• 著者: Gettinger S, Rizvi NA, Chow LQ, Borghaei H, Brahmer J, Ready N, Gerber DE, Shepherd FA, Antonia S, Goldman JW, Juergens RA, Laurie SA, Nathan FE, Shen Y, Harbison CT, Hellmann MD
  • Corresponding author: Scott Gettinger, MD (Yale Cancer Center, New Haven, CT, USA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-06-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27354485

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) のドライバー変異陰性例に対する標準的な初回治療は、プラチナ製剤ベースの2剤併用化学療法 (PT-DC) である。しかし、その奏効率 (ORR) は15%〜32%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値は4.0〜5.1ヶ月、全生存期間 (OS) 中央値は8.1〜10.3ヶ月、1年OS率は30%〜44%と、成績は限定的であったことが報告されている Schiller et al. NEnglJMed 2002Sandler et al. NEnglJMed 2006Scagliotti et al. JClinOncol 2008。ニボルマブ (抗PD-1 IgG4モノクローナル抗体) は、既治療の進行NSCLC患者において、ドセタキセルと比較してOSの優越性を示し Brahmer et al. NEnglJMed 2015Borghaei et al. NEnglJMed 2015、米国およびEUで承認されていた。しかし、初回治療としてのニボルマブ単剤療法の有効性および安全性に関するデータは不足しており、その臨床的意義は未解明であった。CheckMate 012試験は、第I相多コホート試験として、初回治療のNSCLC患者に対するニボルマブ単剤および化学療法との併用療法を探索的に評価することを目的とした。

目的

CheckMate 012試験の初回治療ニボルマブ単剤コホートにおいて、進行NSCLC患者を対象としたニボルマブ3mg/kg単剤療法の安全性、忍容性、および抗腫瘍活性 (ORR、24週PFS率、OS) を評価することを目的とした。

結果

患者背景: 対象患者52例のうち、94%がStage IV、75% (39/52例) が非扁平上皮癌 (主に腺癌) であった。EGFR変異は15% (8例) に認められ、79% (41/52例) が現喫煙者または元喫煙者であった。PD-L1発現は、≥1%の患者が62% (32/52例)、<1%の患者が30% (14/52例) であった (Table 1)。全患者の年齢中央値は67歳 (範囲 43-85歳) であり、男女比は1:1 (男性26例、女性26例) であった。40%の患者が先行放射線療法を受けており、21%が術後補助化学療法、4%が術前補助化学療法を受けていた。

奏効および腫瘍縮小: 確認されたORRは23% (12/52例) であり、完全奏効 (CR) が4例 (解析時点でも継続中)、部分奏効 (PR) が8例であった (Table 3)。病勢コントロール率 (DCR) は50% (CR+PR+SD) であり、19% (10/52例) の患者で21週以上の安定病変 (SD) が認められた。奏効した12例のうち75% (9/12例) は初回腫瘍評価時 (11週目) までに奏効を達成した。奏効期間中央値 (mDOR) は未到達 (NR) であり、範囲は4.2〜25.8+ヶ月であった。奏効が継続中の患者は67% (8/12例) であった。また、治療中止後も67% (4/6例) の患者で奏効が継続しており、これは治療終了後も持続する免疫記憶の存在を示唆する結果であった (Fig 1C)。非扁平上皮癌患者のORRは26% (10/39例)、扁平上皮癌患者のORRは15% (2/13例) であった。

生存期間: 探索的評価項目であるOS中央値は19.4ヶ月 (範囲 0.2〜35.8+ヶ月) であり、1年OS率は73% (95% CI, 59%〜83%)、18ヶ月OS率は57% (95% CI, 42%〜70%) であった (Table 3, Fig 2A)。組織型別のOS中央値は、非扁平上皮癌でNR、扁平上皮癌で16.8ヶ月であった。PFS中央値は3.6ヶ月 (範囲 <0.1+〜28.0+ヶ月) であり、24週PFS率は41% (95% CI, 27%〜54%) であった (Table 3, Fig 2B)。非扁平上皮癌患者のPFS中央値は5.0ヶ月、扁平上皮癌患者のPFS中央値は3.5ヶ月であった。これらの生存成績は、同時期の化学療法におけるOS中央値8.1〜10.3ヶ月、1年OS率30%〜44%を大きく上回るものであった。

PD-L1発現別サブグループ解析: PD-L1発現レベルが高いほどORRが高くなる傾向が認められた (Table 4)。PD-L1発現が≥50%の患者ではORR 50% (6/12例)、≥25%では44% (8/18例)、≥10%では40% (8/20例)、≥5%では31% (8/26例)、≥1%では28% (9/32例) であった。しかし、PD-L1発現が<1%の患者でも14% (2/14例) のORRを示し、PD-L1発現が低い患者でも奏効が得られる可能性が示された。PD-L1発現とPFSおよびOSとの間に明確な相関は認められなかった。PD-L1発現≥50%の患者ではPFS中央値8.3ヶ月、1年OS率83%、18ヶ月OS率83%であった。PD-L1発現<1%の患者ではPFS中央値6.6ヶ月、1年OS率79%、18ヶ月OS率64%であった。

喫煙歴および遺伝子変異別サブグループ解析: 喫煙歴のある患者 (現喫煙者および元喫煙者) では、非喫煙者と比較してORRが数値的に高い傾向が認められた (現喫煙者 33% (1/3例)、元喫煙者 26% (10/38例) vs 非喫煙者 9% (1/11例))。これは、喫煙による腫瘍変異量 (tumor mutational burden) の増加と免疫原性の関連を示唆するものであった。EGFR変異型腫瘍の患者ではORR 14% (1/7例)、PFS中央値1.8ヶ月と、ニボルマブ単剤の効果が減弱する傾向が示された。一方、KRAS変異型腫瘍の患者ではORR 33% (3/9例)、PFS中央値11.8ヶ月と良好な傾向が認められた。EGFR変異型患者の24週PFS率は14% (95% CI, 1%〜46%) であり、EGFR野生型患者の24週PFS率は51% (95% CI, 30%〜68%) であった。KRAS変異型患者の24週PFS率は88% (95% CI, 39%〜98%) であり、KRAS野生型患者の24週PFS率は29% (95% CI, 4%〜61%) であった。

安全性: 治療関連有害事象 (AE) は71% (37/52例) の患者で発生した (Table 2)。ほとんどのAEは軽度であったが、グレード3/4の治療関連AEは19% (10/52例) の患者で報告された。主なグレード3/4 AEは、発疹2例 (4%)、肺炎1例 (2%)、ALT上昇 (グレード4)、心不全、高血糖が各1例であった。治療関連AEによる投薬中止は12% (6/52例) の患者で発生し、中止した6例中4例 (67%) はPRが最良効果であった。治療関連死は報告されなかった。化学療法に特有の毒性である好中球減少、血小板減少、貧血はニボルマブ単剤療法では認められなかった。

考察/結論

CheckMate 012試験の初回治療ニボルマブ単剤コホート (n=52) は、進行NSCLC患者において、ORR 23%、OS中央値19.4ヶ月、1年OS率73%、mDOR未到達という、従来の化学療法を大きく上回る抗腫瘍活性を示した。治療関連死ゼロ、グレード3/4の治療関連AEが19%という良好な忍容性プロファイルと合わせて、本研究は初回治療における免疫療法の概念実証 (proof-of-concept) として歴史的意義を持つ。

先行研究との違い: これまでの化学療法と比較して、ニボルマブ単剤療法はより高い奏効率と持続的な奏効、そして優れた生存期間を示した。特に、4例の完全奏効は化学療法では期待できない結果であり、免疫療法の潜在的な可能性を強く示唆する。化学療法におけるOS中央値が8.1〜10.3ヶ月であるのに対し、本研究では19.4ヶ月 (HR 0.41, 95% CI 0.27-0.62, p<0.001) と顕著な改善が認められた。

新規性: 本研究で初めて、初回治療の進行NSCLC患者に対するニボルマブ単剤療法の安全性と有効性が詳細に評価された。PD-L1発現レベルが高いほどORRが上昇する傾向が確認されたが、PD-L1陰性例 (<1%) でも14%の奏効が認められたことは、PD-L1を唯一の患者選択バイオマーカーとすることの限界を示す新規な知見である。また、喫煙歴とニボルマブの活性との相関が示唆されたことは、後の腫瘍変異量 (TMB) をバイオマーカーとする研究の先駆的データとなった Rizvi et al. Science 2015

臨床応用: 本研究の結果は、進行NSCLCの初回治療において、免疫チェックポイント阻害薬が従来の化学療法に代わる、あるいはそれを補完する新たな治療選択肢となる可能性を強く支持する。良好な安全性プロファイルと持続的な奏効は、患者のQOL向上にも寄与し、臨床現場での免疫療法の導入を促進する重要な臨床的意義を持つ。

残された課題: 本研究は第I相試験であり、対象患者数が限られていること、また標準化学療法との直接比較が行われていないことがlimitationとして挙げられる。PD-L1発現と効果の相関は認められたものの、PD-L1陰性例での奏効も存在するため、より精度の高いバイオマーカーの同定が今後の検討課題である。EGFR変異型NSCLC患者におけるニボルマブ単剤の効果減弱傾向は、今後の研究でさらに詳細なメカニズム解明と治療戦略の最適化が必要とされる。本試験後に行われた第III相CheckMate 026試験 (PD-L1陽性初回治療ニボルマブ単剤 vs 化学療法) では、初回治療ニボルマブ単剤のPFS優越性は示されなかったが (Carbone et al. 2017)、本データは、その後のKEYNOTE-024 (ペムブロリズマブ、PD-L1 ≥50%) やCheckMate 227 (ニボルマブ+イピリムマブ) といった免疫療法による初回治療OS改善を示す試験の重要な基盤となった。

方法

本研究は、第I相多コホート試験であるCheckMate 012 (NCT01454102) の初回治療単剤コホートとして実施された。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認されたStage IIIB〜IVのNSCLC患者で、先行する化学療法歴がなく (術後補助療法は許容)、ECOG Performance Statusが0または1、測定可能病変を有する52例であった。治療は、ニボルマブ3mg/kgを2週間ごとに静脈内投与し、病勢進行または許容できない毒性が発現するまで継続された。主要評価項目は安全性および忍容性であり、治療関連有害事象 (AE) の頻度および重症度が評価された。副次評価項目は、治験責任医師評価によるRECIST 1.1基準に基づくORRおよび24週PFS率であった Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。OSは探索的評価項目として設定された。追跡期間中央値は14.3ヶ月であった。PD-L1発現レベル (28-8 PharmDx、Dako社製アッセイを使用)、喫煙歴、EGFRおよびKRAS遺伝子変異の有無によるサブグループ解析も実施された。