• 著者: Apar Kishor Ganti, Alyssa B. Klein, Ion Cotarla, Brian Seal, Engels Chou
  • Corresponding author: Apar Kishor Ganti (University of Nebraska Medical Center, Omaha, NE)
  • 雑誌: JAMA Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-10-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34673888

背景

肺がんは米国 (United States、以降US) および全世界におけるがん関連死亡の主要原因であり、NSCLCは全肺がんの約84%、SCLCが約13%を占める (Sung et al. CACancerJClin 2021 GLOBOCAN (Global Observatory) 2020統計)。歴史的にNSCLCは進行期での予後が極めて不良であり、stage IVでの5年生存率は5%未満と報告されてきた (Cetin et al. Clin Epidemiol 2011)。しかし2010年代を通じて治療と検診環境は劇的に変化した。先行研究では (1) 2011年NLST (National Lung Screening Trial、n=53,454) で低線量CT検診による肺がん死亡20%減少が報告され (Aberle et al. N Engl J Med 2011)、(2) 2013年USPSTF (US Preventive Services Task Force) の検診推奨と2015年CMS (Centers for Medicare Services) のNational Coverage Decisionによりscreening普及が制度化され、(3) EGFR-TKI (EGFR Tyrosine Kinase Inhibitor、分子標的薬)・ALK阻害薬等の分子標的薬・ICI (immune checkpoint inhibitor) の臨床導入により進行期予後が大幅に改善した (Howlader et al. NEnglJMed 2020)。さらにSBRT (stereotactic body radiation therapy) が手術不適応の早期NSCLCに対する標準治療として定着し治療選択肢が拡大した (Timmerman et al. JAMA (Journal Am Medical Assoc) Oncol 2018)。

しかし先行疫学レポートでは2014-2015年までのデータに基づく5年生存率23-25%と古い数値が引用され続けており、最新の治療進歩を反映したstage別・年齢別・性別の罹患率・有病率・初期治療パターンの統合的アップデートが不足していた (gap in knowledge)。screening普及・SBRT定着・ICI導入が同時並行的に進む2010年代末期の population-level impact は未解明であり、stage shift の実発生有無は controversial な領域として議論があった。具体的に何が足りなかったかを整理すると、(a) screening普及後の実際のstage shift発生有無、(b) SBRT普及によるstage I治療パターン変化の定量、(c) 高齢者stage IV例での治療アクセス実態、(d) ICI導入直前期 (2016年まで) のbaseline設定が未開拓であった。これら時系列の構造変化を捕捉する包括的アップデートが2010年代終盤の臨床判断・研究設計・公衆衛生介入に必要不可欠であった。

目的

米国がん統計データベース USCS (United States Cancer Statistics、= SEER-NPCR と SEER-18 を統合) を用いて、2010-2017年の米国成人NSCLC患者における (1) 年齢調整罹患率、(2) 有病率、(3) period survival法による5年相対生存率、(4) stage別・年齢別の初期治療パターン (手術・放射線・化学療法・無治療) について、最新の包括的疫学アップデートを算出することを目的とした。

結果

症例規模と組織型分布の確認:SEER-NPCR 2010-2017年に新規NSCLC n=1,280,000例 (1.28 million) が記録された (男性53%、65歳以上67%)。SEER-18でも分布類似 (男性53%、65歳以上68%、診断時年齢中央値70歳、Q1-Q3 = 63-77歳)。NSCLCは全肺がんの82.9% (SEER-NPCR) / 83.9% (SEER-18) を占め、SCLCは13.9% / 12.9%であった (Fig 1A, B)。組織型はadenocarcinoma が54.7% (SEER-NPCR) / 57.1% (SEER-18) と最多、次いでsquamous cell carcinoma 29.4% / 27.6%であった。Stage分布は2010→2017年でstage Iが24%→29%へ増加、stage IVが48%→44.1%へ減少するstage shiftが観察された (Fig 1D)。2017年単年でみるとSEER-NPCR新規NSCLCは163,716例で、うち65歳未満50,795例 (31%)、65歳以上112,921例 (69%)であった。組織型adenocarcinoma優位は喫煙率低下に伴う組織型シフトとして先行報告と整合した。

罹患率の年齢調整低下とstage shift:SEER-NPCRでNSCLC全体罹患率は2010年46.4/100,000から2017年40.9/100,000へ低下した (年率低下幅は約-1.8%/年、Fig 2A)。年齢別では65歳未満で15.5→13.5/100,000、65歳以上で259.9→230.0/100,000と両群とも低下。性別では男性が56→46.5/100,000 (-17%、p<0.001相当)、女性が39.1→36.6/100,000 (-6.4%) と男性での低下幅が大きく、男女比較で6.6倍の差を呈した。SEER-18 (43.6→37.5/100,000) でも同様の傾向。Stage別罹患率 (nationwide projection) ではstage Iが10.8→13.2/100,000へ増加 (+22%)、stage II/IIIA/IIIBは安定、stage IVが21.7→19.6/100,000へ低下 (-9.7%) であった (Fig 2B)。65歳以上ではstage IVの絶対・相対減少が最大 (108.6→85.5/100,000、-27%)、65歳未満では-17.6%であった (Fig 2D)。Year-on-year stage I incidence change rate は2015-2017年でそれぞれ+1.99%, +2.03%, +3.03%と加速しており、Medicare CT検診受検率と時間的に並走した (eTable 7)。

有病率増加と年齢層分極:NSCLC有病率は2010年175.3/100,000から2016年198.3/100,000へと増加した (+13%、年率約+2.1%、Fig 3)。65歳未満では77.5→87.9/100,000と上昇 (+13.4%)、65歳以上では825.1→812.4/100,000とわずかに低下 (-1.5%) した。65歳以上の有病率は65歳未満の約9.24倍高い (2016年:812.4 vs 87.9/100,000)。性別では女性 (210.3/100,000) が男性 (185.8/100,000) よりも有病率が高く、女性/男性比は1.13倍 (2016年データ)。罹患低下と有病増加の矛盾は生存期間延長を反映するもので、treatment-driven survival improvementの population-level signature と解釈された。Period survival法による「将来期待値ベース」の有病推計とProjPrev実装の組合せにより全米推計の精度を担保した。

5年生存率 26.4%—従来報告を上回る改善:Period survival analysisでNSCLC全体の1年生存率55.1%、5年生存率26.4%​であった (Table 1)。これは過去のSEER Cancer Statistics Reviewでの2014年版23.3% / 2015年版24.6%を上回る数値であり、絶対差+1.8〜+3.1ポイント、相対改善+7.3〜+13.3%に相当する。性別では女性5年OS 31.3%​が男性21.9%より高く (絶対差+9.4ポイント、女性/男性比1.43倍)、年齢別では65歳未満27.9% / 65歳以上25.5%と高齢者でわずかに低い (-2.4ポイント)。Stage別5年生存率:stage I 68.4% / II 45.1% / IIIA 26.2% / IIIB 17.3% / IV 5.8%​であった (stage I/IV比 = 11.8-fold)。Stage IVの65歳以上では4.6%、65歳未満では7.5%であった (1.63倍差)。Stage I の65歳未満では5年OS 74.9% に達し、65歳以上の65.3%を上回った。Period survival法は最新コホートのconditional survivalを統合するため、過去cohort survivalよりも治療進歩を早く反映する利点を持つ。

初期治療パターン—stage I SBRT普及と高齢stage IVの治療逸脱:2016年時点で全NSCLCの約23%が無治療 (no treatment)、49.5%が単独治療 (手術・化学療法・放射線のいずれか)、27.7%がmultiple treatmentsを受けた (Fig 4)。Stage I患者の放射線単独初期治療割合は2010年14.7%から2016年25.7%へと急増しSBRT普及を反映した (絶対差+11.0ポイント、相対増+74.8%)。65歳以上のstage I患者でこの増加が顕著 (17.4%→30.2%) で、65歳未満 (7.7%→12.8%) を大きく上回った。手術単独はstage I-IIIAで減少傾向を示した。一方、stage IV NSCLCでは無治療31-33% / 単独治療40-41% / multiple treatments 26-28%と年次変動が乏しく、65歳以上stage IVでは38.3%が無治療 (n約20,000例相当) で、65歳未満の22.8%を大きく上回った (オッズ比 OR 約2.10)。Multiple treatments受療率は65歳以上で20.8%、65歳未満で37.3%と高齢者で低かった (相対比0.56倍)。Stage別no treatment割合はstage I 8% / II 12.2% / IIIA 16.8% / IIIB 18.5% / IV 33.1%とstage進行に伴い上昇 (4.14倍勾配、Fig 4A)。

Translational track—screening普及と stage I 罹患の相関:本研究はadditional analysisとして、Medicare Part B 低線量CT検診受検率と stage I incidenceの年次対応を提示 (eTable 7、Spearman相関係数 r=0.92、cohort n=8年・2010-2017年、Pearson r=0.89)。検診funding開始の2015年以降、stage I罹患の year-on-year change rate は+1.99%, +2.03%, +3.03%と上昇しており、screening普及との時間的coincidenceが定量的に裏付けられた。この相関は因果推論には不十分であるが、policy intervention評価の参照軸として活用可能である。

考察/結論

①先行研究との違い:本研究は先行レポートと3つの明確な違いを持ち、これまでの単一指標 review と異なり 4-domain統合picture を提示する点で対照的である。第一に、Cetin et al. (Clin Epidemiol 2011) のstage IV NSCLC 5年OS分析が2003-2007年データで5年OS 4-5%と報告したのに対し、本研究は2010-2016年データで stage IV全体5.8%・stage I 68.4%という最新値を提示し、特にstage IIIA (26.2%) ・stage IIIB (17.3%) のintermediate stage予後改善を初めて定量化した。第二に、Lu et al. (Cancer Manag Res 2019) のSEER単独4-decade trend reviewが全肺がん合算で罹患trendsを描いたのに対し、本研究はSEER-NPCR national coverage (95%) とstage別breakdownを統合し罹患・有病・生存・治療の4-domain統合pictureを提示した。第三に Howlader et al. NEnglJMed 2020 のmortality analysisが治療進歩→死亡低下の因果リンクをmodel-based attribution で示したのに対し、本研究はincidence-prevalence-survival-treatmentのraw observable evidenceを提示し、population-level signatureとして補完した。

②新規性:本研究で新たに示した novel な貢献は以下である — (1) Period survival法で「最新コホートの条件付き生存を統合する」ことで、過去5年累積cohortのlag biasを補正し最新治療効果を反映した推定値 (26.4% vs 23.3%) を提示した点。(2) stage I罹患増加とMedicare CT検診受検率増加の時間的coincidence (eTable 7、Spearman r=0.92) を直接対比し、policy interventionの population-level effect定量評価の枠組みを提示。(3) 65歳以上stage IVの38.3%無治療率という具体的数値で高齢者治療格差を可視化し、その後のgeriatric oncology政策議論の参照軸を提供。(4) SBRT普及がstage I NSCLC治療パターンを再構築している実態 (65歳以上で放射線単独17.4%→30.2%) を時系列で定量化し、外科治療と非侵襲的治療の代替関係の population-level evidenceを世界で初めて提示した。

③臨床応用:本研究の罹患・有病・生存数値は米国におけるNSCLC治療開発の市場規模推定、医療資源配分計画 (CMS Medicare予算配分)、臨床試験のscreening eligibility設計の参照点として直接利用可能である。高齢stage IVの無治療率38.3%​は、CGA (Comprehensive Geriatric Assessment、高齢者総合機能評価)・frailty評価ツールの積極導入による治療適応判断の標準化、geriatric oncology専門外来の整備、社会的支援 (送迎・服薬管理) の充実によって改善余地がある領域として明確化された。Stage I SBRT普及は手術不適応例の治療選択肢として実臨床に定着しており、放射線腫瘍医・外科医・呼吸器内科医の協働 (multidisciplinary tumor board) によるstage I治療方針決定の重要性を支持する。Screening普及によるstage shiftは Adams et al. Lancet 2023 のscreening review、Potter et al. AnnThoracSurg 2023 のNLST後再発解析と接続し、screening普及のoutcome benefit評価枠組みを提供する。さらに Goldstraw et al. Lancet 2011 のNSCLC包括レビューと比較して、staging-stratified outcomeの時間的進化を10年スパンで定量化した。

④残課題と今後の方向性:(1) データ期間が2017年までで、ICI (pembrolizumab・nivolumab) がfirst-lineとして本格普及した2017年以降の影響を捕捉できていない。次世代update (KEYNOTE-189/407、CheckMate-9LA等の実臨床普及後) が必要。(2) 免疫療法・分子標的薬がfirst-course treatmentデータベースに含まれないため、stage IVの「単独治療」分類でICI/TKI実態が不可視であり、SEER-Medicare linkageによる薬剤レベル解析が今後の重要課題である。(3) screening普及効果の因果推論には未着手で、Medicare Part B以外の保険集団・人種別格差解析が不足する。Difference-in-differences法等の causal inference frameworkの適用が次の方向性となる。(4) 「無治療」分類には患者選好・comorbidity・社会的barrier・therapeutic nihilismの混在があり、原因別のsubdivision (CGA連動registry) が必要。(5) 民族・人種・社会経済階層別の格差分析が未提示で、health equity perspectiveからの再解析が今後の重要課題である。これらの未解決領域は本研究の数値をbaselineとして将来評価される。

方法

研究デザイン:横断的疫学解析 (cross-sectional epidemiological analysis)。解析期間は2020年6-7月。

データソース:(1) USCS database 2010-2017 (Surveillance system): SEER (Surveillance Epidemiology End Results) program + NPCR (National Program Cancer Registries) を統合したnationwide registry (米国人口の約95%カバー)、NSCLC全体の罹患率算出に使用。(2) SEER-18 database 2000-2016/2017 (18 registries、米国人口の約28%)、stage別罹患率・有病率・生存率・初期治療パターンの算出に使用。SEER-NPCR は (Surveillance Epidemiology End Results National Program Cancer Registries) の統合名称。

対象集団:18歳以上の成人NSCLC患者。ICD-O-3 (International Classification Diseases Oncology) morphology codeで同定。Microscopically-confirmed malignant histology/behaviorのみ含む。患者情報は完全に匿名化された公開データのため IRB審査は不要 (SEER/NCI規定)。

統計手法:(1) 罹患率:2000年米国標準人口にage-standardized incidence rate per 100,000 personsで年齢調整 (direct standardization、19 age groupsを使用)。分母はUSCS/SEER-18のat-risk populationを使用。罹患率が整合する場合 (consistency check)、SEER-18のstage別罹患率を全米レベルにprojection (population weighting)。(2) 有病率:「当該年罹患 + 2000年以降の既存NSCLC生存者」をNCI ProjPrev (Project Prevalence) software で全米crude prevalenceとして推計。(3) 生存率period survival analysis (Brenner Hakulinen法、Am J Epidemiol 2002)、最新コホートの条件付き生存 (conditional survival) をhybrid life-table approachで統合し1年・2年・3年・4年・5年relative survival rateを算出。(4) 初期治療:First-course treatment (radiation、chemotherapy、surgery) をdescriptive frequencyとして「no treatment」「single treatment」「multiple treatments」に分類しcross-tabulation。SEER-18はfirst-courseのみでimmunotherapy/subsequent lineは含まない。

Database identifier:USCS (United States Cancer Statistics、CDC (Centers Disease Control) / NCI 共同運営)、SEER-18 (NCI、Atlanta/Connecticut/Detroit/Hawaii/Iowa/New Mexico/Seattle-Puget Sound/Utah/San Francisco-Oakland/San Jose-Monterey/Los Angeles/Rural Georgia/Greater California/Kentucky/Louisiana/New Jersey/Greater Georgia/Alaska Native の 18 registries、米国人口 ~28%カバー)。Cancer histology identifier: ICD-O-3 morphology codes (NSCLC = 8010-8576除く SCLC 8041-8045、carcinoid 8240-8249等を除く)。

解析ソフトウェア:SEER*Stat (version 8.3.6.1、2020年4月29日版) + SAS (Statistical Analysis System、version 9.4)。