• 著者: Planchard D, Smit EF, Groen HJM, Mazieres J, Besse B, Helland A, et al.
  • Corresponding author: Bruce E. Johnson (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, USA)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-09-11
  • Article種別: Original Article (Phase 2 trial)
  • PMID: 28919011

背景

BRAF V600E変異はNSCLCの約1〜2%に認められる活性化oncogenic driverであり、EGFR変異・ALK転座・ROS1転座とは相互排他的に生じる。この変異を有する患者では、標準的なプラチナ製剤ベースの化学療法に対する奏効割合が低いことが報告されており、予後不良との関連も示唆されている。そのため、この希少な患者集団に対する効果的な治療選択肢は不足しており、アンメットメディカルニーズが残されている。

同試験 (BRF113928試験) の先行コホート (コホートA:dabrafenib単剤、コホートB:既治療例へのdabrafenib+trametinib) では、dabrafenib単剤でORR 33%、dabrafenib+trametinib既治療例でORR 67%、中央DOR 9.8ヶ月が得られており、BRAF/MEK同時阻害の優位性が示されていた。特に、Planchard et al. LancetOncol 2016の報告では、既治療のBRAF V600E変異陽性NSCLC患者において、dabrafenibとtrametinibの併用療法が有望な抗腫瘍活性と管理可能な安全性プロファイルを示すことが示されていた。

しかし、未治療BRAF V600E変異NSCLC患者への1次療法としての同組み合わせの有効性は未検討であり、その臨床的意義は未解明であった。メラノーマ分野では、dabrafenib+trametinib併用が1次療法として承認され、長期生存に寄与することがRobert et al. NEnglJMed 2015やLong et al. Lancet 2015により示されており、NSCLCへの外挿が期待されていた。この知識ギャップを埋めることが本研究の動機付けとなった。

目的

未治療 (1次療法未施行) のBRAF V600E変異陽性転移性NSCLC患者において、dabrafenib+trametinib併用療法の有効性と安全性を評価すること。

結果

患者背景: 2014年4月16日から2015年12月28日の間に36例の患者が登録され、初回治療としてdabrafenibとtrametinibの併用療法を受けた。このうち34例がコホートCに登録され、2例はコホートBに誤って登録されたが、転移性疾患に対する前治療がなかったため、本解析に含められた (Figure 1)。患者の中央年齢は67歳 (IQR 62-74歳) であり、女性が22例 (61%) を占めた。ECOG PS 0の患者は13例 (36%)、PS 1の患者は22例 (61%) であった。組織型は腺癌が32例 (89%) と大半を占めた。EGFRまたはALK変異陽性の患者はいなかった。データカットオフ時点で、11例 (31%) が治療を継続しており、25例 (69%) が治療を中止していた。治療中止の主な理由は、有害事象 (8例、22%)、病勢進行 (14例、39%) であった。17例 (47%) が死亡し、19例 (53%) が生存していた。

主要評価項目 (奏効率): 中央追跡期間15.9ヶ月 (IQR 7.8-22.0) において、治験責任医師評価による確認済みORRは23例 (64%, 95% CI 46-79%) であった (Table 2)。内訳は完全奏効 (CR) が2例 (6%)、部分奏効 (PR) が21例 (58%) であった。4例 (11%) が安定疾患 (SD) を示し、疾患コントロール率 (DCR) は27例 (75%, 95% CI 58-88%) に達した。独立審査委員会 (IRC) 評価によるORRも同様に23例 (64%, 95% CI 46-79%) であり、治験責任医師評価と高い一致を示した。最大腫瘍縮小率はFigure 2に示されており、多くの患者で顕著な縮小が認められた。

奏効期間 (DOR) および無増悪生存期間 (PFS): 治験責任医師評価による中央DORは10.4ヶ月 (95% CI 8.3-17.9ヶ月) であった (Figure 3A)。6ヶ月DOR率は86% (95% CI 62-95%) と推定された。全36例中24例 (67%) が病勢進行または死亡した時点での、治験責任医師評価による中央PFSは10.9ヶ月 (95% CI 7.0-16.6ヶ月) であった (Figure 3B)。6ヶ月PFS率は72% (95% CI 53-84%) と推定された。IRC評価による感度分析では、中央DORは15.2ヶ月 (95% CI 7.8-23.5ヶ月)、中央PFSは14.6ヶ月 (95% CI 7.0-22.1ヶ月) と、治験責任医師評価よりも長い値が示された。この差は、IRCが一部の患者の最終スキャンを病勢進行と判断せず、その後の治療開始時点でPFSまたはDORを打ち切ったことによるものであった。

全生存期間 (OS): データカットオフ時点で17例 (47%) が死亡しており、中央OSは24.6ヶ月 (95% CI 12.3-推定不能) であった (Figure 3C)。2年OS率は51% (95% CI 33-67%) と推定された。治療中止後、9例 (36%) が後続治療を受け、その内訳は化学療法 (n=6)、生物学的療法 (n=4)、放射線療法 (n=4) などであった。OSの中央値は、他のBRAF V600E変異陽性NSCLC患者における標準化学療法の報告と比較して、臨床的に意義のある延長を示唆する。

安全性プロファイル: 全患者 (36/36例) に何らかの有害事象 (AE) が発現した (Table 3)。グレード3または4のAEは25例 (69%) に認められ、主なものは発熱 (4例、11%)、ALT上昇 (4例、11%)、高血圧 (4例、11%)、嘔吐 (3例、8%) であった。重篤なAEとしては、ALT上昇 (5例、14%)、発熱 (4例、11%)、AST上昇 (3例、8%)、駆出率低下 (3例、8%) が挙げられる。AEによる投与中止は8例 (22%)、用量減量はdabrafenibで17例 (47%)、trametinibで10例 (28%) に発生した。治験薬とは無関係と判断された心肺停止による死亡が1例報告されたが、薬剤関連と判断された死亡はなかった。安全性プロファイルは、メラノーマにおける併用療法の既報データと一致していた。

サブグループ解析: 喫煙歴別のpost-hocサブグループ解析では、never smokerでORR 50% (5/10例)、喫煙歴30 pack-year以下でORR 76% (13/17例)、30 pack-year超でORR 57% (4/7例) と、喫煙者でやや高い傾向がみられた。ただし、各サブグループの患者数が少ないため、この結果の解釈は限定的である。脳転移を有した2例では、いずれも脳病変は非標的病変として評価され、全体としての最良奏効は部分奏効であった。

考察/結論

本試験は、未治療BRAF V600E変異陽性転移性NSCLC患者における1次療法としてのBRAF/MEK同時阻害療法を評価した初めての試験であり、ORR 64% (95% CI 46-79%)、中央PFS 10.9ヶ月 (95% CI 7.0-16.6ヶ月)、中央OS 24.6ヶ月 (95% CI 12.3-推定不能) という著明な抗腫瘍効果を実証した。

先行研究との違い: 本研究で示された有効性は、先行するコホートB(既治療例へのdabrafenib+trametinib)のORR 63%、PFS 9.7ヶ月とほぼ同等であった。これは、前治療の有無によらず高い奏効が得られることを確認した点で、これまでの知見と一致する。本併用療法は、Maemondo et al. NEnglJMed 2010Rosell et al. LancetOncol 2012で報告されたEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(ORR約70%、PFS 9.7-14.7ヶ月)や、Shaw et al. NEnglJMed 2013Peters et al. NEnglJMed 2017で報告されたALK阻害薬(ORR 62-83%、PFS 10.4-25.7ヶ月)といった他のドライバー変異に対する標的療法と同等の水準であり、精密医療の文脈でBRAF V600E変異NSCLCに対する標準的な標的療法として位置付けられることを支持するデータである。

新規性: 本研究は、未治療BRAF V600E変異陽性NSCLC患者に対するBRAFおよびMEK阻害剤の併用療法を評価した、我々の知る限り初めての報告である。この結果は、この希少な患者集団に対する新規かつ効果的な治療選択肢を提供するものであり、臨床的意義は大きい。

臨床応用: 本知見は、BRAF V600E変異陽性NSCLC患者に対するdabrafenib+trametinib併用療法のFDA承認(2017年)およびEMA承認の基盤となった。これにより、前治療歴に関わらず、この患者集団に新たな治療選択肢が提供された。また、Oncomine Dx Target Testが同時にFDA承認されたことは、コンパニオン診断の整備によりNSCLC全例でのBRAF変異スクリーニングを推進する重要な一歩となり、臨床現場での個別化医療の推進に貢献すると考えられる。

残された課題: 本研究は非ランダム化デザインであり、他のNSCLC治療との直接比較はできないというlimitationがある。また、コホートCのサンプルサイズが小さいことも、未治療患者の転帰に関する解釈の範囲を限定する。今後の検討課題として、BRAF V600E変異NSCLCにおける獲得耐性機序の解明が挙げられる。前臨床研究では、EGFR自己分泌シグナルの活性化が耐性に関与する可能性が示唆されており、さらなる臨床的検証が必要である。さらに、脳転移を有する患者に対する本併用療法の有効性については、本研究では十分なデータが得られておらず、今後の研究で詳細な評価が求められる。

方法

本研究は、第2相、多施設共同、非ランダム化、非盲検試験 (NCT01336634) のコホートCとして実施された。北米、欧州、アジアの8ヶ国19施設から患者が登録された。対象は、BRAF V600E変異陽性転移性NSCLC患者で、転移性病変に対する前治療がない成人 (18歳以上) であった。ただし、EGFR/ALK阻害薬を補助療法として受けた患者は除外されなかった。患者は、dabrafenib 150 mg 1日2回とtrametinib 2 mg 1日1回を経口投与された。治療は病勢進行、許容できない有害事象、同意撤回、または死亡まで継続された。

主要評価項目は、治験責任医師評価によるRECIST 1.1に基づく確認済みORR (完全奏効 [CR] + 部分奏効 [PR]) とされた。副次評価項目には、奏効期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、独立審査委員会 (IRC) 評価による有効性、および安全性が含まれた。腫瘍評価はRECIST 1.1に基づいてベースライン、6週目、その後36週目までは6週毎、それ以降は12週毎に実施された。奏効は初回奏効から4-7週後の再評価により確認された。安全性評価は、CTCAE v4.0に基づき、少なくとも3週に1回実施された。

統計解析では、1段階二項デザインが用いられ、ORRが臨床的に意義がない (≤30%) という帰無仮説に対し、ORRが少なくとも60%であるという対立仮説が設定された。目標奏効割合60%に基づき、25例の登録が計画されたが、中央での奏効評価とBRAF変異状態が確認できる十分な患者数を確保するため、追加の患者登録が許可された。有効性および安全性評価は、プロトコルで定義された初回治療集団におけるintention-to-treat原則に基づいて実施された。ORRの95%信頼区間 (CI) はClopper-Pearson法を用いて算出された。DOR、PFS、OSの要約にはKaplan-Meier法が用いられ、中央値と95% CIはBrookmeyer-Crowley法により算出された。独立審査委員会による評価を用いた感度分析も実施された。また、喫煙歴に基づく治験責任医師評価の奏効を評価するためのpost-hoc解析も行われた。すべての統計解析はSASバージョン9.3以上を用いて実施された。

登録期間は2014年4月16日から2015年12月28日までであり、データカットオフは2017年4月28日であった。中央追跡期間は15.9ヶ月 (IQR 7.8-22.0) であった。