- 著者: Socinski MA, Jotte RM, Cappuzzo F, Nishio M, Mok TSK, Reck M, Finley GG, Kaul MD, Yu W, Paranthaman N, Bāra I, West HJ
- Corresponding author: Mark A. Socinski, MD (AdventHealth Cancer Institute, Orlando, FL, USA)
- 雑誌: JAMA Oncology
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-02-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 36795388
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療は非小細胞肺がん (NSCLC) の治療成績を大きく改善したが、その一方で免疫関連有害事象 (irAE) の発現が課題となっている。irAEはICIのオフターゲットな免疫・炎症反応であり、多臓器に影響を及ぼしうる。irAEのプロファイル、発生率、発症までの期間はICIの種類によって異なるとされる。通常、irAEは軽度から中等度であり、ステロイドで管理可能であるが、重篤なirAEも発生しうる。先行研究では、PD-1阻害薬であるニボルマブやペムブロリズマブを用いたNSCLC患者において、irAEの発生が治療有効性の向上と関連することが示唆されている (Haratani et al. JAMAOncol 2018、Lisberg et al. Cancer Immunol Res 2018)。irAE発現によりICI治療を中止した患者でも治療効果が持続するケースが報告されており、irAEとICI有効性の間にはメカニズム的な関連性が存在する可能性が示唆されている (Das et al. J Immunother Cancer 2019)。
しかし、抗PD-L1薬であるアテゾリズマブにおけるirAEと有効性の関連については、系統的な評価が限られていた。特に、複数の第III相試験のプールデータを用いた大規模な解析はこれまで実施されておらず、irAEの重症度 (Grade 1-2 vs Grade 3-5) が生存アウトカムに及ぼす差異的な影響についても未解明な点が多かった。アテゾリズマブは、単独療法および化学療法との併用療法において、NSCLC患者に対する有効性と安全性が確立されている (Fehrenbacher et al. Lancet 2016、Rittmeyer et al. Lancet 2017、Socinski et al. NEnglJMed 2018、West et al. LancetOncol 2019、Herbst et al. NEnglJMed 2020、Nishio et al. JThoracOncol 2021、Felip et al. Lancet 2021)。
IMpower130、IMpower132、IMpower150の各試験は、いずれも進行非扁平上皮NSCLCの1次治療を対象としたアテゾリズマブ含有化学免疫療法の第III相試験であり、これらの試験のデータをプールすることで、irAEと有効性の関連をより信頼性の高い形で評価することが可能となる。特に、irAEの発生がアテゾリズマブの有効性を予測するバイオマーカーとして機能する可能性を評価することは、NSCLCの治療管理に有用であり、治療アドヒアランスの改善にも寄与しうると考えられる。本研究は、これらの大規模な臨床試験のプール解析を通じて、アテゾリズマブ治療におけるirAEと臨床転帰の関連性を詳細に検討し、特にirAEの重症度が生存期間に与える影響を明らかにすることを目的とした。これまでの研究では、アテゾリズマブ治療におけるirAEの重症度と生存期間の関連性に関する大規模なデータが不足していた。
目的
本研究の目的は、IMpower130 (NCT02367781)、IMpower132 (NCT02657434)、IMpower150 (NCT02366143) の3つの第III相試験のプールデータを用いて、アテゾリズマブ含有化学免疫療法を受けた進行非扁平上皮NSCLC患者におけるirAEの発生(全体およびGrade別)とアテゾリズマブの有効性(全生存期間 [OS] および客観的奏効率 [ORR])との関連を評価することである。具体的には、時間依存Cox比例ハザードモデルおよびランドマーク解析を適用し、immortal time biasを適切に制御した上で、irAEの有無、およびirAEの最高Grade(Grade 1-2 vs Grade 3-5)がOSに与える影響を検討する。さらに、irAEの発生がORRに与える影響も評価し、アテゾリズマブ治療におけるirAEの臨床的意義を明らかにすることを目指す。本解析は、アテゾリズマブ治療におけるirAEの予測的バイオマーカーとしての可能性を探ることを意図している。
結果
患者背景とirAE発生率: 解析対象となった患者は合計2503例であり、アテゾリズマブ含有群に1577例、対照群に926例が割り付けられた。患者の平均年齢はアテゾリズマブ群で63.1 (SD 9.4) 歳、対照群で63.0 (SD 9.3) 歳であり、それぞれ60.2% (n=950) および61.4% (n=569) が男性であった。irAEの有無にかかわらず、両群間でベースライン特性は概ね均衡がとれていた。
全GradeのirAEは、アテゾリズマブ含有群で48% (753/1557例) に発生し、対照群では32% (289/900例) であった。Grade 3-5の重篤なirAEは、アテゾリズマブ含有群で11% (174例)、対照群で5% (45例) に認められた。ほとんどのirAEはGrade 1または2であった。アテゾリズマブ含有群で最も頻繁に報告されたirAEは、皮疹 (28%, n=435)、肝炎 (検査値異常および診断を含む; 15%, n=226)、甲状腺機能低下症 (12%, n=192) であった。対照群では、皮疹 (18%, n=160)、肝炎 (10%, n=92)、甲状腺機能低下症 (4%, n=33) が主なirAEであった (Table 1)。Grade 4 irAEはアテゾリズマブ群で22例 (1.4%) に発生し、主に肝炎 (検査値異常) が9例 (0.6%)、肝炎 (診断) が5例 (0.3%)、肺炎が3例 (0.2%) であった。Grade 5 irAEはアテゾリズマブ群で7例 (0.4%)、対照群で2例 (0.2%) に発生した。アテゾリズマブ含有群におけるGrade 5 irAEの内訳は肝炎2例 (0.1%)、肺炎5例 (0.3%) であり、対照群では肺炎2例 (0.2%) であった。irAE発症までの期間中央値は、アテゾリズマブ含有群で1.7ヶ月 (範囲 0.0-34.7ヶ月)、対照群で1.4ヶ月 (範囲 0.0-17.2ヶ月) であった。
irAE発生と全生存期間 (OS) の関連: irAE発症のタイミングを調整しないKaplan-Meier解析では、アテゾリズマブ含有群において、irAE発現患者のOS中央値は25.7ヶ月 (95% CI 23.9-29.1) であったのに対し、irAE非発現患者では13.0ヶ月 (95% CI 11.7-13.9) であった (Figure 1A)。時間依存CoxモデルによるOSハザード比 (HR) は0.69 (95% CI 0.60-0.78) であり、irAE発現が有意なOS改善と関連することが示された。対照群においても同様に、irAE発現患者のOS中央値は20.2ヶ月 (95% CI 18.2-22.8) であったのに対し、irAE非発現患者では12.8ヶ月 (95% CI 12.0-13.9) であり、HRは0.82 (95% CI 0.68-0.99) であった (Figure 1B)。irAEステータスと治療群の間に統計的に有意な相互作用は認められなかった。
irAEのGrade別OSにおける「逆U字型」パターン: アテゾリズマブ含有群におけるランドマーク解析 (1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月の全時点) では、Grade 1-2 irAEを発現した患者は、irAE非発現患者と比較して有意にOSが長かった。例えば、1ヶ月ランドマークではHR 0.78 (95% CI 0.65-0.94) であった。3ヶ月ランドマークではHR 0.74 (95% CI 0.63-0.87)、6ヶ月ランドマークではHR 0.77 (95% CI 0.65-0.90)、12ヶ月ランドマークではHR 0.72 (95% CI 0.59-0.89) であった。
一方、Grade 3-5 irAEを発現した患者は、Grade 1-2 irAEの患者よりもOSが短かった。irAE非発現患者と比較した場合、Grade 3-5 irAEのHRは、1ヶ月ランドマークで1.25 (95% CI 0.90-1.72)、3ヶ月ランドマークで1.23 (95% CI 0.93-1.64)、6ヶ月ランドマークで1.1 (95% CI 0.81-1.42) であった。12ヶ月ランドマークでは、Grade 3-5 irAEのHRは0.87 (95% CI 0.61-1.25) となり、irAE非発現患者との差は縮小した。この結果は、Grade 1-2 irAEが最も良好なOSと関連し、次いでirAE非発現、そしてGrade 3-5 irAEが最も短いOSと関連するという「逆U字型」パターンを示唆している (Figure 3)。感度分析としてGrade 5イベントを除外したランドマーク解析でも、OS HRは概ね変化がなかった。
客観的奏効率 (ORR) とirAE発生の関連: irAE発症日を調整しない解析では、アテゾリズマブ含有群において、irAE発現患者の確認済みORRは61% (95% CI 58%-65%) であったのに対し、irAE非発現患者では37% (95% CI 34%-41%) であった。対照群では、irAE発現患者のORRは42% (95% CI 36%-48%)、irAE非発現患者では34% (95% CI 30%-38%) であった。アテゾリズマブ含有群における奏効までの期間中央値は、irAE発現患者で1.7ヶ月 (範囲 1.1-29.7ヶ月)、irAE非発現患者で1.7ヶ月 (範囲 1.0-27.1ヶ月) であり、両群で同様であった。
考察/結論
本研究は、IMpower130、IMpower132、IMpower150の3つの第III相試験のプール解析 (n=2503) であり、アテゾリズマブ含有化学免疫療法を受けた進行非扁平上皮NSCLC患者において、irAEの発生と治療有効性の関連を詳細に評価した。本解析は、軽度から中等度のirAE (Grade 1-2) が有意に良好なOSと関連し (irAE発現患者のOS中央値 25.7ヶ月 vs 非発現患者 13.0ヶ月、HR 0.69, 95% CI 0.60-0.78)、一方、重篤なirAE (Grade 3-5) はGrade 1-2 irAEよりも不良なOSを示すという「逆U字型」パターンを、大規模データで初めて明確に示した点で新規性がある。
先行研究との違い: この知見は、先行研究でPD-1阻害薬 (ニボルマブ、ペムブロリズマブ) において報告されていたirAEと生存改善の関連を、抗PD-L1薬であるアテゾリズマブにも拡張するものである点で、これまでの研究と異なり、アテゾリズマブ治療におけるirAEの臨床的意義を明確にした。軽度から中等度のirAEは、広範な免疫活性化を反映している可能性があり、これが抗腫瘍免疫応答の増強に寄与すると考えられる。これに対し、重篤なirAEは、免疫応答の過剰活性化により治療中断や強力な免疫抑制療法を要することが多く、結果として抗腫瘍免疫応答が損なわれる可能性が示唆される。この「逆U字型」パターンは、irAEの重症度が臨床転帰に与える複雑な影響を示しており、irAEの発生だけでなくそのGradeを考慮することの重要性を強調する。
興味深いことに、対照群においてもirAEの発生と生存改善の関連が観察された点は、先行研究 (Chen et al. Immunity 2013) でも示唆されている「共通免疫活性化機構」の可能性を示唆する。すなわち、特定の患者は、免疫活性化が起こりやすい体質を持っており、それがICI治療の有無にかかわらず、抗腫瘍効果にも反映される可能性があるという考え方である。しかし、対照群のirAE発生率はアテゾリズマブ含有群よりも低く、irAEの種類も異なるため、この現象の完全な説明には今後の検討が残された課題である。化学療法自体が免疫刺激効果を持つ可能性も指摘されており、irAEの診断における化学療法関連の有害事象との鑑別も今後の課題である。
臨床応用: 本解析は、time-dependent Coxモデルとランドマーク解析という厳密な統計手法を用いることで、immortal time biasを適切に制御しており、方法論的に信頼性が高い。この結果は、Grade 1-2 irAEがアテゾリズマブ有効性のサロゲートマーカーとして臨床活用できる可能性を示唆する。例えば、軽度irAEの発生を治療効果の指標として患者モニタリングに組み込むことで、治療戦略の最適化に繋がるかもしれない。これは、進行非扁平上皮NSCLCの1次治療におけるアテゾリズマブと化学療法(ベバシズマブの有無にかかわらず)の併用療法の使用をさらに支持するものであり、その臨床的意義は大きい。
残された課題: 本研究のlimitationとしては、事後探索的解析であること、irAEとアテゾリズマブ有効性の関連に最も強く寄与したirAEの種類に関するデータが不足していること、および高用量ステロイド使用と有効性の関連に関するデータがないことが挙げられる。また、アテゾリズマブと化学療法の併用療法において、irAEがアテゾリズマブの作用機序に起因するものか、化学療法に起因するものかを完全に区別することは困難であった。これらの点は、今後の検討課題として残されている。
結論として、本プール解析は、進行非扁平上皮NSCLC患者に対するアテゾリズマブ含有レジメンにおいて、軽度から中等度のirAEが良好なOSと関連することを示唆する。患者はirAEの有無にかかわらずアテゾリズマブ含有レジメンから恩恵を受けたものの、特に低グレードirAEを発現した患者は高グレードirAEの患者よりも長いOSを示した。これらのデータは、進行非扁平上皮NSCLCの1次治療におけるアテゾリズマブと化学療法(ベバシズマブの有無にかかわらず)の併用療法の使用をさらに支持するものである。
方法
本研究は、IMpower130 (NCT02367781)、IMpower132 (NCT02657434)、IMpower150 (NCT02366143) の3つの第III相、多施設共同、非盲検、無作為化臨床試験の事後プール解析として実施された。対象患者は、化学療法未治療のStage IV非扁平上皮NSCLC成人患者であり、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) が0または1、PD-L1発現レベルは問わないとされた。IMpower130およびIMpower150では、EGFR/ALK遺伝子変異陽性患者は、1つ以上の承認されたチロシンキナーゼ阻害薬による疾患進行または許容できない有害事象を経験している場合に限り対象とされた。IMpower132では、EGFR/ALK遺伝子変異陽性患者は除外された。
介入群は、IMpower130ではアテゾリズマブとカルボプラチン+nab-パクリタキセル、IMpower132ではアテゾリズマブとカルボプラチンまたはシスプラチン+ペメトレキセド、IMpower150ではアテゾリズマブ+ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル、アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル、またはベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセルのいずれかを受けた。対照群は、各試験の化学療法単独群またはベバシズマブ+化学療法群とされた。プール解析におけるアテゾリズマブ含有群は1577例、対照群は926例であった。
主要アウトカムは全生存期間 (OS) であり、irAEの発生とOSの関連を評価するために、immortal time biasを制御する目的で時間依存Cox比例ハザードモデルとランドマーク解析が用いられた。ランドマーク解析は、ベースラインから1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月の時点でirAEが発生した患者と発生しなかった患者を比較して実施された。副次アウトカムには、客観的奏効率 (ORR)、irAEの発生率、およびGrade別のOSが含まれた。
irAEの定義は、MedDRA (Medical Dictionary for Regulatory Activities) のpreferred termsに基づく免疫関連用語の医療コンセプトバスケットを用いて行われた。irAEは、診断された免疫疾患、または治験担当医師が因果関係を評価したかどうかにかかわらず、免疫関連事象の可能性のある徴候や症状として定義された。疾患進行に関連する医療事象は有害事象として報告されなかったため、解析には含まれていない。輸液関連反応は真の免疫介在性事象とは見なされないが、アテゾリズマブの特殊な有害事象として、irAEとともにルーチンで解析された。
統計解析にはSASバージョン9.4が使用された。OSの推定にはKaplan-Meier法が用いられ、95%信頼区間 (CI) はBrookmeyer-Crowley法により算出された。ランドマーク解析におけるOSの比較は、両側非層別ログランク検定により有意水準0.05で実施された。