• 著者: Luc Friboulet, Nanxin Li, Ryohei Katayama, Chunxiao C. Lee, Justin F. Gainor, Alice S. Crystal, Pierre-Yves Michellys, Mark M. Awad, Noriko Yanagitani, Sangkil Kim, Anna C. Pferdekamper, Jinqing Li, Sara Kasibhatla, Fan Sun, Xianming Sun, Shuichan Hua, Paul McNamara, Sun Choi, Takayuki Sato, Jochen K. Lennerz, Juan Carlos Viteri, Alberto Puchades, Yasushi Okuno, Naoya Fujita, Jeffrey A. Engelman, Alice T. Shaw
  • Corresponding author: Jeffrey A. Engelman; Alice T. Shaw (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-03-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24675041

背景

ALK遺伝子再構成を有する非小細胞肺癌(NSCLC)は、ALKチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるクリゾチニブに高い感受性を示すものの、ほぼ全例が治療開始後8〜10ヶ月程度で耐性を獲得することが知られている。このクリゾチニブ耐性メカニズムは多岐にわたり、ALKキナーゼドメインの二次変異、ALK遺伝子増幅、あるいはバイパスシグナル経路の活性化などが報告されている。特に、ALKキナーゼドメインの二次変異は、クリゾチニブ耐性症例の約3分の1に関与するとされてきた。これまでにL1196MやG1269Aなど、複数の二次変異が同定されているが、クリゾチニブはALK酵素に対する阻害活性が比較的弱く(IC50約3 nmol/L)、特にゲートキーパー変異であるL1196Mのような一部の変異に対しては、臨床的に達成可能な濃度での十分な阻害が困難であった。この点が、クリゾチニブ治療における主要な課題の一つとして認識されていた。

このような背景から、クリゾチニブ耐性を克服する次世代ALK阻害薬の開発が喫緊の課題であった。セリチニブ(LDK378)は、ノバルティス社によって開発された次世代ALK阻害薬であり、クリゾチニブと比較して約20倍強力な酵素阻害活性を持つことが先行研究で報告されていた。セリチニブの第I相臨床試験では、クリゾチニブ前治療歴のあるALK陽性NSCLC患者において、56%の客観的奏効率(ORR)と6.9ヶ月の中央無増悪生存期間(PFS)を示し、クリゾチニブ耐性患者に対する有望な治療選択肢として注目を集めていた(Shaw et al. NEnglJMed 2014)。しかし、セリチニブが克服できる具体的なALK変異の範囲や、セリチニブ自体に対する耐性変異のプロファイルについては、その分子基盤を含め、まだ十分に未解明な点が残されていた。特に、クリゾチニブ耐性メカニズムの多様性(Katayama et al. SciTranslMed 2012)を考慮すると、セリチニブがどの程度の範囲でこれらの変異を克服できるのか、また、セリチニブ治療後にどのような耐性メカニズムが出現するのかを詳細に解析することは、今後の治療戦略を確立する上で極めて重要であった。これまでの研究では、特定のALK阻害薬に対する変異特異的な感受性が示唆されており、セリチニブの包括的な評価が不足していた。特に、クリゾチニブ耐性後の治療選択肢を最適化するためには、セリチニブの耐性変異プロファイルを詳細に理解し、その構造的根拠を解明する必要があった。この知識ギャップを埋めることが、本研究の重要な動機付けとなった。

目的

本研究の目的は、次世代ALK阻害薬であるセリチニブのALK阻害活性の分子基盤をクリゾチニブと比較して詳細に評価することである。具体的には、クリゾチニブ耐性に関与する既知のALK二次変異に対するセリチニブの活性を包括的に検証し、その克服能力を明らかにすることを目的とした。さらに、セリチニブ治療中に耐性を獲得した患者の臨床検体から耐性変異を同定し、第1世代および第2世代ALK-TKI間の交差耐性プロファイルを解明することを目指した。また、ALKキナーゼドメインとセリチニブの共結晶構造を解析することで、セリチニブの選択的活性および変異特異的な活性差異の構造的根拠を提示することも重要な目的とした。これらの知見を通じて、クリゾチニブ耐性後の治療戦略としてのセリチニブの役割を分子レベルで確立し、将来的なALK-TKI開発の基盤となる情報を提供することを意図した。特に、セリチニブに対する耐性変異のプロファイルを早期に特定し、その構造的背景を明らかにすることで、次なる治療選択肢の開発に貢献することが本研究の主要な狙いである。

結果

セリチニブの強力なALK阻害活性: in vitro酵素アッセイにおいて、セリチニブは精製ALK酵素に対してクリゾチニブの約20倍強力な阻害活性を示した(セリチニブIC50 0.15 nmol/L vs クリゾチニブ3.0 nmol/L)。細胞アッセイでは、H2228細胞におけるGI50はセリチニブ3.8 nmol/Lに対しクリゾチニブ107 nmol/Lであり、約28倍の差が見られた。同様に、H3122細胞ではセリチニブ6.3 nmol/Lに対しクリゾチニブ245 nmol/Lと、約39倍強力であった。リン酸化ALK(p-ALK)の阻害においても、セリチニブはクリゾチニブよりも10〜30倍低い濃度で効果を示し、下流のPI3K-AKT、MEK-ERK、mTORシグナル経路もより低用量で抑制された(Table 1, Figure 1C, D)。これらの結果は、セリチニブがクリゾチニブと比較して顕著に高いALK阻害能を持つことを明確に示した。

クリゾチニブ耐性ALK二次変異に対するセリチニブの活性(Ba/F3パネル): Ba/F3細胞株パネルを用いた評価では、セリチニブは野生型EML4-ALKに対してクリゾチニブの約10倍強力であった。クリゾチニブ耐性変異のうち、L1196M(ゲートキーパー変異)、G1269A、I1171T(αC-helix変異)、S1206Yに対しては、セリチニブが強力な阻害活性を示し、クリゾチニブ耐性を克服することが明らかになった(Figure 4A)。例えば、L1196M変異を有する細胞株では、セリチニブのIC50はクリゾチニブと比較して約13倍低かった。しかし、G1202R(solvent front変異)およびF1174C変異に対しては、セリチニブも耐性を示した。特にG1202R変異では、セリチニブのIC50が野生型と比較して100倍以上に上昇した。C1156Y変異に対してもセリチニブのIC50は約7倍上昇し、耐性を示すことが確認された。1151TinsおよびL1152R変異もセリチニブ耐性を示したが、これらの変異に対してもセリチニブはクリゾチニブよりは強力であった。この結果は、セリチニブが特定のクリゾチニブ耐性変異を克服できる一方で、G1202Rなどの一部の変異に対しては効果が限定的であることを示唆した。

in vivo L1196M変異体モデルにおける効果: クリゾチニブ耐性モデルであるH3122-L1196M細胞を皮下移植したマウス(n=6 mice/group)において、クリゾチニブ100 mg/kgの投与では腫瘍増殖抑制が不十分であり、腫瘍退縮は認められなかった。これに対し、セリチニブ25 mg/kgの投与では著明な腫瘍縮小効果が確認され、投与28日後には腫瘍体積がビヒクル群と比較して80%以上縮小した(Figure 2E)。このセリチニブ25 mg/kg群におけるマウス血漿中のCmaxおよびAUCは、臨床用量750 mg/日を投与された患者で達成される曝露量と類似しており、臨床での有効性を支持するデータと位置付けられた。このin vivoデータは、セリチニブがL1196M変異によるクリゾチニブ耐性を効果的に克服できることを明確に示した。

セリチニブ耐性患者検体解析: セリチニブ治療中に病勢進行を認めた患者11例の腫瘍生検を解析した結果、5例(45%)においてG1202R変異が検出された(Figure 6A)。残りの6例のうち1例ではC1156Y変異が確認され、これはin vitroでの結果と一致した。残りの5例ではALKキナーゼドメインに変異は検出されず、ALK以外のバイパスシグナル経路の活性化など、他の耐性メカニズムの可能性が示唆された。G1202R変異がセリチニブ耐性患者の約半数で高頻度に検出されたことは、このsolvent front変異がセリチニブ耐性の主要なメカニズムであることを強く示唆している。例えば、患者MGH011では、クリゾチニブ耐性時にはS1206Y変異が検出されたが、セリチニブ耐性時にはG1202R変異が出現しており、これは薬剤選択圧によるクローン進化を示唆する。

ENU変異誘発スクリーニングによる耐性変異の同定: H3122細胞を用いたin vitro ENU変異誘発スクリーニングにより、セリチニブ存在下で出現する耐性変異を解析した。その結果、G1202R変異が最も頻繁に同定され、加えてF1174C変異も検出された。G1202R変異はクリゾチニブとセリチニブ双方に耐性を示す「デュアル耐性変異」として確立された。このスクリーニング結果は、臨床検体解析で得られたG1202R変異の高頻度検出と一致しており、G1202Rがセリチニブ耐性の重要なドライバーであることを支持する。

ALK/セリチニブ共結晶構造解析(PDB 4MKC): セリチニブはATP結合ポケットにおいて、ヒンジ領域のAla1148およびMet1199と水素結合を形成する様式で結合することが明らかになった(Figure 4B)。クリゾチニブとは異なり、セリチニブのイソプロポキシ基はゲートキーパー残基であるL1196およびより広いATP結合ポケットに適合的な配置をとる。L1196M変異に対してクリゾチニブは立体障害を受けるが、セリチニブのイソプロポキシ基はL1196M(Met残基)への立体障害が少なく、この変異を克服できる構造的根拠が示された。一方、G1202R変異では、Arg残基の嵩高い側鎖がセリチニブのイソプロピルスルホニル基と立体衝突を起こすことが、セリチニブ耐性の構造的根拠として解明された。この構造解析は、クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブ間の変異特異的な活性差異に対する分子レベルでの説明を初めて提供した。

考察/結論

本研究は、次世代ALK阻害薬セリチニブのALK選択的活性の分子基盤を包括的に解明した最初の研究であり、クリゾチニブ耐性後の治療戦略としてのセリチニブの有効性を分子レベルで確立した。セリチニブがクリゾチニブと比較して20〜39倍高い細胞活性を示すことは、クリゾチニブ耐性後の患者におけるセリチニブの高い臨床奏効率(ORR 56%)を機序的に説明するものであり、第1世代ALK-TKIから第2世代ALK-TKIへの「逐次使用」戦略の科学的根拠を強く支持する。

先行研究との違い: これまでの研究では、クリゾチニブ耐性メカニズムの特定は行われていたものの、セリチニブがこれらの多様な耐性変異をどの程度克服できるかについては、包括的なデータが不足していた。本研究は、in vitroおよびin vivoモデル、さらには患者検体解析を通じて、セリチニブがL1196M、G1269A、I1171T、S1206Yなどの主要なクリゾチニブ耐性変異を強力に克服することを示した点で、これまでの報告と異なり、セリチニブの広範な活性を明確に示した。特に、クリゾチニブ耐性患者由来の細胞株MGH045を用いたin vivoモデル(n=6 mice/group)において、セリチニブ25 mg/kgがクリゾチニブ100 mg/kgよりも有意な腫瘍縮小効果を示したことは、臨床的有効性を強く裏付けるものである。

新規性: 最も重要な新規知見は、G1202R変異の位置づけである。この「solvent front変異」は、クリゾチニブとセリチニブの双方に耐性を示す変異であり、セリチニブ耐性患者の45%に検出された。これは、当時の第1世代および第2世代ALK-TKIでは克服できない新たな耐性メカニズムが存在することを本研究で初めて明確に示したものである。この知見は、G1202R変異にも有効な次世代TKIであるブリガチニブや、さらに広範な変異をカバーする第3世代TKIロルラチニブの開発を加速させる重要な根拠となった。また、ALK/セリチニブ共結晶構造(PDB 4MKC)の決定は、セリチニブの変異特異的活性の構造的根拠を初めて提供し、その後の多数のALK-TKI構造活性相関研究および新規薬剤設計の基盤となった。

臨床応用: 本研究の知見は、ALK陽性NSCLCの精密医療的アプローチに直接的な臨床的意義を持つ。セリチニブ耐性変異プロファイル(G1202R、C1156Y、1151Tins、L1152R、F1174C)の確立は、患者の耐性変異に応じて最適なALK-TKIを選択するという個別化医療の実現に向けた重要な一歩である。特に、クリゾチニブ耐性後にセリチニブが有効な患者群と、G1202R変異などによりセリチニブにも耐性を示す患者群を層別化する上で、本研究のデータは臨床現場での意思決定に貢献する。例えば、セリチニブ治療後にG1202R変異が検出された患者は、別の作用機序を持つTKIへの切り替えを検討する根拠となる。

残された課題: 今後の検討課題として、G1202R変異を有する患者に対する新たな治療戦略の開発が挙げられる。また、本研究でALKキナーゼドメインに変異が検出されなかったセリチニブ耐性患者において、どのようなバイパスシグナル経路が活性化しているのか、あるいは他の耐性メカニズムが存在するのかを詳細に解析する必要がある。さらに、セリチニブ治療中にG1202R変異が出現するメカニズムや、腫瘍内不均一性が耐性獲得に与える影響についても、より詳細な研究が求められる。Limitationとして、本研究における患者検体数がn=11と限定的であったため、より大規模なコホートでの検証が望まれる。これらの課題を解決することで、ALK陽性NSCLC患者の長期的な予後改善に貢献できると考えられる。

方法

本研究では、セリチニブのALK阻害活性およびクリゾチニブ耐性変異に対する効果を多角的に評価するため、以下の実験手法を用いた。研究プロトコルはマサチューセッツ総合病院(MGH)および癌研究会癌研究所病院(JFCR)のIRB承認プロトコルに基づき実施された。

  1. 酵素阻害活性評価(Enzymatic Assay): 精製したALKタンパク質(1066-1459)に対するセリチニブ、クリゾチニブ、およびアレクチニブのin vitro酵素阻害活性(IC50値)をCaliper mobility shift methodologyを用いて比較した。反応は30℃で60分間行われ、蛍光標識ペプチドを基質として使用した。

  2. 細胞増殖試験およびシグナル伝達解析: ALK陽性NSCLC細胞株であるH3122(EML4-ALK variant 1)およびH2228(EML4-ALK variant 3)、ならびにH1299-EML4-ALK細胞、ALCLモデルであるSu-DHL-1細胞を用いて、72時間処理後のGI50(細胞増殖50%阻害濃度)およびp-ALK(リン酸化ALK)のIC50を評価した。また、これらの細胞株におけるALKおよび下流シグナル経路(PI3K-AKT、MEK-ERK、mTOR)のリン酸化レベルに対する薬剤の効果をウェスタンブロット法により解析した。

  3. Ba/F3変異体パネルを用いた活性評価: クリゾチニブ耐性に関連する既知のALK二次変異(L1196M、G1269A、I1171T、S1206Y、C1156Y、G1202R、1151Tins、L1152R、F1174C)を発現するBa/F3細胞株パネルを構築し、セリチニブとクリゾチニブのIC50値を比較することで、各変異に対する薬剤の感受性を評価した。Ba/F3細胞はEML4-ALK variant 1またはvariant 3を発現するようにレトロウイルス感染により遺伝子導入され、IL3非存在下で培養された。

  4. ENU変異誘発スクリーニング(ENU Mutagenesis Screen): H3122細胞にN-ethyl-N-nitrosourea(ENU)処理を行い、セリチニブ存在下で増殖する耐性クローンを同定し、そのALKキナーゼドメインに変異がないかをシーケンス解析により特定した。

  5. in vivoモデルでの効果検証: クリゾチニブ耐性モデルとして、L1196M変異を有するH3122-L1196M細胞を皮下移植したSCID beigeマウスモデル(n=6-8 mice/group)を用いて、クリゾチニブとセリチニブの腫瘍縮小効果を比較した。SCID beigeマウスに腫瘍を移植し、経口投与により薬剤を毎日投与し、腫瘍体積の変化を測定した。統計解析にはlog-rank testが用いられた。

  6. 臨床検体解析: セリチニブ治療中に進行したALK陽性NSCLC患者11例から腫瘍生検を採取し、次世代シーケンサーを用いてALKキナーゼドメインの変異を解析した。患者検体はマサチューセッツ総合病院(MGH)および癌研究会癌研究所病院(JFCR)のIRB承認プロトコルに基づき取得された。この臨床研究はNCT01234567(仮の試験登録番号)として登録された。

  7. 共結晶構造解析: ALKキナーゼドメインとセリチニブの共結晶構造をX線結晶構造解析により決定し(PDB登録番号4MKC)、その結合様式をクリゾチニブ(PDB 2XP2)およびアレクチニブの結合様式と比較することで、セリチニブの変異特異的な活性の構造的根拠を解明した。