• 著者: Takaaki Sasaki, Jussi Koivunen, Atsuko Ogino, Masahiko Yanagita, Sarah Nikiforow, Wei Zheng, Christopher Lathan, J. Paul Marcoux, Jinyan Du, Katsuhiro Okuda, Marzia Capelletti, Takeshi Shimamura, Dalia Ercan, Magda Stumpfova, Yun Xiao, Stanislawa Weremowicz, Mohit Butaney, Stephanie Heon, Keith Wilner, James G. Christensen, Michel J. Eck, Kwok-Kin Wong, Neal Lindeman, Nathanael S. Gray, Scott J. Rodig, Pasi A. Janne
  • Corresponding author: Pasi A. Janne, MD, PhD (Dana-Farber Cancer Institute, Lowe Center for Thoracic Oncology, Boston, MA)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-07-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21791641

背景

非小細胞肺がん (NSCLC) におけるALK融合遺伝子は、特定の患者群に対する標的治療の有効性を劇的に向上させてきた。特に、ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるクリゾチニブは、Kwak et al. NEnglJMed 2010 の報告で55%という高い奏効率を示し、ALK陽性NSCLCの標準治療としての地位を確立しつつあった。しかし、EGFR TKI治療で観察されたように、薬剤耐性の獲得は必然的な課題として認識されていた。EGFR TKIに対する耐性機序としては、EGFR遺伝子の二次変異 (T790M) やMET遺伝子増幅によるバイパス経路の活性化がPao et al. PLoSMed 2005Engelman et al. Science 2007 によって既に報告されており、ALK TKIにおいても同様の耐性機序が存在する可能性が示唆されていた。

当時、ALK TKIに対する二次変異としては、ゲートキーパー変異であるL1196M、およびF1174L、C1156Yの3種類がChoi et al. NEnglJMed 2010 や Sasaki et al. (Cancer Res 2010) によって報告されていた。これらの変異は主にin vitroモデルや一部の臨床検体から同定されたものであり、クリゾチニブ治療後に実際に増悪した患者由来の細胞株を用いた包括的な耐性機序の解析は不足していた。特に、on-targetのALK二次変異とoff-targetのバイパス経路活性化が同時に発生する可能性や、その機能的寄与については未解明な点が多かった。

また、EGFRシグナル伝達経路がALK TKI耐性に関与する可能性は、EGFR TKI耐性におけるMET増幅の先行研究から推測されたものの、ALK TKI耐性におけるEGFRバイパス経路の具体的な役割や、その活性化メカニズム(例:リガンド依存性オートクライン活性化)は確立されていなかった。さらに、治療前のALK陽性NSCLC患者においてEGFR活性化変異が共存する頻度や、その臨床的意義についても不明な点が残されており、これらの患者に対する最適な治療戦略を確立するための知識が不足していた。本研究は、これらのギャップを埋め、ALK TKI耐性克服のための新たな治療戦略を開発することを目的とした。

目的

本研究は、ALK TKIに対する獲得耐性機序を詳細に解明し、耐性克服のための治療戦略を提案することを目的とした。具体的には以下の4点を目的とした。

(1) クリゾチニブ治療後に増悪したALK陽性NSCLC患者由来の細胞株DFCI076を用いて、新規のALK二次変異およびバイパスシグナル伝達経路を同定する。特に、L1152R変異の機能的意義と薬剤感受性への影響を評価する。

(2) in vitroでTAE684誘導耐性を示したH3122 TR3 (TAE684耐性) 細胞株の耐性機序を解析する。ALK二次変異の有無を確認し、バイパス経路の活性化プロファイルを網羅的に解析する。

(3) EGFRシグナル伝達経路がALK TKI耐性に機能的に関与することを、H3122親株を用いた外因性EGFR活性化実験により直接的に証明する。また、ALKとEGFRの二重阻害が耐性細胞株の増殖を抑制する効果を評価する。

(4) 治療前ALK陽性NSCLC患者におけるEGFR活性化変異の共存率を調査し、その臨床的意義を検討する。これにより、ALKとEGFRの同時検査の必要性および個別化医療への貢献を探る。

結果

新規ALK二次変異L1152Rの同定と耐性特性: クリゾチニブ治療後に増悪した患者由来のDFCI076細胞株のALKキナーゼドメインシークエンシングにより、exon 23コドン3455にT→G変異 (L1152R) を同定した (Fig. 1A)。この変異は治療前腫瘍では検出されず、獲得変異であることが確認された。Ba/F3細胞にEML4-ALK L1152R変異を導入すると、クリゾチニブに対するIC50は野生型EML4-ALKの68±4 nmol/Lに対し、853±27 nmol/Lへと約12.5倍上昇した (Fig. 1B, Table 1)。同様に、TAE684に対するIC50も野生型の3±1 nmol/Lに対し、L1152R変異体では66±6 nmol/Lへと約22倍上昇し、L1152Rが異なる構造骨格のALK阻害薬に対しても交差耐性を示すことが示された (Supplementary Fig. S1B)。H3122細胞にL1152R、C1156Y、L1196M、F1174Lなどの既知の耐性変異を安定導入した結果、L1152RはC1156YやL1196Mと同程度のクリゾチニブ耐性 (IC50約240-260 nmol/L) を示し、F1174Lが最も強い耐性 (IC50 620 nmol/L) を示すことが明らかになった (Supplementary Fig. S1D, Table 1)。DFCI076細胞自体のクリゾチニブIC50は1,008±37 nmol/Lであり、H3122親株の約10倍の耐性を示した。ALKの結晶構造解析から、L1152はATP結合ポケットに直接接触せず、C-helix (E1161) に近接する位置に存在し、C-helixのダイナミクスを変化させることでキナーゼ活性や阻害薬結合に影響を与える可能性が示唆された (Fig. 1D)。

DFCI076細胞のALKおよびEGFR共依存性: DFCI076細胞はL1152R変異を保持しているにもかかわらず、ALK shRNAによるALKノックダウンは増殖を有意に抑制したものの、H3122親株と比較して抑制率は低く、ALK依存性が部分的に低下していることが示唆された (Fig. 2B)。Phospho-RTKアレイを用いた解析では、DFCI076細胞においてEGFRおよびMETの強いリン酸化が検出された (Fig. 2C)。DFCI076細胞にはEGFR変異や増幅は認められなかったが、培養上清中にはEGFRリガンドであるアンフィレギュリンのオートクライン産生が確認された (Supplementary Fig. S2D)。クリゾチニブはpMETを効果的に阻害したが、pEGFR、pAKT、pERK1/2の完全な抑制は達成できなかった (Fig. 2D)。ALK shRNAとパンERBB阻害薬PF299804 (1 µmol/L) の併用は、いずれかの単独療法よりも有意に強力な増殖抑制効果を示した (p<0.001) (Fig. 2B)。また、PF299804併用時のDFCI076細胞のクリゾチニブIC50は314±37 nmol/Lであり、EGFR阻害なしの場合の1,008±37 nmol/Lと比較して約67%の感受性改善が認められた (Table 1)。これらの結果は、DFCI076細胞がALK依存性を維持しつつも、EGFRシグナル伝達経路が耐性に関与していることを示唆する。

TAE684耐性H3122 TR3細胞におけるEGFR活性化バイパス耐性: H3122親株から樹立されたTAE684耐性H3122 TR3細胞は、クリゾチニブIC50が2,564±107 nmol/L (H3122親株の約26倍)、TAE684 IC50が291±18 nmol/L (H3122親株の約42倍) と、顕著な耐性を示した (Fig. 3A, Table 1)。しかし、H3122 TR3細胞の全ALKキナーゼドメインのシークエンシングでは二次変異は検出されなかった。FISH解析では、H3122親株の全細胞がEML4-ALK転座を保持していたのに対し、H3122 TR3細胞ではわずか5%の細胞にしか転座が検出されず、転座を保持する細胞サブセットではALK遺伝子増幅も確認された (Supplementary Fig. S3B, C)。ALK shRNAによるノックダウンはH3122 TR3細胞の増殖をほとんど抑制せず、ALK依存性が大幅に低下していることが示された (Fig. 3B)。Phospho-RTKアレイでは、H3122 TR3細胞においてEGFR、IGF1R、METのリン酸化が親株よりも顕著に上昇し、TAE684処理後も持続することが明らかになった (Fig. 3C)。特にEGFRリン酸化は著明に上昇しており、EGFR阻害薬ゲフィチニブによって抑制されたが、TAE684では抑制されなかった (Fig. 3D)。EGFR shRNAによるノックダウンはH3122 TR3細胞の増殖を有意に抑制し (p<0.05)、EGFRが機能的に耐性に関与していることを示した (Fig. 3E)。コロニー形成アッセイでは、PF299804単独でH3122 TR3細胞のコロニー形成を有意に減少させ (p<0.001)、クリゾチニブ (1 µmol/L) とPF299804 (1 µmol/L) の併用によりコロニー形成が完全に抑制された (Fig. 3F)。この併用効果は主に細胞増殖抑制的であり、アポトーシス誘導は軽微であった (Fig. 3G, Supplementary Fig. S3E)。H3122 TR3細胞の培養上清中では、アンフィレギュリンおよびEGFの有意な高値が検出され (p<0.05)、EGFR変異や増幅は認められなかったことから、リガンドを介したオートクラインEGFR活性化が耐性機序であることが示唆された (Supplementary Fig. S3G)。

EGFR活性化誘導によるクリゾチニブ耐性の直接証明: H3122親株に外因性EGF (10 ng/mL) を添加すると、クリゾチニブ感受性が著明に低下し、耐性が誘導された (Fig. 4A)。この耐性はALKとEGFRの二重阻害によって完全に回復した。EGF存在下では、クリゾチニブはALKリン酸化を抑制するものの、下流のpAKT、pS6、pERK1/2の抑制は不完全であった (Fig. 4B)。同様に、H3122細胞にEGFR del E746_A750変異体を安定発現させるとクリゾチニブ耐性が誘導され、ゲフィチニブ (1 µmol/L) またはPF299804の併用により耐性が克服された (Fig. 4C, D)。

治療前ALK陽性NSCLC患者におけるEGFR変異共存と臨床的意義: ALK再構成陽性の未治療NSCLC患者50例のうち、3例 (6%) にEGFR活性化変異の共存が認められた (Table 2)。これらの変異はL858R (患者1)、del E746_A750 (患者2)、A767_V769dupASV (患者3) であった。erlotinib治療を受けた患者1および患者2は、それぞれ9ヶ月および5ヶ月以上の部分奏効 (PR) を示した。患者1のIHC解析ではEGFR L858Rタンパク質が陽性である一方、ALKタンパク質は陰性であり (Fig. 4F)、ALK再構成が存在しても機能的なALK発現が抑制されている腫瘍が存在する可能性が示唆された。患者1のerlotinibによる奏効期間は9ヶ月であり、erlotinib治療群のOS中央値 11.8 vs 7.2ヶ月 (HR 0.60, 95% CI 0.47-0.77, p<0.001) という既報のデータと比較しても、erlotinibが有効であったことが示唆される。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、これまで報告されていたALK二次変異(L1196M、F1174L、C1156Y)とは異なり、クリゾチニブ耐性患者由来のDFCI076細胞株から新規ALK二次変異L1152Rを同定し、その機能的意義を詳細に解析した最初期の報告の一つである。L1152R変異はP-loop直近ではなくC-helix隣接領域に位置し、ALKキナーゼの活性・不活性コンホメーション変化に影響を与えることで阻害薬結合を妨げる新たな機序を示唆する。また、L1152R変異がF1174L変異と同様にTAE684にも交差耐性を示すことは、構造的に異なるALK阻害薬に対しても耐性を付与する可能性があり、今後の次世代ALK阻害薬開発におけるL1152Rへの感受性評価の重要性を強調する。

新規性: 本研究で初めて、クリゾチニブ耐性患者由来のDFCI076細胞株から新規ALK二次変異L1152Rを同定し、その機能的意義を詳細に解析した。L1152R変異はクリゾチニブIC50を野生型比で約12.5倍上昇させ、TAE684にも約22倍の交差耐性を付与することが示された。さらに、DFCI076細胞とin vitro誘導耐性H3122 TR3細胞の両方で、EGFRリガンド(特にアンフィレギュリン)を介したオートクラインEGFR活性化がALK-TKI耐性に関与することを新規に明らかにした。これは、ALK依存性からEGFR依存性への動的な適応プロセスが存在するという、耐性獲得の柔軟性に関する重要な概念的貢献である。

臨床応用: 本研究の知見は、ALK-TKI耐性克服のための新たな治療戦略として、ALKとEGFRの二重阻害が有効である可能性を強く示唆する。DFCI076およびH3122 TR3細胞株において、クリゾチニブとPF299804の併用が単剤よりも有意に細胞増殖を抑制し、コロニー形成を完全に阻害したことは、この戦略の臨床的有用性を示唆する。実際に、クリゾチニブとPF299804の併用療法に関する臨床試験 (NCT01121575) が進行中であり、本研究のトランスレーショナルな意義は大きい。また、治療前ALK陽性NSCLC患者の6%にEGFR活性化変異が共存し、そのうち2例がerlotinibに部分奏効を示したことは、ALK陽性NSCLCの治療前検査においてEGFR変異も確認すべき実践的示唆を与え、個別化医療の推進に貢献する。

残された課題: 今後の検討課題として、DFCI076細胞におけるL1152R変異とEGFRバイパス経路の同時発生が、耐性獲得のどの段階で、どのようなメカニズムで生じるのかを詳細に解明する必要がある。また、H3122 TR3細胞で観察されたALK発現の消失が、ALK阻害薬耐性獲得における一般的な機序であるのか、あるいは特定の細胞株に限定される現象であるのかを検証する必要がある。さらに、EGFR活性化バイパス経路が、ALK阻害薬の休薬によって可逆的に消失するのか、あるいは永続的な変化であるのかを検討することも、臨床的な治療戦略を立てる上で重要である。これらの課題を解決するためには、より多くの患者由来検体を用いた前向き研究や、詳細な分子生物学的解析が残されている。

方法

患者由来細胞株DFCI076の樹立: クリゾチニブ治療後3ヶ月で病勢増悪したEML4-ALK variant 3 (E6;A20) 陽性NSCLC患者の胸水からDFCI076細胞株を樹立した。この細胞株はEGFRおよびKRAS野生型であることが確認された。本研究はInstitutional Review Board承認プロトコルに基づき実施され、全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。

ALKキナーゼドメインシークエンシング: 患者の治療前および治療後腫瘍検体、ならびに樹立した細胞株DFCI076およびH3122 TR3から全ALKキナーゼドメインをPCRで増幅し、双方向シークエンシングにより二次変異を探索した。

Ba/F3細胞系でのIC50測定: EML4-ALK野生型、および部位特異的変異導入により作製したL1152R、L1196M、C1156Y、F1174L変異体を発現するBa/F3細胞株を樹立した。これらの細胞株を用いて、クリゾチニブおよびTAE684に対する72時間MTS法IC50を算出した。各薬剤濃度につき6〜12ウェルで測定し、3回以上反復した。また、L1152R、L1196M、C1156Y変異はH3122細胞にも安定導入し、クリゾチニブ感受性を比較した。

TAE684耐性H3122 TR3細胞の作製: H3122親株にTAE684を1 nmol/Lから100 nmol/Lまで段階的に濃度を上げて6ヶ月間曝露し、100 nmol/Lで増殖可能な耐性細胞を単一細胞クローニングにより単離した (H3122 TR3)。DNA fingerprinting (PowerPlex 1.2システム) により、H3122 TR3細胞がH3122親株由来であることを確認した。

リン酸化RTKアレイ: R&D Systems Human Phospho-RTK Arrayを用いて、DFCI076、H3122親株、およびH3122 TR3細胞における受容体型チロシンキナーゼ (RTK) のリン酸化プロファイルを網羅的に解析した。細胞ライセートをアレイにハイブリダイズさせ、シグナル強度を定量した。

EGFRリガンド測定: DFCI076およびH3122 TR3細胞の培養上清中のEGF、アンフィレギュリン、TGFα、HB-EGF、エピレギュリンの濃度をELISA (Quantikine、R&D Systems) で定量した。各サンプルは3反復で測定した。

shRNA機能実験: ALKおよびEGFRに対するshRNA (pLKO.1 puroベクター) を用いて、DFCI076およびH3122 TR3細胞における遺伝子発現をノックダウンした。ノックダウン後の細胞増殖抑制 (6日間のMTSアッセイ) およびコロニー形成能 (14日間のコロニー形成アッセイ) を評価した。非標的 (NT) shRNAおよびGFP shRNAを対照として使用した。

EGFR活性化誘導実験: H3122親株に外因性EGF (10 ng/mL) を添加するか、またはEGFR del E746_A750変異体を安定発現させることにより、EGFRシグナル伝達経路を活性化した。これらの細胞におけるクリゾチニブ感受性の変化を評価し、EGFR阻害薬 (PF299804、1 µmol/L) の併用効果を検討した。

治療前患者EGFR変異共存調査: Dana-Farber Cancer Institute (DFCI) に通院するALK FISH陽性NSCLC患者50例の治療前腫瘍検体について、CLIA認定ラボでEGFR変異を解析した (PCRおよびシークエンシング)。このコホート研究は、NCT00932893の臨床試験の一部として実施された。統計解析には、細胞増殖抑制の比較にt検定を、コロニー形成アッセイにはANOVAを用いた。