- 著者: Fisch D, Bozorgmehr F, Kazdal D, Kuon J, Klotz LV, Shah R, Eichhorn F, Kriegsmann M, Schneider MA, Muley T, Stenzinger A, Bischoff H, Christopoulos P
- Corresponding author: P. Christopoulos (Department of Thoracic Oncology, Thoraxklinik and National Center for Tumor diseases (NCT), Heidelberg University Hospital, Heidelberg, Germany)
- 雑誌: Frontiers in Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-07-08
- Article種別: Original Article (後方視的コホート研究)
- PMID: 34307143
背景
肺大細胞神経内分泌癌(LCNEC: large-cell neuroendocrine lung carcinoma)は、全肺癌の約3%を占める極めて稀少な悪性腫瘍であり、非小細胞肺癌(NSCLC)と小細胞肺癌(SCLC: small-cell lung cancer)の双方の臨床病理学的特徴を併せ持つ高悪性度神経内分泌腫瘍である。Travis et al. JThoracOncol 2015によるWHO分類の改訂以降、その診断基準は厳格化されたが、依然として進行期における標準治療は確立されていない。実臨床においては、Planchard et al. AnnOncol 2018などのガイドラインに準拠してNSCLC型またはSCLC型の化学療法が選択されるが、どちらの治療法が優れているかについては議論が続いており、最適なレジメンの選択基準は未だに不明である。さらに、近年のゲノム解析により、LCNECにはSCLC様およびNSCLC様の分子サブタイプが存在することがRekhtman et al. ClinCancerRes 2016やGeorge et al. NatCommun 2018によって示され、サブタイプに応じた化学療法の感受性の違いがDerks et al. ClinCancerRes 2018で報告されている。しかし、これらの知見を実臨床における治療選択にどのように応用すべきかは未解明であり、特に免疫チェックポイント阻害薬(ICI: immune checkpoint inhibitor)の有効性に関する実臨床データは極めて不足している。また、治療ラインの移行に伴う患者の脱落(attrition)の実態や、de novo転移例と再発後の二次性転移例における臨床的特徴および予後の差異についても、大規模なコホートを用いた包括的な解析が手薄であるという課題が残されている。このように、転移性LCNEC患者における最適な治療パターンと予後因子の同定には、依然として大きな知識ギャップ(knowledge gap)が存在している。
目的
本研究の目的は、ドイツの単一学術施設(Heidelberg Thoraxklinik)において、2010年から2020年までの10年間にわたり蓄積された転移性肺大細胞神経内分泌癌(LCNEC)患者の大規模コホートを対象に、実臨床における治療パターンと臨床転帰を包括的に解析することである。具体的には、一次治療における白金製剤併用化学療法の種類(シスプラチン vs カルボプラチン)や併用するパートナー薬剤(エトポシド vs パクリタキセル等)による治療効果の差異、および免疫療法の導入が全生存期間(OS)に与える影響を明らかにする。さらに、全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)に関連する独立した予後因子を同定するとともに、de novo転移症例と二次性転移(再発後Stage IV)症例における臨床病理学的特徴および予後の差異を評価する。また、治療ライン間の移行率(attrition rate)とその阻害要因を分析し、転移性LCNEC患者に対する最適な治療戦略の構築に寄与する臨床的エビデンスを提供することを目指す。
結果
患者背景と臨床病理学的特徴: 対象となった191例の患者背景は、年齢中央値65歳、男性が68%(n=130)、喫煙者が97%(n=169/175)であり、ECOG PS 0-1が95%(n=162/171)を占めていた(Table 1)。診断時にStage IVであったde novo転移症例は81%(n=155)であり、初期治療後の再発による二次性転移症例は19%(n=36)であった。腫瘍マーカーの中央値は、LDHが271 U/L、NSEが32 μg/L、CYFRA 21-1が3.2 μg/L、CEAが3.8 μg/Lであった。PD-L1 TPSは41例で評価され、TPS <1%が46%(n=19)、1-49%が51%(n=21)、≥50%が2%(n=1)であった。ゲノム解析により、ALK融合遺伝子陽性およびRET融合遺伝子陽性の症例がそれぞれ1例(計1%)同定され、これらの症例はチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)治療により極めて良好な経過を示した(Table 1)。
全身療法の種類による生存期間の顕著な差異: 治療種別によるOSの解析において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)をいずれかのラインで投与された患者群(n=13)は極めて良好な予後を示し、OS中央値は26.4ヶ月(95% CI 6.4-46.5, p=0.006)に達した(Fig 2D)。これに対し、一次治療で白金製剤併用化学療法(プラチナダブレット)を受けた患者群(n=129)のOS中央値は9.0ヶ月(95% CI 7.5-10.2, p<0.001)であり、非白金製剤化学療法を受けた患者群(n=17)のOS中央値は4.0ヶ月(95% CI 1.6-6.4, p<0.001)であった(Fig 2D)。一次治療におけるPFS中央値は、ICI群で未到達であったのに対し、白金製剤併用群では4.6ヶ月、非白金製剤群では1.5ヶ月であった(p<0.001)。また、一次治療におけるDCRは、白金製剤併用群が非白金製剤群と比較して有意に高かった(79% vs 53%, p=0.028)。
多変量解析による独立した予後因子の同定: 多変量コックス比例ハザード回帰分析の結果、転移性LCNEC患者におけるOSの独立した良好な予後因子として、一次治療における白金製剤ベースの化学療法の実施が最も強力な因子として同定された(HR 0.20; 95% CI 0.10-0.42, p<0.001)(Table 2)。また、いずれかの治療ラインにおけるICIの投与(HR 0.39; 95% CI 0.16-0.93, p=0.034)、治療開始前の血清LDH低値(271 U/L以下、HR 0.54; 95% CI 0.34-0.85, p=0.008)、および診断時の転移部位数1箇所以下(HR 0.52; 95% CI 0.33-0.83, p=0.006)が、独立した良好なOS of 転移性LCNECの予後因子として確認された(Table 2)。これらの独立したリスク因子(白金製剤/ICI/TKIの未実施、高LDH、多発転移)の累積数(0-3)により患者を層別化したところ、OS中央値は0因子で14.1ヶ月、1因子で9.9ヶ月、2因子で5.7ヶ月、3因子で1.1ヶ月と、リスク因子の増加に伴い予後が著しく悪化した(p<0.0001)(Fig 2A)。
白金製剤の種類および併用薬剤による治療効果の比較: 一次治療の白金製剤併用化学療法において、プラチナ製剤の種類(シスプラチン vs カルボプラチン)によるOSへの影響を評価したところ、シスプラチン群とカルボプラチン群の間で有意な差は認められなかった(HR 0.72; 95% CI 0.39-1.31, p=0.28)(Table 2)。さらに、併用する細胞障害性抗がん剤(エトポシド vs パクリタキセル等の非エトポシド系薬剤)の比較においても、OSに有意な差は認められなかった(HR 1.04; 95% CI 0.73-1.50, p=0.82)(Table 2)。この結果は、白金製剤をベースとした治療を行うこと自体が極めて重要であり、併用する薬剤の選択肢は生存期間に直接的な影響を与えない可能性を示唆している。なお、年齢(65歳未満 vs 65歳以上)やECOG PS(0-1 vs 2以上)は単変量解析ではOSと有意に関連していたが、多変量解析では有意性を消失した(Table 2)。
治療ライン間の脱落率と阻害因子の解析: 全コホート191例のうち、12%(n=23)の患者は全身治療を受けることなく死亡した。その主な原因は腫瘍進行に伴う臨床状態の急速な悪化(n=13, 7%)であった。一次治療を施行され、追跡が完全であった死亡症例111例における治療ライン間の移行率を解析したところ、二次治療に到達できた割合は41%(n=46/111; 95% CI 33%-51%)であり、約59%の患者が一次治療のみで脱落(attrition)していた(Fig 5)。二次治療から三次治療への移行率は54%(n=25/46; 95% CI 40%-68%)であった(Fig 5)。治療ライン間の脱落率は、白金製剤ベースの治療群と非白金製剤治療群の間で有意差は認められなかった(平均移行率 46.6% vs 42.5%, p=0.56)。治療ラインの移行を阻害する因子として、治療開始前の高LDH値(p=0.021)および不良なECOG PS(p=0.036)が有意に関連していた(Fig 6)。
De Novo転移とSecondary転移における臨床特徴と予後の比較: 初期治療後の再発によりStage IVとなった二次性転移(secondary)症例(n=36)は、初診時からStage IVであったde novo転移症例(n=155)と比較して、OS中央値が有意に延長していた(12.6 vs 8.7ヶ月, p=0.030)(Fig 4A)。しかし、この有意差は多変量解析においては消失した(Table 2)。この背景として、二次性転移症例ではde novo症例と比較して診断時の平均転移部位数が有意に少なく(1.6 vs 2.0箇所, p=0.041)(Fig 4B)、またECOG PS 0の割合が有意に高かった(61% vs 41%, p=0.038)(Fig 4C)ことが挙げられる。これらの良好な臨床的特徴が、二次性転移症例における見かけ上の生存期間延長に寄与していたと考えられる。
緩和的局所治療の実施状況と生存期間への影響: 追跡が完全な死亡症例111例のうち、少数のオリゴ転移症例(n=8)を除外した進行期LCNEC患者において、いずれかの治療ラインで緩和的局所治療(放射線治療、手術、またはその両方)を受けた割合は57%(n=63/111)であった(Table 1, Fig 7A)。緩和的局所治療を受けた患者群は、受けなかった群と比較してOSが有意に延長していた(OS中央値 8.1 vs 6.9ヶ月, p=0.007)(Fig 7B)。しかし、この生存期間の延長効果は多変量解析においては有意な予後因子として残らなかった(Table 2)。これは、局所治療の実施が生存期間を直接的に延長したのではなく、予後が良く生存期間が長い患者ほど、経過中に局所治療を受ける機会が多かったというバイアスを反映している可能性を示唆している。
考察/結論
本研究は、転移性肺大細胞神経内分泌癌(LCNEC)患者191例という、単一施設のコホートとしてはこれまで報告されていない最大規模の臨床データを包括的に解析したものである。
先行研究との違い: 本研究の知見は、白金製剤併用化学療法においてエトポシドとNSCLC型薬剤(パクリタキセル等)のどちらが優れているかを議論してきた先行研究(LeTreut et al. AnnOncol 2013、Niho et al. JThoracOncol 2013)と異なり、白金製剤の種類(シスプラチン vs カルボプラチン)や併用するパートナー薬剤の違いがOSに有意な影響を与えないことを示した。これは、特定の薬剤選択よりも「白金製剤ベースの強力な全身療法を確実に実施すること」自体が予後規定因子として極めて重要であることを浮き彫りにしている。また、治療ライン間の脱落率(約50%)が通常のNSCLCと同等であるという知見は、LCNECの進行が極めて急速であるため後続治療への移行が困難であるとしたこれまでの印象とは対照的である。
新規性: 本研究は、実臨床における転移性LCNEC患者において、いずれかの治療ラインで免疫療法(ICI)を導入することが、OS中央値26.4ヶ月という極めて良好な生存期間延長をもたらすことを本研究で初めて新規に実証した。また、de novo転移症例と二次性転移症例の予後差を多変量解析により精緻に評価し、二次性転移例の良好な予後が、診断時の転移部位数の少なさや良好なECOG PSといった臨床的特徴の偏りに起因するものであることを初めて明らかにした。
臨床応用: これらの知見は、転移性LCNECの臨床現場における治療戦略の最適化に直結する。臨床的有用性として、治療開始前の血清LDH値(271 U/L)および初期転移部位数(1箇所以下)が、患者の生存期間や後続治療への移行可能性を予測する強力な臨床指標となることが示された。これにより、高リスク患者(高LDH、多発転移、不良なPS)に対しては、一次治療からより強力な治療(化学療法とICIの併用など)を早期に導入するなどの個別化医療への臨床応用が期待される。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在し、今後の検討課題として残されている。第一に、本研究は後方視的デザインであり、単一施設データであるため、ICI治療群(n=13)における選択バイアスを完全に排除することは困難である。第二に、近年提唱されているゲノムプロファイルに基づく分子サブタイプ(SCLC様 vs NSCLC様)による治療感受性の層別化(Derks et al. ClinCancerRes 2018)が、本コホートでは組織サンプルの制約から十分に実施できていない。今後は、前向き臨床試験によるICIの有効性の検証や、ゲノム情報と臨床データを統合したトランスレーショナルな研究をさらに進めることが、転移性LCNECの治療成績向上に向けた今後の研究の方向性である。
方法
本研究は、ドイツのハイデルベルク大学病院(Heidelberg University Hospital)の呼吸器専門施設であるThoraxklinikにおける単一施設後方視的コホート研究(retrospective cohort study)である。2010年から2020年までの期間に、Stage IVの転移性肺大細胞神経内分泌癌(LCNEC)と診断された患者191例を対象とした。本研究はハイデルベルク大学倫理委員会の承認(承認番号:S-145/2017)を得て実施された。本研究は介入を伴う前向きランダム化比較試験(RCT: randomized controlled trial)ではないため、ClinicalTrials.govへの事前登録(NCT番号、例えばNCT01234567のような臨床試験ID)は有していないが、倫理指針に則り厳格に実施された。後方視的コホート研究の性質上、事前のサンプルサイズ計算(sample size calculation)は行わず、対象期間内に適格基準を満たした全症例を解析対象とした。
組織診断は2015年のWHO分類基準に従って実施され、すべての症例において腫瘍細胞の少なくとも10%以上が神経内分泌マーカー(CD56、chromogranin A、synaptophysin)のいずれか1つ以上に免疫組織化学(IHC: immunohistochemistry)染色で陽性であることを確認した。PD-L1(programmed death-ligand 1)のTPS(tumor proportion score)は、SP263クローンを用いた免疫染色により評価した。また、治療薬の標的となるアクショナブル変異のスクリーニングとして、DNAおよびRNAを用いた次世代シーケンシング(NGS: next-generation sequencing)を実施した。
臨床データとして、患者の年齢、性別、喫煙歴、ECOG PS(Eastern Cooperative Oncology Group performance status)、および合併症の評価指標であるSCS(Simplified Comorbidity Score)を収集した。さらに、治療開始前の血液検査データとして、LDH(lactate dehydrogenase)、NSE(neuron-specific enolase)、CYFRA 21-1、CEA、およびNLR(neutrophil-to-lymphocyte ratio)を測定した。
主要評価項目(primary endpoint)は全生存期間(OS)とし、副次評価項目(secondary endpoint)は一次治療における無増悪生存期間(PFS)、DCR(disease control rate: 疾病制御率)、およびORR(objective response rate: 客観的奏効率)とした。生存期間の推定にはKaplan-Meier法を用い、群間比較にはログランクテスト(log-rank test)を適用した。予後因子の同定には、単変量および多変量コックス比例ハザード回帰分析(Cox proportional hazards regression analysis)を用いた。多変量モデルの構築においては、単変量解析で有意であった因子を尤度比に基づく変数の減少法を用いて選択した。治療ライン間の移行率(attrition rate)の比較には、治療レジメン(白金製剤ベースか否か)を固定効果、治療ラインをランダム効果とする混合線形モデル(mixed linear model)を用いた。すべての統計解析はSPSS v24およびGraphPad Prism v9を用いて行い、p<0.05を統計的有意水準とした。