• 著者: Dardaei L, Wang HQ, Singh M, Fordjour P, Shaw KX, Yoda S, Kerr G, Yu K, Liang J, Cao Y, Chen Y, Lawrence MS, Langenbucher A, Gainor JF, Friboulet L, Dagogo-Jack I, Myers DT, Labrot E, Ruddy D, Parks M, Lee D, DiCecca RH, Moody S, Hao H, Mohseni M, LaMarche M, Williams J, Hoffmaster K, Caponigro G, Shaw AT, Hata AN, Benes CH, Li F, Engelman JA
  • Corresponding author: Cyril H. Benes (Massachusetts General Hospital, Charlestown, MA, USA); Fang Li (Tango Therapeutics, Cambridge, MA, USA); Jeffrey A. Engelman (Novartis Institutes for BioMedical Research, Cambridge, MA, USA)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-03-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29505033

背景

ALK陽性非小細胞肺がん (NSCLC) は、クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブなどのALKチロシンキナーゼ阻害薬 (ALK-TKI) に対し初期には高い奏効を示すものの、ほぼ全ての患者で後天性耐性が発現する。この耐性機序は大きく2つのグループに分類される。一つはALKキナーゼドメインの二次変異やALK遺伝子増幅といったon-target耐性であり、これは一次治療のクリゾチニブ後で約20%、二次治療後では最大50%の患者で報告されている Doebele et al. ClinCancerRes 2012Choi et al. NEnglJMed 2010Katayama et al. ProcNatlAcadSciUSA 2011。もう一つは、EGFR、KIT、SRC (SRC proto-oncogene, nonreceptor tyrosine kinase)、IGF-1Rなどの代替キナーゼの活性化によるoff-target耐性である Katayama et al. SciTranslMed 2012Sasaki et al. CancerRes 2011。第三世代ALK阻害薬であるロルラチニブは、既知のALKキナーゼドメイン変異の全てに対してin vitroで活性を示すが、off-target耐性を示す細胞株の増殖を抑制できないことが報告されている Gainor et al. CancerDiscov 2016

off-target耐性メカニズムは患者ごとに異なり、EGFR、FGFR、SRCなど多様な耐性ドライバーが存在するため、個別の耐性メカニズムに対応する治療戦略の開発は臨床的に困難であった。この耐性機序の不均一性を克服し、共通して有効な治療標的の同定が喫緊の課題として残されていた。特に、ALK阻害後に活性化する多様なバイパス経路に共通して関与するシグナルハブの特定は、新たな治療戦略を開発するために不足している重要な知見であった。SHP2 (PTPN11によりコードされる非受容体型チロシンホスファターゼ) は、EGFR、FGFR、SRCなど複数の受容体型チロシンキナーゼの下流でRASのGTPローディングを媒介する共通のシグナルノードとして機能することが知られており、その治療的意義が注目されていた。しかし、ALK阻害薬耐性におけるSHP2の役割については未解明な点が多かった。

目的

本研究の目的は、ALK-TKI耐性を示す患者由来細胞株 (PDC) を用いたshRNAスクリーニングおよび薬剤組み合わせスクリーニングを通じて、多様なALK非依存性耐性機序に共通して有効な治療標的を同定することである。さらに、同定されたSHP2に対する阻害薬SHP099とセリチニブの併用療法が、in vitroおよびin vivoにおいてALK阻害薬耐性NSCLCに対して抗腫瘍効果を発揮するかを検証することを目指した。

結果

shRNAスクリーニングによるSHP2の同定と共通シグナルハブとしての機能: shRNAスクリーニングの結果、複数のALK-TKI耐性PDCにおいて、セリチニブに対する感受性を増強する遺伝子としてSHP2 (protein tyrosine phosphatase, non-receptor type 11) が同定された (Fig. 1b)。EGFR、FGFR1、ERBB2、SRC、MAPK1、RAF1、FRS2 (fibroblast growth factor receptor substrate 2)、MYCなどの既知の耐性関連遺伝子もヒットしたが、これらは特定のPDCでのみ検出されたのに対し、SHP2はMGH049-1A、MGH073-2B、MGH065-1B、MGH045-2Aなど複数のPDCで共通してヒットした。この結果は、SHP2が多様な耐性機序に共通するシグナルハブである可能性を示唆する。SHP2のshRNAノックダウンは、MGH049-1A (EGFRバイパス)、MGH073-2BおよびMGH065-1B (FGFRバイパス)、MGH045-2A (SRCバイパス) の全ての耐性PDC (n=4 cell lines) においてセリチニブ感受性を増強した (Fig. 1o)。

薬剤スクリーニングによる耐性機序の特定とERK再活性化の抑制: 薬剤組み合わせスクリーニングにより、MGH049-1A (EGFRバイパス) ではエルロチニブやサラカチニブが、MGH073-2B (FGFRバイパス) ではBGJ398が、MGH045-2A (SRCバイパス) ではサラカチニブがセリチニブ感受性を回復させることが確認された (Fig. 1c-j)。これらの耐性細胞では、セリチニブ単剤投与後、ERK1/2リン酸化が初期に抑制された後 (1時間後)、反跳的に再活性化する現象が観察された (4〜48時間後)。適切な第二阻害薬の追加は、このERKリバウンドを持続的に抑制した (Fig. 1k-m)。

SHP099とセリチニブ併用によるin vitroでの感受性回復とRAS-ERK経路の抑制: SHP099 (5 µM) 単剤ではコロニー形成への効果は軽微であったが、セリチニブ (500 nM) との併用は、MGH049-1A、MGH073-2B、MGH065-1B、MGH045-2Aの全4種の耐性PDCでコロニー形成を著明に抑制した (Fig. 2a)。MGH049-1AおよびMGH045-2Aでは、SHP099の添加がセリチニブによるアポトーシスを増強した。ウェスタンブロット解析により、SHP099とセリチニブの組み合わせ治療が、ERK1/2およびp90RSK (p90 ribosomal S6 kinase) のリン酸化を持続的に抑制することが示された (Fig. 2b-e)。GST-RBD (glutathione S-transferase-Ras-like Raf-binding domain fusion) プルダウンアッセイでは、この組み合わせがKRAS、HRAS、NRASの全3種のGTP-RASレベルを単剤よりも大きく抑制することが明らかになった (Fig. 2f-i)。また、ERK依存的転写産物であるDUSP6 (dual specificity phosphatase 6)、ETV5 (ETS variant 5)、SPRY2 (sprout homolog 2) のmRNAレベルも、併用療法により単剤よりも有意に低下した (Supplementary Fig. 6)。MEK (mitogen-activated protein kinase kinase) 変異を持つMGH034-2A細胞 (RAS非依存的にERK活性化) は、SHP099+セリチニブ併用療法に非感受性であったことから、SHP099がRAS活性化の上流で機能することが確認された (Supplementary Fig. 7a)。

in vivoでの抗腫瘍効果: MGH049-1AおよびMGH073-2B異種移植モデル (n=5-8 mice/group) において、セリチニブ単剤では一時的かつ軽微な腫瘍縮小後に再増殖が認められたが、SHP099+セリチニブ併用療法は腫瘍の著明な退縮を誘導した (MGH049-1Aでp<0.05 vs vehicle、MGH073-2Bでp<0.05 vs vehicle) (Fig. 3a, b)。MGH045-2A異種移植モデル (n=4 mice/group) では、セリチニブ単剤では完全耐性であったが、併用療法により腫瘍増殖が抑制された (退縮には至らず) (Fig. 3c)。併用群では、ERK活性の代替指標であるDUSP6 mRNAレベルが単剤群よりも有意に低下した (p<0.01) (Fig. 3d)。併用療法の体重減少は最大7%以内であり、時間とともに毒性は軽減された (Supplementary Fig. 10a-c)。MGH049-1A異種移植片では、SHP099とセリチニブの併用により、腫瘍体積がビヒクル群と比較して有意に減少した (p < 0.05)。同様に、MGH073-2B異種移植片でも、併用療法はビヒクル群と比較して腫瘍体積の有意な減少を示した (p < 0.05)。

考察/結論

本研究は、ALK阻害薬耐性ALK再構成NSCLCにおいて、多様なALK非依存性耐性機序に共通するシグナルハブとしてSHP2を同定した初めての研究であり、単一の共通ノード阻害が多様な耐性ドライバーをカバーするという新規の治療戦略を示した。SHP2はEGFR、FGFR、SRCなど複数の受容体型チロシンキナーゼの下流でRAS-ERK経路へのGTPローディングを共通して媒介するため、個別の耐性ドライバーを阻害するよりも効率的にERKリバウンドを抑制できることが示唆された。

新規性: 本研究で初めて、SHP2がALK阻害薬耐性NSCLCにおける多様なバイパスシグナル伝達経路の共通のノードとして機能することを新規に同定した。この知見は、これまで報告されていない治療標的の可能性を示唆する。

先行研究との違い: これまでの研究では、ALK阻害薬耐性機序として個別の代替キナーゼ活性化が報告されてきたが、本研究はこれらの多様な耐性ドライバーに共通して作用するSHP2という単一の標的を同定した点で、これまでのアプローチと異なり、より広範な治療戦略の可能性を提示した。

重要な知見として、SHP2はALK感受性細胞ではALK下流シグナルの主要調節因子ではないことが明らかになった。SHP099単剤やSHP2ノックダウンは感受性細胞の増殖に影響を与えず、セリチニブの感受性も増強しなかった。しかし、ALK阻害後に活性化される代替RTKシグナルの下流では、SHP2が必須の役割を果たす。この「選択的毒性」は、SHP2阻害が正常細胞への影響を最小限に抑えつつ、耐性癌細胞に特異的に作用する可能性を示唆し、治療ウィンドウの観点から有利である。

臨床応用: ロルラチニブのような第三世代ALK阻害薬は、既知のALKキナーゼドメイン変異を全てカバーするが、off-target耐性には無効である。このため、SHP099とセリチニブの併用療法のようなALKとSHP2の同時阻害は、ロルラチニブが有効でないoff-target耐性に対する補完的な治療戦略となりうる。本知見は、ALK阻害薬耐性NSCLC患者に対する新たな治療選択肢の開発に大きく貢献する臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で用いられたPDCが主にクリゾチニブやセリチニブ耐性例から樹立されており、アレクチニブ、ブリガチニブ、ロルラチニブといった次世代ALK-TKIに対する耐性におけるSHP2の役割は検証されていない点が挙げられる。また、MGH045-2A (SRC耐性) 異種移植モデルでのin vivo効果が部分的な増殖抑制にとどまり、退縮には至らなかった点も今後の検討課題である。今後の研究では、SHP2阻害薬の第一世代から次世代ALK-TKI耐性への適用範囲の拡大、より強力なSHP2阻害薬 (現在ERAS-601などが開発中) との組み合わせ、およびSHP2活性化の予測因子となる臨床バイオマーカーの確立が求められる。

方法

本研究は、ALK-TKI耐性NSCLCに対する新規治療戦略を探索する目的で実施された基礎研究であり、臨床試験ではないためNCT番号は付与されていない。研究デザインはin vitroおよびin vivoでの薬理学的検証を含む。

患者由来細胞株 (PDC) の樹立と特性評価: クリゾチニブまたはセリチニブに対する臨床耐性を示した患者の腫瘍組織から、7種類のALK陽性NSCLC PDCを樹立した。これらには、EGFRバイパスを示すMGH049-1A、FGFRバイパスを示すMGH073-2BおよびMGH065-1B/C、SRCバイパスを示すMGH045-2A、MAP2K1 (MEK) 変異を持つMGH034-2A、MYC増幅を持つMGH075-2Eが含まれる。これらの細胞株は、ALK再構成の存在が確認され、マイコプラズマ汚染がないことが検証された。細胞株の認証はSNPフィンガープリンティングにより実施された。

shRNAスクリーニング (tDRIVE): 約1,000の癌関連遺伝子 (1遺伝子あたり20ヘアピン) を標的とするプール型レンチウイルスshRNAライブラリー (tDRIVE) を用いて、7種のPDCを処理した。細胞は500 nMセリチニブ存在下または非存在下で14日間培養され、次世代シーケンスによりshRNAの相対的枯渇度を解析した。これにより、セリチニブ感受性を増強する遺伝子を同定した。統計解析には、冗長siRNA活性 (RSA) 統計に基づくp値およびzスコアが用いられた。

薬剤組み合わせスクリーニング: 112種類の標的薬剤を単独または300 nMセリチニブと組み合わせて5日間処理し、CellTiter-Gloアッセイを用いて細胞生存率を測定した。データはGraphPad Prism 5.0を用いて非線形回帰モデルに適合させ、4パラメータ解析法で表示された。

検証実験: SHP2のshRNAノックダウン (2種類の独立したshRNA) および高選択的アロステリックSHP2阻害薬であるSHP099を用いて、クリスタルバイオレットコロニー形成アッセイ (14日間培養)、アポトーシス測定、ウェスタンブロット解析 (pERK1/2、p90RSK、pAKT、pALK、RAS isoform GTP-RBDプルダウン)、およびERK依存的転写産物 (DUSP6、ETV5、SPRY2) のqRT-PCR測定を実施した。

in vivo検証: ヌードマウス皮下異種移植モデル (MGH049-1A、MGH073-2B、MGH045-2A) を作製し、セリチニブ (25 mg/kg) 単独、SHP099 (75 mg/kg) 単独、または両者の併用療法を投与した。腫瘍体積を定期的に測定し、DUSP6 mRNAのqRT-PCRにより薬力学的評価を行った。マウスは各群n=4-8で構成され、統計解析には一元配置分散分析 (ANOVA) 後、Tukey検定またはDunnett検定を用いた。腫瘍体積の標準偏差を350 mm³、治療効果を標準偏差の2.5〜3倍と推定し、有意水準0.05、検出力80%で各群4〜5匹の動物が必要と算出された。