• 著者: Satomi Tanaka, Junji Uchino, Takashi Yokoi, Takashi Kijima, Yasuhiro Goto, Yoshifumi Suga, Yuki Katayama, Ryota Nakamura, Kenji Morimoto, Akira Nakao, Makoto Hibino, Nozomi Tani, Takayuki Takeda, Hiroyuki Yamaguchi, Yusuke Tachibana, Chieko Takumi, Noriya Hiraoka, Masafumi Takeshita, Keisuke Onoi, Yusuke Chihara, Ryusuke Taniguchi, Takahiro Yamada, Yohei Matsui, Osamu Hiranuma, Yoshie Morimoto, Masahiro Iwasaku, Shinsaku Tokuda, Yoshiko Kaneko, Tadaaki Yamada, Koichi Takayama
  • Corresponding author: Junji Uchino (Department of Pulmonary Medicine, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine)
  • 雑誌: Diagnostics
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-02-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35204513

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) に対するファーストライン治療として、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) と細胞傷害性抗がん薬の併用療法 (化学免疫療法) は、従来の化学療法単独と比較して生存期間を大幅に改善することが複数の第3相臨床試験で証明されている。具体的には、非扁平上皮癌を対象とした Gandhi et al. NEnglJMed 2018Socinski et al. NEnglJMed 2018Nishio et al. JThoracOncol 2021、および扁平上皮癌を対象とした Paz-Ares et al. NEnglJMed 2018 などにおいて、化学免疫療法の優位性が確立された。しかしながら、実臨床においては、全身状態が良好に見える患者であっても治療開始直後に病勢が進行する症例や、併用療法の恩恵を十分に受けられない症例が一定数存在する。現在、治療選択の指標として PD-L1 (programmed cell death ligand 1) の TPS (tumor proportion score: 腫瘍細胞陽性割合) が用いられているが、これのみでは化学免疫療法の予後を正確に予測することは困難である。また、がん患者における栄養状態や全身性炎症は治療効果や予後に深く関与していることが知られており、がん悪液質に関する先行研究 Takayama et al. SupportCareCancer 2016 でもその重要性が指摘されている。治療前の簡易な血液検査から算出可能な指標として、血清アルブミン値とリンパ球数に基づく PNI (prognostic nutritional index: 予後栄養指数) や、LDH (lactate dehydrogenase: 乳酸脱水素酵素) 値と dNLR (derived neutrophil-to-lymphocyte ratio: 派生好中球/リンパ球比) に基づく LIPI (lung immune prognostic index: 肺免疫予後指数) が注目されている。これらの指標は ICI 単剤療法や化学療法単独における予後予測因子としての有用性が報告されているものの、化学免疫療法を施行された患者における予後予測能については十分に検証されておらず、実臨床における最適な患者層別化の基準は未確立のままであった。特に、日本人患者における多施設共同での検証データは不足しており、化学免疫療法の治療効果を最大化するための簡便かつ高精度なバイオマーカーの確立には依然として大きな gap が残されている。

目的

本研究の目的は、一次治療として化学免疫療法を受けた日本人進行 NSCLC 患者において、治療前の栄養・免疫指標である PNI および炎症指標である LIPI が、全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) を独立して予測できる予後因子であるかを検証することである。さらに、日常臨床で容易に測定可能なこれらの血液学的指標と、既存のバイオマーカーである PD-L1 TPS を組み合わせることで、治療開始前に予後不良な集団をより精密に層別化できる臨床的有用性の高い予測モデルを構築し、実臨床における最適な治療選択アルゴリズムの基盤を提供することを目指す。特に、PD-L1 TPS の発現状況によってこれら栄養・免疫・炎症指標の予後予測能にどのような差異が生じるかを詳細に解析し、これまで不明であった化学免疫療法における最適な患者選択基準を提示することを目的とする。

結果

対象患者の背景および全体コホートの治療成績: 本研究の解析対象となった進行 NSCLC 患者は 237 例であった。患者の背景は、年齢中央値 69 歳、男性が 187 例 (78.9%) であり、組織型は腺癌が 149 例 (62.9%)、扁平上皮癌が 67 例 (28.3%) であった。PD-L1 TPS は、50%以上が 71 例 (30.0%)、1-49%が 81 例 (34.2%)、1%未満が 62 例 (26.2%) であった。ECOG-PS は 0-1 が 224 例 (94.5%) を占めていた。治療レジメンは、カルボプラチン + ペメトレキセド + ペンブロリズマブが 124 例 (52.3%)、カルボプラチン + パクリタキセル/nab-パクリタキセル + ペンブロリズマブが 83 例 (35.0%) であった。観察期間中央値 11.7 ヶ月において、全体コホートの奏効率 (ORR: overall response rate) は 59.1% (n=140)、病勢コントロール率 (DCR: disease control rate) は 87.3% (n=207) であった。全体コホートにおける中央値 OS は未到達 (95% CI 18.0-未到達) であり、中央値 PFS は 8.6 ヶ月 (95% CI 7.3-11.1) であった (Fig 1)。

多変量解析における PNI および LIPI の独立した予後予測能: 全生存期間 (OS) に関する多変量 Cox proportional hazards 解析の結果、治療前の PNI ≥ 40.35 (良好群) は、PNI < 40.35 (不良群) と比較して、OS 延長の独立した良好な予後因子であることが示された (HR 2.38 (95% CI 1.23-4.62, p=0.01)) (Table 2)。同様に、LIPI 0 または 1 (良好/中間群) も、LIPI 2 (不良群) と比較して、独立して良好な OS と関連していた (HR 2.75 (95% CI 1.48-5.11, p<0.001)) (Table 2)。さらに、PD-L1 TPS ≥ 50% も独立した OS 改善因子であった (HR 0.53 (95% CI 0.30-0.95, p=0.03))。無増悪生存期間 (PFS) に関する多変量解析においても、PNI ≥ 40.35 (HR 1.72 (95% CI 1.07-2.79, p=0.03))、および LIPI 0/1 (HR 2.01 (95% CI 1.28-3.15, p<0.001)) は、それぞれ独立した良好な予後予測因子であることが確認された。

PNI および LIPI のスコア別による生存期間の層別化: PNI 別の解析において、OS 中央値は PNI 0群 (n=145) で未到達 vs PNI 1群 (n=92) で 12.1 months (HR 3.00, 95% CI 1.88-4.77, p<0.001) と有意に短縮していた (Fig 2)。PFS 中央値も、PNI 0群の 12.0 months vs PNI 1群の 6.2 months (HR 1.90, 95% CI 1.07-2.79, p<0.001) と有意に劣っていた (Fig 2)。LIPI 別の解析では、OS 中央値は LIPI 0群 (n=73) で未到達 vs LIPI 1群 (n=107) で 18.0 months vs LIPI 2群 (n=57) で 13.5 months (p<0.001) であり、3群間に有意差を認めた (Fig 3)。PFS 中央値も、LIPI 0群で 12.6 months vs LIPI 1群で 8.7 months vs LIPI 2群で 5.9 months (p=0.005) と、LIPI スコアの上昇に伴い段階的に悪化していた (Fig 3)。

PD-L1 発現状況に応じた PNI の予後予測能の差異: PD-L1 TPS < 50% の患者集団において、PNI の予後予測能は極めて顕著であった。PD-L1 TPS < 50% の集団における OS 解析において、OS 中央値は PNI 0群で未到達 vs PNI 1群で 9.5 months (HR 4.30, 95% CI 2.40-7.90, p<0.001) と著明な予後不良を示した (Fig 4)。一方、PD-L1 TPS ≥ 50% の集団では、PNI 0群と PNI 1群の間で OS に統計学的有意差を認めなかった (HR 1.90, 95% CI 0.75-5.00, p=0.17) (Fig 4)。PFS 中央値についても、PD-L1 TPS < 50% の集団では PNI 0群の 11.3 months vs PNI 1群の 4.2 months (HR 3.00, 95% CI 2.00-4.70, p<0.001) と有意差を認めたが、PD-L1 TPS ≥ 50% の集団では PNI 0群の 12.6 months vs PNI 1群の 9.6 months (HR 1.20, 95% CI 0.60-2.30, p=0.63) と有意差はなかった。

PD-L1 発現状況に応じた LIPI の予後予測能の差異: PD-L1 TPS < 50% の集団における LIPI 別の OS 解析では、OS 中央値は LIPI 0/1群で未到達 vs LIPI 2群で 11.5 months (HR 3.30, 95% CI 1.80-5.80, p<0.001) と有意に予後不良であった (Fig 4)。これに対し、PD-L1 TPS ≥ 50% の集団においては、LIPI 2群であっても OS 中央値は未到達であり、LIPI 0/1群との差は縮小していた (HR 2.50, 95% CI 1.00-6.30, p=0.035) (Fig 4)。PFS 中央値についても、PD-L1 TPS < 50% の集団では LIPI 0/1群の 9.2 months vs LIPI 2群の 3.9 months (HR 2.50, 95% CI 1.60-3.90, p<0.001) と有意差を認めたが、PD-L1 TPS ≥ 50% の集団では LIPI 0/1群の 15.2 months vs LIPI 2群の 8.6 months (HR 1.50, 95% CI 0.77-3.00, p=0.23) と有意差はなかった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、化学免疫療法を施行された進行 NSCLC 患者を対象として、治療前の PNI および LIPI の予後予測能を多施設共同コホートで検証した。これは、ICI 単剤療法や化学療法単独におけるこれら指標の有用性を報告した従来の先行研究と異なり、細胞傷害性抗がん薬と ICI の併用療法という現在の標準治療においても、患者の全身栄養状態や炎症状態が独立した予後予測因子となることを実臨床データに基づいて明らかにした。

新規性: 本研究で初めて、治療前の PNI 低値 (PNI < 40.35) および LIPI 不良 (LIPI 2) が、特に PD-L1 TPS < 50% の進行 NSCLC 患者において、化学免疫療法の極めて強力な予後不良因子となることを新規に同定した。PD-L1 TPS ≥ 50% の高発現群においては、PNI や LIPI が不良であっても一定の治療効果が維持される傾向がみられたのに対し、PD-L1 TPS < 50% の集団では、栄養障害や全身性炎症が存在する場合に生存期間が著しく短縮するという相互作用を明らかにした点は、これまでに報告されていない極めて重要な知見である。

臨床応用: 本知見は、進行 NSCLC に対するファーストライン治療の選択における臨床応用に直結する。実臨床において、PD-L1 TPS < 50% かつ治療前の PNI や LIPI が不良な患者に対しては、通常の化学免疫療法を行っても期待される治療効果が得られず、早期に病勢が進行するリスクが高い。したがって、これらの簡便な血液学的指標を治療開始前のスクリーニングに導入することで、より慎重な予後予測が可能となる。また、がん悪液質やサルコペニアの合併を示唆するこれらの指標が不良な症例に対しては、栄養介入や抗悪液質薬の早期併用といった多職種介入を臨床現場で実践する治療選択アルゴリズムの構築に貢献する。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究が後ろ向きデザインであり、測定されていない交絡因子の影響を完全に排除できない点が挙げられる。また、日本人患者のみを対象としたコホートであるため、人種間の差異に関する一般化には限界がある。さらに、治療経過中の PNI や LIPI の動的変化が治療効果のモニタリングに寄与するかどうか、また悪液質治療薬の導入がこれらの指標および予後を改善するかについては、今後の前向き臨床試験による検証が必要であり、これが残された課題である。

方法

本研究は、2018年12月から2020年8月までの間に、京都府立医科大学附属病院を含む国内12の呼吸器専門医療機関において、一次治療として化学免疫療法を施行された20歳以上の進行 NSCLC 患者を対象とした多施設共同後ろ向きコホート研究 (retrospective cohort study) である。本研究は京都府立医科大学の倫理審査委員会 (ERB: Ethics Review Board) により承認された (承認番号: ERB-C-1803)。本研究は介入を伴わない観察研究であるため ClinicalTrials.gov (NCT番号) への登録は対象外であるが、一次治療としての化学免疫療法の有効性を検証した第3相ランダム化比較試験 (RCT: randomized controlled trial) である KEYNOTE-189 (NCT02578680) や KEYNOTE-407 (NCT02775435) の対象患者層との比較を念頭に置いて設計された。EGFR 遺伝子変異や ALK 融合遺伝子などのドライバー遺伝子変異陽性例、および過去に進行 NSCLC に対する全身化学療法の治療歴がある患者は除外された。

収集された臨床データには、性別、年齢、BMI (body mass index: 体格指数)、ECOG-PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status: 全身状態の指標)、喫煙歴、組織型、PD-L1 TPS、胸膜外転移の有無、治療前の血清 CRP (C-reactive protein: C反応性蛋白) 値、血清アルブミン (Alb) 値、好中球数、リンパ球数、および LDH 値が含まれる。

主要評価項目 (primary endpoint) は無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) とした。PNI は、10 × 血清アルブミン値 (g/dL) + 0.005 × リンパ球数 (/µL) の式を用いて算出した。PNI の最適なカットオフ値は、PFS をエンドポイントとした ROC (receiver operating characteristic: 受信者動作特性) 曲線分析における AUC (area under the curve: 曲線下面積) に基づき 40.35 と決定され、PNI ≥ 40.35 を良好群 (PNI 0)、PNI < 40.35 を不良群 (PNI 1) と定義した。LIPI は、dNLR > 3 および LDH > ULN (upper limit of normal: 各施設の基準値上限) の2つのリスク因子の数に基づき、0因子を良好群 (Good: LIPI 0)、1因子を中間群 (Intermediate: LIPI 1)、2因子を不良群 (Poor: LIPI 2) の3群に分類した。

生存期間の推定には Kaplan-Meier 法を用い、群間比較には log-rank test (ログランク検定) を適用した。多変量解析には Cox proportional hazards (コックス比例ハザード) モデルを用い、性別、年齢、BMI、ECOG-PS、喫煙歴、組織型、PD-L1 TPS、胸膜外転移、CRP 値を共変量として調整し、PNI および LIPI の独立した予後予測能を検証した。また、カテゴリ変数の比較には Fisher’s exact test (フィッシャーの正確確率検定) を用いた。後ろ向き研究の性質上、事前のサンプルサイズ設計 (sample size calculation) は行わず、対象期間中に条件を満たした全症例を解析対象とした。統計解析には EZR (Easy R) ソフトウェアを使用し、p ≤ 0.05 をもって統計的有意差ありと判定した。