- 著者: Toyoaki Hida, Takashi Seto, Hidehito Horinouchi, Makoto Maemondo, Masayuki Takeda, Katsuyuki Hotta, Fumihiko Hirai, Young Hak Kim, Shingo Matsumoto, Masayuki Ito, Koichi Ayukawa, Kota Tokushige, Masataka Yonemura, Testuya Mitsudomi, Makoto Nishio
- Corresponding author: Toyoaki Hida (Aichi Cancer Center Hospital, Nagoya, Japan)
- 雑誌: Cancer Science
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-01-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 29959809
背景
ALK陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) は、全NSCLCの約3〜7%を占める特定のサブタイプであり、EML4-ALK融合遺伝子が主要なオンコジェニックドライバーとして機能することが知られている Soda et al. Nature 2007、Shaw et al. JClinOncol 2009。2011年に最初のALK阻害薬であるクリゾチニブが米国食品医薬品局 (FDA) の承認を受けて以来、ALK陽性NSCLCの治療は劇的に進展した Shaw et al. NEnglJMed 2013、Solomon et al. NEnglJMed 2014。しかし、クリゾチニブに対する耐性獲得は避けられず、そのPFS中央値は10.9ヶ月と報告されている。この耐性メカニズムには、二次的なALK変異やALK遺伝子増幅、下流シグナル経路の活性化、あるいは脳への薬剤浸透性の低さなどが関与すると考えられている Costa et al. JClinOncol 2011。
これらの課題を克服するため、セリチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ、ロルラチニブといった第2世代および第3世代のALK阻害薬が開発された。特にアレクチニブは、J-ALEX試験 Hida et al. Lancet 2017 およびALEX試験 Peters et al. NEnglJMed 2017 において、クリゾチニブと比較して優れた無増悪生存期間 (PFS) と低い毒性プロファイルを示し、ALK陽性NSCLCの一次治療における新たな標準治療として確立された。しかし、アレクチニブに対する耐性獲得もまた不可避であり、アレクチニブ治療後に進行した患者に対する最適な治療選択肢は、依然として大きな未解決課題として残されている。
各ALK阻害薬は、異なるALK変異に対して異なるIC50値を示すことが知られており、前臨床データではセリチニブがアレクチニブ耐性変異の一部に対して活性を示す可能性が示唆されていた Friboulet et al. CancerDiscov 2014。また、日本で実施されたセリチニブの第I相試験では、アレクチニブ前治療を受けた4例中2例で部分奏効 (PR) が観察されるという予備的な結果が得られた Nishio et al. JThoracOncol 2015。これらのデータは、アレクチニブとセリチニブが部分的に異なる耐性変異スペクトラムを持つ可能性を示唆し、逐次投与戦略の臨床的有用性を示唆していた。しかし、アレクチニブ治療後に進行した患者に対するセリチニブの有効性と安全性を系統的に評価した前向き試験はこれまで存在せず、この領域には知識のギャップが残されており、治療選択肢が不足していた。本研究であるASCEND-9試験は、この臨床的問いに答えることを目的として設計された、アレクチニブ前治療後のALK陽性NSCLC患者におけるセリチニブの有効性を評価する初の第II相試験である。アレクチニブ治療後の最適な治療戦略が未確立な状況において、セリチニブの役割を明確にすることは喫緊の課題であった。
目的
本研究の主要目的は、アレクチニブ前治療後に進行したALK陽性転移性NSCLC患者を対象に、セリチニブ750 mg/日 (空腹時投与) の有効性、特に主要評価項目である治験責任医師評価による全奏効率 (ORR) を評価することである。副次評価項目として、病勢コントロール率 (DCR)、奏効までの期間 (TTR)、奏効期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、頭蓋内ORR、および安全性を評価する。さらに、探索的バイオマーカー解析として、循環腫瘍DNA (ctDNA) を用いたALK変異プロファイルの経時的変化を検討し、セリチニブ耐性メカニズムに関する知見を得ることも目的とする。本試験は、アレクチニブ後の治療選択肢が不足している状況において、セリチニブの臨床的有用性を確立することを目指した。特に、日本人患者におけるセリチニブの有効性と安全性プロファイルを詳細に評価し、将来的な治療戦略の策定に資するデータを提供することを目指した。
結果
限定的な奏効と迅速な発現: 治験責任医師評価によるORRは25.0% (95% CI 8.7-49.1%) であり、20例中5例で確認された。内訳はCRが1例 (5.0%)、PRが4例 (20.0%) であった。SDは9例 (45.0%)、PDは6例 (30.0%) であった。測定可能病変を有する17例中12例 (70.6%) で腫瘍縮小が確認された (Figure 1A)。奏効は比較的迅速に発現し、TTR中央値は1.8ヶ月 (範囲 1.8-2.0ヶ月) と短かった。DCR (CR+PR+SD) は70.0% (95% CI 45.7-88.1%) であった。1例が12.4ヶ月の長期SDを達成した。
PFSとDOR:短期の有効性: 治験責任医師評価によるPFS中央値は3.7ヶ月 (95% CI 1.9-5.3) であった (Figure 1C)。20例中18例 (90.0%) がPDにより治療を中止した。DOR中央値は6.3ヶ月 (95% CI 3.5-9.2) であり、5例の奏効者のうち3例 (60.0%) がPDイベントを経験した。奏効例5例のDORは、それぞれ9.17ヶ月、5.55ヶ月 (打ち切り)、3.52ヶ月、3.52ヶ月、2.63ヶ月 (打ち切り) であった (Table 3)。
OSと頭蓋内活性:比較的良好な1年生存率と限定的頭蓋内活性: 12ヶ月OS率は75.6% (95% CI 44.8-90.7%) であった。しかし、データカットオフ時点での死亡は5例 (25.0%) のみであり、OSデータは未成熟であった。前治療ライン数別のORR後方視的解析では、1ライン群 (n=6) で16.7% (1/6例)、2ライン群 (n=9) で22.2% (2/9例)、3ライン群 (n=5) で40.0% (2/5例) と、前治療ライン数が多い群でORRが高い傾向が認められた。脳転移を有する12例のうち、測定可能脳病変を持つ2例の頭蓋内最良奏効はSDおよび不明 (撮影モダリティ変更のため) であった。しかし、脳転移を有する12例全体 (測定不能病変を含む) でのORRサブグループ解析では、3例 (25.0%、CR 1例・PR 2例) の奏効が確認された。脳転移あり群 (3/12例、25.0%) と脳転移なし群 (2/8例、25.0%) でORRは同等であった。
バイオマーカー (ctDNA/NGS解析):耐性変異の同定: C1D1 (Cycle 1 Day 1) のctDNA解析により、20例中5例でALK変異が同定された。具体的には、G1202R変異が2例 (Patient 10, 14)、G1269A変異が1例 (Patient 13)、L1196M変異が1例 (Patient 5)、そしてG1202R+V1180L+I1171N複合変異が1例 (Patient 19) であった。これらの変異を保有する患者の最良奏効はSDまたはPDであったが、L1196M変異を保有するPatient 5はPRを達成した。アーカイブ腫瘍組織では、L1196M変異が1例 (Patient 5) のみ検出された。特筆すべきは、EOT (End of Treatment) 時に新たにG1202R変異が2例 (Patient 6, 8) で出現したことである。これは、セリチニブ治療中に獲得された耐性変異として同定され、アレクチニブ後のセリチニブ逐次投与においてもG1202Rが主要な耐性メカニズムとして機能することが臨床的に確認された (Figure 1B)。ctDNA解析では、アーカイブ腫瘍組織と比較して、より多くの遺伝子再構成や変異が検出された。これは、腫瘍の不均一性 Gerlinger et al. NEnglJMed 2012 により、ctDNAが異なる部位からの変異を包括的に捉える可能性を示唆している。
安全性:高頻度の消化器毒性: 全20例 (100%) の患者で少なくとも1つの有害事象 (AE) が発生した。10例 (50.0%) の患者で重篤な有害事象 (SAE) が報告された。最も頻度の高かったAE (全Grade) は、下痢 (85.0%)、悪心 (80.0%)、嘔吐 (65.0%) であった (Table 4)。Grade 3/4のAEは70.0%の患者で認められ、薬剤関連のGrade 3/4 AEは60.0%であった。主な薬剤関連Grade 3/4 AEは、下痢 (20.0%)、ALT上昇 (15.0%)、GGT (ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ) 上昇 (15.0%)、食欲低下 (10.0%) であった。QT延長 (全Grade) は5例 (25.0%) に認められ、うち1例がGrade 3であった。消化器毒性により用量調整または中断を要した患者は8例 (40.0%) であった。AEを理由とする治療中止は3例 (貧血、急性腎障害、胸水が各1例) であった。セリチニブ投与中の死亡 (on-treatment death) は0例であった。全20例が少なくとも1回の用量調整または投与中断を要し、セリチニブの曝露期間中央値は3.7ヶ月 (範囲 0.4-15.1ヶ月)、相対用量強度中央値は68.6% (範囲 30.3-100%) であった。
考察/結論
ASCEND-9試験は、アレクチニブ前治療後に進行したALK陽性NSCLC患者におけるセリチニブの有効性と安全性を初めて系統的に評価した前向き第II相試験である。本研究の結果、ORR 25.0% (95% CI 8.7-49.1%)、DCR 70.0% (95% CI 45.7-88.1%)、PFS中央値3.7ヶ月 (95% CI 1.9-5.3)、DOR中央値6.3ヶ月 (95% CI 3.5-9.2)、12ヶ月OS率75.6% (95% CI 44.8-90.7%) という数値が得られた。これらの結果は、アレクチニブ後に一部の患者でセリチニブが有効である可能性を示唆する。奏効が迅速 (TTR中央値1.8ヶ月) であり、脳転移を有する患者を含む全体でORRが同等であった点も、臨床的意義として言及できる。
先行研究との違い: これまでのセリチニブの臨床試験は、主にクリゾチニブ耐性患者を対象としており Soria et al. Lancet 2017、Shaw et al. LancetOncol 2017、Kim et al. LancetOncol 2016、Crino et al. JClinOncol 2016。本研究は、アレクチニブ耐性後のセリチニブの有効性を前向きに評価した点で、これまでの研究とは異なる。アレクチニブとセリチニブが部分的に異なる耐性変異スペクトラムを持つという前臨床的示唆を、臨床データで確認したことは新規性がある。
新規性: 本研究で初めて、アレクチニブ耐性後のセリチニブ治療中に、G1202R変異が新たに選択されることをctDNA解析により同定した。これは、G1202R変異がセリチニブに対しても耐性を付与する主要なメカニズムとして機能することを臨床的に裏付けるものであり、これまで報告されていない重要な知見である。この発見は、ALK-TKI逐次治療における耐性メカニズムの理解を深める上で極めて重要である。
しかし、PFS中央値3.7ヶ月という結果は、アレクチニブとセリチニブの間に少なからぬ交差耐性が存在することを示唆し、セリチニブ単独での効果は限定的である。アレクチニブ耐性獲得後のctDNA解析でG1202R、V1180L、I1171Nなどの変異が複数の患者で検出されたが、これらはセリチニブ感受性を低下させる主要な耐性変異として知られている。アレクチニブ耐性患者の一部が既にG1202R変異を持つことが、セリチニブへの奏効率が低かった一因と解釈できる。L1196M変異を有する患者ではPRが認められたことから、この変異を持つ患者にはセリチニブが有効である可能性が示唆される。
臨床応用: 本研究の知見は、アレクチニブ前治療後に進行したALK陽性NSCLC患者に対する治療選択肢としてセリチニブを考慮できることを示唆する。特に、迅速な奏効と一部の患者における長期的な病勢コントロールは、臨床的有用性を示す。また、ctDNA解析による耐性変異の同定は、将来的な個別化医療戦略において、治療薬選択のバイオマーカーとして活用できる可能性を示唆する。セリチニブの安全性プロファイルは既報と一致しており、消化器毒性が高頻度で認められたものの、用量調整により管理可能であった。最近のASCEND-8試験 Cho et al. JThoracOncol 2017 では、セリチニブの450 mg食後投与が750 mg空腹時投与と比較して消化器毒性を軽減し、同等の有効性を示すことが報告されており、この新しい投与法は患者の忍容性を向上させ、臨床現場でのセリチニブの適用を拡大する可能性がある。
残された課題: 本研究のlimitationとして、サンプルサイズが小さいこと (n=20) と、対照群のない単一群試験であることが挙げられる。このため、他のALK阻害薬や化学療法との直接比較はできない。また、奏効例と非奏効例を区別する特定の患者特性を特定することは困難であった。今後の検討課題として、アレクチニブ耐性メカニブムに応じた最適なセリチニブの逐次投与戦略を確立するため、より大規模なバイオマーカー主導型試験が必要である。特に、G1202R変異以外の複合変異やオフターゲット耐性メカニズムに対するセリチニブの有効性を詳細に評価し、ロルラチニブなどの他の第3世代ALK阻害薬との比較検討も今後の研究方向性となる。
方法
本研究は、日本国内9施設で実施された単一群オープンラベル多施設共同第II相試験 (NCT02450903) である。患者登録期間は2015年8月から2017年3月までで、データカットオフは2017年7月31日であった。
対象患者: 組織学的または細胞学的に確認されたStage IIIBまたはIVのALK FISH陽性転移性NSCLC患者が対象とされた。主要な適格基準は、アレクチニブによる前治療歴があり、RECIST 1.1に基づく測定可能病変が少なくとも1つ存在し、WHOパフォーマンスステータス (PS) が0または1であることであった。無症候性の未治療または治療済み脳転移患者も許容された。前治療として、最大1レジメンの細胞傷害性化学療法が許容され、プロトコル改訂後はクリゾチニブ前治療も許容された。患者はセリチニブの賦形剤に対する既知の過敏症、癌性髄膜炎の既往、間質性肺疾患または間質性肺炎の既往、胸部放射線治療歴、大手術歴、併存する悪性腫瘍、膵炎の既往、臨床的に有意な心疾患、またはセリチニブの吸収を著しく変化させる可能性のある胃腸機能障害を有する場合は除外された。本研究はヘルシンキ宣言およびGCPガイドラインに従って実施され、各施設で独立倫理委員会または治験審査委員会によって承認された。
治療プロトコル: 患者にはセリチニブ750 mg/日を空腹時 (食事の2時間前または食後2時間以降) に経口投与した。1サイクルを28日とし、疾患進行、許容できない毒性、同意撤回、または治験責任医師の判断により中止されるまで治療を継続した。治療中止後も臨床的利益が継続すると判断された患者では、疾患進行後も治療継続が許可された。最大3回の用量減量 (150 mg/回) が許容されたが、再増量は不可とされた。
評価項目: 主要評価項目は、治験責任医師評価によるRECIST 1.1に基づくORR (完全奏効 [CR] またはPRの割合) であった。CRおよびPRは、初回基準達成後4週間以上経過した時点での再評価により確認された。副次評価項目には、DCR (CR+PR+安定疾患 [SD] の割合)、TTR (奏効までの期間)、DOR (奏効期間)、PFS、OS、頭蓋内ORR、および有害事象 (AE) などの安全性が含まれた。腫瘍評価はベースライン時、サイクル3の1日目、その後8週間ごと、および治療終了時訪問時にCTまたはMRIを用いて実施された。脳転移を有する患者では、サイクル3以降8週間ごとに脳MRIまたはCTスキャンが実施された。
患者背景 (n=20): 登録された20例の患者は全て腺癌であり、女性が60.0%、年齢中央値は51歳 (範囲29-79歳) であった。95.0%がStage IV、60.0%が脳転移を有していた。WHO PSは0が55.0%、1が45.0%であった。前治療ライン数は、アレクチニブ単独の1ラインが30.0%、2ラインが45.0%、3ラインが25.0%であった。白金系化学療法前治療歴は65.0%、クリゾチニブ前治療歴は20.0%であった。前アレクチニブに対する最良奏効はCR 15.0%、PR 70.0%、SD 5.0%であり、アレクチニブへの奏効期間中央値は9.3ヶ月であった。全20例がアレクチニブ投与中の疾患進行を理由に治療を中止していた。
バイオマーカー解析: 全患者からアーカイブ腫瘍組織と血漿サンプル (C1D1 [Cycle 1 Day 1] およびEOT [End of Treatment]) を採取し、Novartis Institutes for BioMedical Research (NIBR) にて解析した。次世代シーケンシング (NGS) を用いて570のがん関連遺伝子の変異、コピー数変化、再構成を評価した。ctDNAはQiagen Circulating Nucleic Acid kitを用いて抽出され、Illumina HiSeq 2500sでシーケンスされた。検出されたゲノム病変は、COSMICなどの公開リソースに基づいてアノテーションおよびフィルタリングされた。
統計解析: 主要解析は、全患者が少なくとも6サイクル (24週) の治療を完了するか、早期に中止した時点で実施された。本研究では正式な統計的仮説検定は行われず、サンプルサイズ (n=20) は検出力に基づかない。ORR、DCR、OIRR (Overall Intracranial Response Rate) は95%信頼区間 (CI) とともに推定された。DOR、PFS、OSの中央値および95% CIは、カプラン・マイヤー法を用いて推定された。DORおよびPFS解析では、イベントが発生していない患者、またはPDなしに新たな抗がん治療を受けた患者は、解析カットオフ日または新たな抗がん治療開始日のいずれか早い方の直前の最終的な適切な腫瘍評価日にデータが打ち切られた。TTRは、確認された奏効 (CRまたはPR) を示した患者について記述統計学的に要約された。OS率と95% CIはカプラン・マイヤー法を用いて推定された。安全性評価は記述統計学的に要約された。