- 著者: Ozaki Y, Muto S, Takagi H, Watanabe M, Inoue T, Fukuhara M, Yamaura T, Okabe N, Matsumura Y, Hasegawa T, Ohsugi J, Hoshino M, Shio Y, Tanaka D, Nanamiya H, Imai J, Isogai T, Watanabe S, Suzuki H
- Corresponding author: Hiroyuki Suzuki (Department of Chest Surgery, School of Medicine, Fukushima Medical University, Fukushima, Japan)
- 雑誌: Cancer Immunology, Immunotherapy
- 発行年: 2020
- Epub日: 2019-12-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 31807880
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint inhibitor: ICI) の臨床応用拡大に伴い、治療奏効を正確に予測するバイオマーカーの確立が緊急の課題となっている。先行研究では、プログラム細胞死リガンド1 (programmed death ligand 1: PD-L1) の発現レベルが標準的なバイオマーカーとして導入され、特に高発現群においてpembrolizumabが従来の化学療法よりも優れた予後改善効果を示すことが確立されている (Reck et al. NEnglJMed 2016)。しかし、PD-L1陰性患者であっても一部の症例で治療奏効が認められる現象 (Brahmer et al. NEnglJMed 2015) は、PD-L1単独では不完全な予測因子であることを示している。
近年、腫瘍遺伝子変異量 (tumor mutation burden: TMB) が新たなバイオマーカー候補として注目を集めている。先行研究において、高TMBを示す非小細胞肺癌 (non-small-cell lung cancer: NSCLC) においてpembrolizumabの奏効率が有意に高いことが実証された (Rizvi et al. Science 2015)。さらに、高TMBかつPD-L1高発現の重複症例で免疫療法の臨床的有用性が最大化することが報告されている (Carbone et al. NEnglJMed 2017)。また、腫瘍浸潤リンパ球 (tumor-infiltrating lymphocyte: TIL) の密度、特にCD8陽性T細胞の浸潤度も治療奏効と深く関連する独立した因子として知られている (Tumeh et al. Nature 2014)。しかしながら、これら複数のバイオマーカー候補の相互関係や、同一コホート内における独立性については十分に解明されておらず、臨床現場における最適な統合評価アルゴリズムは未確立のままであった。
特に、日本人NSCLC患者を対象とした全エクソーム解析 (whole-exome sequencing: WES) による網羅的なゲノム・免疫プロファイリングデータは極めて不足しており、高コストなWESを代替する簡便な臨床指標や遺伝子変異スクリーニングによるTMB予測モデルも構築されていなかった。本研究は、これら臨床ゲノム医学における知識ギャップを埋めるため、外科切除された日本人NSCLCコホートを用いて、TMB、PD-L1発現、CD8+ TIL密度の3者の相互関係を同一コホート内で同時に評価し、その独立性を検証するとともに、日常臨床で応用可能なTMBの代理予測指標を探索することを目的とした。
目的
本研究の目的は、第一に、外科切除を施行された日本人NSCLC患者92例のペアサンプルを対象に、WESを用いてTMBの正確な分布および中央値を算出することである。第二に、得られたTMB値と、患者の臨床病理学的背景因子 (性別、喫煙歴、組織型、腫瘍径、病期) および主要な癌関連遺伝子変異 (EGFR、TP53、KRAS、CDKN2A、PIK3CA、ERBB2、BRAF、CTNNB1、PTEN) との相関関係を網羅的に解析することである。第三に、同一コホート内においてTMB、PD-L1発現レベル、CD8+ TIL密度の3因子を同時に測定し、これらが互いに相関するのか、あるいは独立したバイオマーカーとして機能するのかを統計学的に検証することである。第四に、日常の臨床現場においてWESの代替となり得る、TP53変異やEGFR変異、免疫組織化学 (immunohistochemistry: IHC) 染色を用いた簡便かつ迅速なTMB代理予測指標としての実用性を検証することである。
結果
患者背景とTMBの分布: 対象となったNSCLC患者92例の背景は、年齢中央値70歳、男性70.7% (65/92例)、現・既喫煙者69.6% (64/92例、Brinkman指数中央値700) であった。組織型は腺癌が69.6% (64/92例)、扁平上皮癌が30.4% (28/92例) であり、病期はStage Iが73.9% (68/92例) と早期症例が多数を占めた。WES解析の結果、コホート全体におけるTMB中央値は 60 nonsynonymous coding variants (範囲 10-502) であった (Fig 1)。最も頻度の高い変異タイプはmissense変異であった。
臨床病理学的因子とTMBの相関: 単変量解析において、高TMBと有意に関連する臨床病理学的因子が同定された (Table 1)。男性患者におけるTMB平均値は 127.5 (95% CI 98.8-156.2) であり、女性患者の 52.5 (95% CI 27.0-78.1) と比較して有意に高値であった (p<0.0001)。また、喫煙者群のTMB平均値は 134 (95% CI 104.3-163.8) であり、非喫煙者群の 40.4 (95% CI 32.5-48.2) と比較して極めて高値を示した (p<0.0001)。さらに、扁平上皮癌症例におけるTMB平均値は 162.6 (95% CI 122.7-202.5) であり、腺癌症例の 80.5 (95% CI 55.0-106.0) と比較して有意に高値であった (p<0.0001)。腫瘍径が2.8 cm以上の群におけるTMB平均値は 128.4 (95% CI 82.6-164.1) であり、2.8 cm未満の群の 80.6 (95% CI 54.8-106.5) と比較して有意に高値であった (p=0.0218)。
ゲノム変異とTMBの相関: 標的パネルシーケンシングの結果、特定の遺伝子変異状態がTMB値と強力に相関していることが判明した (Table 1)。EGFR野生型 (陰性) 腫瘍 (n=65) のTMB平均値は 136 (95% CI 107.3-164.8) であったのに対し、EGFR変異陽性腫瘍 (n=27) では 32 (95% CI 25.8-38.2) と極めて低値であり、野生型において有意に高TMBであった (p<0.0001)。また、TP53変異陽性腫瘍 (n=56) のTMB平均値は 138 (95% CI 105.7-170.3) であり、TP53野生型 (陰性) 腫瘍 (n=36) の 55 (95% CI 35.1-74.9) と比較して有意に高値であった (p<0.0001)。CDKN2A変異陽性腫瘍 (n=3) のTMB平均値は 199.7 (95% CI 62.6-336.8) であり、陰性腫瘍 (n=55) の 80.7 (95% CI 57.5-103.8) と比較して有意に高値であった (p=0.0196)。
多変量解析による独立したTMB予測因子の同定:
臨床ゲノム因子を共変数とした重回帰分析の結果、EGFR変異陰性 (p=0.0111) およびTP53変異陽性 (p=0.0425) の2因子のみが、独立してTMB高値と関連するゲノム因子であることが証明された。研究グループは、これらの係数に基づき以下のTMB予測式を提示した。
TMB = 55.461 - 10.009 × (性別: 男=1, 女=0) + 0.028 × (Brinkman指数) + 18.380 × (組織型: 扁平上皮癌=1, 腺癌=0) + 7.581 × 腫瘍径(cm) - 65.327 × (EGFR変異: 陽性=1, 念性=0) + 47.050 × (TP53変異: 陽性=1, 陰性=0) (決定係数 R²=0.260)。
さらに、EGFR野生型症例 (n=65) のサブグループ解析においても、TP53変異陽性群は陰性群と比較して有意に高いTMBを示し (p=0.0006)、多変量解析でもTP53変異が独立したTMB関連因子であることが再確認された。
TMB、PD-L1発現、CD8+ TILの相互独立性: 本研究における最も重要な免疫学的所見として、TMB値はCD8+ TIL密度 (p=0.2973) およびPD-L1発現レベル (p=0.1984) のいずれとも有意な相関を示さなかった (Table 1)。PD-L1陽性 (TC1/IC1) 率は12.7% (11/92例) であり、CD8+ TIL密度はHighが25.0% (23/92例)、Intermediate/Lowが75.0% (69/92例) であった。また、PD-L1発現とCD8+ TIL密度の間にも有意な相関は認められず、これら3つの主要な免疫チェックポイント阻害薬バイオマーカーが、互いに独立した次元の生物学的情報を有していることが示された。
p53タンパク質発現とTP53遺伝子変異の相関: IHC染色によるp53タンパク質の核内集積スコアと、WES/パネルシーケンシングによって同定されたTP53遺伝子変異状態との間には、極めて強い正の相関が認められた (Pearsonの相関係数 r=0.6599, p<0.0001)。これにより、日常臨床で広く実施可能なp53 IHC染色が、TP53遺伝子変異および高TMB状態を予測する簡便なサロゲートマーカーとして機能する可能性が示された。
臨床的予後解析におけるハザード比の検証: 本コホートにおける予後解析として、単変量および多変量コックス比例ハザード回帰分析を実施した。全生存期間 (overall survival: OS) の解析において、TP53変異陽性群は野生型群と比較して生存期間が短い傾向にあったが、統計的有意差には至らなかった。具体的には、TP53変異陽性群 vs 野生型群におけるOSのハザード比は HR 1.45 (95% CI 0.65-3.25, p=0.365) であった。また、EGFR変異陽性群 vs 野生型群におけるOSのハザード比は HR 0.88 (95% CI 0.35-2.21, p=0.785) であり、ドライバー変異の有無単独では早期切除例におけるOSに決定的な影響を与えないことが示された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、日本人NSCLCコホートにおいてTMB、PD-L1発現、CD8+ TIL密度の3大バイオマーカーを同一コホート内で同時に評価し、それらの相互関係を検証した点で、これまでの報告と大きく異なる。先行研究であるRizviら (Rizvi et al. Science 2015) やCarboneら (Carbone et al. NEnglJMed 2017) は、TMB単独、あるいはTMBとPD-L1の組み合わせによる治療奏効予測能を示したが、CD8+ TILを含む3因子の独立性については言及していなかった。本研究は、これら3因子が互いに相関しない独立した指標であることを実証し、単一のバイオマーカーによる患者選択の限界を浮き彫りにした。また、メラノーマを対象としたVanAllenら (VanAllen et al. Science 2015) の報告とは対照的に、肺癌においてはTMBとTIL密度が相関しないことを示し、腫瘍微小環境の多様性が臓器特異的であることを明らかにした。なお、本研究におけるTMB中央値 (60) が先行研究より低値である理由は、正常対照として末梢血ではなく隣接正常肺組織を使用しており、加齢に伴うバックグラウンド変異や生殖細胞系列変異が厳密に除外されているためである。
新規性: 本研究は、日本人NSCLCにおいてTP53遺伝子変異陽性およびEGFR遺伝子変異陰性が、TMB高値と独立して相関することを多変量解析で初めて示した。さらに、高コストなWESを施行せずとも、日常臨床で広く普及しているp53 IHC染色がTP53遺伝子変異状態と極めて強く相関すること (r=0.6599, p<0.0001) を新規に見出し、p53 IHCがTMB高値を予測する実用的なサロゲートマーカーになり得るというショートカットを提示した。また、CDKN2A変異陽性例が有意に高いTMBを示すという知見も、肺癌ゲノムプロファイルにおける新規の発見である。
臨床応用: 本研究の知見は、肺癌における免疫療法および複合バイオマーカー戦略の臨床応用に直結する。EGFR変異陽性肺癌が極めて低いTMBを示すという観察結果は、EGFR変異陽性例においてICIの治療効果が乏しく、EGFR-TKIが優先されるべきであるという現在の臨床現場における標準治療の生物学的妥当性を強く裏付ける。また、TMB、PD-L1、CD8+ TILが互いに独立しているという事実は、Chenらの提唱する「がん免疫グラム (cancer immunogram)」(Chen et al. Nature 2017, Blank et al. Science 2016) の概念と整合し、今後はこれら3因子を統合したマルチオミクス評価モデルを臨床応用すべきであることを示唆している。さらに、提案されたTMB予測式やp53 IHCは、WESの実施が困難なリソース限定地域や小規模な臨床現場において、安価かつ迅速な代替スクリーニング法として高い臨床的有用性を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、第一に、本研究が92例という単一施設の後方視的小規模コホートに基づいているため、より大規模な独立コホートによる検証が必要である。第二に、本コホートは外科切除例 (Stage Iが73.9%) を中心としており、進行期 (Stage III/IV) や化学療法・EGFR-TKI治療後の耐性クローンにおけるTMBプロファイルを完全には代表していない可能性がある。第三に、本研究はICI未治療例の切除標本を用いているため、構築されたTMB予測モデルや3因子独立モデルが、実際のICI治療における無増悪生存期間 (PFS) や全生存期間 (OS) の延長とどのように直接相関するかを検証する前向き臨床試験が今後の重要な研究方向性である。
方法
患者選択と検体収集: 2013年から2016年の間に福島県立医科大学附属病院呼吸器外科において外科的切除を施行された術前未治療のNSCLC患者92例を対象としたレトロスペクティブコホート研究 (retrospective cohort study) である。本研究は同大学の倫理委員会による承認 (承認番号: No. 2538) を得て実施され、全患者から書面によるインフォームドコンセントを取得した。病期分類はTNM分類第7版に準拠した。各症例から得られた腫瘍組織および隣接する非腫瘍肺組織のペアサンプル (合計184サンプル) を用いてゲノム解析および病理組織学的解析を行った。
全エクソームシーケンシング (WES): 腫瘍組織および非腫瘍肺組織から抽出した100 ngのゲノムDNAを出発材料とし、Ion AmpliSeq Exome RDY (rapid deployment ready) Kitを用いてエキソームライブラリを調製した。シーケンシングはIon ProtonまたはIon S5XLプラットフォーム (Thermo Fisher Scientific) を用いて実施した。得られたリード配列はリファレンスゲノム (hg19/GRCh37) にアライメントし、Ion Torrent Suite softwareを用いてBAMファイルに変換した。184サンプルの平均Q20塩基数は 6.44 Gbp、平均カバレッジ深度は 123× であり、ターゲット塩基の 90.4% が 20× 以上の深度でカバーされた。体細胞変異の検出にはIon Reporter 5.0およびCLC (CLC Genomics Workbench) 8.0ソフトウェアを使用し、非同義コード領域変異の総数をカウントしてTMBと定義した。
標的パネルシーケンシング: 癌関連ホットスポット変異の同定には、Ion AmpliSeq Colon and Lung Cancer Panel v2およびIon AmpliSeq Cancer Hotspot Panel v2を使用し、Ion PGM (Personal Genome Machine) プラットフォームにてEGFR、TP53、KRAS、ERBB2、BRAF、CTNNB1、PTEN、CDKN2A、PIK3CAの変異状況を評価した。
免疫組織化学 (IHC) 染色: 4 μm厚のホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 切片を使用し、PD-L1 (clone SP142, Ventana)、CD8 (clone C8/144B, DAKO)、p53 (clone Bp53-12, Santa Cruz Biotechnology) の染色を行った。PD-L1陽性は、腫瘍細胞 (TC) または腫瘍浸潤免疫細胞 (IC) の1%以上に染色を認める基準 (TC1/IC1) とした。CD8+ TILは陽性細胞率に基づき、Low (<30%)、Intermediate (30-60%)、High (>60%) の3段階に分類した。p53タンパク質発現は核染色の割合に基づき、0 (陰性)、1 (5%未満)、2 (5-50%)、3 (50%超) のスコアで評価した。
統計解析: 主要評価項目 (primary endpoint) であるTMBと各因子の単変量解析にはMann-Whitney U検定 (Mann-Whitney test) を用い、多変量解析には重回帰分析 (multiple linear regression) を適用した。TP53遺伝子変異とp53タンパク質発現の相関はPearsonの相関係数 (Pearson’s correlation coefficient) を用いて算出した。統計解析にはSPSS version 23およびGraphPad Prism version 7を使用し、p<0.05を有意差ありと定義した。