• 著者: Pepe C, Hasan B, Winton TL, Seymour L, Graham B, Livingston RB, Johnson DH, Rigas JR, Ding K, Shepherd FA
  • Corresponding author: Frances A. Shepherd, MD (Princess Margaret Hospital, Toronto, Canada)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2007
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 17442999

背景

肺がんは北米における癌死亡原因の第1位であり、新規診断患者の50%超が65歳以上の高齢者で占められる。早期NSCLC (Stage IB/II) に対する根治的切除後、術後補助化学療法の有効性は、3大試験によって確立された。具体的には、Winton et al. NEnglJMed 2005 (JBR.10試験)、Douillard et al. (ANITA試験、2005)、Arriagada et al. NEnglJMed 2004 (IALT試験) が挙げられる。これらの試験では、OSのハザード比 (HR) が0.62〜0.79、5年絶対生存率改善が8.6〜15%に及ぶことが示された。これらの知見を受けて、vinorelbine+cisplatinを含む術後補助化学療法は標準治療として普及した。しかし、高齢患者はいずれの試験においても少数を占め、登録時の除外基準やプロトコール上の制約から意図的に少数しか登録されていなかったという問題があった。

65歳超の高齢者は、加齢に伴う薬物代謝・臓器機能・骨髄予備能の低下を有しており、cisplatinの腎毒性やvinorelbineの骨髄抑制・末梢神経毒性が若年者よりも顕著となる可能性がある。さらに、高齢者は複数の併存疾患を抱え、薬物代謝に関与する臓器機能が低下している場合が多く、化学療法の継続が困難になりやすい。このような背景から、高齢者では化学療法を減量または中止する傾向があり、規定投与量の達成率が低下することが予想されていた。実際、Alam et al. LungCancer 2005 は、JBR.10試験全体における化学療法遵守率を分析し、高齢者における治療中断の傾向を指摘している。

しかし、高齢者特異的な術後補助化学療法の有効性を正面から検討した試験は存在せず、「高齢であるだけで術後化学療法を差し控えるべきか否か」という臨床上の重要な問いに対するエビデンスは不足していた。先行研究では、進行NSCLCにおいてcisplatin含有化学療法が高齢者にも有効である可能性が示唆されていたが (Langer et al. JNatlCancerInst 2002)、術後補助化学療法の文脈での検証は未解明であった。また、NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995 によるメタアナリシスでは、プラチナ製剤ベースの化学療法が5年生存率を5%改善することが示されたものの、高齢者における具体的なデータは不足していた。本解析はこの問いに直接答えるべく、JBR.10試験の事後的サブグループ解析として実施された。高齢者における術後補助化学療法の安全性と有効性に関する知識ギャップが残されている。

目的

JBR.10ランダム化試験のデータを用い、65歳超の高齢患者における術後vinorelbine+cisplatin補助化学療法の有効性 (OS・疾患特異的生存: DSS) ・化学療法投与量達成率・毒性プロファイルを若年者 (≤65歳) と比較し、高齢者への補助化学療法の有用性を定量的に評価すること。

具体的には、以下の点を明らかにすることを目的とした。

  1. 高齢者群 (>65歳) における補助化学療法の全生存期間 (OS) および疾患特異的生存期間 (DSS) への影響を評価する。
  2. 若年者群 (≤65歳) と高齢者群の間で、vinorelbineおよびcisplatinの平均投与量強度、投与回数、および治療完了率を比較する。
  3. 高齢者群におけるGrade 3/4の有害事象の発現率、入院率、および治療関連死の頻度を若年者群と比較し、安全性プロファイルを評価する。
  4. 年齢をさらに細分化したサブグループ (66-70歳、71-75歳、>75歳) におけるOSおよびDSSを検討し、超高齢者における治療効果と予後の特徴を明らかにする。
  5. 年齢と治療効果の間に統計的に有意な交互作用が存在するかどうかを評価し、年齢が補助化学療法の相対的恩恵に影響を与えるか否かを判断する。

結果

高齢者 (>65歳) における化学療法の生存効果: 高齢者化学療法群 (n=77) と観察群 (n=78) のOSを比較した結果、化学療法群で統計的に有意な生存改善が確認された。ハザード比は0.61 (95% CI 0.38-0.98、P=.04) であった。この効果量は、JBR.10試験全体のHR 0.69 (P=.04) と概ね同等であり、高齢者においても術後補助化学療法の有効性が保たれていることを示唆する (Figure 2A)。疾患特異的生存 (DSS) においても、高齢者化学療法群でHR 0.66 (95% CI 0.39-1.13、P=.13) と同方向の傾向が示されたが、統計的有意差は認められなかった (Figure 2C)。年齢 (若年 vs 高齢) と治療の交互作用はOS (P=.41) およびDSS (P=.79) のいずれにおいても有意でなく、年齢によって化学療法の相対的恩恵が変わるという証拠はなかった。

年齢サブグループ別OS (全患者): 全ランダム化患者を年齢で4つのサブグループに層別化してOSを評価した (Figure 1C)。66-70歳群 (n=84) ではHR 1.20 (95% CI 0.83-1.73、P=.34)、71-75歳群 (n=48) ではHR 1.06 (95% CI 0.65-1.71、P=.83) と、若年者 (≤65歳) と比較してOSに有意差はなかった。しかし、>75歳群 (n=23) のみはHR 2.41 (95% CI 1.43-4.06、P<.001) と全体OSが有意に不良であった。この>75歳群における予後不良は、疾患特異的生存 (DSS) では観察されなかった (HR 1.18、95% CI 0.55-2.54、P=.67) (Figure 1D)。これは、超高齢者における予後不良が、肺がん以外の原因による死亡 (非悪性疾患による死亡) が高率であることに起因する可能性を示唆している。実際、>75歳群では死亡の50.0% (16例中8例) が非疾患関連死であった。若年者群では非悪性疾患による死亡が11.9% (126例中15例) であったのに対し、高齢者群では21.1% (71例中15例) であった (P=.13)。

化学療法投与量達成率: 化学療法を受けた患者213例における投与量強度を比較した (Table 3)。高齢者群での平均vinorelbine投与量強度は9.9 mg/m²/週であり、若年者群の13.2 mg/m²/週を有意に下回った (P=.0004)。平均cisplatin投与量強度も高齢者群で14.1 mg/m²/週、若年者群で18.0 mg/m²/週と有意差があった (P=.001)。投与回数においても、高齢者群はvinorelbine<10回が71.4% (若年者群50.7%、P=.014)、cisplatin<5回が49.2% (若年者群27.3%、P=.006) と、規定コース未達の割合が有意に高かった。また、化学療法拒否による中断も高齢者群で有意に高率であった (40% vs 23%、P=.01)。これらのデータは、高齢者において化学療法が減量または中断されやすい傾向があることを示している。にもかかわらず、高齢者群のOSにおけるHR 0.61は、若年者群のHR 0.77よりも数値的に良好であり、補助化学療法の恩恵が投与量に完全に依存しない可能性が示唆される。

毒性プロファイル: 化学療法を受けた213例で評価した26項目の毒性において、年齢群間に統計的に有意な差を認めたものは1項目もなかった (Table 4)。Grade 3/4の貧血は高齢者群9.5% vs 若年者群6.7% (P=.47)、Grade 3/4好中球減少症は高齢者群65.1% vs 若年者群66.7% (P=.82) とほぼ同等であった。Grade 3/4嘔吐は高齢者群7.9% vs 若年者群6.7% (P=.74)、発熱性好中球減少症はそれぞれ7.9% vs 5.3% (P=.47) であった。入院率も年齢群間で有意差はなかった (P=.86)。治療関連死はいずれの群も各1例のみであった。これらの結果は、高齢者では投与量が減らされながらも、Grade 3/4毒性の頻度は若年者と統計的に同等であったことを示している。ベースライン特性では、高齢者群で腺癌の割合が低く (43% vs 58%)、扁平上皮癌の割合が高かった (49% vs 32%、P=.001)。また、PS 0の患者は若年者群で53%、高齢者群で41%と、若年者群でPS良好な患者が有意に多かった (P=.01)。

考察/結論

本JBR.10高齢者サブグループ解析は、外科的完全切除後のStage IB/II NSCLCにおいて、65歳超の高齢患者でもvinorelbine+cisplatin術後補助化学療法が有意なOS改善 (HR 0.61、95% CI 0.38-0.98、P=.04) をもたらすことを明示した初めての系統的解析である。

先行研究との違い: 本研究は、高齢者における術後補助化学療法の有効性を直接的に評価した点で、これまでの研究と異なる。先行するLanger et al. JNatlCancerInst 2002 (ECOG 5592) は進行NSCLCにおけるcisplatin含有化学療法の有効性を示したが、術後補助化学療法の文脈での高齢者データは不足していた。本解析は、高齢者で実際に投与量が大幅に減少 (vinorelbine 9.9 vs 13.2 mg/m²/週、cisplatin 14.1 vs 18.0 mg/m²/週) しているにもかかわらず、生存恩恵は若年者 (HR 0.77) と同等以上であり、年齢×治療交互作用が有意でないことと合わせて、高齢であること自体は化学療法の有効性を損なわないという重要なメッセージを発している。

新規性: 本研究で初めて、高齢者においても術後補助化学療法が許容可能な毒性プロファイルで生存期間を改善することを示した。また、投与量強度が低下しても生存利益が維持されるという新規の知見は、高齢者に対する個別化された治療戦略の検討に資する。高齢者でも毒性が年齢間で有意に増加しないという事実は、「高齢者に化学療法は危険」という従来の先入観に反する。より少ない投与量でも毒性が類似するのは、腎機能・肝機能低下による薬物代謝遅延が薬物曝露を延長させる可能性があるためと推測される。

臨床応用: 本知見は、高齢NSCLC患者の術後補助化学療法の臨床応用において重要な意義を持つ。年齢のみを理由に治療を差し控えるべきではないという明確なエビデンスを提供し、臨床現場での意思決定を支援する。高齢者への術後化学療法は、PS・臓器機能・併存疾患・患者意向を総合的に評価した上で適切に選択されるべきである。

残された課題: 今後の検討課題として、本解析の限界が挙げられる。(1) JBR.10の事後的サブグループ解析であり、交絡因子のコントロールに限界がある。(2) 高齢者群のサンプルサイズn=155は解析力が限定的である。(3) 包括的老年評価 (CGA: Comprehensive Geriatric Assessment) は実施されておらず、「fit elderly」に偏る可能性がある。(4) 現代の定義では65歳は「高齢者」の閾値として低すぎる可能性がある。特に>75歳の超高齢者群はn=23と少なく、化学療法の交互作用P=.03と有意であることから、この集団への術後化学療法の適応は個別の慎重な評価が必要である。また、高齢患者の治療に対する認識や、毒性に対する許容度に関する研究も今後の方向性として重要である。

方法

本研究は、National Cancer Institute of Canada (NCIC) Clinical Trials Group (CTG) 主導のJBR.10ランダム化比較試験の事後サブグループ解析として実施された。JBR.10は、Stage IB/II完全切除NSCLCに対するvinorelbine (25 mg/m² 1・8・15・22日) + cisplatin (50 mg/m² 1・8日、28日サイクル) 補助化学療法 vs 観察の多施設無作為化第III相試験である (NCT00002574)。1994年から2001年にかけてNCIC CTG、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG)、Cancer and Leukemia Group B (CALGB)、Southwest Oncology Group (SOGO) が参加し、全体482例がランダム化された。

解析対象集団: 全ランダム化患者482例を対象に、年齢を基準として若年群 (≤65歳、n=327) と高齢群 (>65歳、n=155) に層別化した。高齢群の内訳は、化学療法群n=77、観察群n=78であった。さらに、年齢を4つのサブグループ (≤65歳、66-70歳、71-75歳、>75歳) に層別化した詳細な解析も実施された。化学療法投与量および毒性の解析は、少なくとも1回以上のvinorelbineまたはcisplatin投与を受けた患者 (treated patient population) 213例 (若年者150例、高齢者63例) を対象とした。

化学療法レジメン: Vinorelbineは25 mg/m²を第1、8、15、22日に投与し、Cisplatinは50 mg/m²を第1、8日に投与する28日サイクルで、計4サイクルが予定された。

投与量解析: 化学療法を実施した213例を対象に、vinorelbineおよびcisplatinの平均投与量強度 (mg/m²/週) を算出した。投与量強度は、総投与量 (mg/m²) を治療期間 (週) で除して定義された。治療期間は、初回投与日から最終投与日までの週数とした。また、規定投与回数 (vinorelbine 16回、cisplatin 8回) の達成率も評価した。

ベースライン特性: 各年齢群におけるベースラインの患者特性 (性別、病理組織型、PS、Ras変異状態、リンパ節転移状態、Tステージ、病期、喫煙歴、人種、パックイヤー、ベースライン貧血、手術術式) を比較した。

統計解析:

  • OS (全生存期間) およびDSS (疾患特異的生存) の評価には、カプランマイヤー法を用いて生存曲線を作成し、ログランク検定で群間比較を行った。ハザード比 (HR) とその95%信頼区間 (95% CI) は、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて算出した。
  • 投与量強度や投与回数などの連続変数の比較には、ANOVA (分散分析) を用いた。
  • カテゴリカル変数の比較には、カイ二乗検定またはFisherの正確確率検定を用いた。
  • 年齢と治療効果の交互作用は、交互作用項を含むCox回帰モデルで評価した。
  • 有害事象はNCIC CTG Expanded Common Toxicity Criteriaを用いてグレード分類し、年齢群間でGrade 3/4以上の毒性の発生率を比較した。
  • 全てのP値は両側検定であり、P<.05を統計的有意差ありと判断した。