枯渇療法を行わない条件下において、遺伝子改変成熟T細胞が半永久的に体内で維持され得ることを示している。

挿入変異に伴う遺伝毒性および有害事象の不在: 計540患者年 (patient-years) 以上の長期追跡期間において、ベクター挿入変異に起因する白血病、リンパ腫、その他の血液悪性腫瘍、または骨髄異形成などの有害事象は1例も認められなかった (発生率 0/540人年)。Poisson分布に基づく統計的推定により、本治療における真の遺伝毒性有害事象発生率は 95% 信頼区間において 0.0068/人年 未満 (約147患者年に1回以下) であることが示された。

クローン増殖の否定と多様性の維持: LAM-PCRおよび454シーケンシングにより、11名の患者から計7,222箇所のユニークなベクター挿入部位を同定した。投与前後のサンプルにおけるゲノム挿入パターンを比較した結果、遺伝子密度が高い領域や転写活性領域、CpGアイランド近傍に挿入されやすいという gammaretrovirus 特有の初期統合傾向は維持されていたが、投与後に特定の挿入部位を持つクローンが異常に優占する現象 (clonal expansion) は観察されなかった (Fig. 3A)。最も高頻度に検出された単一クローンであっても、全シーケンスリードの 15% 未満にとどまっており、シャノン指数およびGini係数を用いた解析でも多様性が高度に維持されていることが裏付けられた。さらに、LMO2 などの癌関連遺伝子の5’末端から50 kb以内の領域における挿入頻度を評価したところ、投与前の細胞製品と比較して、投与後の末梢血サンプルにおいて有意な富化は認められなかった (p>0.05) (Fig. 3B)。

長期生存細胞における機能と転写活性の保持: 投与後2年から10年が経過した13名の患者から採取したPBMCの解析において、CD4ζ mRNAの転写活性が安定して検出され、その発現量はゲノムDNA中のCARコピー数と有意に相関していた (p=0.0018) (Fig. 2A)。この結果は、10年以上の長期にわたり、導入遺伝子のサイレンシング (遺伝子発現抑制) が生じていないことを示している。さらに、凍結保存された患者PBMC (n=1,000,000 cells) を用いた ex vivo 抗原刺激アッセイにおいて、CD4ζ CAR-T細胞は抗原刺激に反応して 3-fold から 13-fold の特異的な増殖を示し (Fig. 2C)、サイトカイン産生能および標的細胞に対する殺細胞活性を保持していることが確認された。この増殖アッセイは、抗CD4抗体を提示した人工抗原提示細胞を用いて、複数回の刺激サイクルを経て評価された (3-fold increase / 13-fold increase)。

考察/結論

本研究は、gammaretroviral vector を用いて遺伝子改変されたCAR-T細胞が、ヒト体内において10年以上の超長期にわたり、遺伝毒性を伴うことなく安全に持続し、かつその生物学的機能を維持し続けることを大規模な臨床データに基づいて実証した初の報告である。

先行研究との違い: 造血幹細胞を対象とした従来の遺伝子治療研究では、レトロウイルスベクターの挿入変異誘発による白血病発症リスクが大きな課題とされてきたが (Hacein-Bey-Abina et al. 2008)、本研究の結果はそれらと対照的であり、成熟T細胞においては同様の挿入変異が生じても悪性腫瘍化のリスクが極めて低いことを示した。また、従来の遺伝子改変T細胞の臨床試験では、細胞の生存半減期が30日未満と極めて短かったのに対し (Morgan et al. 2005)、本研究では半減期が16年を超えるという驚異的な持続性が示された。この持続性の違いは、T細胞の恒常性維持機構がクローンレベルでの競合によって厳密に制御されていることに起因すると考えられる。

新規性: 本研究で初めて、遺伝子改変成熟T細胞がヒトにおいて10年以上にわたり、クローン偏向や悪性化を伴わずに安全に生着し続けることを、網羅的な挿入部位解析 (LAM-PCR/454シーケンシング) を用いて科学的に証明した。これは、レトロウイルスベクターの遺伝毒性リスクが標大細胞の分化段階 (造血幹細胞か成熟T細胞か) に依存するという「細胞型特異的な安全性プロファイル」を新規に提示したものである。

臨床応用: 本知見は、CAR-T細胞療法の長期安全性に関する強固なエビデンスを提供し、FDA等の規制当局による承認審査における重要な科学的マイルストーンとなった。特に、当時臨床開発が急速に進んでいた腫瘍領域におけるCAR-T細胞療法、例えばCD19を標的とした Brentjens et al. Blood 2011Pule et al. NatMed 2008Till et al. Blood 2008、および Lamers et al. JClinOncol 2006 などの長期安全性に対する信頼性を大きく補強した。また、事前の侵襲的なリンパ球枯渇療法を行わなくても、適切な培養技術とCARシグナル (tonic signaling等) があれば、細胞が長期にわたり安定生着できることを示した点でも臨床的意義が大きい。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で評価されたCD4ζ CAR-T細胞はHIV治療において臨床的なウイルス抑制効果が限定的であったため、今後はCCR5ノックアウト技術や多価抗体CARを組み合わせた次世代HIV CAR-Tの創出が必要である。また、現在の超高用量CAR-T細胞療法や、CRISPR/Cas9等のゲノム編集技術を用いた次世代細胞製品における同様の超長期安全性・遺伝毒性評価が今後の重要な研究方向性となる。

方法

対象患者コホートと臨床試験: 本研究は、1996年から2000年にかけて実施された3つのオープンラベル Phase I/II 臨床試験に登録され、CD4ζ CAR-T細胞の投与を受けた計43名のHIV感染患者を対象とした。対象となった試験は、Mitsuyasu試験 (Blood 2000)、Deeks試験 (Mol Ther 2002)、およびAronson試験 (clinicaltrials.gov ID: NCT01013415) である。患者は投与後、FDA (U.S. Food and Drug Administration) のガイドラインに基づき、最長15年間にわたる長期フォローアッププログラムに登録され、定期的な臨床評価と血液サンプルの採取が行われた。

CAR構造と遺伝子導入: 使用されたCARは、HIVのエンベロープタンパク質 gp120 を認識するCD4細胞外ドメインに、T細胞受容体のCD3ζシグナル伝達鎖を結合させたCD4ζ構造である。この遺伝子は、Moloney Murine Leukemia Virus (MLV) 由来の gammaretroviral vector を用いて、患者から採取された自己CD4+およびCD8+ T細胞に導入された。各患者には、10⁷から10¹⁰個の遺伝子改変T細胞が投与された。なお、投与にあたって事前のリンパ球枯渇化学療法 (fludarabine等) は一切実施されなかった。

CAR-T細胞の定量と半減期推定: 末梢血単核球 (PBMC) からゲノムDNA (gDNA) を抽出し、CD4ζジャンクション領域に特異的なプライマーおよびプローブを用いた定量的リアルタイムPCR (qPCR) 法により、CAR遺伝子のコピー数を測定した。アッセイの検出限界 (LOD) は約38,000細胞あたり1コピーであった。CAR-T細胞の長期減衰率および消失半減期 (t 1/2) の算出には、被験者間の初期値や減衰速度のばらつき、および経時的測定の相関を考慮できる線形混合効果モデル (linear mixed-effects model) を用いた。

導入遺伝子の転写活性および機能評価: 凍結保存されたPBMCから全RNAを抽出し、RT-qPCR法によりCD4ζ mRNAの転写活性を測定した。また、長期生存しているCAR-T細胞の機能を検証するため、抗CD4モノクローナル抗体を提示した人工抗原提示細胞 K562-KT64 (高親和性Fc受容体CD64を発現させたK562細胞) を用いて、ex vivo での特異的増殖刺激アッセイを実施した。刺激前後のCAR遺伝子コピー数を比較することで、抗原特異的な増殖能を評価した。

ベクター挿入部位解析 (Integration Site Analysis): 十分な細胞マーキングが維持されていた11名の患者を対象に、投与前の細胞製品および投与後の複数時点のPBMCからgDNAを抽出し、LAM-PCR法および454ピロシーケンシング技術を用いてベクター挿入部位を網羅的に同定した。同定された配列はヒトゲノム配列 (hg18) にマッピングされ、癌関連遺伝子 (LMO2, EVI1 (ecotropic viral integration site 1), MECOM等) の5’末端から50 kb以内の領域への挿入頻度を算出した。挿入部位の多様性とクローン優位性の評価には、シャノン指数 (Shannon index) およびGini係数を用いた。統計的比較には Fisher’s exact テストを用いた。