• 著者: Wisnivesky JP, Smith CB, Packer S, Strauss GM, Lurslurchachai L, Federman A, Halm EA
  • Corresponding author: Juan P. Wisnivesky (Mount Sinai School of Medicine, New York, NY)
  • 雑誌: BMJ
  • 発行年: 2011
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21757436

背景

肺癌は高齢者に多く見られる疾患であり、米国における診断時の年齢中央値は69歳に達している。Stage II-IIIAの非小細胞肺癌 (Non-Small Cell Lung Cancer: NSCLC) 患者に対する外科的切除後の術後補助化学療法の有用性については、複数の第III相ランダム化比較試験 (Randomized Controlled Trial: RCT) によってその有効性が実証されてきた。代表的な先行研究として、シスプラチンをベースとした補助化学療法の生存ベネフィットを示した Arriagada et al. NEnglJMed 2004 や、ビノレルビンとシスプラチンの併用療法を評価した Winton et al. NEnglJMed 2005、さらに Douillard et al. LancetOncol 2006 などの大規模臨床試験が挙げられる。また、これらの個別試験を統合したメタ解析である Pignon et al. JClinOncol 2008 においても、術後補助化学療法が生存期間を有意に改善することが示されている。さらに、テガフール・ウラシル配合剤を用いた補助化学療法の有用性を示した Hamada et al. JClinOncol 2005 や、カルボプラチンとパクリタキセルの併用を検証した Strauss et al. JClinOncol 2008 などの研究も存在する。しかしながら、これらの歴史的な臨床試験に登録された患者は、比較的若年であり、全身状態 (Performance Status: PS) が良好な集団であった。高齢者を対象としたサブグループ解析を行った Pepe et al. JClinOncol 2007 の研究でも、高齢者における忍容性や有効性のデータは限定的であった。そのため、実臨床における一般的な高齢者、特に多くの合併症を抱える患者や超高齢者に対するプラチナ製剤ベースの術後補助化学療法の実際の有効性と重篤な有害事象リスクについては、依然として多くの部分が未解明であり、十分なエビデンスが不足しているという課題が存在していた。臨床現場の意思決定を支援するための大規模な集団ベースのデータが不足していることは、高齢NSCLC患者の治療最適化における大きなgapが残されている要因となっていた。

目的

本研究の目的は、実臨床における高齢の切除後Stage II-IIIA非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象として、術後プラチナ製剤ベース補助化学療法の有効性と安全性を検証することである。具体的には、米国の代表的ながん登録データベースである Surveillance, Epidemiology, and End Results (SEER) と高齢者向け公的医療保険であるMedicareの連結データベース (SEER-Medicare) を用い、65歳以上の切除後Stage II-IIIA NSCLC患者における術後補助化学療法の施行有無が、主要評価項目である全生存期間 (Overall Survival: OS) および副次評価項目である重篤な有害事象による入院リスクに与える影響を、傾向スコア (Propensity Score) を用いた統計学的手法により詳細に評価・比較検討することである。さらに、年齢層別 (65-69歳、70-79歳、80歳以上) のサブグループ解析を行い、超高齢者における治療のベネフィットとリスクのバランスを明らかにすることを目的とする。

結果

患者背景と治療選択における偏りの傾向: 最終コホートの3,324例のうち、21% (n=684) が術後にプラチナ製剤ベースの補助化学療法を受けていたのに対し、79% (n=2,640) は化学療法を受けていなかった (Table 1)。追跡期間中央値は39ヵ月であった。化学療法を受けた患者群は、受けなかった患者群と比較して、平均年齢が若く (71.5 ± 4.3歳 vs 73.4 ± 5.1歳、p=0.02)、白人の割合が高く (89% vs 88%、p=0.04)、既婚者の割合が高かった (68% vs 61%、p=0.001)。また、化学療法群は併存疾患の負担を示すCCIスコアが低い傾向にあり (CCIスコア 0-1の割合:46% vs 40%、p=0.05)、術後の身体機能低下の指標であるHHAによる訪問看護サービスの利用率も低かった (13% vs 17%、p=0.04)。術後放射線治療の併用は、化学療法群で有意に高頻度であった (61% vs 44%、p<0.001)。傾向スコア調整後は、放射線治療を除くすべての背景因子が両群間で均一にバランスされた (Table 1)。

術後補助化学療法による全体生存期間の有意な改善: 主要評価項目であるOSの解析において、傾向スコア調整コックス比例ハザードモデルを用いた結果、プラチナ製剤ベースの術後補助化学療法は、未施行群と比較して死亡リスクを有意に低下させ、生存期間を改善することが示された。全体コホートにおける調整ハザード比は HR 0.80 (95% CI 0.72-0.89, p<0.001) であった (Table 2)。5年調整生存率は、化学療法群で35% (95% CI 32-39%) であったのに対し、化学療法未施行群では27% (95% CI 25-29%) にとどまり、有意な生存ベネフィットが確認された。術後放射線治療の有無で層別化した感度解析においても、放射線治療あり群で HR 0.77 (95% CI 0.68-0.88, p<0.001)、放射線治療なし群で HR 0.77 (95% CI 0.64-0.91, p=0.003) と、一貫した生存期間の改善効果が認められた (Table 2)。

病期別および年齢層別の生存ベネフィットにおける不均一性: 病期別の解析では、Stage IIの患者において HR 0.71 (95% CI 0.60-0.83, p<0.001) と顕著な生存改善が認められた一方、Stage IIIAの患者におけるハザード比は HR 0.88 (95% CI 0.77-1.00, p=0.05) であり、ベネフィットの程度に差が見られた (Table 2)。さらに重要な知見として、年齢層別のサブグループ解析において治療効果の不均一性が明らかになった。65〜69歳の群では HR 0.74 (95% CI 0.62-0.88, p<0.001)、70〜79歳の群では HR 0.82 (95% CI 0.71-0.94, p=0.005) と、いずれも有意な生存ベネフィットが確認された。しかし、80歳以上の超高齢患者群においては、ハザード比が HR 1.33 (95% CI 0.86-2.06, p=0.19) となり、生存期間の改善効果は認められず、むしろ数値上は生存に悪影響を及ぼす傾向すら示唆された (Table 2)。

重篤な有害事象による入院リスクの大幅な増加: 安全性評価において、術後補助化学療法群では治療開始後12週間以内の早期死亡が21例 (3.1%) に認められた。術後2〜6ヵ月における重篤な有害事象による入院率は、化学療法群で13.0% (n=89) であったのに対し、未施行群では6.9% (n=182) であり、化学療法群で入院リスクが約2倍に有意に増加した (オッズ比 OR 2.0、95% CI 1.5-2.6、p<0.001) (Table 4)。入院を必要とした具体的な重篤有害事象として最も頻度が高かったのは貧血 (8.6% vs 3.0%、OR 3.1、95% CI 2.2-4.4、p<0.001) であり、次いで脱水 (6.7% vs 3.6%、OR 1.8、95% CI 1.3-2.7、p=0.001)、感染症 (5.3% vs 3.0%、OR 1.8、95% CI 1.2-2.7、p=0.005) の順であった (Table 4)。また、好中球減少症による入院リスクは極めて高く (OR 15.6、95% CI 7.1-34.1、p<0.001)、術後2年以内の末梢神経障害の発症リスクも有意に上昇していた (OR 1.4、95% CI 1.2-1.7、p<0.001)。

未測定の交絡因子に対する感度解析による結果の頑健性: 本研究は観察研究であるため、データベースに含まれない患者の全身状態、すなわちPSの不均一性が生存期間の改善に影響を与えている可能性 (選択バイアス) を排除できない。そこで、未測定の交絡因子に対する感度解析を実施した (Table 3)。その結果、化学療法未施行群において不良なPS (ECOG PS >2) の割合が化学療法群の5倍存在し、かつ不良なPS自体の死亡ハザード比が1.5であると仮定した場合でも、化学療法の調整ハザード比は HR 0.88 (95% CI 0.79-0.98, p=0.02) と依然として有意な生存改善を示した。また、傾向スコアの調整方法を「連続変数としての調整」「5分位層別化」「マッチング解析」の3手法のいずれに変更しても、ハザード比は0.78〜0.81の範囲に収まり、結果の頑健性が極めて高いことが実証された (Table 2)。

考察/結論

本研究は、実臨床における高齢の切除後Stage II-IIIA非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、術後プラチナ製剤ベース補助化学療法が生存期間を有意に改善する一方で、重篤な有害事象による入院リスクを約2倍に増加させることを明らかにした。

先行研究との違い: 高度に選択された若年かつ合併症の少ない患者のみを対象としていた従来のランダム化比較試験 (RCT) と異なり、本研究は実臨床における多様な合併症や身体機能低下を抱える高齢者集団を対象としている。それにもかかわらず、術後補助化学療法による死亡リスクの低下 (HR 0.80) は、RCTのメタ解析で示された治療効果と同等であり、高齢者においても術後補助化学療法の有効性が実臨床で再現されることを示した。

新規性: 本研究は、80歳以上の超高齢患者においては術後補助化学療法による生存ベネフィットが認められない可能性を本研究で初めて明らかにした。これは、従来の臨床試験やその事後解析では症例数が極めて少なく、これまで報告されていない重要な知見である。ただし、この結果は事後解析に基づくものであるため、解釈には慎重を期す必要がある。

臨床応用: 本研究の知見は、高齢NSCLC患者に対する術後補助化学療法の意思決定における臨床的意義が極めて大きい。臨床現場においては、65〜79歳の患者に対しては生存ベネフィットが有害事象リスクを上回る可能性が高いため、積極的に治療を検討すべきである。一方で、80歳以上の超高齢者においては、治療によるベネフィットが得られない可能性と重篤な有害事象 (特に貧血、脱水、感染症) による入院リスクの倍増を十分に考慮し、患者個々の全身状態や価値観に基づいた意思決定 (Shared Decision Making) を行うことが求められる。

残された課題: 本研究における残された課題 (limitation) として、SEER-Medicareデータベースには患者の正確な全身状態 (ECOG PSなど) や喫煙歴、切除マージンの状態、詳細な化学療法のレジメンや投与量、および治療中の生活の質 (Quality of Life: QOL) に関する直接的なデータが含まれていない点が挙げられる。また、65歳未満の患者や民間保険加入者への外圧縮小が困難であること、およびMedicare加入者の特性上、介護施設入居者が除外されていることも限界である。今後の検討として、高齢患者における化学療法中のQOLの変化や、より詳細な臨床情報を含んだレジメン別の有効性と安全性の比較検証が必要である。

方法

本研究は、SEER-Medicare連結データベースを用いた大規模なレトロスペクティブ観察コホート研究である。対象は、1992年から2005年までにStage IIA、IIB、またはIIIAの非小細胞肺癌 (NSCLC) と診断され、外科的切除 (肺葉切除または肺全摘) を施行された65歳以上の患者である。除外基準として、限局切除のみを施行された患者 (n=114)、術後30日以内の周術期死亡例、および術後に長期療養施設や介護施設 (n=321) に退院した患者を除外した。最終的な解析対象コホートは3,324例となった。術後補助化学療法の有無は、術後3ヵ月以内にプラチナ製剤ベースの化学療法が開始されたことを示すMedicareの請求コード、すなわち International Classification of Diseases, Ninth Revision, Clinical Modification (ICD-9-CM) コードなどに基づいて同定した。

主要評価項目は全生存期間 (OS) であり、手術日から死亡日までの期間として定義した。副次評価項目は、術後2〜6ヵ月の間に発生した化学療法に関連する重篤な有害事象 (感染症、発熱性好中球減少症、貧血、血小板減少症、脱水症、悪心・嘔吐、急性腎不全など) による入院率とした。

統計解析においては、治療選択におけるバイアスを制御するため、傾向スコアを用いた多変量解析を実施した。傾向スコアは、患者の年齢、性別、人種、合併症スコアである Charlson Comorbidity Index (CCI) のDeyo改訂版、腫瘍因子 (病期、組織型、部位)、術後合併症、および術後の訪問看護サービスを提供する Home Health Agency (HHA) の利用有無を共変数としたロジスティック回帰モデルにより算出した。HHAの利用は、患者が自宅から外出困難であることを意味するため、全身状態、すなわち Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status (ECOG PS) が不良であることの代替 (プロキシ) 指標として用いた。生存分析には、傾向スコアを共変数として調整したコックス比例ハザード回帰モデル (Cox regression) を用いた。さらに、傾向スコアの5分位層別化解析および傾向スコアマッチング解析 (matched analysis) を併せて実施し、結果の頑健性を検証した。なお、本研究はレトロスペクティブな観察コホート研究であり、介入を伴うランダム化比較試験ではないため、ClinicalTrials.gov などの臨床試験登録番号 (NCT12345678 など) は取得されていない。