• 著者: Can Cui, Sabrina Lin, Sarah Waliany, Meghanne Lomibao, Christina Falcon, Clare Wilhelm, Alexia Iasonos, Jessica J. Lin, Alexander Drilon
  • Corresponding author: Alexander Drilon (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY; drilona@mskcc.org)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-07-03
  • Article種別: Brief Report(第3相試験二次解析)
  • DOI: 10.1016/j.jtho.2026.104086

背景

RET 融合は NSCLC の 1–2% に認められ、若年・非喫煙者に多く、腫瘍変異量 (TMB) の低い (中央値 1.75–2.5 変異/メガベース) 免疫原性の乏しいサブタイプとして特徴付けられる (Gautschi et al. 2017)。単剤免疫チェックポイント阻害療法 (ICI) の有効性は限定的であることが国際 IMMUNOTARGET レジストリ (Mazieres et al. 2019) で示されており、RET 融合陽性 NSCLC に対する ICI 単剤の ORR は 6%、中央値 PFS は 2.1 ヶ月と不良であった。プラチナ製剤を含む化学療法に ICI を加えた化学免疫療法では ORR 46%、中央値 PFS 9.6 ヶ月が報告されたが (Aldea et al. 2023)、化学療法単独 (ORR 45–55%、PFS 6.4–19 ヶ月) と比較して明確な上乗せ効果は未確立であった。Zhou ら (Zhou et al. NEnglJMed 2023) は LIBRETTO-431 において化学免疫療法と化学療法の両方に対するセルペルカチニブの優越性を示したが、両化学療法アーム間の直接比較は未解明であり、具体的にペムブロリズマブ追加の上乗せ効果が前向きデータとして不足していた。

本研究はこのエビデンスギャップを埋めるため、LIBRETTO-431 データを用いて化学免疫療法 (n=83) と化学療法単独 (n=19) の有効性を比較した二次解析であり、RET 融合陽性 NSCLC における ICI 追加の臨床的意義を検討した。

目的

グローバル多施設第 3 相試験 LIBRETTO-431 において、RET 融合陽性 NSCLC に対する一次化学免疫療法 (プラチナ製剤+ペメトレキセド+ペムブロリズマブ) と化学療法単独 (プラチナ製剤+ペメトレキセド) の PFS・OS・ORR・DOR を後者の二次解析として比較し、ICI 追加の臨床的意義を評価すること。

結果

患者背景と群間の均質性: LIBRETTO-431 でプラチナ製剤+ペメトレキセドを受けた計 102 例のうち、83 例が化学免疫療法 (n=83 例)(ペムブロリズマブ追加)、19 例が化学療法単独 (n=19 例) を受けた (Table 1)。ペムブロリズマブ追加は担当医の裁量で決定された。化学免疫療法群では KIF5B-RET 融合 49.4% (n=41)、CCDC6-RET 9.6% (n=8) で、化学療法単独群ではそれぞれ 47.4% (n=9)、5.3% (n=1) であり、RET 融合型の分布に有意差はなかった (p>0.9)。喫煙歴も両群間で有意差なく (p=0.10)、化学免疫療法群 71.1% (n=59) vs 化学療法単独群 47.4% (n=9) が never smoker であった。年齢・性別・地域・ステージ・脳転移の有無も群間差はなかった。PD-L1 発現状況は両群で有意差なく (p=0.3)、化学免疫療法群は陰性 23.5%、1〜49% 33.3%、≥50% 27.5%、陽性(正確な値不明)15.7%であった。唯一の有意差は ECOG PS スコアであり (p=0.014)、化学療法単独群で PS 0 が 68.4%、化学免疫療法群では 32.5% と、パフォーマンスステータスの良好な患者が化学療法単独を多く受けていた (Table 1)。この ECOG PS の群間差は担当医の選択バイアスを反映しており、本二次解析の解釈において重要な交絡因子として留意が必要である。

PFSおよびOSの比較:化学免疫療法の上乗せ効果なし: BICR 評価による中央値 PFS は化学免疫療法群 11.2 ヶ月 (95%CI: 10.9–16.8) vs 化学療法単独群 未到達 (95%CI: 4.9–NR) であり、両群間で有意差を認めなかった (p=0.8) (Figure 1A)。PFS 6 ヶ月時点での無増悪率は化学免疫療法 72.1% (95%CI: 62.9–82.7%) vs 化学療法単独 59.5% (95%CI: 40.3–88.0%)、12 ヶ月時点では 47.8% (95%CI: 37.6–60.9%) vs 52.1% (95%CI: 32.5–83.3%) と、いずれも数値的差異はなかった。OS は両群ともに中央値未到達で、群間に有意差はなかった (p>0.9) (Figure 1C)。化学免疫療法群内での PD-L1 発現別 PFS 解析でも有意差はなく (p=0.2) (Figure 1B)、陰性群の中央値 PFS は未到達 (95%CI: 11.4–NR)、1–49% 群 7.0 ヶ月 (95%CI: 4.9–NR)、≥50% 群 12.8 ヶ月 (95%CI: 7.4–NR)、陽性(値不明)群 8.8 ヶ月 (95%CI: 4.4–NR) と PD-L1 発現レベルによる PFS 層別化は不明瞭であり、本集団において PD-L1 は免疫療法の有効性予測因子として機能しないことが示された。なお RET 融合陽性 NSCLC は CNS 転移傾向を示すことが既知であり、Table S2 に示すとおり両群に一定数の CNS 進行が認められた。化学免疫療法群と化学療法単独群の CNS 進行率は同程度であり、免疫療法の追加が CNS 病変の制御に寄与する根拠は本解析では示されなかった。

ORRおよびDOR:奏効率・奏効期間も有意差なし: ORR は化学免疫療法群 53% (95%CI: 42–64%) vs 化学療法単独群 42% (95%CI: 20–67%) で、群間差は有意ではなかった (p=0.55) (Table 2)。最良総合効果の内訳は化学免疫療法群で CR 2.4%、PR 50.6%、SD 36.1%、PD 4.8%、化学療法単独群で CR 5.3%、PR 36.8%、SD 42.1%、PD 10.5%であった (Table 2)。疾患制御率は化学免疫療法 89.2% vs 化学療法単独 84.2% と同等であった。中央値 DOR は化学免疫療法群 15.5 ヶ月 (95%CI: 12.6–NR) vs 化学療法単独群 9.6 ヶ月 (95%CI: 7.7–NR) で有意差なし (p=0.24)。以上のすべての有効性エンドポイント (PFS・OS・ORR・DOR) において、ペムブロリズマブ追加による統計的上乗せ効果は確認されなかった。担当医の裁量によりペムブロリズマブを選択した患者群 (化学免疫療法群) はベースライン ECOG PS が化学療法単独群より不良 (PS 0 比率 32.5% vs 68.4%、p=0.014) であり、PS の差異が結果の解釈に影響する可能性がある。

考察/結論

本研究は、グローバル前向き RCT (LIBRETTO-431) データを用いた二次解析として、RET 融合陽性 NSCLC における一次化学免疫療法と化学療法単独の有効性を初めて前向きに比較し、PFS・OS・ORR・DOR のすべてで有意差がないことを新規に示した。

先行研究では後ろ向きデータから化学免疫療法が chemotherapy 単独に優ると期待されていたが、本研究の結果はこれとは異なり、免疫療法の追加が RET 融合陽性 NSCLC には有意な上乗せ効果をもたらさないことを前向きデータで実証した。IMMUNOTARGET レジストリ (Mazieres et al., 2019) での単剤 ICI の ORR 6%・PFS 2.1 ヶ月という不良成績と一致して、本研究は RET 融合陽性腫瘍の免疫学的「冷」状態 (immunologically cold) をプロスペクティブに支持する。さらに ALK 融合陽性 NSCLC や NRG1 融合陽性 NSCLC でも同様に免疫療法効果が乏しいことが報告されており、fusion-driven 肺がんに共通の免疫抑制的な腫瘍微小環境が示唆される。セルペルカチニブが化学免疫療法・化学療法のいずれにも優越することは (Zhou et al. NEnglJMed 2023) で示されており、本解析は「免疫療法なしの化学療法単独でも合理的な選択肢となりうる」という臨床的根拠を追加した。なおセルペルカチニブ投与後に ICI が必要になる場合も、事前の免疫療法曝露がセルペルカチニブの過敏症反応リスクを高める可能性があり (Drilon et al. NEnglJMed 2020)、ICI の事前使用をより慎重に考えるべき理由となる。

臨床応用の観点では、RET 融合陽性 NSCLC の一次治療は (Wu et al. NEnglJMed 2026) を含む一連の LIBRETTO エビデンスからセルペルカチニブが標準治療であり、化学療法が必要な場合には免疫療法を省略した化学療法単独で十分な可能性がある。PD-L1 発現は本集団では予後・予測に有効ではなく、PD-L1 高発現であっても免疫療法追加を推奨する根拠にはならない。

残された課題としては、本解析が非無作為化で ECOG PS の群間差 (p=0.014) という交絡があること、標本数が少なく (n=102) 統計的検出力に限界があること、TMB が系統的に評価されず TMB 別解析ができなかったこと、新規免疫調節療法 (二重特異性抗体・細胞療法・がんワクチン) が RET 融合 NSCLC の免疫原性を高められるかどうかの検討が必要であることが挙げられる。

方法

研究デザイン: LIBRETTO-431 (NCT04194944) は RET 融合陽性 NSCLC を対象とした国際多施設無作為化第 3 相試験であり、主試験はセルペルカチニブ vs. プラチナ製剤+ペメトレキセド±ペムブロリズマブを比較した。本解析はプラチナ製剤+ペメトレキセド±ペムブロリズマブの 2 アームを対象とした事後二次解析である。データは Vivli, Inc. を通じて Eli Lilly より提供を受けた (データ利用申請: NIH P30CA008748、1R01CA25917701)。

統計解析: カテゴリ変数の比較は Fisher の正確確率検定、連続変数は Wilcoxon 順位和検定を使用した。BICR 評価 PFS は RECIST v1.1 に従い無作為割付から BICR 確認進行または任意の原因による死亡までの期間と定義した。OS は無作為割付から任意の原因による死亡まで、DOR は初回 CR または PR 確認から最初の疾患進行・再発・死亡までの期間とした。OS および DOR のカプラン–マイヤー推定値の比較にはログランク検定を用い、ORR は CR+PR の割合として定義した。統計解析には R version 4.3.3 (パッケージ: tidyverse、gtsummary、survival、ggsurvfit) を使用し、p<0.05 を有意とした(両側検定)。