- 著者: Cesare Gridelli, Solange Peters, Assunta Sgambato, Francesca Casaluce, Alex A. Adjei, Fortunato Ciardiello
- Corresponding author: Cesare Gridelli (Division of Medical Oncology, “S.G. Moscati” Hospital, Avellino, Italy)
- 雑誌: Cancer Treatment Reviews
- 発行年: 2014
- Epub日: 2013-07-25
- Article種別: Review
- PMID: 23931927
背景
肺がんは世界的に最も死亡率の高い悪性腫瘍であり、進行非小細胞肺がん (NSCLC) は全肺がんの85%を占め、診断時には局所進行性または転移性であることが多い。このような状況において、化学療法はこれまで姑息的な役割に留まっていた。しかし、過去数十年間で化学療法の進歩と新規細胞傷害性薬剤の開発により、急性および慢性の毒性を伴いつつも生存率の向上が見られた (Schiller et al. NEnglJMed 2002)。翻訳研究の進展により、NSCLCは分子的に定義されたサブグループに細分化され、特定の分子標的薬に対する感受性が明らかになった。2004年には、上皮成長因子受容体 (EGFR) 活性化変異とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) への臨床的奏効との相関が同定され、ゲフィチニブやエルロチニブがこの患者群の一次治療として承認された (Lynch et al. NEnglJMed 2004、Paez et al. Science 2004)。
その後、2007年に棘皮動物微小管関連タンパク質様4 (EML4) と未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) の融合遺伝子がNSCLC細胞で発見され (Soda et al. Nature 2007)、NSCLCの分子分類に新たなカテゴリーが加わった。ALKはインスリン受容体スーパーファミリーに属する膜貫通型受容型チロシンキナーゼであり、NSCLC以前は未分化大細胞リンパ腫 (ALCL) や、IMT (inflammatory myofibroblastic tumor; 炎症性筋線維芽細胞腫瘍) などの血液腫瘍や固形腫瘍でALK融合が知られていた。NSCLCにおけるALK遺伝子再構成 (主にEML4-ALK) は2-5%の頻度で生じ、若年・非喫煙者・腺癌という特徴的な患者プロファイルと関連する。このALK再構成は、EGFR変異やKRAS変異とは通常相互排他的であると報告されている (Shaw et al. JClinOncol 2009)。
本論文はCancer Treatment Reviewsに掲載された包括的レビューであり、執筆時点 (2013-2014年) ではクリゾチニブがすでに米国食品医薬品局 (FDA) および欧州医薬品庁 (EMA) の承認を受け、第III相試験が進行中であった。しかし、クリゾチニブに対する耐性メカニズムの全容や、その耐性を克服するための次世代治療薬の開発状況については、まだ多くの点が未解明であり、体系的な情報整理が不足していた。本レビューは、この重要な移行期におけるALK陽性NSCLCの診断と治療に関する包括的な知見をまとめることを目的としている。
目的
本レビューの目的は、ALK再構成NSCLCに関する最新の科学的知見を体系的に整理し、以下の主要な側面を包括的に概説することである。具体的には、ALK融合遺伝子の分子生物学的背景と臨床病理学的特徴、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH)、免疫組織化学 (IHC)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR) などの診断法の比較と選択戦略、クリゾチニブの第I-III相臨床試験における有効性と安全性に関するエビデンス、クリゾチニブ耐性機序の分子生物学的解明、ならびに開発中の次世代ALK阻害薬および熱ショックタンパク質90 (Hsp90) 阻害薬の最新情報を提示することを目指す。これにより、ALK陽性NSCLC患者に対する最適な治療戦略の確立に貢献する知見を提供することを意図する。
結果
ALK再構成の分子生物学的背景とバリアント: EML4-ALK融合遺伝子は、染色体2pの逆位によってEML4のN末端半分とALKの細胞内キナーゼドメインが融合したキメラタンパク質である。EML4のcoiled-coil領域による構成的二量体化がALKの恒常的活性化を引き起こし、下流のAkt、STAT3、ERK1/2シグナル経路を活性化する。EML4-ALKには少なくとも8つのバリアントが同定されており (Table 1)、最も多いのはVariant 1 (E13;A20、33%) とVariant 3a/b (E6a/b [E6a/b exon of EML4];A20、29%)、次いでVariant 2 (E20;A20、9%) である。これらのバリアントによってクリゾチニブ感受性に差異がある可能性が示唆された。EML4以外の融合パートナー (TFG-ALK、KIF5B-ALKなど) も報告されているが、その頻度や臨床的意義は不明であった。ALK再構成はEGFR変異やKRAS変異とは通常相互排他的であるが、Lung Cancer Mutation Consortiumの報告では約8%のALK陽性腺癌でEGFRまたはKRAS変異との共存が認められた。
診断法の比較と選択戦略: ALK遺伝子再構成の検出にはいくつかの方法が検討されている。FISH (break-apart probe、Abbott Molecular Diagnostics) はFDA承認のコンパニオン診断薬であり、15%を超えるsplit nucleiを陽性基準とするゴールドスタンダードである (Camidge et al. ClinCancerRes 2010)。IHCはスクリーニングツールとして有用であり、IHC 0+はFISH陰性と高い一致率を、IHC 3+ (強陽性) はFISH陽性と高い一致率を示すことが多くの報告で示されている。IHCとFISHの強い相関から、IHCをルーチンの初期ステップとして使用し、必要に応じてFISHで確認する二段階法が推奨された。ただし、IHC陽性・FISH陰性でクリゾチニブに奏効した症例も1例報告されており、アルゴリズムの標準化は議論中であった。RT-PCRは高感度・特異的であるが、ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 検体でのmRNA分解、未知変異の検出困難、複雑な多重PCR系の実施困難という限界を有する (Takeuchi et al. ClinCancerRes 2008)。
クリゾチニブの臨床試験成績: 37例の進行がん患者を対象とした用量漸増試験で、推奨第II相用量は250 mg BIDと決定された。その後、149例のALK陽性NSCLC患者 (大多数が非喫煙者・腺癌、中央年齢52歳) を対象とした拡張コホートでは、腫瘍縮小が90%超で認められ、客観的奏効割合 (ORR) は61% (完全奏効3例、部分奏効84例) という顕著な成績を示した。中央奏効期間は49.1週であった。奏効発現は迅速であり (初回確認までの中央値7.9週)、奏効は年齢、性別、パフォーマンスステータス (PS)、治療ラインによらず一貫していた。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は全体で約10ヶ月であった (Figure 1)。忍容性は良好であり、ほとんどの治療関連有害事象はGrade 1または2であった。主要な有害事象は視覚障害 (光視症、霧視など、中央発症期間14.5日)、消化器症状 (悪心、下痢、嘔吐など、発症期間2-5日)、末梢浮腫 (中央発症期間85日) であった。Grade 3-4の有害事象としては、好中球減少、アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) 上昇、低リン血症が最も多く報告された (Camidge et al. LancetOncol 2012)。
PROFILE 1005試験およびPROFILE 1007試験の成績: 既治療のALK陽性NSCLC患者 (n=149、多数が腺癌、中央年齢52歳、非喫煙者、3レジメン以上の前治療歴) を対象とした非盲検単群試験 (NCT00932451) で、クリゾチニブ単剤の有効性と安全性が評価された。中間データでは、ORRは59.8%であり、PFS中央値は8.1ヶ月であった。さらに、347例のALK陽性NSCLC患者を対象に、クリゾチニブと化学療法 (ペメトレキセドまたはドセタキセル) を比較した第III相PROFILE 1007試験では、主要評価項目であるPFS中央値は、クリゾチニブ群で7.7ヶ月、化学療法群で3.0ヶ月であり、ハザード比 HR 0.49 (95% CI 0.37-0.64, p<0.0001) とクリゾチニブの明確な優越性が示された (Shaw et al. NEnglJMed 2013)。ORRはクリゾチニブ群で65%、化学療法群で20%であった (p<0.0001)。しかし、初回OS中間解析では、クリゾチニブ群20.3ヶ月 vs 化学療法群22.8ヶ月 (p=0.54) と有意差は認められなかった。これは、化学療法群からの大規模なクロスオーバーの影響が大きいと推測された。
PFS以外のクリゾチニブの臨床的意義とペメトレキセド感受性: 後方視的解析 (n=901) では、ALK陽性でクリゾチニブ投与例 (主に二次治療以降) とクリゾチニブ未治療のALK陽性例を比較した。その結果、OS中央値はクリゾチニブ群で未到達 vs 未治療群で6ヶ月、1年OSは70% vs 44%、2年OSは55% vs 12% (p=0.004) と顕著な差が認められた (Shaw et al. LancetOncol 2011)。また、PROFILE 1007試験の化学療法サブ解析において、ALK陽性患者におけるペメトレキセドとドセタキセルを比較すると、ORR (29.3% vs 6.9%) およびPFS (4.2ヶ月 vs 2.6ヶ月) でペメトレキセドが優れていた。後方視的解析 (n=89) でも、ALK陽性例はKRAS変異/EGFR変異/トリプルネガティブ例と比べ、ペメトレキセドでのPFSが最長 (9ヶ月 vs 7/5.5/4ヶ月) であった。多変量解析では、ALK陽性のみがペメトレキセドでのPFS延長と独立して関連した (HR 0.36, p=0.0051)。
クリゾチニブ耐性機序と次世代ALK阻害薬およびHsp90阻害薬: クリゾチニブ耐性を示す患者の約28%で、ALK-dominantな機序 (二次ALK変異またはALK増幅) が確認された (Doebele et al. ClinCancerRes 2012)。報告された二次ALK変異は少なくとも9種類 (L1196M、G1269A、C1156Y、L1152R、1151Tins、G1202R、S1206Y、F1174C、D1203N) であり、一部の変異ではATP親和性の増大や立体障害によるクリゾチニブ結合阻害が機序として確認された (Choi et al. NEnglJMed 2010、Katayama et al. SciTranslMed 2012)。ALK non-dominantな機序としては、KRAS変異、cKIT増幅・過活性化、EGFR自己リン酸化亢進が同定された (Sasaki et al. CancerRes 2011)。これらを克服する次世代ALK阻害薬 (Table 2) として、CH5424802 (アレクチニブ、ORR 94%を達成) (Sakamoto et al. CancerCell 2011)、LDK378 (セリチニブ、クリゾチニブ既治療例でORR 47%)、AP26113 (ブリガチニブ) の開発が進められている。また、Hsp90阻害薬 (Ganetespib、IPI-504、AUY922) もALK分解を促進する治療薬として有望な成績を示している。
考察/結論
本レビューは、2014年時点のALK陽性NSCLC研究の状況を体系的にまとめた包括的文献であり、クリゾチニブがファーストインクラスのALK阻害薬として確立される一方で、次世代ALK-TKIが台頭しつつあった移行期を記録したものである。PROFILE 1007試験におけるクリゾチニブのPFS 7.7ヶ月は、化学療法の3.0ヶ月を大幅に上回るものであったが、OS改善が示されなかった点 (大規模なクロスオーバーの影響が大きい) は当時の議論の的であった。
先行研究との違い: 本研究で示されたALK陽性NSCLCの特徴的な患者プロファイル (若年、非喫煙者、女性、腺癌) は、従来のNSCLCの疫学像と対照的であり、「稀ながんの中の稀ながん」としての性格を持つ。ALK検査の適応対象を適切に選択することが費用対効果の観点から重要であることが議論された。診断法のゴールドスタンダードであるFISHと、スクリーニングツールとしてのIHCを組み合わせる戦略は、現在のガイドラインにも反映されている。ペメトレキセドの選択的感受性 (ALK陽性例でのチミジル酸合成酵素発現低下による) という興味深い所見は、後続の大規模後方視的解析でも支持されている。
新規性: 本研究で初めて、クリゾチニブに対する多様な二次ALK変異 (L1196M、C1156Yなど) やバイパス経路活性化による耐性獲得メカニズムを体系的に整理し、これらを克服する新規な次世代ALK阻害薬 (LDK378、CH5424802、AP26113) やHsp90阻害薬の臨床開発展望を包括的に提示した。
臨床応用: 本知見は、ALK陽性NSCLC患者の治療成績向上に向けた臨床応用の可能性を強く示唆するものである。特に、クリゾチニブが承認されたことで、ALK陽性NSCLCはEGFR変異陽性NSCLCと同様に、分子標的治療が標準となる個別化医療の重要な領域として確立され、臨床現場における遺伝子スクリーニングの重要性を決定づけた。
残された課題: 今後の検討課題として、クリゾチニブ耐性メカニズムのさらなる詳細な解明と、それに基づいた個別化された治療戦略の開発が挙げられる。特に、ALK非依存性の耐性メカニズムに対する併用療法の有効性については、今後の研究が不可欠である。また、次世代ALK阻害薬の最適な使用順序や、脳転移に対する効果のさらなる検証も、臨床応用を最大化するためのlimitation克服に向けた重要な方向性である。
方法
本論文は、ALK再構成NSCLCに関する文献的レビュー (narrative review) である。ALK再構成NSCLCの分子生物学、病理学、診断法、および治療に関する主要な前臨床研究、第I相、第II相、第III相臨床試験、ならびに後方視的解析を包括的に引用し、その知見を解説した。文献検索は、PubMed、Embaseなどの主要な医学データベースを用いて実施された。クリゾチニブの臨床試験データについては、特に第I相用量漸増試験、第I相拡張コホート試験、第II相PROFILE 1005試験 (NCT00932451)、および第III相PROFILE 1007試験の結果に焦点を当てて詳細に分析した。また、クリゾチニブ耐性メカニズムに関する研究、およびセリチニブ (LDK378)、アレクチニブ (CH5424802)、ブリガチニブ (AP26113) などの次世代ALK阻害薬、さらにHsp90阻害薬 (ガネテスピブ、IPI-504、AUY922) の開発状況に関する最新の臨床試験データも収集し、その有効性と安全性プロファイルを評価した。診断法の比較においては、FISH、IHC、RT-PCRそれぞれの利点と限界を検討し、最適な診断アルゴリズムについて議論した。統計手法に関する特定の記述は本レビューでは行われていないが、引用された各臨床試験では標準的な統計解析 (例: Kaplan-Meier曲線による生存解析、ログランク検定、Cox回帰分析など) が用いられている。