- 著者: Yi-Long Wu, Maximilian Hochmair, Yi Yang, Xue-Ning Yang, Masahiro Tsuboi, Luis Paz-Ares, et al.
- Corresponding author: Alexander Drilon (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-05-31
- Article種別: Original Article
- PMID: 42223087
背景
RET (rearranged during transfection) 融合遺伝子は NSCLC の 1〜2% に認められる actionable oncogenic driver であり、高選択的 RET 阻害薬 selpercatinib は進行・転移性 RET 融合陽性 NSCLC に対して多くの国で承認されている。LIBRETTO-001 Phase 1/2 試験では selpercatinib が進行 RET 融合陽性 NSCLC に対して ORR 64%、mPFS 22ヶ月という顕著な有効性を示し (Drilon et al. NEnglJMed 2020)、続く Phase 3 LIBRETTO-431 試験では1次治療において selpercatinib がプラチナ化学療法+ペムブロリズマブ比でEFSを改善した (Zhou et al. NEnglJMed 2023)。EGFR 変異 NSCLC では ADAURA 試験でオシメルチニブ術後補助療法が DFS を大幅に改善 (HR 0.17、2年 DFS 90%) し (Wu et al. NEnglJMed 2020)、ALK 陽性 NSCLC でも ALINA 試験でアレクチニブ補助療法が承認されるなど、oncogene-driven 早期 NSCLC における標的補助療法が確立されてきた。しかし RET 融合陽性早期 NSCLC に対して承認された補助標的療法は存在せず、再発率は stage II/III で 3 分の 2 に達することから、有効な補助療法エビデンスが不足しており、この問いに答えるランダム化試験が求められていた。
目的
Stage IB、II、または IIIA の RET 融合陽性 NSCLC 患者において、根治的局所療法 (外科手術または放射線療法) 後の selpercatinib 補助療法 vs プラセボの有効性と安全性を評価すること (LIBRETTO-432 試験、NCT04819100)。
結果
患者背景と治療状況:全集団 151 例 (selpercatinib 群 75 例 / プラセボ群 76 例)、一次解析集団 109 例 (Stage II/IIIA、54 例/55 例)。大多数が女性、アジア人、65 歳未満、非喫煙者。90% 超が腺癌で手術を受け、補助化学療法を施行。RET 融合パートナーは KIF5B が最多で、次いで CCDC6・NCOA4 等多様な融合パートナーが確認された (Table 1)。データカットオフ時点で selpercatinib 群の 57%、プラセボ群の 50% が投与継続中。中央値投与期間: selpercatinib 群 21.3±11.7ヶ月、プラセボ群 19.8±10.6ヶ月。フォローアップ中央値: selpercatinib 群 24ヶ月、プラセボ群 27ヶ月。補助化学療法期間の中央値は selpercatinib 群 2.2ヶ月、プラセボ群 2.3ヶ月と両群で均衡。OS イベントはデータカットオフ時点で 3 例 (全例プラセボ群、病勢進行による死亡) のみであり、OS データは未成熟であった。
主要評価項目:Stage II/IIIA 集団での著明な EFS 改善:一次解析集団 (Stage II/IIIA、n=109) における 2 年 EFS は selpercatinib 群 92% (95% CI 75.4-97.2) vs プラセボ群 61% (95% CI 44.2-74.3)、HR 0.17 (95% CI 0.06-0.51、p<0.001) (Fig 1A)。Selpercatinib 群ではプラセボ群と比較して再発リスクが 83% 低下した。疾患再発: selpercatinib 群 4 例 (7%) vs プラセボ群 19 例 (35%)。再発の大多数は Stage IIIA 症例 (selpercatinib 群 2 例 vs プラセボ群 16 例)。脳再発: selpercatinib 群 1 例 vs プラセボ群 3 例 (Table S3)。BICR 評価 EFS も一致しており: 2 年 EFS 96% (95% CI 83-99) vs 71% (95% CI 54-82)、HR 0.13 (95% CI 0.03-0.55) (Fig 1A、Fig S2)。
全集団 (Stage IB/II/IIIA) EFS と層別解析:全集団 (n=151) の 2 年 investigator 評価 EFS: selpercatinib 群 94% vs プラセボ群 70%、HR 0.16 (95% CI 0.06-0.48、p<0.001) (Fig 1B)。全集団での再発: selpercatinib 群 4 例 (5%) vs プラセボ群 20 例 (26%)。BICR での全集団 EFS: 97% (95% CI 88-99) vs 78% (95% CI 65-87)、HR 0.13 (95% CI 0.03-0.55)。サブグループ解析 (Fig 2) においても一貫して selpercatinib に有利な傾向。クロスオーバー 16 例での最良総合奏効: CR 2 例・PR 3 例・SD 9 例、12 例がカットオフ時点でも投与継続中。5 例 (7%、selpercatinib 群) および 14 例 (18%、プラセボ群) が試験レジメン中止後に後続治療を受けた (Table S5)。
安全性プロファイル:全集団 (n=151) での安全性概要 (Table 2)。Grade 3 以上 AE: selpercatinib 群 67% vs プラセボ群 24%。プラセボ比で ≥10%p 高頻度の Grade 3 以上 AE: ALT 上昇 17%・AST 上昇 19% (いずれも用量調整で管理可能)。SAE: 23% vs 13%。投与期間中の死亡: 両群ともゼロ。中央値相対投与強度: selpercatinib 群 81% vs プラセボ群 99%。AE による用量減量: 55% vs 8%、AE による用量省略: 77% vs 26%。AE による治療中止: 17% vs 1% (最多原因: ALT 上昇 4 例・AST 上昇 2 例・ILD 2 例 [両例 Grade 1])。中止 AE の 69% は解消 (全 Grade 3/4 例を含む)。
考察/結論
① 先行研究との違い:進行・転移性 RET 融合陽性 NSCLC では LIBRETTO-001 (Drilon et al. NEnglJMed 2020) および LIBRETTO-431 (Zhou et al. NEnglJMed 2023) で有効性が示されていたのとは異なり、本 LIBRETTO-432 試験は早期 (resectable/根治治療後) 集団を初めて対象とした Phase 3 試験である。同様の補助標的療法エビデンスとして EGFR 変異 NSCLC での ADAURA試験 (Wu et al. NEnglJMed 2020、HR 0.17) や ALK 陽性 NSCLC での ALINA 試験 (Wu ら NEJM 2024、HR 0.24) と比較して、LIBRETTO-432 の HR 0.17 は同等かそれ以上の強い効果量であり、RET 融合陽性早期 NSCLC においても補助標的療法の価値を確立した点で先行研究とは相違している。
② 新規性:本試験で初めて、RET 融合陽性早期 NSCLC (stage IB-IIIA) に対する補助 selpercatinib 療法の有効性が Phase 3 ランダム化試験で立証された。2 年 EFS 92% という値は RET 陽性 NSCLC の補助療法として新規なベンチマークを提供する。また脳を含む各サブグループ (Stage IIIA では selpercatinib 群 2 例 vs プラセボ群 16 例の再発) での一貫した効果、さらに CNS 浸透性という薬剤特性が術後補助の文脈でも有効に機能することを示した初のランダム化エビデンスは新規な知見である。
③ 臨床応用:本試験結果は RET 融合陽性早期 NSCLC における clinical practice を変える可能性がある。全病期 (stage IB-IIIA) に対してコンプリヘンシブなバイオマーカー検査 (PCR または CGP) の重要性を強調し、RET 融合確認後の術後補助 selpercatinib を標準治療として採用する根拠となる。安全性プロファイルとして ALT/AST 上昇 (Grade 3 以上 17-19%) が主要懸念事項だが、用量調整により大部分が管理可能であり、臨床的な意義において実施可能と判断される。
④ 残された課題:OS データは現時点で未成熟であり、長期的な生存利益の検証が今後の方向性として必要である。RET 融合の希少性 (NSCLC 全体の 1-2%) のため本試験は n=151 と小規模であり、stage IB サブグループなど一部集団では解釈に注意が必要である。さらに人種的多様性 (アジア人・白人が大多数で黒人・マイノリティが過少代表) の問題があり、異なる人種集団での再現性確認も今後の検討課題である。クロスオーバー後の効果やプラセボ後後続治療の結果も今後の追跡で明らかになると期待される。
方法
試験デザイン: Phase 3、多国籍、二重盲検、無作為化プラセボ対照試験。患者は 1:1 に無作為割付 (selpercatinib 160 mg BID [体重 ≥50 kg] または 120 mg BID [<50 kg] vs プラセボ)、28 日サイクルで最大 3 年間投与。プラセボ群では再発時にクロスオーバーが可能。層別化因子:病期 (IB、II、IIIA) および根治的療法の種類 (手術 vs 放射線療法)。
対象: 18 歳以上、ECOG PS 0-1、組織学的に確認された stage IB/II/IIIA RET 融合陽性 NSCLC (8 版 TNM 分類)。RET 融合は PCR、CGP (comprehensive genomic profiling)、またはスポンサー承認の他の分子検査で確認。根治的局所療法 (手術または放射線療法) 完了後に登録。他の oncogenic driver 変異を有する患者は除外。
評価項目: 主要評価項目は Stage II/IIIA 集団 (一次解析集団) における investigator 評価 EFS (RECIST v1.1、事象 = 新病変・既治療病変進行・死亡)。副次評価項目: 全集団 (IB/II/IIIA) の investigator 評価 EFS、BICR 評価 EFS、OS、安全性 (CTCAE v5.0)。統計: 層別 log-rank 検定 (stage + 前治療種別)、Cox 比例ハザードモデル。
登録: 2022年1月〜2025年3月、22か国 65 施設。データカットオフ: 2026年1月12日。