- 著者: Nishio M, Barlesi F, West H, Ball S, Bordoni R, Cobo M, Dubray-Longeras P, Goldschmidt Jr J, Novello S, Orlandi F, Sanborn RE, Szalai Z, Ursol G, Mendus D, Wang L, Wen X, McCleland M, Hoang T, Phan S, Socinski MA
- Corresponding author: Makoto Nishio, MD, PhD (The Cancer Institute Hospital, JFCR, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2020-12-14
- Article種別: Original Article
- PMID: 33333328
背景
非扁平上皮非小細胞肺がん (NSCLC) は、全NSCLCの過半数を占める主要な組織型である。EGFR遺伝子変異やALK遺伝子再構成などの既知のドライバー遺伝子変異を持たない進行期非扁平上皮NSCLC患者の一次治療は、近年大きな進展を遂げている。2020年当時、治療選択肢としては、PD-L1高発現例に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 単剤療法、またはベバシズマブ (bevacizumab) の有無にかかわらず化学免疫療法が推奨されていた Planchard et al. AnnOncol 2018。
アテゾリズマブ (atezolizumab) は、PD-L1とPD-1/B7.1の両方の相互作用を特異的に阻害する抗PD-L1モノクローナル抗体であり、これにより腫瘍特異的T細胞免疫を再活性化し、抗腫瘍効果を増強すると考えられている Herbst et al. Nature 2014。先行する第III相IMpower150試験では、アテゾリズマブとベバシズマブ、化学療法を併用する4剤レジメンが、非扁平上皮NSCLCの一次治療において全生存期間 (OS) の有意な改善を示した (ハザード比 [HR] 0.78) Socinski et al. NEnglJMed 2018。しかし、ベバシズマブを含まない2剤化学療法とアテゾリズマブの併用療法の位置づけは、当時まだ確立されていなかった。
同時期に実施されたKEYNOTE-189試験では、PD-1阻害薬であるペムブロリズマブ (pembrolizumab) とペメトレキセド (pemetrexed) およびプラチナ製剤の併用療法が、進行非扁平上皮NSCLCの一次治療においてOSと無増悪生存期間 (PFS) の両主要評価項目を達成し、その優位性が示されていた Gandhi et al. NEnglJMed 2018。この結果を受け、アテゾリズマブとペメトレキセド、プラチナ製剤を併用するレジメン (APP) の有効性と安全性を評価するIMpower132 (NCT02657434) 試験が設計された。この試験は、KEYNOTE-189と同様の化学免疫療法アプローチをアテゾリズマブで検証するものであり、その結果は非扁平上皮NSCLCの一次治療における新たな治療選択肢の確立に寄与すると期待された。しかし、当時の知見では、PD-L1発現レベルと免疫チェックポイント阻害薬の効果の関連性、特にPD-L1低発現または陰性患者における化学免疫療法の効果については、まだ十分なデータが不足しており、さらなる検証が課題として残されていた。
目的
本研究の目的は、EGFRまたはALK遺伝子変異を持たないStage IV非扁平上皮NSCLCの未治療患者を対象に、アテゾリズマブとカルボプラチンまたはシスプラチン、ペメトレキセドの併用療法 (APP群) が、プラチナ製剤とペメトレキセドの化学療法単独 (PP群) と比較して、有効性 (PFS、OS、奏効率) および安全性をどのように改善するかを評価することであった。本試験 (IMpower132; NCT02657434) は、共主要評価項目としてPFSとOSを設定し、非扁平上皮NSCLCの一次治療におけるアテゾリズマブ併用化学療法の臨床的有用性を検証することを意図した。特に、PD-L1発現レベル別のサブグループ解析を通じて、バイオマーカーとしてのPD-L1の予測的役割についても探索的に評価することも目的とした。
結果
主要エンドポイント① PFSの改善: 2018年5月22日のデータカットオフ時点 (追跡期間中央値14.8ヶ月) でのPFS主要解析において、APP群はPP群と比較して統計学的に有意なPFSの改善を示した。APP群のPFSイベント発生率は71.6% (209/292例) であったのに対し、PP群では87.1% (249/286例) であった。PFS中央値はAPP群で7.6ヶ月、PP群で5.2ヶ月であり、層別ハザード比 (HR) は0.60 (95% CI 0.49-0.72, p < 0.0001) であった (Figure 2A)。6ヶ月PFS率はAPP群で59.1%、PP群で40.9%、12ヶ月PFS率はAPP群で33.7%、PP群で17.0%であった。アジア人サブグループにおいても一貫したPFS改善が認められ、PFS中央値はAPP群で10.2ヶ月、PP群で5.3ヶ月 (HR 0.42, 95% CI 0.28-0.63) であった (Figure 2C)。最終解析 (2019年7月18日カットオフ) でのPFS更新値は、APP群で7.7ヶ月、PP群で5.2ヶ月 (HR 0.56, 95% CI 0.47-0.67) であり、24ヶ月PFS率はAPP群で19.2%、PP群で4.4%であった。
主要エンドポイント② OSの非有意な改善: 2019年7月18日の最終OS解析時点 (追跡期間中央値28.4ヶ月) において、APP群のOS中央値は17.5ヶ月、PP群は13.6ヶ月であった。層別HRは0.86 (95% CI 0.71-1.06, p = 0.1546) であり、OSの主要評価項目は統計的有意水準 (片側p < 0.0495) に達しなかった。これは試験の「部分的成功」と評価された (Figure 3A)。12ヶ月OS率はAPP群で59.7%、PP群で55.0%、24ヶ月OS率はAPP群で39.1%、PP群で34.0%であった。中間解析 (2018年5月22日カットオフ) でもOSに有意差は認められず、APP群のOS中央値は18.1ヶ月、PP群は13.6ヶ月 (HR 0.81, 95% CI 0.64-1.03, p = 0.0797) であった。
PD-L1発現別OS解析 (探索的): バイオマーカー評価可能集団 (ITT集団の59.5%、n=344) における探索的PD-L1発現別OS解析では、明確な傾向は認められなかった。PD-L1高発現 (TC3/IC3、13%) 患者では、APP群でOS中央値は未達であったのに対し、PP群では26.9ヶ月であった (HR 0.73, 95% CI 0.31-1.73)。PD-L1低発現 (TC1/2/IC1/2、40%) 患者では、APP群で12.7ヶ月、PP群で16.2ヶ月と、APP群で数値的に劣る傾向が示された (HR 1.18, 95% CI 0.80-1.76)。一方、PD-L1陰性 (TC0/IC0、47%) 患者では、APP群で15.9ヶ月、PP群で10.5ヶ月と、APP群で数値的なOS改善が観察された (HR 0.67, 95% CI 0.46-0.96) (Figure 3B)。
奏効率 (ORR) と奏効持続期間 (DOR): 2018年5月22日のデータカットオフ時点での奏効率は、APP群で47.1% (95% CI 41.1-52.8%)、PP群で32.2% (95% CI 26.8-37.9%) であり、APP群で有意に高かった。奏効持続期間中央値は、APP群で10.1ヶ月 (95% CI 7.2-13.3)、PP群で7.2ヶ月 (95% CI 5.7-9.0) であり、アテゾリズマブの追加により奏効の質も改善された。
後続治療の不均衡: 最終解析時点において、PP群の57.3% (164/286例) が後続の抗がん治療を受けたのに対し、APP群では38.7% (113/292例) に留まった。特に、後続免疫療法 (ICI) の実施率に大きな不均衡が認められ、PP群の45.8%がICIを受けたのに対し、APP群ではわずか5.5%であった。後続免疫療法の主な薬剤は、ニボルマブ (nivolumab) (PP群26.6%、APP群3.4%)、ペムブロリズマブ (PP群10.1%、APP群0.3%)、アテゾリズマブ (PP群6.3%、APP群1.0%) であった。この後続治療の不均衡が、OS結果に影響を与えた可能性が指摘された。
安全性プロファイル: 2019年7月18日のデータカットオフ時点での安全性評価では、APP群の安全性プロファイルは、個々の治療成分の既知のリスクと一致しており、新たな安全シグナルは観察されなかった。Grade 3または4の治療関連有害事象 (TRAE) は、APP群で54.6%、PP群で40.1%に発生した。Grade 5のTRAEは、APP群で3.8%、PP群で2.9%であった。免疫関連有害事象 (AEs of special interest) は、APP群で50.9%、PP群で38.7%に認められ、Grade 3または4の免疫関連AEは、APP群で15.1%、PP群で6.9%であった。主な免疫関連AE (APP群 vs PP群) は、発疹 (25.8% vs 21.5%)、甲状腺機能低下症 (8.2% vs 2.2%)、肺臓炎 (6.2% vs 2.2%) であった (Table 3)。有害事象による治療中止率は、APP群で28.5%、PP群で18.2%であった。アテゾリズマブの治療中止率は16.2%であった。
考察/結論
IMpower132試験の意義とOS未達の背景: IMpower132試験は、非扁平上皮NSCLCの一次治療における化学免疫療法の確立に貢献する第III相試験として、PFSの有意な延長 (HR 0.60, 95% CI 0.49-0.72, p < 0.0001) を達成した。しかし、共主要評価項目であるOSの改善 (HR 0.86, 95% CI 0.71-1.06, p = 0.1546) は統計的有意水準に達せず、「部分的成功」に終わった。OSのHR 0.86という数値は臨床的に無意味ではないものの、規制当局の承認要件を満たすには至らなかった。このOS未達の主要な要因として、PP群における後続免疫療法 (ICI) の高い使用率が挙げられる。PP群の45.8%が後続ICIを受けたのに対し、APP群ではわずか5.5%であったという著明な不均衡が、OS改善の検出を希釈した可能性が高い。このような「post-progression survival equalizer」効果は、オープンラベル試験特有の課題であり、本研究のOS結果に決定的な影響を与えたと考えられる。
先行研究との違いとPD-L1発現の複雑性: 本研究のPP群におけるOS中央値 (13.6ヶ月) は、同時期のKEYNOTE-189試験の化学療法単独群 (10.7〜11.3ヶ月) と比較して数値的に高かった。これは試験集団の特性差や後続免疫療法の影響を反映している可能性があり、これまで報告されてきた化学療法単独のOSデータと対照的であった。PD-L1発現別の探索的解析では、PD-L1陰性 (TC0/IC0) サブグループでOS HR 0.67 (95% CI 0.46-0.96) と数値的改善が観察されたことは、アテゾリズマブと化学療法の併用効果がPD-L1非依存的な免疫活性化機序 (例: 免疫原性細胞死) を介する可能性を示唆する新規な知見である。一方で、PD-L1低発現 (TC1/2/IC1/2) サブグループではHR 1.18とAPP群が数値的に劣る傾向を示し、PD-L1発現に基づく効果予測が単純ではないことを示した点は、今後の検討課題である。
臨床応用と残された課題: IMpower132の結果は、アテゾリズマブと2剤化学療法 (APP) が、KEYNOTE-189のペムブロリズマブと化学療法の併用と同様の臨床的含意を持つとは言えないことを示した。同時期のIMpower150試験 (ベバシズマブを追加した4剤レジメン) がOS改善を達成したこととの対比から、ベバシズマブの免疫調節作用がアテゾリズマブとの相乗効果に貢献した可能性が浮上する。このため、FDA承認においてアテゾリズマブはIMpower150に基づく3剤レジメンとして承認され、IMpower132ベースの2剤レジメンは単独では承認されていない。本研究の最大の臨床的教訓は、OSを主要評価項目とするオープンラベル試験において、後続治療のバイアスが結果に決定的な影響を与えうるというlimitationである。これは、今後の臨床試験設計において、後続治療プロトコルの標準化や、より厳格な盲検化の必要性を提示する残された課題である。
方法
試験デザインと対象患者: IMpower132は、26カ国164施設で実施された多施設共同オープンラベル無作為化第III相試験である。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認されたStage IV非扁平上皮NSCLCで、EGFRまたはALKの感作性遺伝子変異を持たず、ECOG Performance Status (PS) が0または1、測定可能病変を有する未治療患者であった。転移性中枢神経系病変が未治療の患者、自己免疫疾患の既往がある患者、または過去に免疫療法を受けた患者は除外された。合計578名の患者が無作為に割り付けられ、APP群に292名、PP群に286名が登録された。
治療レジメン:
- APP群: アテゾリズマブ1200mg固定用量を3週ごとに投与し、これにカルボプラチン (AUC6) またはシスプラチン (75mg/m²) とペメトレキセド (500mg/m²) を3週ごとに4〜6サイクル併用した。導入療法後、アテゾリズマブとペメトレキセドによる維持療法が病勢進行、許容できない毒性、または死亡まで継続された。
- PP群: カルボプラチンまたはシスプラチンとペメトレキセドを3週ごとに4〜6サイクル投与し、導入療法後、ペメトレキセド単独による維持療法が病勢進行、許容できない毒性、または死亡まで継続された。
評価項目: 共主要評価項目は、独立評価委員会によるPFS (RECIST version 1.1に基づく) とOSであった。副次評価項目には、奏効率 (ORR)、奏効持続期間 (DOR)、および安全性プロファイルが含まれた。腫瘍組織のPD-L1発現は、Ventana SP142 IHCアッセイを用いて中央で評価されたが、試験登録の必須要件ではなかった。PD-L1発現は、腫瘍細胞 (TC) と腫瘍浸潤免疫細胞 (IC) の両方で評価され、TC3/IC3 (高発現)、TC1/2/IC1/2 (低発現)、TC0/IC0 (陰性) の3つのカテゴリーに分類された。
統計解析: サンプルサイズは、PFSおよびOSの両方で統計的に有意な差を検出するために、約568名の患者を登録するよう設計された。PFSの主要解析は、約458件のPFSイベントが発生した時点で実施され、OSの最終解析は、約398件のOSイベントが発生した時点で実施された。PFSは片側有意水準0.002で、OSは片側有意水準0.023で検定された。PFSとOSの比較には、層別ログランク検定 (log-rank test) と層別Cox回帰モデル (Cox regression model) が用いられた。PFSおよびOSの中央値は、カプラン・マイヤー法 (Kaplan-Meier method) を用いて推定された。層別因子は、性別、喫煙状況 (非喫煙者 vs 現在または元喫煙者)、ECOG PS (0 vs 1)、および化学療法レジメン (シスプラチン vs カルボプラチン) であった。安全性評価は、NCI Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 4.0に基づき実施された。