• 著者: Caicun Zhou, Benjamin Solomon, Herbert H. Loong, Keunchil Park, Maurice Pérol, Edurne Arriola, Silvia Novello, Baohui Han, Jianying Zhou, Andrea Ardizzoni, M. Perez Mak, Fernando C. Santini, Yasir Y. Elamin, Alexander Drilon, Jürgen Wolf, Nalin Payakachat, Minji K. Uh, Deborah Rajakumar, Hongmei Han, Tarun Puri, Victoria Soldatenkova, A. Bence Lin, Boris K. Lin, Koichi Goto
  • Corresponding author: Caicun Zhou (Shanghai Pulmonary Hospital, Tongji University School of Medicine)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-10-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 37870973

背景

RET融合遺伝子は、非小細胞肺がん (NSCLC) において治療標的となる重要な遺伝子変異である。Selpercatinibは、高選択的かつ強力なRET阻害薬であり、中枢神経系 (CNS) への浸透性も有する。これまでの非ランダム化第1-2相試験では、RET融合遺伝子陽性進行NSCLC患者に対して顕著な有効性を示し、複数の国で承認を取得している (Drilon et al. NEnglJMed 2020)。しかし、RET融合遺伝子陽性NSCLCの一次治療における標準治療は確立されていなかった。一方、EGFRまたはALK遺伝子変異陰性の進行NSCLC患者に対する標準治療の一つとして、Gandhi et al. NEnglJMed 2018のKEYNOTE-189試験の結果に基づき、ペムブロリズマブ (pembrolizumab) とプラチナ製剤およびペメトレキセド (pemetrexed) の併用療法が広く用いられている (Rodriguez-Abreu et al. AnnOncol 2021)。しかし、RET融合遺伝子陽性NSCLCに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果は限定的であることが、後方視的解析や小規模な研究で示唆されており (Gainor et al. ClinCancerRes 2016)、この集団における免疫療法の役割は未解明であった。そのため、RET融合遺伝子陽性NSCLCの一次治療として、selpercatinibと化学療法±pembrolizumabを直接比較するランダム化第3相試験のエビデンスが不足しており、より効果的な治療戦略を確立するための大規模な比較試験が強く求められていた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。

目的

本LIBRETTO-431試験は、未治療のRET融合遺伝子陽性進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者を対象に、高選択的RET阻害薬であるselpercatinibの有効性および安全性を、標準的なプラチナ併用化学療法 (pemetrexedとcarboplatinまたはcisplatin) にペムブロリズマブ (pembrolizumab) を併用するか否かを医師の裁量で選択する対照治療と比較し、selpercatinibの優越性を検証することを目的とした。主要評価項目は、盲検下独立中央判定 (BICR) による無増悪生存期間 (PFS) とし、RET融合遺伝子陽性NSCLC患者における一次治療としてのselpercatinibの臨床的有用性を確立することを目指した。

結果

登録と患者背景: 2020年3月から2022年8月にかけて、23ヵ国103施設から合計261名のRET融合遺伝子陽性進行NSCLC患者が登録された。ITT-pembrolizumab集団には212名 (selpercatinib群129名、対照群83名) が含まれた。患者の多くは女性、65歳未満、非喫煙者であった。RET融合パートナーはKIF5Bが45%、CCDC6が10%を占め、42%の患者ではPCR同定のためパートナーが不明であった。ベースラインの患者特性は両群間で概ね均衡がとれていたが、東アジアからの患者はselpercatinib群で58%に対し、対照群で49%と、selpercatinib群でやや多かった。

無増悪生存期間 (PFS): ITT-pembrolizumab集団において、BICR評価によるPFS中央値はselpercatinib群で24.8ヶ月 (95% CI, 16.9–推定不能) であったのに対し、対照群では11.2ヶ月 (95% CI, 8.8–16.8) であった。これにより、病勢進行または死亡のリスクはselpercatinib群で有意に低く、ハザード比 (HR) は0.46 (95% CI, 0.31–0.70; P<0.001) であった (Figure 1)。治験担当医評価によるPFS中央値も同様に、selpercatinib群で24.8ヶ月 (95% CI, 19.1–推定不能) vs 対照群で14.0ヶ月 (95% CI, 10.9–22.3) であり、HR 0.53 (95% CI, 0.34–0.80) であった。全ITT集団 (n=261) においても、BICR評価PFS中央値はselpercatinib群24.8ヶ月 (95% CI, 17.3–推定不能) vs 対照群11.2ヶ月 (95% CI, 8.8–16.8) と一貫した結果を示し、HR 0.48 (95% CI, 0.33–0.70; P<0.001) であった。全ての事前設定サブグループ解析において、selpercatinib群が対照群と比較して優位性を示した。

奏効率 (ORR) と奏効持続期間 (DOR): BICR評価による客観的奏効率は、selpercatinib群で84% (95% CI, 76–90) であったのに対し、対照群では65% (95% CI, 54–75) であった。奏効までの期間中央値は両群で同等であり、selpercatinib群で1.45ヶ月、対照群で1.53ヶ月であった。奏効持続期間中央値は、selpercatinib群で24.2ヶ月 (95% CI, 17.9–推定不能) と、対照群の11.5ヶ月 (95% CI, 9.7–23.3) と比較して有意に長かった。

頭蓋内有効性: CNS-pembrolizumab集団 (n=192) において、CNS病変進行までのcause-specific HRは0.28 (95% CI, 0.12–0.68) であった。12ヶ月時点でのCNS病変進行の累積発生率は、selpercatinib群で6% (95% CI, 2–11) であったのに対し、対照群では20% (95% CI, 11–31) であった。ベースライン時に測定可能脳転移を有する患者 (n=29) における頭蓋内奏効率は、selpercatinib群で82% (95% CI, 57–96) と、対照群の58% (95% CI, 28–85) を上回った (Figure 2)。selpercatinib群では17名中6名 (35%) が完全奏効を達成したのに対し、対照群では12名中2名 (17%) であった。

患者報告アウトカム (PRO): NSCLC-SAQ (Non-Small Cell Lung Cancer Symptom Assessment Questionnaire) 評価において、呼吸器症状の確定悪化を経験した患者の割合は、selpercatinib群で23% (n=30) であったのに対し、対照群では43% (n=36) であった。症状悪化までの期間中央値は、selpercatinib群では未到達であったのに対し、対照群では1.9ヶ月 (95% CI, 0.7–6.6) であり、HRは0.34 (95% CI, 0.20–0.55) であった。これは、selpercatinibが患者の症状悪化を遅らせる効果があることを示唆している。

安全性: 治療を受けたn=256名の患者における安全性プロファイルは、過去の報告と概ね一致していた (Table 3)。selpercatinib群で対照群より10%以上高頻度に認められた有害事象は、AST上昇 (Grade≥3: 13%)、ALT上昇 (Grade≥3: 22%)、高血圧 (Grade≥3: 20%)、下痢 (Grade≥3: 1%)、浮腫 (Grade≥3: 3%)、口内乾燥、ビリルビン上昇 (Grade≥3: 1%)、およびQTc延長 (Grade≥3: 9%) であった。対照群で高頻度であった有害事象は、貧血、疲労、好中球減少、悪心、便秘、食欲減退、発熱、嘔吐、掻痒であった。全体として、Grade≥3の有害事象の発生率はselpercatinib群で70%と、対照群の57%よりも高かった。投与量減量を要した患者はselpercatinib群で51%、対照群で29%であった。治療中止に至った有害事象はselpercatinib群で10%、対照群で2%であった。東アジアの患者では、高グレードの有害事象、重篤な有害事象、および有害事象による治療中止の頻度が高い傾向が認められた。治験期間中または治療中止後30日以内に発生した致死的な有害事象はselpercatinib群で7名 (4.4%) に認められ、うち2名 (2.0%) は治験担当医によりselpercatinibとの関連性が否定できなかった。対照群では致死的な有害事象は認められなかった。

全生存期間 (OS): 中間解析時点では、全生存期間のデータは未成熟であった (情報分率28.6%、50死亡)。ITT-pembrolizumab集団における死亡のハザード比は0.96 (95% CI, 0.50–1.83) であり、全ITT集団では1.04 (95% CI, 0.58–1.87) であった。対照群からselpercatinibへのクロスオーバー (約60%) および試験外での選択的RET阻害薬の使用 (約15%) が、OSデータの解釈を複雑にしている。

考察/結論

LIBRETTO-431試験は、ドライバー遺伝子変異陽性NSCLCにおいて、分子標的薬がプラチナ併用化学療法±ペムブロリズマブと比較して優越性を示すことを直接的に検証した初のランダム化第3相試験である。本研究の結果は、RET融合遺伝子陽性進行NSCLCの一次治療において、selpercatinibがプラチナ併用化学療法±ペムブロリズマブと比較して、無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長することを示した。Selpercatinib群のPFS中央値24.8ヶ月は、対照群の11.2ヶ月の2倍以上であり、これはGandhi et al. NEnglJMed 2018のKEYNOTE-189試験の歴史的データと比較しても顕著な成績である。

先行研究との違い: 本試験の対照群の成績 (PFS中央値11.2ヶ月、ORR 65%) は、KEYNOTE-189試験で報告された成績と同等かそれ以上であり、これはRET融合遺伝子陽性NSCLC患者における化学療法±ペムブロリズマブの有効性が、他のドライバー変異陰性NSCLC患者と同程度であることを示唆している。このことは、selpercatinibの優越性が、対照群の治療効果が低いことによるものではなく、selpercatinib自体の高い有効性によるものであることを裏付けている点で、これまでのRET融合陽性NSCLCに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果が限定的であるという後方視的解析の結果と対照的である。

新規性: 本研究で初めて、RET融合遺伝子陽性NSCLCの一次治療として、高選択的RET阻害薬であるselpercatinibが標準化学療法±免疫チェックポイント阻害薬を上回るPFS延長効果を示すことをランダム化比較試験で実証した。特に、頭蓋内有効性において、selpercatinib群の頭蓋内奏効率82%およびCNS進行までのハザード比0.28 (95% CI, 0.12–0.68) は、selpercatinibの優れたCNS浸透性を裏付け、脳転移の予防および治療における優位性を新規に示した。

臨床応用: 本知見は、RET融合遺伝子陽性NSCLC患者の一次治療としてselpercatinibを標準治療として位置づける強力なエビデンスを提供する。診断時にRET融合遺伝子検査を実施することの重要性を強調し、患者に最も効果的な治療を早期に提供するための臨床的意義は大きい。selpercatinibの安全性プロファイルは、肝機能障害、高血圧、QTc延長に注意が必要であるが、用量調整により大多数の患者が治療を継続可能であった。

残された課題: 全生存期間 (OS) データは中間解析時点では未成熟であり、対照群からのselpercatinibへの高頻度なクロスオーバー (約60%) および試験外でのRET阻害薬使用 (約15%) がOSデータの解釈を複雑にしている。成熟したOSデータの取得には数年を要する見込みであり、今後の検討課題として長期的なOSの評価が残されている。また、東アジア患者における高グレード有害事象の頻度が高い傾向が認められたため、地域差を考慮した個別化された管理戦略も今後の研究でさらに検討されるべきである。本試験は、ドライバー遺伝子変異陽性NSCLCにおける「targeted therapy first」のパラダイムをRET融合遺伝子陽性例にも拡張するランドマーク試験である。

方法

本試験は、未治療のStage IIIB、IIIC、またはIVの非扁平上皮NSCLC患者を対象としたランダム化第3相試験 (NCT04194944) である。適格患者は18歳以上で、RECIST version 1.1に準拠した測定可能病変を有し、ECOG Performance Statusが0-2であった。RET融合遺伝子は、次世代シーケンシング (NGS) またはポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) により、各施設の認定ラボまたはスポンサーが提供する検査で確認された。追加の既知のドライバー変異を有する患者は除外された。患者はselpercatinib群 (160 mg 1日2回、21日サイクルで継続投与) または対照群 (pemetrexed 500 mg/m²とプラチナ製剤 [carboplatin AUC 5またはcisplatin 75 mg/m²] を21日サイクルで4サイクル、その後pemetrexed単剤またはpemetrolizumabを最大35サイクル、医師の裁量で選択) にランダムに割り付けられた。ランダム化の層別因子は、地理的地域 (東アジア vs その他)、ベースライン時の脳転移の有無 (なしまたは不明 vs あり)、および医師のペムブロリズマブ使用意向であった。当初の割付比率は1:1であったが、プロトコル改訂により2:1に変更され、最終的な割付比率は1.6:1となった。

主要評価項目は、盲検下独立中央判定 (BICR) による無増悪生存期間 (PFS) であった。段階的検定戦略が採用され、まずITT-pembrolizumab集団 (対照群に割り付けられた場合に医師がペムブロリズマブを使用する意向であった患者集団) でPFSの優越性が検定され、有意であれば全ITT集団で検定された。副次評価項目には、治験担当医評価によるPFS、BICRおよび治験担当医評価による客観的奏効率 (ORR) および奏効期間 (DOR)、全生存期間 (OS)、頭蓋内奏効率、および患者報告アウトカム (PRO) が含まれた。対照群で病勢進行が確認された患者は、selpercatinibへのクロスオーバーが許容された。

安全性評価は、少なくとも1回治療を受けた全患者 (安全性解析対象集団) で実施され、有害事象はCTCAE version 5.0に基づき評価された。統計解析では、ITT-pembrolizumab集団で98件のイベント発生後に中間解析が実施された。PFSおよびOSの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられ、ハザード比 (HR) は層別Cox回帰モデルにより推定された。比例ハザードの仮定は、ログマイナスログ生存曲線を用いてグラフィカルに評価された。