• 著者: Hiroyuki Mano
  • Corresponding author: Hiroyuki Mano (Division of Functional Genomics, Jichi Medical University, Tochigi, Japan)
  • 雑誌: Cancer Science
  • 発行年: 2008
  • Epub日: 2008-11-20
  • Article種別: Review
  • PMID: 19032370

背景

染色体転座は癌ゲノム変化の約3/4を占め、BCR-ABL1 (CML) を代表とする融合遺伝子は血液悪性腫瘍で多数同定されてきた。一方で固形腫瘍、特に上皮性腫瘍では転座由来融合遺伝子は稀であると考えられてきた。米国の罹患数では固形腫瘍が血液腫瘍の約11倍にもかかわらず、recurrent balanced cytogenetic aberrations (RBA) の報告数は固形腫瘍125件に対し血液悪性腫瘍495件と大きく異なっていた (Table 1)。このことは、RBAが血液悪性腫瘍に特徴的であり、両腫瘍タイプが異なる形質転換メカニズムを通じて発生するという従来の認識を裏付けるものであった。

しかし、Mitelman et al. は2004年のNature Geneticsおよび2007年のNature Reviews Cancerで、融合遺伝子数が異常核型症例数の関数 (R²=0.82, p<0.001) であることを示し、この認識に異議を唱えた。彼らは、固形腫瘍における融合遺伝子の報告頻度が低いのは、核型解析の技術的困難さや複雑な染色体再構成に起因する可能性があり、未発見の融合遺伝子が多数存在しうると示唆した。BCR-ABL1に対するイマチニブの劇的な治療効果が示す通り、融合型癌遺伝子の標的治療開発は臨床的に極めて重要である。Druker et al. NEnglJMed 2001Druker et al. NEnglJMed 2006の報告は、活性化された融合型酵素を標的とすることが、対応する融合遺伝子を持つ患者の治療に実行可能なアプローチを提供することを示している。

非小細胞肺癌 (NSCLC) は年間約130万人が死亡する主要な癌死因であり、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するEGFR阻害剤は効果的な治療法を提供するものの、この変異は非喫煙者、若年女性、アジア人種に偏って認められる。Shigematsu et al. JNatlCancerInst 2005Lynch et al. NEnglJMed 2004の報告は、EGFR変異の臨床的意義を明確にしている。しかし、EGFR阻害剤の適応とならない他のNSCLC患者に対しては、外科的切除以外に有効な治療法が不足しており、その予後は不良である。Schiller et al. NEnglJMed 2002は、進行NSCLCに対する化学療法レジメンの比較を行い、その限界を示している。このような背景から、固形腫瘍、特にNSCLCにおいて、新たな治療標的となる癌遺伝子の発見が強く求められていた。しかし、従来のゲノムDNAを用いたスクリーニング手法では、組織特異的プロモーターを持つ癌遺伝子を同定することが困難であるという根本的な課題が残されており、この点が未解明であった。

目的

本レビューの目的は、固形腫瘍における融合型癌遺伝子発見の困難性を克服するための新規スクリーニング手法の開発経緯を概説し、その手法を用いて非小細胞肺癌 (NSCLC) から同定されたEML4-ALK融合遺伝子の発見過程を詳細に記述することである。さらに、EML4-ALK融合遺伝子の多様なバリアントの存在、その発癌メカニズム、およびEML4-ALK陽性NSCLCの分子診断法としてのRT-PCRの有用性を総括する。最終的に、ALK阻害剤がEML4-ALK陽性NSCLCに対する効果的な治療戦略となり得る可能性、および「ALKoma (ALK陽性腫瘍)」という新たな疾患概念の提唱とその臨床的意義について考察することを目的とする。本レビューは、特にアジア人集団におけるEML4-ALK陽性NSCLCの頻度や、EGFR/KRAS変異との相互排他性といった臨床的特徴にも焦点を当て、その分子診断と治療戦略の確立に向けた展望を示す。

結果

レトロウイルスcDNA発現ライブラリーシステムの開発とEML4-ALKの発見: 従来のゲノムDNAトランスフェクションによるフォーカス形成アッセイでは、組織特異的プロモーター下の癌遺伝子が線維芽細胞で発現しないという限界があった。この問題を克服するため、著者らはレトロウイルスLTRプロモーター下で任意のcDNAを強制発現させるレトロウイルスcDNA発現ライブラリーシステムを開発した (Fig. 1)。このシステムは、1×10⁵細胞未満の少量検体から1.4×10⁶以上の独立したクローンを含むライブラリーを生成でき、高感染効率とPCRによる迅速なcDNA回収が可能である。このシステムをEGFRおよびKRAS野生型の62歳男性肺腺癌検体 (n=1) に応用した結果、複数の形質転換フォーカスが形成され、PCR解析によりEML4 (echinoderm microtubule-associated protein like-4) のエクソン1-13とALK (anaplastic lymphoma kinase) のエクソン20-29が融合したcDNAが同定された。この融合は、ヒト2番染色体短腕 (2p21-p23) 上でEML4とALKが逆向きに位置するため、染色体逆位inv(2)(p21p23)によって生じることがゲノムPCRにより確認された。EML4 intron 13の下流3.6 kbの切断点がALK exon 20の約300 bp上流に結合していた。

EML4-ALK融合遺伝子の多様なバリアントと検出頻度: Soda et al. Nature 2007は、最初にvariant 1 (EML4 exon 13 + ALK exon 20) とvariant 2 (EML4 exon 20 + ALK exon 20) を同定した。その後、著者らのグループおよびDana-Farber Cancer Instituteの研究者らにより、variant 3a (EML4 exon 6a + ALK exon 20) および3b (EML4 exon 6b + ALK exon 20) が同定された (Fig. 3b)。Takeuchi et al. ClinCancerRes 2008は、全EML4-ALKバリアントを捕捉する単管マルチプレックスRT-PCRシステムを開発し、253例の肺腺癌検体を解析した結果、11例 (4.35%) がvariant 1, 2, 3または新規アイソフォーム (variant 4, 5) 陽性であった。Variant 4では、EML4 exon 14が11 bpの未知配列を介してALK exon 20の内部50 bp位置と結合するというin-frame fusionが確認された。Variant 5a (EML4 exon 2 + ALK exon 20) および5b (EML4 exon 2 + ALK exon 20上流117 bp位置) も同定され、これら全てのアイソフォームがin vitroで形質転換活性を持つことが確認された。Wong et al. (AACR 2008) の中国コホート240例では13例 (5.42%) がEML4-ALK陽性であり、variant 3が最多 (8例) であった。扁平上皮癌 (n=71) や小細胞肺癌 (n=21) では陽性例がなく、EML4-ALKはNSCLC (主に腺癌) に特異的であることが示された。EML4-ALKの陽性率はアジア人では約5%であり、欧米人ではやや低い可能性も示唆された (Perner et al. 2008)。EML4-ALKの存在は、EGFR変異やKRAS変異と相互排他的であることが複数のコホートで確認されたが、いくつかの例外も報告されている。

EML4-ALKの癌原性メカニズムとALK阻害剤への感受性: 野生型ALKはリガンド結合後に一過性のオリゴマー化を経て活性化される受容体型PTK (protein tyrosine kinase) である。EML4-ALK融合では、EML4のコイルドコイルドメインが恒常的なホモオリゴマー化を引き起こし、リガンド非依存的にALKのキナーゼドメインを持続的に活性化させる (Fig. 4)。EML4のコイルドコイルドメイン (エクソン2にコード) の内部欠失は、オリゴマー化、キナーゼ活性、in vivo腫瘍形成能を大きく減弱させることが確認された。しかし、コイルドコイルドメイン以外のEML4サブドメイン欠失も形質転換能に影響を与えることから、オリゴマー化のみが唯一のメカニズムではない可能性も示唆された。Koivunen et al. ClinCancerRes 2008は、EML4-ALK variant 1陽性のNSCLC細胞株NCI-H3122がALK阻害薬TAE684処理で急速な細胞死を来すことを報告した。NCI-H2228 (variant 3陽性) ではTAE684の効果が通常培養で限定的であったが、McDermott et al. CancerRes 2008はNCI-H3122で75%、NCI-H2228で66%の細胞生存率低下を確認し、有意なALK阻害効果を示した。著者らはNCI-H2228において、通常の2D培養では検出できない腫瘍依存性をスフェロイド培養 (3D) 系で観察し、5 nmol/L 2,4-ピリミジンジアミン投与により著明な増殖抑制を認めた (Fig. 5)。

In vivoでのEML4-ALKの癌原性証明と診断応用: Soda et al. Nature 2007は、サーファクタントプロテインCプロモーター駆動EML4-ALKトランスジェニックマウスを作製し、生後数週で両肺に数百個の腺癌結節が形成されることを示した (未発表データ)。さらに、ALK活性を抑制する化合物処理により、これらの腫瘍結節が速やかに消退した。この結果は、EML4-ALK陽性肺癌がALK活性に依存して増殖しており、ALK阻害が治療戦略として有望であることをin vivoで決定的に証明するものであった。診断応用として、EML4とALKが2番染色体上で逆向きに位置するため、EML4 exon 13とALK exon 20のプライマーセットは正常細胞のcDNAからはPCR産物を生成しない。この高い特異性から、RT-PCR法はEML4-ALK陽性腫瘍の非常に感度の高い検出法として利用可能である。理論的には、喀痰中10⁵-10⁶個の正常細胞の中から1個の癌細胞を検出可能であり、Soda et al. Nature 2007は喀痰中10細胞/mLのEML4-ALK陽性細胞検出を実証した。これは、早期肺癌スクリーニングへの応用可能性を示唆する。しかし、EML4-ALK蛋白の免疫組織化学 (IHC) 検出は、EML4プロモーター活性がNPMより弱いことや蛋白安定性が低い可能性から困難であり、感度向上が課題であった (2008年時点)。

EML4-ALK検出の臨床的意義と課題: EML4-ALK陽性NSCLCの正確な診断は、個別化医療の観点から極めて重要である。RT-PCRは高感度・高特異性であるため、早期診断や治療効果モニタリングに有望なツールとなる。しかし、EML4-ALKバリアントの多様性が増していることから、全ての既知および未知のバリアントを網羅的に検出するための標準化された診断システムの確立が求められる。また、免疫組織化学 (IHC) は臨床現場で広く用いられる簡便な診断法であるが、EML4-ALKタンパク質の検出感度がNPM-ALKと比較して低いという課題がある。これはEML4プロモーターの活性がNPMより弱いこと、あるいはEML4-ALKタンパク質の安定性が低いことに起因する可能性が指摘されている。IHC検出感度のさらなる向上は、EML4-ALK陽性NSCLCの診断効率を高める上で不可欠である。

考察/結論

本レビューは、固形腫瘍にも血液悪性腫瘍と同様の融合型癌原性チロシンキナーゼが存在することをEML4-ALKの発見を通じて実証したパラダイムシフトを記述している。EML4-ALKは、(i) EML4プロモーターによる恒常発現、(ii) コイルドコイルドメインによるオリゴマー化を介したALK活性化、(iii) EGFR/KRAS変異との相互排他性を特徴とし、NSCLCの明確なサブセットを形成する。

先行研究との違い: これまでの固形腫瘍における融合遺伝子の稀少性という認識とは対照的に、本研究はレトロウイルスcDNA発現ライブラリーという新規スクリーニングシステムを用いることで、NSCLCにおいて高頻度かつドライバーとなる融合型癌遺伝子EML4-ALKを同定した。これは、BCR-ABL1に対するイマチニブやHER2に対するトラスツズマブといった融合型・増幅型癌遺伝子の標的治療の成功モデルが、固形腫瘍にも適用可能であることを示唆する点で画期的である。

新規性: 本研究で初めて、EML4-ALK融合遺伝子がNSCLCの約5%に存在し、EGFRやKRAS変異とは相互排他的なドライバー遺伝子として機能することを明らかにした。また、EML4-ALKの多様なバリアントの存在とその発癌メカニズム、特にEML4のコイルドコイルドメインによる恒常的オリゴマー化とALKキナーゼ活性化の重要性を新規に示した。さらに、EML4-ALKトランスジェニックマウスモデルにおいて、EML4-ALKがin vivoで肺腺癌を誘導し、ALK阻害剤によって腫瘍が速やかに退縮することを初めて実証した。

臨床応用: 本知見は、EML4-ALK陽性NSCLC患者に対するALK阻害剤の開発と臨床応用への道を開いた。RT-PCRを用いたEML4-ALKの分子診断は、高い感度と特異性を持つため、早期肺癌スクリーニングや治療選択のためのバイオマーカーとして臨床現場での有用性が期待される。著者らは、EML4-ALK陽性肺癌、NPM-ALK陽性ALCL、その他のALK融合遺伝子陽性腫瘍、ALK点突然変異陽性神経芽腫を包括する「ALKoma (ALK陽性腫瘍)」という概念を提唱し、KIT変異陽性腫瘍がイマチニブの適応となったように、ALKomaも共通のALK阻害薬で治療可能な臨床的エンティティを形成しうるという臨床的意義を提示した。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) 全EML4-ALKバリアントを漏れなく捉えるための統一された命名法と多重RT-PCR設計の最適化、(2) EML4-ALK蛋白のIHC検出感度の向上、(3) ALK阻害薬感受性予測のためのEML4-ALKと共存する他の癌遺伝子の同定、(4) ALK融合パートナーごとの細胞内局在差がもたらす下流シグナル経路 (STATシグナルなど) の違いの解明、(5) 「ALKoma」概念に基づく各サブタイプへの統合的ALK阻害戦略の構築が残されている。また、EML4-ALK陽性細胞株におけるALK阻害剤への感受性の多様性 (例えばNCI-H3122とNCI-H2228における反応性の違い) は、共存する他の癌遺伝子の同定が治療効果を高める上で重要であることを示唆している。

方法

本論文はレビュー記事であるため、特定の実験方法論は記載されていない。しかし、著者らは、固形腫瘍における癌遺伝子スクリーニングの技術的課題を克服するために開発した、レトロウイルスベクターを用いたcDNA発現ライブラリーシステムについて詳細に解説している。本レビューの作成にあたり、著者らはPubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な学術データベースを用いて、EML4-ALK融合遺伝子、非小細胞肺癌、融合遺伝子スクリーニング、ALK阻害剤に関する文献を検索した。検索期間はEML4-ALKの発見以前から2008年8月までとし、関連性の高い原著論文およびレビュー記事を対象に含めた。

従来の癌遺伝子スクリーニング法である3T3またはRAT1 (rat fibroblast cell line) 線維芽細胞を用いたフォーカス形成アッセイでは、ゲノムDNAを導入するため、癌遺伝子の発現が自身のプロモーターとエンハンサーに依存する。このため、組織特異的なプロモーター(例えば造血細胞特異的プロモーター)を持つ癌遺伝子は、線維芽細胞では発現せず、検出できないという根本的な限界があった。この限界を克服するため、著者らのグループは、レトロウイルスLTR (long terminal repeat) プロモーターの制御下で任意のcDNAを強制発現させるレトロウイルスcDNA発現ライブラリーシステムを開発した。

このシステムは以下の利点を持つと説明されている。

  1. 少量の臨床検体からのライブラリー生成: 1×10⁵細胞未満という少量の臨床検体から、1.4×10⁶以上の独立したレトロウイルスベクタークローンを含む高密度なライブラリーを生成することが可能である。これは、特に生検組織など、入手可能な細胞数が限られる臨床検体からのスクリーニングにおいて極めて有用である。
  2. 高効率な細胞感染と広範な適用性: レトロウイルスの高い感染効率を活用することで、任意の増殖細胞にライブラリーを感染させることができ、様々な機能アッセイに応用可能である。これにより、特定の細胞株に限定されず、幅広い細胞タイプでの癌遺伝子機能解析が可能となる。
  3. PCRによる迅速な挿入cDNA回収: 形質転換した細胞から、PCRを用いて挿入されたcDNAを迅速かつ効率的に回収できるため、同定された癌遺伝子の特定が容易である。

このレトロウイルスcDNA発現ライブラリーシステムは、白血病、NK細胞白血病、膵管癌など、複数の腫瘍タイプでの癌遺伝子スクリーニングに既に成功しており、その汎用性と有効性が実証されている。本レビューでは、この確立されたシステムを非小細胞肺癌 (NSCLC) 検体に応用し、既知のKRAS変異およびEGFR変異が陰性であった62歳男性の肺腺癌検体から、EML4-ALK融合遺伝子を発見した経緯が記述されている。このスクリーニングでは、1.4×10⁶以上の独立したレトロウイルスベクタークローンを含むライブラリーが作製され、3T3細胞に導入後、フォーカス形成アッセイが実施された。形成された形質転換フォーカスからcDNAが回収され、配列解析によってEML4-ALK融合遺伝子が同定された。