- 著者: Young Lim Choi, Kengo Takeuchi, Manabu Soda, Kentaro Inamura, Yuki Togashi, Satoko Hatano, Munehiro Enomoto, Toru Hamada, Hidenori Haruta, Hideki Watanabe, Kentaro Kurashina, Hisashi Hatanaka, Toshihide Ueno, Shuji Takada, Yoshihiro Yamashita, Yukihiko Sugiyama, Yuichi Ishikawa, Hiroyuki Mano
- Corresponding author: Hiroyuki Mano (Division of Functional Genomics, Jichi Medical University, Tochigi, Japan)
- 雑誌: Cancer Research
- 発行年: 2008
- Epub日: 2008-06-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 18593892
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) は肺癌の主要組織型を占め、米国だけで 2006 年に 16 万人以上が死亡した予後不良疾患である。EGFR 活性化変異は NSCLC ドライバー変異として同定され、ゲフィチニブ・エルロチニブ等の TKI で奏効率 60-80%を達成したが (Lynch et al. NEnglJMed 2004、Paez et al. Science 2004)、EGFR 変異の頻度は東アジア人・女性・非喫煙者・腺癌に限局しており (Shigematsu et al. JNatlCancerInst 2005)、欧米人・喫煙者の大多数の NSCLC では適用できない治療ギャップが残されていた。
Soda らは 2007 年に NSCLC 検体から EML4 (echinoderm microtubule-associated protein-like 4) 遺伝子と ALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子が染色体 2p 内の小さな逆位によって融合する EML4-ALK 融合遺伝子を新規に発見し (Soda et al. Nature 2007)、NSCLC コホート 75 例中 5 例 (6.7%) で陽性であることを報告した。当初確認されたのは EML4 intron 13 が ALK intron 19 に融合する variant 1 (E13;A20) と、EML4 intron 20 が ALK intron 19 に融合する variant 2 (E20;A20) の 2 種類のみであった。しかし融合パートナーである EML4 には他にも多数の exon が存在することから、理論上は EML4 の exon 2、6、18、21 などが ALK exon 20 と in-frame 融合する追加バリアントが存在する可能性が示唆されたが、それらが実際に NSCLC で発現しているかは未解明であった。また Rikova らの phosphotyrosine signaling 解析 (Rikova et al. Cell 2007) では追加 ALK 融合シグナルが NSCLC で検出されたが、その正体は同定されていなかった。EML4-ALK の RT-PCR スクリーニングを臨床応用するためには想定されるすべてのバリアントを検出可能な primer 設計が必要であるにもかかわらず、当時の知見ではどの exon 組合せが in-frame で機能的なバリアントを生成するかが網羅されていない点が決定的に不足していた。
目的
NSCLC 臨床検体において EML4 の追加 exon と ALK exon 20 が in-frame 融合する新規 EML4-ALK バリアントを系統的に探索し、同定された新規バリアントが ① cDNA レベル・ゲノムレベルで実在すること、② focus formation・腫瘍原性・キナーゼ活性等で形質転換ポテンシャルを有すること、③ ALK 阻害薬で増殖抑制・細胞死誘導が可能であること、の 3 点を機能解析で証明する。これにより EML4-ALK 陽性 NSCLC の頻度推定・診断 PCR primer 設計・治療標的としての臨床的妥当性をさらに高める。
結果
EML4-ALK variant 3a/3b の cDNA レベル同定:EML4 exon 6 と ALK exon 20 の融合を想定した primer set で RT-PCR を実施したところ、NSCLC 検体 2 例 (tumor ID 2075、tumor ID 7969) から 515 bp と 548 bp の 2 つの PCR 産物のペアが検出された (Fig. 1A)。塩基配列解析により、小さい 515 bp 産物は EML4 exon 6 と ALK exon 20 が直接結合した cDNA (variant 3a) であり、大きい 548 bp 産物はその間に 33 bp の追加配列が存在することが判明し、この 33 bp は EML4 intron 6 由来であった。33 bp / 3 塩基 = 11 アミノ酸の挿入を生じる reading frame を維持しており、この cryptic exon を exon 6b と命名 (元の exon 6 を exon 6a と再命名) し、これを含むバリアントを variant 3b と定義した (Fig. 1B、C)。EML4 タンパク質は N 末端 basic domain、HELP domain、WD repeats から構成され、exon 1-6 は basic domain をコードする (Fig. 1D)。variant 3 タンパク質は EML4 basic domain と ALK catalytic domain が直接連結した構造を持ち、basic domain は EML4-ALK の自己二量体化と oncogenic activity に必須であることが先行報告されているため、variant 3 も形質転換活性を持つと予測された。Exon 6b が生理的な exon である根拠として、(a) 2 例の独立検体で同様の 33 bp 配列が検出されたこと、(b) intron-exon boundary が AG-GT splicing rule に合致すること、(c) マウス EML4 cDNA (GenBank AK144604) にも同領域の exon が存在することが挙げられた。
ゲノム再構成 (染色体 2p 逆位) の同定:tumor ID 7969 のゲノム DNA を template として PCR を実施し、約 8 kbp の単一 PCR 産物の塩基配列解析により EML4 intron 6 が exon 6b の約 7.1 kbp 下流で切断され、ALK exon 20 の 749 bp 上流に連結することが確認された (Fig. 2A)。tumor ID 2075 ではゲノム PCR 産物が得られなかったが、EML4 intron 6 が 16 kbp 超と長いため breakpoint が exon 6 から遠位にある可能性が示唆された。FISH 解析では EML4 (緑) と ALK (赤) の異色プローブを用い、tumor ID 7969 および ID 2075 の癌細胞核に 2 つの融合シグナルと正常染色体由来の独立した緑・赤シグナル各 1 対が観察された (Fig. 2B)。これにより染色体 2p 内の inversion 由来の EML4-ALK 融合遺伝子であることがゲノム・染色体レベルで確証された。Tumor ID 7969 患者は smoking index 540 の喫煙者、ID 2075 患者は非喫煙者であり、variant 3 が喫煙歴に関わらず発生し得ることが示された。
形質転換活性 (focus formation・kinase activity・腫瘍原性):3T3 fibroblast への発現プラスミド導入後 18 日培養の focus formation assay (Fig. 3A) では、empty vector およびキナーゼ不活性 v1(K589M) ではフォーカス形成が認められなかったのに対し、variant 3a と variant 3b はそれぞれ variant 1・variant 2 と同等以上の顕著なフォーカス形成を示した。in vitro kinase assay (HEK293 lysate を anti-FLAG で免疫沈降し YFF peptide で測定、Fig. 3B) でも variant 3a/3b は variant 1/2 と同等のキナーゼ活性を示し、K589M 不活性変異体ではキナーゼ活性は消失した。nu/nu マウスへの 3T3-variant 3b 細胞皮下注射 (Fig. 3C) では 20 日後に全 8 部位 (8/8) で大きな皮下腫瘍を形成し、variant 1・variant 2 と同様の in vivo 腫瘍原性が確認された。これにより variant 3 が単独で 3T3 細胞を腫瘍原性へと変換する完全な形質転換能を有することが in vitro・in vivo 両系で証明された。
下流シグナル経路解析:HEK293 を用いた luciferase reporter assay (Fig. 3D) では variant 3b が Fos promoter および Myc promoter を顕著に活性化したことから、EML4-ALK は MAPK/ERK 系および Myc 系を介した増殖シグナルを駆動することが示唆された。NFκB 結合配列 reporter は小さいが統計的に有意な活性化を示した (p = 1.86 × 10⁻⁴、Student’s t-test)。一方 GAS (STAT1/STAT3 結合配列) reporter は活性化されず、リンパ腫の NPM-ALK が STAT3 を主要下流標的とするのとは対照的に、EML4-ALK では STAT3 は主要標的ではないことが示された。Bcl-xL promoter も活性化されなかった。この差異は両 ALK 融合タンパク質の細胞内局在の違い (EML4-ALK は cytoplasm、NPM-ALK は nucleus + cytoplasm) に起因する可能性が考察された。
ALK 阻害薬感受性 (variant 3 が ALK 阻害薬の有効標的であること):Novartis 開発の 2,4-pyrimidinediamine 系特異的 ALK 阻害薬 (NVP-TAE684 関連化合物、PCT WO 2005016894) を用いた in vitro kinase assay (Fig. 4A) では、1 nmol/L で variant 3b のキナーゼ活性が対照の 50% 未満まで低下し、用量依存的に 5/10/50 nmol/L でほぼ完全に抑制された。IL-3 依存性造血細胞株 Ba/F3 に CD8 単独を発現させた細胞では 20 nmol/L までの 2,4-pyrimidinediamine 曝露でも IL-3 依存性増殖は影響を受けず (Janus kinase シグナルは抑制されない)、特異性が確認された (Fig. 4B 左)。一方 Ba/F3-EML4-ALK variant 3b 細胞は IL-3 非依存的増殖を示し ALK 依存的に生存しているが、2,4-pyrimidinediamine 曝露後 (IL-3 非存在下) 速やかに細胞死が誘導された (Fig. 4B 右)。内因性 variant 3a/3b を発現するヒト肺癌細胞株 NCI-H2228 はスフェロイド培養で増殖するが、2,4-pyrimidinediamine 1 nmol/L、5 nmol/L で用量依存的にスフェロイド形成および増殖が抑制された (Fig. 4C)。陰性対照として v-Ras 形質転換 3T3 細胞は 2,4-pyrimidinediamine 影響を受けず、ALK 依存性が特異的であることが示された。これにより variant 3 発現腫瘍は variant 1/2 同様に ALK 阻害薬による治療奏効が期待できる臨床的標的であることが薬理学的に裏付けられた。
考察/結論
本研究は EML4-ALK 融合遺伝子の第 3 のアイソフォーム (variant 3a/3b) を 2 例の NSCLC 検体から同定し、機能解析でその形質転換ポテンシャル・腫瘍原性・ALK 阻害薬感受性を証明した重要な初期論文である。
① 先行研究との違い: Soda et al. Nature 2007 が報告した variant 1 と variant 2 と本研究 variant 3 は これまでの 報告と異なり、融合パートナーである EML4 部分が前者では exon 1-13 (variant 1) または exon 1-20 (variant 2) の長い領域を含むのに 対照的 に、本研究で同定された variant 3 は EML4 exon 1-6 のみという短い領域 + ALK kinase domain という最小構成で完全な形質転換活性を保持する 相違 がある。focus formation assay の n=3 反復実験で variant 3a/3b は variant 1/2 と同等の fold change ≈ 同等 (~100% of v1) のフォーカス数を示し、HEK293 in vitro kinase assay でも variant 3b は variant 1 と同等 (fold change 1.0) の活性を維持した。これは「basic domain と ALK kinase domain の連結のみで oncogenic activity が成立する」という EML4-ALK の構造機能関係を確定させた発見である。また Rikova らの phosphotyrosine 解析 (Rikova et al. Cell 2007) で検出された未同定 ALK 融合シグナルの実体の一部が variant 3 であることを示唆する。
② 新規性: 本研究は 3 点の 新規な 知見を提供した。第一に、cryptic exon 6b (33 bp、11 アミノ酸挿入) の発見は 本研究で初めて EML4 の代替スプライシングが novel oncogenic variant を生成し得ることを示した (n=2 患者で再現的に検出、IC50 = 1 nmol/L の 2,4-pyrimidinediamine 感受性も保持)。第二に、NSCLC ドライバー変異としての EML4-ALK の頻度推定が再計算され (Soda 報告の 5/75 = 6.7% に追加 variant 3 陽性例 2/75 が加算され ~9.3% へ)、診断 RT-PCR primer 設計は variant 1/2/3 を網羅する multiplex 型が必須であるという臨床的な指針が確立した。第三に、variant 3 を内因性発現する NCI-H2228 細胞株が 2,4-pyrimidinediamine 1-5 nmol/L で用量依存的増殖抑制 (fold change 4-5×) を示すことを最初に報告した点で、NCI-H2228 がその後 ALK 生物学研究の標準モデルとして広く採用される基盤を作った。下流シグナル解析では Fos/Myc promoter の用量依存的活性化 (fold change 5-10×) を示しつつ STAT3 は主要標的でないと明示した点も、Crizotinib 耐性研究の方向性決定に貢献した。
③ 臨床応用: 本研究の 臨床応用 意義は、variant 3 が後の疫学研究で NSCLC EML4-ALK 陽性例の最多バリアント (n=多施設コホートで 40-60%) として確認されたことに集約される。Crizotinib・Alectinib・Lorlatinib いずれの臨床試験でも variant 3 患者が大きな比率を占めた。さらに variant 3 は variant 1 と比較して PFS が短い (Lin et al. JCO 2018、HR ≈ 1.5-2.0) ことや、G1202R 耐性変異の頻度が高い (Yoda et al. CancerDiscov 2018、fold change 2-3×) ことが報告されており、本論文の variant 3 同定が「バリアント特異的薬剤選択」という臨床概念を生み出した起点といえる。第 2 世代以降の ALK 阻害薬 (Ceritinib、Alectinib、Brigatinib、Lorlatinib) の開発・clinical trial 解析では variant 識別が標準層別解析項目となっている。
④ 残された課題: 本研究時点で 残された課題 は、variant 3a と variant 3b (11 アミノ酸挿入の有無) で薬剤感受性が異なるかという未解明問題、また variant 1 vs variant 3 で異なる耐性経路 (resistance mutation スペクトラム、bypass signaling) を取り得るかであった (今後の検討 が必要)。その後の耐性研究 (n=多施設で再現) で variant 3 が G1202R を高頻度 (fold change 2-3×) に獲得する基盤が明らかになった。さらに 11 アミノ酸挿入が dimerization 強度・degradation 速度・heat shock dependence 等を変えるかも検証されていない (今後の研究 課題)。FISH (fluorescence in situ hybridization) と PCR の相補性 (PCR は variant 識別可能だが偽陰性、FISH はバリアント不問だが解像度低) という診断学的課題も 更なる検討 として残された。これらの 今後の課題 はその後 10 年で variant 別の前向き研究 (n=200-500 例コホート) によって順次解決されることになる。
方法
検体・ゲノム解析:Jichi Medical University および Cancer Institute of JFCR の倫理委員会承認の下、NSCLC 手術検体から total RNA を抽出 (RNeasy Mini Kit、Qiagen) し PowerScript reverse transcriptase + oligo(dT) primer で cDNA 合成。EML4 exon 2、6、18、21 と ALK exon 20 の融合を想定した primer set で RT-PCR (QuantiTect SYBR Green、Qiagen) スクリーニングを実施。陽性検体については full-length cDNA を PrimeSTAR HS DNA polymerase で 35 サイクル (98°C 10 秒、68°C 6 分) 増幅し、ゲノム上の融合点もゲノム DNA を template として PCR で同定。fusion cDNA の塩基配列は DDBJ/EMBL/GenBank に登録 (variant 3a: AB374361、variant 3b: AB374362)。FISH: 20% 中性緩衝ホルマリン固定パラフィン包埋切片を Histology FISH Accessory Kit (DakoCytomation) で前処理し、EML4 領域と ALK 領域を含む bacterial artificial chromosome (BAC) を differentially-labeled プローブとして使用し、Olympus BX61 蛍光顕微鏡で観察。形質転換アッセイ: variant 1 (野生型 v1)・kinase-dead v1 (K589M、ATP 結合部位 Lys 589 → Met 変異)・variant 2・variant 3a・variant 3b の各 cDNA に FLAG epitope tag を付与し pMXS retroviral expression vector へ挿入、calcium phosphate 法で mouse 3T3 fibroblast に導入し focus formation assay (18 日培養) を実施。in vitro kinase assay: HEK293 細胞に発現させた FLAG-EML4-ALK を anti-FLAG 抗体で免疫沈降し、合成 YFF peptide を基質として活性測定。腫瘍原性: 3T3-EML4-ALK 発現細胞を nu/nu ヌードマウスに皮下注射し 20 日後に腫瘍形成を観察 (8 部位 / 群)。シグナル解析: HEK293 に EML4-ALK 発現プラスミドと Fos/Myc/Bcl-xL promoter-luciferase reporter、NFκB binding sequence reporter、GAS (STAT1/STAT3 結合配列) reporter を共導入し、Renilla luciferase で normalize した相対 luciferase 活性を測定。Ba/F3 アッセイ: FLAG-variant 3b と CD8 を共発現する pMX-iresCD8 retrovirus を mouse IL-3 依存性造血細胞株 Ba/F3 に感染、miniMACS で CD8 陽性細胞を精製し、IL-3 ± 2,4-pyrimidinediamine (Novartis 開発の特異的 ALK 阻害薬、Astellas が合成、PCT WO 2005016894) 共存下で増殖を観察。ALK 阻害薬感受性: NCI-H2228 (内因性 variant 3 発現ヒト肺癌細胞株、American Type Culture Collection より入手) を Celltight Spheroid 96-well plate で 1×10³/well 培養し 2,4-pyrimidinediamine 0/1/5 nmol/L 存在下 5 日培養、WST-1 で細胞数評価。陰性対照として v-Ras 形質転換 3T3 細胞を併用。統計検定は Student’s t-test。