- 著者: Makoto Nishio, Haruyasu Murakami, Atsushi Horiike, Toshiaki Takahashi, Fumihiko Hirai, Naoko Suenaga, Takeshi Tajima, Kota Tokushige, Masami Ishii, Anthony Boral, Matthew Robson, Takashi Seto
- Corresponding author: Makoto Nishio (Department of Thoracic Medical Oncology, Cancer Institute Hospital of JFCR, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-06-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 26020125
背景
ALK遺伝子再構成は非小細胞肺癌 (NSCLC) の2-7%に認められ、ALK阻害薬 (ALKi) であるクリゾチニブは進行ALK陽性NSCLCに対し、客観的奏効割合 (ORR) 約60%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値8-10ヶ月を示すことが報告されている Shaw et al. NEnglJMed 2013。しかし、大半の患者が1年以内に獲得耐性により疾患進行を来すことが課題となっている Katayama et al. SciTranslMed 2012。耐性機序としては、ALKチロシンキナーゼドメインの二次変異 (例: L1196Mゲートキーパー変異) やALK融合遺伝子増幅、あるいはEGFR/KRAS/c-KITなどの他の経路の活性化が挙げられる Doebele et al. ClinCancerRes 2012。
アレクチニブは、日本人ALKi未治療患者においてORR 93.5% (AF-001JP試験) と高い効果を示した第二世代選択的ALK阻害剤である。セリチニブ (ceritinib) は、ALKをIC₅₀ 0.20 nMで阻害し、クリゾチニブの約20倍選択的にALKを阻害する新規ALK阻害薬であり、クリゾチニブ耐性変異を克服する薬理学的特性を有することが示されている Friboulet et al. CancerDiscov 2014。国際共同第I相試験 (ASCEND-1) では、セリチニブの最大耐用量 (MTD) が750 mg/日と確立され、PFS中央値はALKi未治療患者で18.4ヶ月、クリゾチニブ既治療患者で6.9ヶ月と報告された Shaw et al. NEnglJMed 2014。しかし、日本人患者におけるセリチニブの薬物動態 (PK)、安全性、および有効性、特にアレクチニブ既治療患者での活性については、データが不足しており、未解明な点が残されていた。
目的
本研究の目的は、日本人ALK再構成陽性悪性腫瘍 (NSCLCおよびその他の腫瘍) 患者を対象に、セリチニブの最大耐用量 (MTD) および推奨用量 (RD) を特定することである。副次目的として、セリチニブの安全性、忍容性、単回および複数回投与時の薬物動態プロファイル、ならびに予備的な抗腫瘍活性を評価した。特に、アレクチニブ既治療患者におけるセリチニブの有効性を探索的に検討した。
結果
患者背景: 本試験には合計20例の日本人患者が登録され、セリチニブの投与を受けた (Table 1)。内訳は300 mg群3例、450 mg群6例、600 mg群4例、750 mg群7例であった。患者の95% (19例) がNSCLCであり、1例 (5%) が炎症性筋線維芽細胞性腫瘍 (IMT) であった。全患者でALK再構成が確認された。中央年齢は44歳 (範囲29-68歳) で、ECOG PS 0-1の患者が90%を占めた。ALKi前治療歴のある患者は80% (15例) であり、クリゾチニブ単独既治療が45% (9例)、他のALKi単独既治療が25% (5例、アレクチニブまたはASP3026)、クリゾチニブと他のALKi両方既治療が10% (2例) であった。ALKi未治療患者は20% (4例) であった。NSCLC患者19例中17例 (89%) が腺癌であった。ベースライン時に脳転移を有する患者は40% (8例) であった。
DLTおよびMTD: 用量漸増パートにおいて、2例にDLTが報告された。1例は600 mg群の患者で、Grade 3のリパーゼ上昇 (>2.0-5.0 × ULN) が認められた。この患者は悪心、嘔吐、消化器痛を伴ったが、膵炎とは関連なしと判断された。もう1例は750 mg群の患者で、Grade 3の薬剤性肝障害 (ビリルビン >3.0-10.0 × ULN、ALT/AST >5.0-20.0 × ULN) が発生した。これらの結果に基づき、日本人患者におけるセリチニブのMTDは750 mg 1日1回と確立された。750 mg 1日1回投与におけるDLT発生率が過剰毒性区間 (≥33%から≤100%) にある後方確率は7.3%であり、EWOC原理 (<25%) を満たした。
安全性プロファイル: 全患者が1つ以上の薬剤関連有害事象 (AE) を経験した (Table 2)。最も頻繁に報告されたAE (全グレード) は悪心 (95%)、下痢 (75%)、嘔吐 (75%)、血中クレアチニン上昇 (60%)、食欲減退 (50%)、疲労 (40%) であった。Grade 3/4のAEは80% (16例) で報告され、最も多かったのはALT上昇と腫瘍痛でそれぞれ2例に発生した。薬剤関連が疑われるGrade 3/4のAEは50% (10例) で報告され、最も多かったのはALT上昇 (10%、2例) であった。DLT以外の薬剤関連AEによる投与中止はなかった。用量減量は45% (9例)、投与中断は55% (11例) の患者で発生し、いずれも750 mg群で最も多く認められた。治療関連死亡は報告されなかった。
薬物動態: PK解析の結果、セリチニブの曝露量は300 mgから750 mg 1日1回の用量範囲で用量比例的に増加することが示された (Table 3)。PKランイン期間において、CmaxおよびAUC₀-₂₄はほぼ用量比例的に増加し、パワーモデルの指数はそれぞれ0.909および1.04であった。消失半減期は22-33時間であり、Tmaxは2-7時間であった。定常状態はサイクル1の15日目までに到達した。MTDである750 mg/日でのAUC₀-₂₄は26,400 ng·hr/mLであった。蓄積比の幾何平均はサイクル1の8日目で5.41-19.5、サイクル2の1日目で6.78-21.5であった。国際共同ASCEND-1試験のアジア人集団と比較して、曝露量が数値的に30%未満高かったが、症例数は限られていた (n=3)。
抗腫瘍活性: 治験責任医師評価によるNSCLC患者19例におけるORRは53% (10/19例、95% CI 29.2-76.9)、病勢コントロール率 (DCR) は68% (13/19例) であった (Table 4)。IMT患者1例も部分奏効 (PR) を達成した。測定可能病変を有する16例中15例で標的病変の縮小が認められた (Figure 1)。ALKi未治療のNSCLC患者4例中2例でPRが確認された。ALKi既治療のNSCLC患者15例中8例 (53%) でPRが認められた。内訳は、クリゾチニブ単独既治療9例中5例、アレクチニブ単独既治療4例中2例、クリゾチニブと他のALKi (アレクチニブまたはASP3026) 両方既治療2例中1例 (ASP3026併用例) でPRが達成された。奏効は、先行ALKiの種類に依存せず観察された。アレクチニブ既治療患者5例中2例でPR (患者2002は300 mgで奏効期間4.2ヶ月、患者3008は750 mgで奏効期間9.5ヶ月)、1例で病勢安定 (SD) が認められた (患者3009、3.9ヶ月で脳に新規病変出現)。アレクチニブ既治療患者におけるセリチニブ治療前後のスキャン画像がFigure 2に示されており、標的病変の退縮が確認された。
考察/結論
本研究は、日本人ALK再構成陽性悪性腫瘍患者におけるセリチニブの第I相試験であり、MTDを750 mg 1日1回と確立し、許容可能な忍容性と抗腫瘍活性を示した。このMTDは、国際共同第I相試験であるASCEND-1で確立されたMTDと一致する。
先行研究との違い: 本研究は、日本人患者におけるセリチニブの安全性と有効性を評価した点で、これまでの国際共同試験とは異なる民族的背景を持つ集団でのデータを提供した。特に、アレクチニブ既治療患者におけるセリチニブの活性を示した点は、先行研究で報告されたアレクチニブ耐性変異に対するセリチニブの活性を示唆する前臨床データと一致する。
新規性: 本研究で初めて、日本人ALK陽性悪性腫瘍患者において、先行ALKi治療歴の有無にかかわらずセリチニブの抗腫瘍活性が認められることを示した。特に、アレクチニブ既治療患者5例中3例で臨床的ベネフィット (2例のPRと1例のSD) が得られたことは新規の知見であり、アレクチニブ耐性変異を回避するセリチニブの可能性を支持する。また、ASP3026既治療患者1例でのPR達成も、他のALKi耐性患者に対するセリチニブの活性を示唆する。
臨床応用: 本研究の結果は、日本人ALK陽性NSCLC患者に対するセリチニブの推奨用量を確立し、クリゾチニブ耐性後の治療選択肢として、またアレクチニブ既治療後のサルベージオプションとしてのセリチニブの臨床的有用性を支持する基礎データを提供する。消化器系AE (悪心、下痢、嘔吐) はクリゾチニブ (39-56%) よりも高頻度であったが、ほとんどがGrade 1-2であり、適切な管理により対処可能であった。ALK耐性変異パターンごとに各ALKiのIC₅₀が異なるという先行知見 (例: アレクチニブはL1196M/G1202R/1151Tins変異に低活性、ASP3026はG1202Rに相対的に活性) と合わせ、セリチニブを含む「ALKiのシーケンシャル療法」という戦略が、ALK陽性NSCLCの長期管理において重要な枠組みとなる可能性を示唆する。
残された課題: 本研究の限界は、症例数が20例と限定的であること、特にアレクチニブ既治療患者のさらなる集積が必要である点である。また、個々の患者における特定のALK耐性変異の同定が実施されていないため、セリチニブの奏効と特定の耐性変異との関連性を詳細に解析することはできなかった。今後の検討課題として、用量拡大コホートでのアレクチニブ耐性集団に対するセリチニブの活性検証が継続中であり、これらのデータが待たれる。
方法
本研究は、第I相、多施設共同、非盲検試験 (NCT01634763) として実施された。対象患者は18歳以上で、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) または免疫組織化学 (IHC) によりALK再構成が確認された局所進行性または転移性の悪性腫瘍を有し、標準治療後に進行した、または有効な標準治療が存在しない患者であった。NSCLC患者ではFISHにより腫瘍細胞の15%以上でALK再構成が確認された。ECOGパフォーマンスステータスは0-2とされた。
試験は用量漸増パートとMTD/RDでの用量拡大パートの2段階で構成された。セリチニブは3日間の薬物動態 (PK) ランイン期間中に単回経口投与され、その後は21日を1サイクルとして1日1回連続投与された。用量漸増は、Bayesian logistic regression model (BLRM) のescalation with overdose control (EWOC) 原理に基づき、300 mg、450 mg、600 mg、750 mgの用量レベルで実施された。用量制限毒性 (DLT) はサイクル1で評価された。主要評価項目はMTDおよびRDの特定であり、副次評価項目は安全性、PK、および抗腫瘍活性であった。統計解析には、BLRMを用いた用量推奨とMTD/RD推定が含まれ、EWOC原理に従いDLT発生率の事後確率が過剰毒性区間 (≥33%から≤100%) にある確率が25%未満の用量が選択された。有効性の評価はRECIST 1.1基準に従い、局所治験責任医師によって行われた。NSCLC患者全例で脳転移の発生頻度が高いため、脳MRIまたは頭部CTが実施された。安全性および有効性のデータカットオフ日は2014年7月4日であった。PK解析のデータカットオフ日は2013年8月2日であり、用量漸増パートの患者のみが含まれた。