- 著者: Berry MF, Coleman BK, Curtis LH, Worni M, D’Amico TA, Akushevich I
- Corresponding author: Mark F. Berry (Stanford University, Stanford, CA)
- 雑誌: Annals of Surgical Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 25192680
背景
複数のランダム化比較試験およびメタ解析により、Stage II-IIIA非小細胞肺癌 (NSCLC) の完全切除後における術後補助化学療法が全生存期間 (OS) を改善することが示されている。具体的には、Arriagada et al. NEnglJMed 2004、Winton et al. NEnglJMed 2005、Douillard et al. LancetOncol 2006、Strauss et al. JClinOncol 2008などの主要な試験がこの有効性を支持している。しかし、これらの試験を統合したLACEメタ解析では、5年絶対OS改善が5.4%と比較的控えめな結果であった。また、これらのランダム化試験は一般的に選択された患者集団を対象としており、高齢者(70歳超)の参加はわずか9%に過ぎなかった。NSCLCは高齢者に多い疾患であり、診断時年齢中央値は70歳であるにもかかわらず、実臨床における高齢者の補助化学療法の使用率とその有効性に関するエビデンスは不足していた。特に、N1リンパ節転移によるStage II (T1-2N1M0) に限定した高齢者への補助化学療法の有効性評価はこれまでほとんど行われておらず、この領域には依然として未解明な点が残されている。
目的
SEER-Medicareデータベースを用いて、65歳以上のT1-2N1M0 (TNM分類第6版におけるT1またはT2腫瘍、N1リンパ節転移、M0遠隔転移なし) NSCLC切除後の患者における術後補助化学療法 (adjuvant chemotherapy) の使用状況と有効性を評価すること。
結果
対象コホートの同定と補助化学療法使用率: SEER-Medicareデータベースから、適格基準を満たしたT1-2N1M0 NSCLCの外科的切除患者2,781例が同定された。これらの患者のうち、784例 (28.2%) が術後補助化学療法を受けた。補助化学療法の使用率は経時的に増加し、ランダム化試験の完了時期に対応する2003年から2004年頃に顕著に上昇した (Figure 1)。補助化学療法を受けた784例中、593例 (76%) にプラチナ併用レジメンが使用され、そのうち363例 (61%) が4サイクル以上の治療を受けた。残りの患者では、67例 (11%) が1サイクル、63例 (11%) が2サイクル、100例 (17%) が3サイクルの治療を受けていた。
補助化学療法使用と関連する患者因子: 補助化学療法施行群と非施行群の間で、手術術式、T分類、性別、人種、Charlson合併症指数、および地域変数に有意差は認められなかった (Table 1)。年齢分布では、補助化学療法群で66〜69歳が35.8%と多く、非施行群では75歳以上の患者が多い傾向を示した (p<0.0001)。多変量ロジスティック回帰分析の結果、若年齢 (70〜74歳 vs 66〜69歳:OR 0.68; 95% CI 0.55-0.84; p=0.0003;80〜84歳:OR 0.30; 95% CI 0.21-0.42; p<0.0001;85歳以上:OR 0.12; 95% CI 0.05-0.29; p<0.0001) と高T分類 (T2 vs T1:OR 1.22; 95% CI 1.01-1.47; p=0.04) のみが補助化学療法使用の有意な予測因子であった (Table 2)。合併症指数、人種、性別、地域変数は有意な予測因子ではなかった。この結果は、高齢になるほど補助化学療法の受療率が急速に低下することを示している。
全生存への影響 (Kaplan-Meier解析): 5年全生存率 (OS) は、補助化学療法群で35.6% (95% CI 31.8-39.4%) であったのに対し、非施行群では27.9% (95% CI 25.9-29.9%) であり、補助化学療法群で有意に良好であった (p=0.008)。生存曲線の分離は、治療開始後比較的早期 (1年以内) から認められた (Figure 2)。この生存ベネフィットは、特に治療開始後1年目から顕著に現れ、その後も維持される傾向が示された。
主要解析:IPW調整Cox比例ハザードモデル: 逆確率重み付け (IPW) によるプロペンシティスコア調整Cox比例ハザード回帰分析において、補助化学療法が唯一の有意な生存改善予測因子として同定された (HR 0.84; 95% CI 0.76-0.92; p=0.0002) (Table 3)。この結果は、Pignon et al. JClinOncol 2008によるLACEメタ解析のHR 0.89と整合しており、高齢者においても補助化学療法の生存ベネフィットが確認された。この調整モデルでは、年齢、T分類、Charlson合併症指数、手術術式、術後放射線治療などの他の因子を考慮しても、補助化学療法の独立した効果が示された。
生存を悪化させた因子: 同モデルにおいて、生存を有意に悪化させた因子として、術後放射線治療 (HR 1.59; 95% CI 1.39-1.82; p<0.0001)、肺葉下切除 vs 肺葉切除 (HR 1.27; 95% CI 1.00-1.61; p=0.04)、75〜79歳 vs 66〜69歳 (HR 1.15; 95% CI 1.01-1.31; p=0.03)、80〜84歳 (HR 1.44; 95% CI 1.23-1.69; p<0.0001)、85歳以上 (HR 1.92; 95% CI 1.40-2.63; p<0.0001)、高T分類 (HR 1.35; 95% CI 1.19-1.53; p<0.0001)、Charlson指数3以上 (HR 1.35; 95% CI 1.14-1.60; p=0.0002) が同定された (Table 3)。特に、術後放射線治療がOSの悪化と関連した点は、N1疾患における術後放射線治療の再検討を示唆する重要な知見である。これは、術後放射線治療が合併症を増加させ、高齢患者の全体的な予後を悪化させる可能性を示唆している。
考察/結論
本研究はSEER-Medicareデータベースを活用し、これまでほとんど評価されてこなかったT1-2N1M0 NSCLCに限定した高齢者への補助化学療法の有効性を大規模コホートで示した点で重要である。
新規性: 本研究で初めて、65歳以上のT1-2N1M0 NSCLC患者において、補助化学療法が有意な生存改善と関連することを示した。HR 0.84 (95% CI 0.76-0.92, p=0.0002) という結果は、Pignon et al. JClinOncol 2008によるランダム化試験のメタ解析 (LACE:HR 0.89) と一致しており、LACEメタ解析でも70歳超の患者サブグループで同様の補助化学療法の利益が示されていたことと整合する。本研究は、実臨床における高齢者集団での補助化学療法の有効性を大規模データで確認した点で新規性がある。
先行研究との違い: 補助化学療法の使用率 (28.2%) は低く、特に高齢者では年齢とともに使用率が急減していた (85歳以上では66〜69歳に比べてOR 0.12)。これは、ランダム化試験の選択された患者集団とは異なり、実臨床では患者・医師双方が治療の忍容性への懸念から化学療法を選択しない場合が多いことを示唆している。Pepe et al. JClinOncol 2007やWisnivesky et al. BMJ 2011などの先行研究も高齢者における補助化学療法のベネフィットを示しているが、本研究はN1疾患に特化し、より大規模な実世界データでその有効性を確認した点で意義がある。
臨床応用: 本研究のデータは、高齢患者に対して補助化学療法の潜在的メリットについて現実的な説明をする際の根拠として活用できる。年齢のみで補助化学療法を控えるべきではないという臨床的含意がある。患者と医療提供者は、補助化学療法の潜在的な利益とリスクを慎重に検討すべきであり、年齢だけを理由に長期予後を改善しうる治療を排除すべきではない。
残された課題: 本研究のlimitationとしては、SEER-Medicareデータベースには機能状態、肺機能、喫煙歴、外科的切除縁状態などの重要な臨床変数が含まれないことが挙げられる。また、術後経過良好な患者が優先的に補助化学療法を受けた可能性 (選択バイアス) も否定できない。さらに、全例がMedicare加入者に限定されるため、結果が非加入者集団に一般化できない可能性もある。術後放射線治療がOS悪化と関連した点は注目すべきであり、N1疾患への術後放射線治療の再検討が今後の検討課題である。今後の研究では、補助化学療法の意思決定プロセスや患者の理解、選好、治療目標の解析が重要である。
方法
本研究は、Duke University Institutional Review Boardの承認を得て実施された後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。1992年から2006年のSEER-Medicareデータベースを解析した。対象患者は、導入化学療法や放射線治療なしにT1-2N1M0 NSCLCの外科的切除を受け、術後31日以上生存した66歳以上(Medicare加入1年前の連続したPart A/B加入要件から実質的に66歳以上)の患者とした。病期分類にはAJCC (American Joint Committee on Cancer) 第6版TNM分類を使用した。TNMステージは、2004年以降はSEERデータベースの直接的な変数から、それ以前の患者についてはEOD (Extent of Disease) 変数から導出した。補助化学療法、放射線治療、手術の実施は、MEDPAR (Medicare Provider Analysis and Review)、Outpatient Claims、DME (Durable Medical Equipment) およびCarrier Claims Medicareファイルから、HCPCS (Health Care Common Procedure Coding System) コード、ICD-9 (International Classification of Diseases, 9th Revision) 診断・処置コード、CPT (Current Procedural Terminology) コード、RCC (Revenue Center Codes)、DRG (Diagnostic-related group) コードを用いて特定した。各患者のCharlson Comorbidity Indexは、診断前1年間のMedicare記録を用いて計算した。
補助化学療法の使用に関連する因子は、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて評価した。このモデルには、年齢、T分類、性別、人種、手術術式、Charlson合併症指数、およびcensus tract変数を共変量として含めた。OS解析はKaplan-Meier法と、プロペンシティスコアを用いた逆確率重み付け (IPW: Inverse Probability Weighting) 調整Cox比例ハザードモデルで実施し、擬似ランダム化を行った。プロペンシティスコアは、補助化学療法を受ける確率を予測するロジスティック回帰モデルによって計算された。統計解析にはSAS 9.2統計パッケージ (SAS Institute, Cary, NC, USA) を使用し、両側p値が0.05未満を有意とした。