- 著者: Patel JD, Hensing TA, Rademaker A, Hart EM, Blum MG, Milton DT, Bonomi PD
- Corresponding author: Jyoti D. Patel, MD (Northwestern University Feinberg School of Medicine, Chicago, IL)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-05-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 19433684
背景
進行非扁平上皮非小細胞肺癌 (NSCLC) の一次治療において、本研究の設計は複数の重要な先行研究の知見に基づいている。まず、血管新生阻害薬であるbevacizumabの有効性が、ECOG 4599試験 (Sandler et al. NEnglJMed 2006) によって確立された。この試験では、paclitaxelとcarboplatinにbevacizumabを加えることで、奏効率 (ORR) が35% vs 15% (p<0.001)、無増悪生存期間 (PFS) 中央値が6.2ヶ月 vs 4.5ヶ月 (p<0.001)、全生存期間 (OS) 中央値が12.3ヶ月 vs 10.3ヶ月 (p=0.003) と、全ての主要評価項目で有意な改善が認められた。これにより、bevacizumab含有レジメンが非扁平上皮NSCLCの標準治療の一つとして確立されたが、paclitaxelに関連する末梢神経障害や脱毛といった慢性的な毒性が課題として残されていた。
次に、pemetrexedの非扁平上皮NSCLCにおける有効性がJMDB試験 (Scagliotti et al. JClinOncol 2008) のサブグループ解析で示された。この解析では、pemetrexedとcisplatinの併用療法が、gemcitabineとcisplatinの併用療法と比較して、非扁平上皮NSCLC患者のOSを有意に延長することが示され (ハザード比 [HR] 0.84)、pemetrexedが非扁平上皮NSCLCの一次治療薬として承認される根拠となった。Pemetrexedは、thymidylate synthaseなどを阻害する多標的抗代謝拮抗薬であり、従来のタキサン系薬剤と比較して骨髄抑制や脱毛が少なく、長期投与に適した毒性プロファイルを持つことが知られている (Hanna et al. JClinOncol 2004)。
これらの背景から、「bevacizumabの抗血管新生効果とpemetrexedの抗腫瘍効果を組み合わせることで、相加的な治療効果が期待できるとともに、paclitaxelの毒性を回避できるのではないか」という仮説が生まれた。しかし、carboplatin、pemetrexed、bevacizumabの3剤併用療法(トリプレット療法)の有効性および安全性を体系的に評価した臨床試験は、当時まだ実施されておらず、この領域は未解明であり、治療ギャップが残されていた。また、導入療法後に奏効または病勢安定が得られた患者に対して、pemetrexedとbevacizumabを疾患進行まで継続する「維持療法」という戦略も、NSCLC領域ではまだ新しい概念であり、腫瘍負担が最小限に抑えられた時期に治療を継続することで、疾患制御期間のさらなる延長が期待されたが、その有効性に関するデータは不足していた。
これらの知見は、進行NSCLC患者の生存期間を改善するために化学療法が支持療法と比較して優れているというメタアナリシス結果 (NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995; NSCLC et al. JClinOncol 2008) や、従来の化学療法レジメンが治療効果のプラトーに達しているという報告 (Schiller et al. NEnglJMed 2002) を踏まえると、新たな治療戦略の開発が強く求められていた状況であった。本研究は、この未開拓の領域における治療ギャップを埋めることを目的として計画された。
目的
本研究の目的は、未治療の進行非扁平上皮NSCLC患者を対象に、pemetrexed、carboplatin、bevacizumabの3剤併用導入療法、それに続くpemetrexedとbevacizumabによる維持療法の有効性および安全性を評価することである。具体的には、主要評価項目として無増悪生存期間 (PFS) を設定し、副次評価項目として奏効率 (ORR)、全生存期間 (OS)、および治療に関連する有害事象のプロファイルを詳細に検討した。
導入療法では、pemetrexed 500 mg/m²、carboplatin (AUC 6)、bevacizumab 15 mg/kgを3週ごとに6サイクル投与する。その後、奏効または病勢安定が得られた患者に対しては、pemetrexed 500 mg/m²とbevacizumab 15 mg/kgを3週ごとに疾患進行または許容できない毒性が発現するまで継続する維持療法を実施する。この維持療法戦略は、腫瘍負担が最小限に抑えられた段階で治療を継続することで、疾患制御期間の延長を目指すものであった。
本試験は、pemetrexedとbevacizumabを組み合わせたレジメンが、非扁平上皮NSCLC患者において良好な有効性を示し、かつ許容可能な毒性プロファイルを持つことを検証し、その結果が将来的な第III相比較試験の根拠となることを目指した。特に、従来のpaclitaxelを含むレジメンと比較して、毒性の軽減と治療効果の向上が期待された。この第II相試験は、その後の大規模な第III相PointBreak試験の設計に直接的に影響を与えた。
結果
患者背景と治療継続状況: 治療を受けた50名の患者 (n=50) の年齢中央値は63.5歳 (範囲 34.3-80.5歳) であり、女性が56%を占めた。組織型は腺癌が94% (47/50例) と大半を占め、大細胞癌が6%であった。病期はStage IVが82%、Stage IIIB (悪性胸水) が18%であった (Table 1)。患者に投与された治療サイクル数の中央値は7サイクル (範囲 1-51サイクル) であった。6サイクル以上の導入療法を完遂した患者は30例 (60%) であり、そのうち9例 (18%) が18サイクル以上、7例 (14%) が24サイクル以上の治療を継続した。維持療法に移行した患者は30例 (60%) であった (Figure 1)。用量減量を必要とした患者はわずか3例であり、本レジメンの忍容性が高いことが示された。
客観的奏効率 (ORR) と疾患制御: 奏効評価可能であった49例 (n=49) において、完全奏効 (CR) が1例 (2%)、部分奏効 (PR) が26例 (53%) であり、客観的奏効率 (ORR) は55% (95% CI 41-69%) であった (Table 3)。さらに16例 (33%) が病勢安定 (SD) を示し、疾患制御率 (DCR) は84% (43/49例) に達した。このORR 55%という結果は、ECOG 4599試験のpaclitaxel + carboplatin + bevacizumab (PCbBev) 群で報告されたORR 35%と比較して顕著に高い値であり、pemetrexedとbevacizumabの組み合わせによる相加的な抗腫瘍効果が示唆された。また、5例 (10%) の患者では、6サイクルの導入療法を終えて維持療法期に移行した後に、さらなる画像上の腫瘍縮小(追加の奏効)が確認された。
無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) の推移: 追跡期間中央値13.0ヶ月 (範囲 0.8-34.4ヶ月) におけるPFS中央値は7.8ヶ月 (95% CI 5.2-11.5ヶ月) であった (Figure 2)。6ヶ月PFS率は59%、12ヶ月PFS率は34%、18ヶ月PFS率は27%、24ヶ月PFS率は19%であった。また、全生存期間 (OS) 中央値は14.1ヶ月 (95% CI 10.8-19.6ヶ月) と極めて良好な成績を示した (Figure 3)。1年OS率は61%、18ヶ月OS率は38%、24ヶ月OS率は26%であった (Table 3)。本試験のPFS中央値の目標値は4.2ヶ月と設定されていたが、この結果は目標値を大幅に上回り、非扁平上皮NSCLCに限定された集団におけるトリプレット導入療法と維持療法の組み合わせ戦略の有効性を示した。
血液毒性および非血液毒性プロファイル: 全体的なGrade 3または4の有害事象の発現率は低かった (Table 2)。導入療法期 (n=50) におけるGrade 3以上の血液毒性は、貧血が3例 (6%)、血小板減少が3例 (6%) (すべてGrade 4)、好中球減少が2例 (4%) (すべてGrade 3) であった。発熱性好中球減少症は認められなかった。非血液毒性では、Grade 3疲労が4例 (8%)、Grade 3または4の静脈血栓症が3例 (6%)、Grade 3または4の感染症が5例 (10%) であった。Grade 3以上の出血イベントは0例であり、Grade 3または4の高血圧も0例であった。維持療法期 (n=30) においても、Grade 4血小板減少が1例 (2%)、Grade 3蛋白尿が1例 (2%)、Grade 3動脈血栓症が1例 (2%)、Grade 3腎毒性が1例 (2%) 認められたのみで、毒性プロファイルは管理可能であった。
消化管憩室炎および穿孔の発生: 最も重要な安全性シグナルとして、4例 (8%) の患者でGrade 3または4の消化管憩室炎または穿孔が発生した (Table 2)。3例は既存の憩室症を有しており、うち2例がGrade 3憩室炎、1例がGrade 4憩室炎と腸管穿孔を発症した。残りの1例は憩室炎の既往があり、Grade 3憩室炎を発症した。これらの事象を受けて、プロトコルが改訂され、「憩室炎の既往または臨床的に重大な憩室疾患」が除外基準に追加された。プロトコル改訂後は、追加の憩室炎の発生は認められなかった。この知見は、bevacizumabが消化管の修復機能を障害し、既存の憩室部位での穿孔リスクを増大させるという既知のリスクが実際に顕在化したものであり、適切な患者選択の重要性を示唆した。
ECOG 4599試験との比較におけるハザード比: 本試験で得られた無増悪生存期間 (PFS) の成績を、歴史的対照であるECOG 4599試験の化学療法単独群と比較すると、極めて良好な傾向が確認された。ECOG 4599試験におけるbevacizumab併用によるPFS改善のハザード比は HR 0.66 (95% CI 0.57-0.77, p<0.001) であったが、本試験のPFS中央値 7.8 vs 4.5ヶ月(ECOG 4599試験の化学療法単独群)という結果は、pemetrexedとbevacizumabの維持療法を組み合わせた本レジメンが、従来の標準治療を凌駕する可能性を強く支持している。また、全生存期間 (OS) においても、ECOG 4599試験のbevacizumab併用群における生存ベネフィットのハザード比は HR 0.79 (95% CI 0.67-0.92, p=0.003) であり、本試験で達成されたOS中央値 14.1 vs 10.3ヶ月(歴史的対照群)という成績は、本治療戦略が非扁平上皮NSCLC患者に長期の生存ベネフィットをもたらすことを示唆している。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、未治療の進行非扁平上皮NSCLC患者に対するpemetrexed、carboplatin、bevacizumabの導入療法とそれに続くpemetrexed、bevacizumab維持療法の有効性および安全性を評価した初の第II相試験である。ECOG 4599試験のpaclitaxel + carboplatin + bevacizumab (PCbBev) 群と比較して、本試験はORR 55% vs 35%、mPFS 7.8ヶ月 (95% CI 5.2-11.5ヶ月) vs 6.2ヶ月 (95% CI 5.2-7.1ヶ月)、mOS 14.1ヶ月 (95% CI 10.8-19.6ヶ月) vs 12.3ヶ月 (95% CI 10.9-14.7ヶ月) と、全ての主要評価項目で数値的に優位な結果を示した。この結果は、paclitaxelをpemetrexedに置換することで、毒性を軽減しつつ治療効果を維持または向上させる可能性を示唆している。ただし、本試験が単群試験であり、患者集団の差異があるため、直接的な比較には限界がある点に留意が必要である。しかし、この良好な有効性データは、その後の大規模な第III相PointBreak試験の設計の根拠となり、癌腫特化型の維持療法戦略の検証へと発展した点で、これまでの研究とは異なるアプローチを示した。
新規性: 本研究で初めて、pemetrexedとbevacizumabを組み合わせた維持療法という概念を体系的に評価した。60% of patients が維持療法に移行し、18サイクル以上継続した患者が18%に達したことは、長期維持療法の実現可能性と忍容性を示した。腫瘍負担が最小化された時期に継続治療を行う維持療法が、mPFS 7.8ヶ月およびmOS 14.1ヶ月という良好な成績に貢献した可能性が考えられる。これは、PARAMOUNT試験やPointBreak試験が実施されるよりも前の段階で、維持療法戦略の有用性を新規に示したものである。
臨床応用: 本知見は、非扁平上皮NSCLC治療における化学療法の選択と患者スクリーニングの臨床応用に直結する。特に、8%の患者に発生したGrade 3または4の消化管憩室炎/穿孔は、bevacizumab含有レジメンにおける重要な安全性シグナルである。臨床現場において、適切な問診と画像診断による憩室疾患既往患者の除外が、bevacizumab含有レジメンを安全に使用するための必須条件であることが実証された。また、Grade 3-4好中球減少が4%と極めて低く、脱毛や末梢神経毒性も軽微であったことから、高齢者や合併症を持つ患者に対する臨床的有用性が高いと考えられる。
残された課題: 今後の検討課題として、本試験が単群の第II相試験であるため、生存ベネフィットにおける維持療法の純粋な寄与度を第III相ランダム化比較試験で検証することが残されている。また、現代のNSCLC治療においては、EGFR/ALK/ROS1などのドライバー遺伝子変異ステータスや免疫チェックポイント阻害薬の併用が標準となっているため、ドライバー変異陰性かつPD-L1低発現の非扁平上皮NSCLCにおける本レジメンの現代的な位置づけを再定義することが今後の課題である。
方法
試験デザインと患者選択: 本研究は、Hoosier Oncology Groupが主導する多施設共同シングルアーム第II相臨床試験として実施された。本試験のプロトコルIDはNCT00762034である。2005年7月から2007年7月にかけて、シカゴ圏の4つの医療機関で合計51名の患者が登録された。そのうち1名は治療を拒否したため解析対象から除外され、最終的に50名の患者が治療を受け、解析対象となった。
適格基準: 18歳以上の未治療の進行非扁平上皮NSCLC患者(Stage IIIB悪性胸水またはStage IV)が対象とされた。ECOG Performance Status (PS) は0または1であり、RECIST基準で測定可能な病変または測定不能病変を有することが求められた。主要な臓器機能が保たれている必要があり、具体的には尿蛋白/クレアチニン比が1.0 mg/dL以下、クレアチニンクリアランスが45 mL/min超であることが条件とされた。
除外基準: 扁平上皮癌が主体である患者、大血管に近接する原発腫瘍または空洞化病変を有する患者、肉眼的血痰(2.5 mL以上)の既往がある患者、中枢神経系転移を有する患者は除外された。また、本試験の途中で4例のGrade 3または4の消化管憩室炎/穿孔が発生したことを受け、プロトコルが改訂され、憩室炎の既往または臨床的に重大な憩室疾患を有する患者が除外基準に追加された。その他、血栓塞栓症や出血性疾患の既往、妊娠・授乳中の女性、高用量アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬の使用、コントロール不良の高血圧なども除外基準に含まれた。
治療プロトコル: 全患者に対し、pemetrexed投与に関連する副作用軽減のため、葉酸(1,000 mcg/日、治療開始 5 日前から継続)、ビタミンB12(1,000 mcg筋注、治療開始 2 週前から 9 週毎)、デキサメタゾン(4 mg 1日2回、pemetrexed投与前日・当日・翌日)が前投薬として実施された。導入療法として、pemetrexed 500 mg/m²、carboplatin (AUC 6)、bevacizumab 15 mg/kgを3週ごとに6サイクル静脈内投与した。bevacizumabの初回投与は90分間、忍容性があれば2回目以降は60分、その後30分に短縮された。導入療法後、完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、または病勢安定 (SD) が得られた患者は、pemetrexed 500 mg/m²とbevacizumab 15 mg/kgを3週ごとに疾患進行または許容できない毒性が発現するまで継続する維持療法に移行した。
用量調整: 骨髄抑制などの有害事象に応じて、pemetrexedおよびcarboplatinの用量調整基準がプロトコルに明記された。例えば、サイクル1のDay 10における血小板数50,000/μL未満の場合、pemetrexedを25%減量し、carboplatinを50%減量した。好中球数1,000/μL未満または血小板数50,000/μL未満の場合、回復まで治療を延期した。絶対好中球数 (ANC) が1,000/μLから1,499/μLの場合、pemetrexedの用量を375 mg/m²に減量した。血小板数が50,000/μLから74,000/μLの場合、pemetrexedの用量を375 mg/m²に、carboplatinの用量をAUC 3.0 mg/mL × minに減量した。用量減量は永続的なものとされた。
評価項目と統計解析: 主要評価項目(Primary endpoint)はPFSであり、登録日から疾患進行または死亡までの期間と定義された。疾患進行前に死亡した患者や追跡不能となった患者についても、疾患進行を前提としてPFSが算出された。副次評価項目はOS、ORR、および毒性の特性評価であった。OSは登録日から死亡までの期間と定義された。腫瘍評価は、ベースライン後、最初の18週間は6週ごと(2サイクルごと)、その後は9週ごと(3サイクルごと)に実施された。奏効はRECIST基準に基づき評価され、少なくとも4週間後の確認が必要とされた。毒性評価はNCI-CTCAE v3.0に従って実施された。統計解析にはKaplan-Meier法が用いられ、PFS中央値の95%信頼区間 (CI) はBrookmeyer and Crowley法を用いて算出された。本試験のPFS中央値の目標は4.2ヶ月と設定されており、95% CIが4ヶ月を下回る場合、本レジメンのさらなる検討は推奨されないとされた。