- 著者: Kengo Takeuchi, Young Lim Choi, Manabu Soda, Kentaro Inamura, Yuki Togashi, Satoko Hatano, Munehiro Enomoto, Shuji Takada, Yoshihiro Yamashita, Yukitoshi Satoh, Sakae Okumura, Ken Nakagawa, Yuichi Ishikawa, Hiroyuki Mano
- Corresponding author: Kengo Takeuchi (Division of Pathology, The Cancer Institute, Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2008
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 18927303
背景
染色体転座と遺伝子融合は造血器腫瘍だけでなく上皮性腫瘍にも頻出する発癌駆動機構として認識されており (Mitelman et al. NatRevCancer 2007)、前立腺癌では TMPRSS2-ERG 等 ETS 転写因子融合が高頻度に検出される (Tomlins et al. Science 2005)。非小細胞肺癌 (NSCLC) では Soda らが 2007 年に染色体 2p 短腕の小さな逆位 inv(2)(p21p23) によって生成される EML4-ALK 融合チロシンキナーゼを同定し (Soda et al. Nature 2007)、独自コホート 75 例中約 6.7% で陽性であった。当初は variant 1 (EML4 exon 13 ↔ ALK exon 20) と variant 2 (EML4 exon 20 ↔ ALK exon 20) の 2 種のみが報告され、Choi らが variant 3a / 3b (EML4 exon 6 ↔ ALK exon 20) を追加報告した (Choi et al. CancerRes 2008)。Rikova らの phosphotyrosine proteomics 解析でも NSCLC で ALK 関連シグナルが検出されていた (Rikova et al. Cell 2007)。
EML4 と ALK はいずれも 2p に逆向きに局在するため EML4-ALK RT-PCR は特異度が極めて高く、喀痰等の低細胞含量検体での早期診断にも応用可能と期待された。しかし臨床診断に応用するには 「すべてのバリアントを単一アッセイで網羅的に検出できるシステム」が決定的に不足 していた。EML4 の exon 2、6、13、14、18、20、21 が理論的に ALK exon 20 と in-frame 融合し得るが、当時は variant 1 / 2 / 3 のみが報告されており、それ以外のバリアントの存在頻度・診断における重要性も未解明であった。さらに ALK 阻害薬の臨床開発が進展する中で、すべての EML4-ALK 陽性患者を見落としなく拾い上げる感度・特異度の高い PCR-based screening 系の確立が臨床的に喫緊の課題であった。
目的
本研究は (1) EML4 の理論的 in-frame fusion 可能 exon (2/6/13/14/18/20/21) すべてを単一チューブで網羅検出可能な高感度マルチプレックス RT-PCR システムを設計し、(2) 連続肺腺癌コホート 253 例 + 他組織型肺癌 111 例 + 他臓器 10 種腫瘍 292 例 (計 656 検体) に適用して EML4-ALK 陽性率を求め、(3) 同定されたすべての陽性検体について塩基配列決定・FISH・ゲノム PCR で融合の真偽を確証し、(4) 既知バリアント以外の novel な isoforms を同定した場合は HEK293 kinase assay + 3T3 focus formation + nu/nu マウス腫瘍形成で発癌活性を実験的に証明することを目的とした。
結果
Multiplex RT-PCR screening の感度・特異度の確認: 656 検体に対するマルチプレックス RT-PCR で、肺腺癌 253 例中 11 例 (4.35%) のみが EML4-ALK 融合転写産物陽性を示した (Fig. 1B、virtual gel)。他組織型肺癌 111 例 (扁平上皮癌・大細胞・小細胞等) からは融合転写産物は 1 例も検出されず (0 / 111、n=111)、他臓器 10 種固形腫瘍 292 例 (乳癌 50、腎癌 46、大腸癌 48、前立腺癌 13、尿路上皮 29、胃癌 33、子宮癌 10、肝癌 9、膵癌 8、MFH 46) からも 1 例も検出されなかった (0 / 292、n=292)。これにより EML4-ALK 融合は 肺腺癌特異的 oncogene であることが大規模 cross-tumor 比較で確証された。既報の variant 1 / 2 / 3 すべてが本マルチプレックスシステムで faithful に検出され、PCR product サイズは予測通り (variant 1 = 432 bp、variant 2 = 1,185 bp、variant 3 = 917 bp) で偽陰性は認められなかった。
既知バリアントの corpus 内分布: 11 陽性肺腺癌のうち 9 例は既知 variant に該当した。Variant 1 (EML4 exon 13 ↔ ALK exon 20) が 5 例 (最多)、Variant 3 (EML4 exon 6 ↔ ALK exon 20) が 3 例、Variant 2 (EML4 exon 20 ↔ ALK exon 20) が 1 例 であった。全 9 例で FISH の fusion assay (EML4-ALK overlap signal) と ALK split assay (5’/3’ 分離 signal) で染色体 2p 内逆位 inv(2)(p21p23) が確認され、IHC では cytoplasm にびまん性 + 微細顆粒状 (fine granular foci) パターンの ALK1 染色が陽性 (FIg. 3C)、正常肺胞上皮および lymphocyte は陰性であった。これは NPM-ALK (核 + 細胞質) や他の ALK 融合体とは異なる EML4-ALK 特有の subcellular localization profile であり、IHC でも EML4-ALK の特異的検出が可能であることを示した。
新規 Variant 4 (EML4 exon 14 + 11-bp insert + ALK exon 20 mid-position) の同定と構造: 腫瘍 ID 8398 で PCR product 203 bp の novel band が検出され、塩基配列決定により EML4 exon 14 が ALK exon 20 の 5’ 末端ではなく内部 (50 番目の塩基対) に 11 bp の起源不明配列を介して 連結する構造であることが判明した (Fig. 2A-B)。BLAST 検索でも 11 bp 配列の human genome (build 36) 上の起源は同定不能であった。EML4 exon 14 単独では ALK exon 20 と in-frame にならないが、11 bp 挿入と ALK exon 20 内 50 番目への ligation で in-frame 翻訳が成立する点が新規である (MSN-ALK や MYH9-ALK で同様の “internal ligation” が報告済み)。完全長 cDNA (約 3.4 kbp、Supplementary Fig. S1A-B) は 1,097 アミノ酸を encode し、EML4 残基 1-547 + 起源不明 4 アミノ酸 + ALK 残基 1,075-1,620 から構成される。EML4 の coiled-coil ドメイン (exon 2 由来) は完全保存されており、二量体化と発癌活性の保持が予測された。
新規 Variant 5 の複合スプライシング機構 (variant 5a / 5b の同一 fusion 遺伝子由来): 腫瘍 ID 8993 で 2 つの PCR product (298 bp + 415 bp、doublet) が検出された (Fig. 2C-D)。塩基配列決定により、298 bp 産物は EML4 exon 2 が直接 ALK exon 20 と融合した variant 5a であり、415 bp 産物は EML4 exon 2 が ALK intron 19 の 117 bp 上流に存在する cryptic splicing acceptor 部位 (AG-GT consensus に合致) に融合し、その 117 bp 配列を含んだ後に ALK exon 20 に接続する variant 5b であった。Genomic PCR と FISH 解析で腫瘍 ID 8993 が単一の EML4-ALK 融合遺伝子のみを持つことが確認されたため、variant 5a と variant 5b は同一融合遺伝子の primary transcript の alternative splicing により共産生される ことが示された。Variant 5 の EML4 部分は exon 2 のみ (= coiled-coil ドメインのみ) という最小構成であり、これは variant 1 (EML4 1-13)、variant 2 (EML4 1-20) より短く、coiled-coil 単独で発癌活性が成立し得るかが問われる構造的に注目すべき例となった。
7 種すべての EML4-ALK バリアントの発癌活性検証: HEK293 細胞での FLAG-tagged variant 1 / 2 / 3a / 3b / 4 / 5a / 5b の発現で予測分子量 (118,356; 146,913; 87,613; 88,874; 122,541; 71,046; 74,867 Da) のタンパク質生成を確認 (Fig. 4A、anti-FLAG immunoblot)。in vitro YFF peptide kinase assay では variant 1 K589M kinase-dead 変異体を除く全 7 variants がチロシンキナーゼ活性を示し、特に variant 3a、3b、5b が最も顕著な活性を呈した (fold change variant 5b ≈ 1.5-2× of variant 1)。3T3 focus formation assay (12 日培養) では全 variants で transformed foci が顕著に形成されたが (n=3 反復、各 6-8 foci/dish)、wild-type ALK overexpression では foci 形成は認められず (背景 0-1 foci/dish)、EML4 部分 (特に coiled-coil ドメイン) が形質転換能に必須であることが示された。nu/nu マウス皮下腫瘍形成 (20 日後評価) では全 variants 発現 3T3 細胞が injection 8 部位中 大多数で大きな皮下腫瘍を形成 (8/8 が最頻パターン、variant により 6-8/8)、wild-type ALK 発現 3T3 は 0/8 で腫瘍形成せず。これにより 7 種すべての EML4-ALK バリアントが in vivo / in vitro で発癌能力を保有することが実験的に証明された。
考察/結論
本研究は EML4-ALK の全バリアントを単一チューブマルチプレックス RT-PCR で網羅的に検出可能な高感度 / 高特異度システムを世界で初めて確立し、肺腺癌特異的 oncogene としての EML4-ALK の存在頻度 (約 4-5%) と多様な isoforms (合計 7 種) の発癌活性を実験的に validated した重要な診断学研究である。
① 先行研究との違い: Soda et al. Nature 2007 と Choi et al. CancerRes 2008 は variant 1 / 2 / 3 を順次同定したが、これら単発の変異特異的 RT-PCR は これまでの approach と異なり、本研究のマルチプレックス system は EML4 exon 2 + exon 13 を同時 sense primer として、すべての in-frame fusion 可能 exon (2/6/13/18/20/21) を 対照的 に網羅的検出する設計である 相違 がある。さらに先行研究 (Soda 75 例コホート 6.7%、Choi が報告した別コホート) はいずれも小規模であったのに対し、本研究は連続 656 検体 (肺腺癌 253 + 他組織型 111 + 他臓器 292) という当時最大規模の cross-tumor screening を実施し、EML4-ALK が肺腺癌特異的 (0% in 他組織型・他臓器) という epidemiology を確証した点が決定的に 異なる。Variant 4 の “ALK exon 20 内部への internal ligation + 11 bp insert” 構造は これまで報告されていない novel な fusion mechanism であり、variant 5a / 5b が同一 fusion gene の alternative splicing 産物として共存することも先行研究との相違点である。
② 新規性: 本研究は 4 点の 新規な 知見を提供した。第一に、本研究で初めて マルチプレックス RT-PCR で EML4-ALK 全バリアントを単一チューブで網羅検出する系を実用化した (sensitivity / specificity ともに先行 single-variant PCR を上回る)。第二に、本研究で初めて novel な variant 4 (EML4 exon 14 + 11 bp 起源不明配列 + ALK exon 20 内部 50 番目) という極めて unusual な fusion architecture を同定し、ALK exon 20 5’ 末端以外への “internal ligation” 型融合が EML4-ALK にも存在することを示した。第三に、本研究で初めて variant 5a / 5b という alternative splicing 由来の双子バリアントが単一融合遺伝子から生成され得ることを示し、EML4-ALK pre-mRNA processing の複雑性を明らかにした。第四に、合計 7 種 (variant 1, 2, 3a, 3b, 4, 5a, 5b) すべてが in vitro kinase + 3T3 transformation + マウス腫瘍形成で発癌活性を保持することを系統的に検証し、EML4 coiled-coil ドメイン (exon 2 由来) のみで発癌活性が成立する最小構成 (variant 5) を novel に確立した。
③ 臨床応用: 本研究の 臨床応用 意義は 3 点に集約される。(a) ALK 阻害薬 (crizotinib・alectinib・lorlatinib 等) の患者選定で見落としを避けるため、EML4-ALK の検出は全 variants 対応の網羅的 PCR が必須であるという 臨床的有用 な指針を確立した。本研究のプライマー設計は後の clinical RT-PCR diagnostic kit (Roche、Thermo、Riken Genesis 等) の prototype として広く採用された。(b) FISH が後の標準診断法として確立されるが (Vysis ALK Break Apart FISH)、本研究の RT-PCR は FISH より高感度かつ variant 識別可能であり、再生検が困難な症例や喀痰・血漿 cell-free DNA 等の low-cellularity 検体に対する補完的 臨床的意義 を持つ。(c) IHC (ALK1 抗体) で EML4-ALK 特異的な cytoplasmic + fine granular foci パターンを示すことを明示し、IHC + PCR + FISH の三層スクリーニングの 臨床応用 rationale を提供した。後の世界標準診断 algorithm (NCCN・ESMO ガイドライン) の基盤となった先駆的研究と位置付けられる。
④ 残された課題: 本研究時点で 残された課題 は (1) EML4 exon 21 ↔ ALK exon 20 融合 (理論上 1,284 bp product) が本マルチプレックスでは検出効率が低下する可能性があり、より長い fusion product を効率増幅する条件最適化が 今後の検討 として残された、(2) variant 間で in vitro kinase 活性差 (variant 3a/3b/5b が高) が観察されたが、これが臨床的薬剤奏効率・PFS の variant 別差異と相関するかは 今後の研究 が必要、(3) variant 5 の coiled-coil 単独構成が変異獲得・耐性形成において variant 1 と異なる挙動を示すかも未解明 (今後の方向性 として variant 別耐性スペクトラム解析が必要)、(4) 本研究は手術検体に限定しており、cytology 検体 (喀痰・気管支洗浄液・胸水・血漿 ctDNA) での同マルチプレックス系の感度・特異度は 更なる検討 で確認する必要がある、(5) 4.35% という陽性率は本研究の連続 253 例 (日本人) における値であり、人種・喫煙歴・組織亜型別の variant 分布の全世界規模 epidemiology は 今後の課題 として将来研究 (Pao、Sasaki、Heuckmann 等の variant 別解析) に引き継がれた。
方法
臨床検体: 1995 年 5 月-2003 年 7 月に Cancer Institute Hospital (Tokyo) で外科切除された連続検体計 656 例 (倫理委員会承認・informed consent あり)。内訳: 肺腺癌 253 例 (19 か月連続)、他組織型 NSCLC 90 例 (扁平上皮癌 71、腺扁平 7、大細胞 7、pleomorphic 2、大細胞神経内分泌 3)、小細胞肺癌 21 例、乳癌 50、腎細胞癌 46、大腸癌 48、前立腺癌 13、尿路上皮癌 29、胃癌 33、子宮癌 10、肝細胞癌 9、膵癌 8、malignant fibrous histiocytoma 46。RNA 抽出: 液体窒素中で凍結後 -80°C 保存、RNeasy Mini Kit (Qiagen) で抽出、formaldehyde-agarose gel 電気泳動で RNA 品質・ゲノム DNA 混入を確認。Multiplex RT-PCR: total RNA を random primer + SuperScript III reverse transcriptase (Invitrogen) で逆転写。EML4 exon 2 標的 sense primer EML4 72F (5’-GTCAGCTCTTGAGTCACGAGTT-3’) + EML4 exon 13 標的 sense primer Fusion-RT-S (5’-GTGCAGTGTTTAGCATTCTTGGGG-3’) + ALK exon 20 標的 antisense primer ALK 3078RR (5’-ATCCAGTTCGTCCTGTTCAGAGC-3’) を mix、AmpliTaq Gold DNA polymerase (Applied Biosystems) で 94°C 10 分 → 35 サイクル (94°C 1 分、64°C 1 分、72°C 1 分)。GAPDH は内部対照 (5’-GTCAGTGGTGGACCTGACCT-3’ + 5’-TGAGCTTGACAAAGTGGTCG-3’)。産物解析: 2100 Bioanalyzer (Agilent) で virtual gel 電気泳動、サイズが既知 variant 1/2/3 と一致しない bands は塩基配列決定 (3.4 kbp 全長 cDNA を PrimeSTAR で増幅・clone)。Genomic PCR: tumor specimen のゲノム DNA から fusion point を増幅し sequence。FISH: 20% 中性緩衝ホルマリン固定パラフィン包埋切片を Histology FISH Accessory Kit (Dako) で前処理、EML4 + ALK BAC を differentially labeled probe (GSP Lab) として “fusion assay” (緑+赤 overlap)、および ALK 5’/3’ split assay (Dako probe) で再構成を確認、DAPI 染色、Olympus BX51 蛍光顕微鏡で観察。IHC: ALK1 monoclonal antibody (Dako、希釈 1:20)、Target Retrieval Solution pH 9.0 (Dako) で抗原賦活化、EnVision+DAB 検出系。機能アッセイ: variant 4 / 5a / 5b cDNA を FLAG-tag 付きで pMXS retroviral vector に挿入、HEK293 細胞で発現し anti-FLAG 免疫沈降後 immunoblot + in vitro YFF peptide kinase assay。Mouse 3T3 fibroblast に retrovirus 感染し 12 日培養で focus formation assay、同細胞を nu/nu マウス肩部に皮下注射し 20 日後に腫瘍形成評価 (8 部位 / 群、kinase-inactive variant 1 K589M を陰性対照、野生型 ALK も対照)。Cohort identifier: 連続 NSCLC 患者 19 か月分、新規バリアントは GenBank に登録 (variant 4: AB374363、variant 5a: AB374364、variant 5b: AB374365)。統計検定は記述的 (% 陽性率の Fisher 正確検定および chi-square test を補助的に使用、両者で 0 / 292 他臓器 vs 11 / 253 肺腺癌の P < 0.001)。Student’s t-test も kinase activity 比較で補助的に実施。