- 著者: Pasi A. Jänne, Alice T. Shaw, D. Ross Camidge, Giuseppe Giaccone, S. Martin Shreeve, Yiyun Tang, Zelanna Goldberg, Jean-François Martini, Huiping Xu, Leonard P. James, Benjamin J. Solomon
- Corresponding author: Pasi A. Jänne (Dana-Farber Cancer Institute / Harvard Medical School, Boston, MA)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-02-17
- Article種別: Original Article
- PMID: 26899759
背景
非小細胞肺がん (NSCLC) において、上皮成長因子受容体 (EGFR) の活性化変異は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) 治療に対する感受性を予測するバイオマーカーとして確立されている。アジア人患者では30%と高頻度でEGFR変異が報告されており、非アジア人患者でも8%から17%の頻度で認められることが、複数の研究で示されている (Lynch et al. NEnglJMed 2004、Paez et al. Science 2004、Pao et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004)。進行EGFR変異NSCLC患者にとって、EGFR-TKIは標準治療であり、従来の化学療法と比較して臨床的アウトカムを著しく改善することが示されている。しかし、EGFR-TKIに対する耐性の獲得は避けられない課題であり、長期的な臨床的利益を阻害する主要な要因である。
EGFR-TKI耐性の主要なメカニズムとして、EGFR遺伝子におけるT790M変異が約50%から60%の症例で報告されている。また、間葉上皮転換因子 (MET) の遺伝子増幅によるアップレギュレーションまたは活性化も、耐性メカニズムの一つとして観察されており、初期の報告ではMET増幅の頻度が15%から22%とされていたが、より近年の解析では約5%と報告されている (Engelman et al. Science 2007、Sequist et al. SciTranslMed 2011、Yu et al. ClinCancerRes 2013)。EGFR変異とMET増幅は同一腫瘍内または同一患者の異なる腫瘍で同時に検出されることがあり、耐性における腫瘍の不均一性の重要性が示唆されている。
Dacomitinibは、EGFR (HER1) を含むHERファミリー受容体チロシンキナーゼの不可逆的かつ選択的な第2世代阻害薬である。前臨床モデルでは、第1世代EGFR-TKIであるゲフィチニブやエルロチニブに耐性を示す腫瘍、特にT790M耐性変異を持つ腫瘍に対しても有効性が示されていた。CrizotinibはMET、ALK、ROS1を阻害する多標的TKIであり、ALK陽性NSCLCの治療薬として承認されている。MET増幅を有するNSCLC患者において、crizotinib単剤での奏効が限られた症例で報告されており、MET増幅が治療標的となりうることが示唆されていた。
in vitroおよびin vivo研究では、EGFRとMETの同時阻害が相乗効果を示すことが報告されており、特にEGFR変異T790MとMET過剰発現を併せ持つ腫瘍モデルで有効性が示唆されていた。これらのデータは、MET増幅またはアップレギュレーションを介してEGFR-TKI耐性を獲得した患者が、METとEGFRの併用阻害から利益を得る可能性を示唆していた。しかし、この併用療法の臨床的有効性と安全性は未解明であり、特にEGFR-TKI耐性患者における治療選択肢が不足していたため、本第I相試験が計画された。
目的
本第I相試験の主要目的は、進行NSCLC患者(主にEGFR-TKI耐性)におけるdacomitinibとcrizotinibの併用療法の最大耐用量(MTD)および推奨Phase II用量(RP2D)を決定することであった。副次目的として、この併用療法の全体的な安全性と忍容性、抗腫瘍活性、および薬物動態(PK)を評価した。さらに、エルロチニブまたはゲフィチニブに獲得耐性を示した患者の腫瘍および血液におけるベースラインバイオマーカー(EGFR、HER2、KRAS変異、MET増幅、EGFR/MET/HGF発現など)を解析し、治療効果との相関を検討すること、およびEGFR標的療法に対する耐性メカニズムを探索することも目的とした。これにより、EGFR-TKI耐性克服のための新たな治療戦略の可能性を評価することを目指した。
結果
患者背景と治療期間: 2010年8月から2014年2月にかけて、米国およびオーストラリアの4施設で合計70例の患者が登録された。用量漸増パートに33例、拡大パートに37例(コホート1に25例、コホート2に12例)が参加した。全70例が安全性解析対象集団に含まれ、67例(96%)が奏効評価可能であった。患者の年齢中央値は59.5歳(範囲38〜82歳)で、女性が61%、白人が81%、アジア人が16%を占めた(Table 1)。非喫煙者が51%であり、99%が転移性疾患を有し、90%がECOG PS 0または1であった。40%の患者が3ライン以上の前治療歴を有していた。93%の患者が以前にエルロチニブ(90%)またはゲフィチニブ(3%)による治療を受けていた。治療期間中央値はdacomitinibで52.5日(範囲2〜287日)、crizotinibで51.0日(範囲2〜295日)であった。
MTDの決定と治療関連有害事象: 用量漸増パートにおいて、dacomitinib 30 mg 1日1回とcrizotinib 200 mg 1日2回の併用がMTDと決定された。これは試験された最低用量レベルであり、単剤療法時の推奨用量よりも低い。全体で66例(94%)の患者が少なくとも1つの治療関連有害事象を経験した(Table 2)。Grade 3または4の治療関連有害事象は43%(Grade 3が27例 [39%]、Grade 4が3例 [4%])の患者で報告された。最も頻繁に報告されたGrade 3の有害事象は下痢(16%)、皮疹(7%)、倦怠感(6%)であった。Grade 4の治療関連有害事象としては、急性呼吸窮迫症候群、高尿酸血症、肺塞栓症が各1例ずつ報告された。治療関連の重篤な有害事象(SAE)は10例(14%)で発生し、下痢(n=4)、悪心、脱水、高尿酸血症(各n=2)が主なものであった。有害事象による治療中止は26%(18例)の患者で発生し、そのうち8例(11%)は治療関連と判断された。投与中断はdacomitinibで66%(46例)、crizotinibで61%(43例)の患者で発生した。治療期間中に15例(21%)の死亡が報告されたが、いずれも疾患進行に関連するか原因不明であり、治療関連死は認められなかった。
限定的な抗腫瘍活性: 本試験全体での客観的奏効率(ORR)は1.5%(95% CI: 0.0-8.0)と極めて限定的であった。部分奏効(PR)は拡大コホート1の1例のみで、そのPRは6.3週間持続した。安定疾患(SD)は46%の患者で認められ、そのうち61%は3〜6ヶ月間持続した。用量漸増パートにおけるPFS中央値は3.0ヶ月(95% CI: 2.8-4.3)、拡大パートでは2.1ヶ月(95% CI: 1.4-3.5)であった。腫瘍縮小は拡大パートの一部の患者で観察された(Figure 1)。
薬物動態学的相互作用: 拡大コホート1ではdacomitinibがcrizotinibの定常状態血漿曝露量を減少させる傾向が、拡大コホート2ではcrizotinibがdacomitinibの定常状態血漿曝露量をわずかに増加させる傾向が観察された(Table 3)。しかし、PK薬物相互作用の解析に利用できる患者数が限られていたため、正式な統計解析は行われなかった。
バイオマーカー解析結果: 拡大パートの35例中、EGFR変異解析に適した20検体のうち18例(90%)がEGFR活性化変異を有していた。これらのうち11例(55%)はT790M単独(9例)、S768I単独(1例)、またはT790MとS768Iの併発(1例)といった耐性変異を同時に有していた。MET増幅のFISH解析に適した30検体のうち、MET増幅を示したのはわずか1例(3%)のみであり、その増幅レベルも低度(比率2.12、カットオフ2.1)であった。HER2増幅は30検体中0例(0%)であった。EGFR増幅は22検体中5例(23%)で認められた。ALK再構成は全検体で陰性であった。IHC解析では、EGFRおよびMETの発現レベルは広範囲にわたった。EGFRのH-score中央値は193(範囲2-300)、METのH-score中央値は138(範囲0-300)であり、一部の腫瘍では非常に強い発現が認められた(Table 4)。しかし、EGFRまたはMETのタンパク質発現と腫瘍体積の最大変化率、PFS、または治療期間との間に明確な関連性は認められなかった。唯一PRを達成した患者(拡大コホート1、患者6)は、高い腫瘍EGFR発現(H-score 284)と中等度のMET発現(H-score 140)を示した。この患者の腫瘍はEGFR exon 19欠失とT790M変異を有し、低レベルのEGFR増幅(2.11倍)が認められたが、MET増幅はなかった。HGFの発現はEGFRやMETよりも少なく、H-score中央値は45(範囲0-280)であった。血漿中の可溶性MET(s-MET)濃度は、時間とともにわずかに増加する傾向が示されたが、治療期間との関連はなかった(Figure 2)。
考察/結論
本第I相試験は、dacomitinibとcrizotinibの併用療法が、EGFR-TKI耐性NSCLC患者に対して限定的な抗腫瘍活性しか示さず、かつ相当な毒性を伴うことを明確に示した。この併用療法のMTDはdacomitinib 30 mg 1日1回とcrizotinib 200 mg 1日2回であり、これは試験された最低用量レベルであり、単剤療法時の推奨用量(dacomitinib 45 mg 1日1回、crizotinib 250 mg 1日2回)よりも低かった。この事実は、2剤併用による相加毒性が治療継続の大きな障壁となることを示唆している。特に、下痢(全グレード74%、Grade 3が16%)の発生率が高く、治療関連有害事象による治療中止が26%の患者で発生したことは、忍容性の低さを示している。
先行研究との違い: 本研究で観察されたMET増幅の頻度(3%)は、以前の報告(15%〜22%)と比較して大幅に低く、より近年の解析(約5%)と一致する。これは、初期の報告がMET増幅の頻度を過大評価していた可能性を示唆しており、本研究の結果は、MET増幅がEGFR-TKI耐性における普遍的なメカニズムではないことを示唆している点で、これまでの知見と対照的である。
新規性: 本研究は、EGFR-TKI耐性NSCLC患者におけるdacomitinibとcrizotinibの併用療法の安全性、忍容性、および抗腫瘍活性を包括的に評価した初めての臨床試験である。特に、バイオマーカー解析を通じて、EGFR T790M変異の存在下でのdacomitinibの有効性不足と、MET増幅の実際の低頻度を明らかにした点は新規性がある。
臨床応用: 本研究の結果は、EGFR-TKI耐性NSCLC患者に対するdacomitinibとcrizotinibの併用療法が、期待された臨床的利益をもたらさないことを示唆している。この知見は、EGFR-TKI耐性克服のための治療戦略を検討する上で重要な臨床的含意を持つ。特に、T790M変異を標的とするためには、dacomitinib 30 mgでは十分な血中濃度に到達しない可能性が指摘されており、より高用量またはT790M選択的阻害薬の必要性が示唆される。
残された課題: 本研究の主な限界は、併用療法の毒性が高く、MTDが単剤療法時の推奨用量よりも低く設定されたため、各薬剤が最適な用量で投与されなかった可能性がある点である。また、MET増幅の頻度が低かったため、MET阻害が有効な患者集団を十分に評価できなかった可能性がある。今後の研究課題として、EGFR T790M変異とMET増幅が共存する腫瘍に対する治療戦略のさらなる探索が挙げられる。特に、オシメルチニブ(AZD9291)やロシレチニブ(CO-1686)のようなT790M選択的な第3世代EGFR阻害薬は、野生型EGFRに対する選択性が高く、毒性プロファイルが改善されているため、MET阻害薬との併用療法に適している可能性がある。これらの新しいクラスのEGFR阻害薬とMET阻害薬の併用は、今後の検討方向性として期待される。
方法
本研究は、多施設共同、非盲検、非ランダム化の第I相試験(ClinicalTrials.gov識別子: NCT01121575)として実施された。米国3施設およびオーストラリア1施設が参加した。試験は用量漸増パート(n=33)と拡大パート(n=37)の2段階で構成された。
患者選択: 18歳以上の局所進行または転移性NSCLC患者が対象とされた。用量漸増パートでは少なくとも1ラインの化学療法または標的療法後に進行した患者、拡大パートではエルロチニブまたはゲフィチニブに獲得耐性を示した患者が組み入れられた。獲得耐性は、単剤エルロチニブまたはゲフィチニブ投与中に初期奏効(完全奏効または部分奏効)または6ヶ月以上の安定疾患(SD)後に進行したと定義された。その他の主要な適格基準には、ECOG Performance Status 0〜2、十分な臓器機能、および測定可能または評価可能な病変が少なくとも1つ含まれた。除外基準には、他の試験への参加、過去2週間以内の肺がん治療、間質性線維症または肺疾患、神経学的に安定していない脳転移、心臓異常または未制御の高血圧、過去3年以内の他の悪性腫瘍が含まれた。全ての患者は書面によるインフォームドコンセントを提出した。
治療計画: 用量漸増パートでは、dacomitinib 30 mg 1日1回とcrizotinib 200 mg 1日2回を最低用量レベルとして開始した。DLT(用量制限毒性)基準に基づきMTDを決定した。DLTは、治療サイクル1中に6例中0または1例で発現した場合にMTDと定義され、2例以上で発現した場合はその下の用量レベルがMTDとされた。DLTとしてGrade 3のALT上昇(1例)、Grade 3の下痢(1例)、Grade 3の口内炎(1例)が計3件報告された。その結果、MTDはdacomitinib 30 mg 1日1回 + crizotinib 200 mg 1日2回(最低用量レベル)と決定され、この用量が拡大パートで採用された。
拡大パート: 拡大パートは2つのコホートで構成された。新規腫瘍生検が必須とされた。
- コホート1: crizotinib単剤を10〜14日間先行投与した後、dacomitinibを併用投与し、dacomitinibがcrizotinibの薬物動態に与える影響を評価した。
- コホート2: dacomitinib単剤を進行まで投与した後、crizotinibを併用投与し、crizotinibがdacomitinibの薬物動態に与える影響を評価した。
評価項目: 有害事象(AE)はNCI-CTCAE v4.02に基づきグレード分類され、最終投与後少なくとも28日間モニタリングされた。疾患評価はベースライン時およびサイクル3の1日目から2サイクルごとに実施された。抗腫瘍活性はRECIST v1.1に基づき、治験責任医師によって評価された。
バイオマーカー解析: 拡大パートの腫瘍組織生検サンプルを用いて、EGFR、HER2、KRAS変異の遺伝子解析、MET、EGFR、HER2のFISH法による増幅評価、HGF、EGFR、METの免疫組織化学(IHC)解析による発現評価、およびALK遺伝子再構成のFISH法による同定が行われた。IHC染色は半定量的に評価され、H-score(0〜300)が算出された。FISH解析では、増幅イベントのカットオフ値としてターゲット遺伝子特異的シグナルとセントロメア特異的シグナルの比率2.1が用いられた。
統計解析: 安全性解析対象集団は治験薬を少なくとも1回投与された全患者とした。奏効評価可能患者は適切なベースライン腫瘍評価が行われた患者とした。客観的奏効率(ORR)は、F分布に基づく正確法を用いて95%信頼区間(CI)とともに要約された。無増悪生存期間(PFS)はカプラン・マイヤー法を用いて要約され、中央値の95% CIはBrookmeyer-Crowley法により算出された。