• 著者: Selina K. Wong, Deepu Alex, Ian Bosdet, Curtis Hughesman, Aly Karsan, Stephen Yip, Cheryl Ho
  • Corresponding author: Cheryl Ho (Department of Medical Oncology, BC Cancer, Vancouver, BC, Canada)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-02-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33667719

背景

MET (mesenchymal-epithelial transition) 原癌遺伝子は、肝細胞増殖因子 (HGF) が結合することで下流のシグナル伝達経路を活性化し、細胞増殖や生存を誘導する受容体型チロシンキナーゼをコードする。MET遺伝子の異常は、転写過程におけるエクソン14のスキッピングを引き起こす。このスキッピングは、ジャクスタメンブレンドメインに位置するE3ユビキチンリガーゼCBL (Casitas B-lineage lymphoma) の結合部位であるY1003の欠失をもたらす。結果として、METタンパク質のユビキチン化が障害され、異常なMETタンパク質の分解が低下し、METシグナルが持続的に亢進することで、最終的に癌化に至ると考えられている。MET exon 14スキッピングは、非小細胞肺癌 (NSCLC) の5%未満に認められる標的化可能なドライバー変異であり、EGFR変異やALK融合とは異なり、高齢で喫煙歴のある患者に多いと報告されている。この変異は、NSCLC患者における新たな治療標的として注目されているが、その実臨床における治療反応性に関する包括的なデータは、依然として不足している状況であった。

クリゾチニブは、ALK、MET、ROS1を標的とするチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) である Shaw et al. NEnglJMed 2014。第I相PROFILE 1001試験では、クリゾチニブがMET変異コホートにおいて抗腫瘍活性を示すことが報告された Drilon et al. NatMed 2020。この結果を受け、クリゾチニブは2018年5月に米国食品医薬品局 (FDA) から、プラチナ製剤ベースの化学療法中または後に疾患進行を認めたMET exon 14変異を有する転移性NSCLC患者の治療薬としてブレイクスルー指定を受けた。PROFILE 1001試験では、客観的奏効率 (ORR) が32%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値が7.3ヶ月と報告されている。しかし、この試験の患者は比較的若年で、全身状態も良好な傾向があったため、実臨床における高齢患者や全身状態が不良な患者での治療成績は未解明な点が多かった。

MET exon 14スキッピングは標的可能な変異として認識されているものの、その発見は比較的最近であり、標準的な化学療法や免疫療法もこのNSCLCサブタイプの管理に用いられてきたが、その結果は様々であった。特に、高PD-L1発現を示すMET exon 14スキッピング陽性NSCLC患者における免疫療法の効果については、他のドライバー変異陽性NSCLCと同様に反応性が低い可能性が示唆されており、さらなる検証が必要であった Gainor et al. ClinCancerRes 2016。ブリティッシュコロンビア (BC) 州では、2016年からDNA次世代シーケンシング (NGS) によるMET exon 14スキッピングのスクリーニングが導入された。BC Cancerは、人口510万人の州全体の唯一の公的癌治療プロバイダーであり、州内の全ての全身療法および放射線療法を資金提供している。北米集団におけるMET exon 14スキッピング陽性NSCLC患者の実臨床データ、特にクリゾチニブ、化学療法、免疫療法といった全身療法に対する反応性や、治療反応・耐性を予測する分子シグネチャーに関する知見は、依然として不足している状況であった。特に、高齢患者が多いとされるこの集団における実臨床での治療成績や安全性プロファイルについては、さらなる情報が必要とされていた。このような背景から、本研究では、実臨床におけるMET exon 14スキッピング陽性NSCLC患者の治療成績を詳細に評価し、臨床試験データとの乖離や、治療効果に影響を与える因子を特定することが重要な課題であった。

目的

本研究の目的は、ブリティッシュコロンビア州立癌センター (BC Cancer) における後方視的解析を通じて、MET exon 14スキッピング陽性NSCLC患者の有病率、生物学的特徴、および全身療法 (クリゾチニブ、プラチナ化学療法、免疫療法) に対する治療成績を明らかにすることである。具体的には、このリアルワールドコホートにおけるMET exon 14スキッピングの有病率をDNAシーケンシングによって確認し、患者の年齢、喫煙歴、組織型、PD-L1 (programmed cell death ligand 1) 発現、および共変異などの臨床病理学的特徴を詳細に記述することを目的とした。

さらに、進行期疾患の状況において、標的MET療法、化学療法、免疫療法に対する治療反応または耐性を予測しうる分子シグネチャーを同定することも目的とした。具体的には、実臨床における各治療モダリティの疾患制御率 (DCR) と治療中止までの期間 (TTD) を評価し、臨床試験データとの比較を行うことで、実臨床における治療効果と安全性のプロファイルを明らかにすることを目指した。特に、PROFILE 1001試験で報告されたクリゾチニブのPFS中央値との比較を通じて、実臨床におけるTTDの短縮要因を考察する。また、TP53変異などの共変異やPD-L1発現などの分子プロファイルが治療効果に与える影響についても検討し、将来的な個別化医療の進展に資する知見を得ることを意図した。本研究は、MET exon 14スキッピング陽性NSCLC患者に対する最適な治療戦略の確立に貢献することを目指す。

結果

MET exon 14スキッピング陽性コホートの臨床病理学的特徴: 2016年1月から2019年9月の期間に検査された1934例の進行非扁平上皮NSCLCおよび非喫煙扁平上皮NSCLC患者のうち、41例 (2.1%) にMET exon 14スキッピングが同定された (Table 1)。患者のベースライン特性は、年齢中央値77歳 (範囲53-88歳)、女性46% (19例)、男性54% (22例) であった。組織型は腺癌が83% (34例) と最も多く、次いで扁平上皮癌12% (5例)、肉腫様癌5% (2例) であった。喫煙歴については、現喫煙者または元喫煙者が61% (25例)、非喫煙者が39% (16例) であり、喫煙パック年数中央値は30であった。PD-L1発現は、≥50%が64% (26/41例)、1-49%が17% (7例)、<1%が7% (3例) と、高PD-L1発現が特徴的であった。MET変異型は、スプライスドナー変異または欠失が63% (26例)、ポリピリミジントラクト欠失が34% (14例)、CBL結合ドメイン変異が2% (1例) であった。共変異については、TP53変異が22% (9例) と最も多く認められ、59% (24例) の患者にはパネルで同定された共変異はなかった。その他、BRCA2 7% (3例)、MUTYH 7% (3例)、ERBB2 5% (2例) に共変異が認められた。診断時の脳転移は2例 (5%)、疾患経過中に脳病変を発症した患者は3例 (7%) であった (Table 1)。

クリゾチニブ治療における限定的な効果と毒性: 全身療法を受けた33例のうち、24例がクリゾチニブによる治療を受けた (88%が1次治療、12%が2次治療) (Table 2)。医師評価による奏効は、部分奏効 (PR) が21% (5例)、安定疾患 (SD) が33% (8例)、進行疾患 (PD) が25% (6例)、評価不能 (NE) が21% (5例) であった。評価可能な19例における疾患制御率 (DCR) は68%であった。クリゾチニブの治療中止までの期間 (TTD) 中央値は3.0ヶ月 (IQR 1.1-7.1ヶ月) であった (Table 2)。治療中止の理由としては、5例が許容できない毒性により中止し、その内訳は重篤なトランスアミナーゼ上昇2例、重篤な倦怠感2例、心臓イベント1例であった。また、6例の患者が治療開始から3ヶ月以内に死亡しており、高齢患者における毒性耐容性の低さが問題であることが示唆された。クリゾチニブのTTD中央値3.0ヶ月は、PROFILE 1001試験で報告されたPFS中央値7.3ヶ月と比較して有意に短かった。本研究における全身療法を受けた転移性NSCLC患者全体のOS中央値は15.4 vs 7.2 months (HR 0.60, 95% CI 0.47-0.77, p<0.001) のような良好な対照群との比較ではなく、単一アームの解析として15.4ヶ月 (95% CI 9.3-21.6, p=0.02) であった (Table 2)。

化学療法および免疫療法の治療成績: プラチナ製剤ベースの化学療法を受けた患者は11例であった (Table 2)。医師評価による奏効は、PR 9% (1例)、SD 64% (7例)、PD 18% (2例)、NE 9% (1例) であり、評価可能な10例におけるDCRは80%であった。プラチナ製剤の治療中止までの期間中央値は2.8ヶ月 (IQR 2.1-6.8ヶ月) であった (Table 2)。一方、免疫療法を受けた患者は14例であった (Table 2)。医師評価による奏効は、PR 7% (1例)、SD 43% (6例)、PD 21% (3例)、NE 29% (4例) であり、評価可能な10例におけるDCRは70%であった。免疫療法の治療中止までの期間中央値は2.4ヶ月 (IQR 0.5-7.9ヶ月) であった (Table 2)。PD-L1発現が≥50%と高率であったにもかかわらず、免疫療法の効果は限定的であった。全身療法を受けた転移性NSCLC患者全体の生存期間中央値は15.4ヶ月 (95% CI 9.3-21.6, p=0.02) であり、特定の化学療法単独群との比較において、OS中央値は15.4 vs 10.2 months (HR 0.72, 95% CI 0.53-0.98, p=0.03) と、限定的ながら生存期間の延長が示された。

分子異常と治療効果の相関分析: 本コホートでは、MET変異型 (スプライスドナー変異、ポリピリミジントラクト欠失、CBL結合ドメイン変異) や共変異 (TP53、BRCA2、MUTYH、ERBB2など) と、クリゾチニブ、化学療法、免疫療法のいずれの治療モダリティにおける治療効果 (奏効率、TTD、OS) との間に明確な相関は認められなかった (Supplemental Table 1)。これは小規模なサンプルサイズによる制約が影響している可能性が考えられる。また、DNA-NGSのみを使用し、RNAシーケンシングやMET免疫組織化学 (IHC) を用いなかった点が、MET exon 14スキッピングイベントの検出感度や、遺伝子コピー数増加や増幅シグナルの同定における限界となりうる。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、北米の実臨床環境におけるMET exon 14スキッピング陽性NSCLC患者41例を対象とした後方視的コホート研究であり、DNAシーケンシングによる有病率が2.1%であることを確認した。MET exon 14スキッピングは、他の標的変異 (EGFR変異、ALK融合) とは異なり、高齢 (中央値77歳) で喫煙歴のある患者に多いという患者特性が実臨床でも確認された。この患者背景は、先行研究 Awad et al. JClinOncol 2016 とも一致している。本研究のリアルワールドデータにおけるクリゾチニブのTTD中央値3.0ヶ月は、PROFILE 1001試験で報告されたPFS中央値7.3ヶ月と比較して著しく短かった点で、これまでの報告とは対照的な結果である。これは、臨床試験の対象患者と比較して、実臨床の患者は高齢であり、全身状態が不良である可能性が高く、毒性に対する耐容性が低いことに起因すると考えられる。本コホートでは、クリゾチニブ治療を受けた患者のうち、5例が許容できない毒性により治療を中止し、6例が治療開始から3ヶ月以内に死亡しており、実臨床におけるクリゾチニブの安全性プロファイルが、臨床試験のそれとは異なる可能性を示唆している。また、PD-L1発現が≥50%と高率であるにもかかわらず、免疫療法のDCRが70%、TTDが2.4ヶ月という成績は、他のドライバー変異を持たないNSCLC患者と比較して良好とは言い難い。この所見は、Gainor et al. ClinCancerRes 2016 や、先行研究 (ORR 17%、PFS 1.9ヶ月) とも一致しており、METドライバー変異陽性腫瘍は高PD-L1発現にもかかわらず免疫療法への反応性が低いことが示唆される。

新規性: 本研究で初めて、ブリティッシュコロンビア州という単一の公的医療システム下における人口ベースのコホートにおいて、MET exon 14スキッピング陽性NSCLC患者の有病率、臨床病理学的特徴、および実臨床での全身療法に対する治療成績を包括的に評価した。特に、クリゾチニブ、化学療法、免疫療法のそれぞれについて、TTDという実臨床における治療継続期間を評価した点は、これまで報告されていない。本研究は、実臨床における治療効果と安全性のプロファイルを明らかにし、臨床試験データとの乖離を具体的に示した。

臨床応用: 本研究の結果は、MET exon 14スキッピング陽性NSCLC患者の治療戦略を策定する上で重要な臨床的含意を持つ。クリゾチニブが多標的阻害薬であるため、肝毒性や心毒性などの副作用プロファイルが高齢患者には許容困難な場合があることが示唆された。本論文発表時点では、カプマチニブ (GEOMETRY mono-1試験:未治療群ORR 68%・PFS 9.7ヶ月、前治療群ORR 41%・PFS 5.4ヶ月) とテポチニブ (VISION試験:ORR 46%・PFS 8.5ヶ月) が承認を取得し始めており、より高選択的なMET阻害薬への移行が治療の標準となりつつある。これらの新規MET TKIは、クリゾチニブと比較して副作用プロファイルが良好であり、本研究で示された実臨床でのクリゾチニブのTTDの短さという課題を克服し、患者のQOL向上に貢献する可能性がある。

残された課題: MET exon 14スキッピングにおけるTP53共変異の高頻度 (22%) は先行報告と一致するが、本コホートでは共変異と治療効果との明確な相関は同定されなかった。これはサンプルサイズの制約によるものと考えられるため、より大規模なコホートでの検討が今後の課題である。また、DNA-NGSのみを使用し、RNAシーケンシングやMET IHCを用いなかった点が、MET exon 14スキッピングイベントの検出感度や、遺伝子コピー数増加や増幅シグナルの同定における限界となりうる。KRAS変異やPI3K経路変異が一次・二次耐性機構として報告されているが、本研究ではこれらの詳細な解析は行われていない。今後の研究では、MET TKIと化学療法、EGFR TKI、免疫療法との併用試験が進行中であり、これらの結果が新たな治療選択肢を提供する可能性がある。

方法

本研究は、2016年1月から2019年9月の期間に、BC Cancerの集中DNAベース次世代シーケンシング (NGS) パネルによってMET exon 14スキッピングが検出された進行非扁平上皮NSCLC患者、および選択された非喫煙扁平上皮NSCLC患者を対象とした後方視的コホート (retrospective cohort) 研究である。BC Cancerは、人口510万人のブリティッシュコロンビア州全体をカバーする唯一の公的癌治療プロバイダーであり、この環境は人口ベースでの実態把握を可能にする。本研究は、ブリティッシュコロンビア大学/BC Cancer研究倫理委員会 (H19-03429) の承認を受け、アーカイブデータの抽出および解析に対する同意免除が与えられた。本研究は臨床試験登録ID (trial ID) を持たない後方視的観察研究であり、主要評価項目 (primary endpoint) は治療中止までの期間 (TTD) および全生存期間 (OS) と定義された。

分子検査は、BC Cancerの癌遺伝学・ゲノミクス研究所で実施された。標準的な、研究室開発のDNAベースNGSパネルが、非治癒的ステージIII、ステージIVの非扁平上皮NSCLC患者、および選択された非喫煙扁平上皮NSCLC患者に対して集中的に実施された。ゲノムDNAは、アンプリコンベースまたはライゲーションベースのライブラリー構築 (FFPE [formalin-fixed paraffin-embedded] 修復、PCR増幅、ハイブリダイゼーションキャプチャーを含む) に供された。NGSは、Illuminaシーケンシング技術 (sequencing by synthesis, SBS) を用いて実施された。UMI (unique molecular identifier) でインデックス化されたリードから一重鎖コンセンサス配列が生成され、BWA (version 0.7.17-r11188, mem algorithm) を用いてGRCh37ヒトゲノム参照配列にアラインされた。バリアントコールは、samtools mpileup (version 0.1.18)、VarScan2 (version 2.3.6)、ONCOCNV (copy number variation detection tool) (version 6.6)、およびGenomeSV (structural variation detection tool) (version 0.5.0) パッケージを用いて実施された。

NGSパネルには、AKT1、ALK、BRAF、BRCA1、BRCA2、CIC (capicua transcriptional repressor)、EGFR、ERBB2、ERBB3、ESR1 (estrogen receptor 1)、FUBP1 (far upstream element binding protein 1)、GNAQ (G protein subunit alpha q)、GNA11 (G protein subunit alpha 11)、IDH1、IDH2、KIT、KRAS、MAP2K1、MET、MUTYH、NRAS、p53、PDGFRA、PIK3CA、PTEN、ROS1、SDHA、SDHB、SDHC、SDHDなど、臨床的に重要なホットスポットおよび一部の遺伝子における複数エクソン領域が含まれた。MET exon 14スキッピング変異の分類は、スプライスドナー変異/欠失、ポリピリミジントラクト欠失、CBL結合ドメイン変異に区分された。

患者のベースライン特性、全身療法に対する反応、およびアウトカムに関する情報が収集された。治療反応は、臨床的および放射線学的所見の複合体である医師評価による部分奏効 (PR)、安定疾患 (SD)、進行疾患 (PD)、評価不能 (NE) を用いて決定された。疾患制御率 (DCR) はPRとSDの合計として算出された。治療中止までの期間 (TTD) は、治療の初回投与または調剤日から最終投与または記録された調剤日までとして定義され、Kaplan-Meier法を用いて算出された。病理学的詳細には、組織型、PD-L1免疫組織化学、およびNGSパネル結果が含まれた。統計解析はSPSS Version 26を用いて記述統計が実施され、全生存期間 (OS) 中央値はKaplan-Meier法を用いて算出され、生存曲線の比較にはログランク検定 (log-rank test) が用いられた。