• 著者: Yoneshima Y, Morita S, Ando M, Nakamura A, Iwasawa S, Yoshioka H, Goto Y, Takeshita M, Harada T, Hirano K, Oguri T, Kondo M, Miura S, Hosomi Y, Kato T, Kubo T, Kishimoto J, Yamamoto N, Nakanishi Y, Okamoto I
  • Corresponding author: Isamu Okamoto, MD, PhD (Research Institute for Diseases of the Chest, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University, Fukuoka, Japan)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-04-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33915251

背景

進行非小細胞肺がん (NSCLC) は世界的に高い死亡率を伴う予後不良な疾患である。ドライバー遺伝子変異陰性患者や、免疫チェックポイント阻害薬を含む一次治療に抵抗性となった患者に対しては、細胞傷害性抗がん剤による二次治療が標準的に行われる。ドセタキセル単剤療法は、白金製剤による前治療歴のある進行NSCLC患者に対する標準治療として確立されているが、発熱性好中球減少症 (FN) の発生頻度が20%から40%と極めて高く、臨床現場での管理において大きな課題となっていた。ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセル (nab-パクリタキセル) は、溶剤を使用しない新しいタキサン系製剤であり、前臨床試験において従来の溶剤ベースのパクリタキセルと比較して腫瘍内パクリタキセル濃度の上昇と抗腫瘍活性の増強が報告されている Desai et al. ClinCancerRes 2006。NSCLCの一次治療においては、カルボプラチンとnab-パクリタキセルの併用療法が、溶剤ベースのパクリタキセルとカルボプラチンの併用療法と比較して優れた有効性を示すことが第III相試験 (CA031) で確認されている Socinski et al. JClinOncol 2012。また、既治療進行NSCLCに対するドセタキセルとエルロチニブを比較した第III相試験である DELTA (Docetaxel and Erlotinib Lung Cancer Trial) 試験では、ドセタキセル群のOS中央値は10.8ヶ月、エルロチニブ群は8.5ヶ月であり、ドセタキセルの有用性が示されている Kawaguchi et al. JClinOncol 2014。しかし、前治療歴のある進行NSCLCに対するnab-パクリタキセル単剤の有効性および安全性は、標準治療であるドセタキセルとの直接比較において十分に検証されておらず、その位置付けは未確立であった。特に日本人患者におけるFNの管理は極めて重要であるにもかかわらず、ドセタキセルに対するnab-パクリタキセルの非劣性や安全性の優位性を証明するデータは不足しており、治療選択の幅を広げる上での大きな臨床的課題 (knowledge gap) となっていた。

目的

本研究の目的は、白金製剤を含む化学療法による前治療歴のある進行または再発のNSCLC日本人患者を対象に、nab-パクリタキセル単剤療法とドセタキセル単剤療法を直接比較し、主要評価項目である全生存期間 (OS) におけるnab-パクリタキセルのドセタキセルに対する非劣性を検証することであった。さらに、副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、患者報告アウトカム (PRO) に基づくQOL (quality of life)、および安全性を評価し、既治療NSCLCにおける新たな標準治療としての妥当性を確立することを目指した。

結果

主要エンドポイントOSの非劣性検証: ITT (intention-to-treat) 解析において、主要評価項目であるOS中央値は、nab-パクリタキセル群 (n=252) で16.2 months (95% CI 14.4-19.0) であったのに対し、ドセタキセル群 (n=251) では13.6 months (95% CI 10.9-16.5) であった。層別Cox回帰モデルによるOSのハザード比は HR 0.85 (95.2% CI 0.68-1.07, p=0.163) であり、95.2% CIの上限値1.07は事前に設定された非劣性マージン1.25を明確に下回ったため、主要評価項目であるOSにおけるnab-パクリタキセルのドセタキセルに対する非劣性が統計学的に証明された (Fig 2A)。1年OS率はnab-パクリタキセル群で59.7%、ドセタキセル群で53.5%であり、2年OS率はそれぞれ34.3%と30.5%であった。なお、OSの優越性に関する階層的検証では統計的有意差は認められなかった。

副次エンドポイントPFSの有意な延長: 無増悪生存期間 (PFS) においては、nab-パクリタキセル群がドセタキセル群に対して統計学的に有意な延長を示した。PFS中央値は、nab-パクリタキセル群 (n=252) で4.2 months (95% CI 3.9-5.0) であったのに対し、ドセタキセル群 (n=251) では3.4 months (95% CI 2.9-4.1) であり、未層別ハザード比は HR 0.76 (95% CI 0.63-0.92, p=0.0042) と、nab-パクリタキセル群で病勢進行または死亡のリスクが24%低減した (Fig 2B)。

客観的奏効率ORRの有意な改善: 測定可能病変を有する評価対象患者において、客観的奏効率 (ORR) はnab-パクリタキセル群 (n=231) で29.9% (95% CI 24.0-36.2) であり、ドセタキセル群 (n=228) の15.4% (95% CI 10.9-20.7) と比較して約2倍と有意に高かった (p=0.0002) (Table 2)。組織型別のサブグループ解析においても、扁平上皮癌で30.4% vs 10.4% (p=0.0207)、非扁平上皮癌で29.7% vs 16.7% (p=0.0042) と、いずれの組織型においてもnab-パクリタキセル群で有意に優れた奏効率が示された (Table 2)。

安全性プロファイルと有害事象の非対称性: 安全性解析対象集団 (n=494) において、血液毒性および発熱性好中球減少症 (FN) の発生頻度に顕著な差が認められた。グレード3または4の好中球減少症の発生率は、nab-パクリタキセル群 (n=245) で39.6% (97例) であったのに対し、ドセタキセル群 (n=249) では83.1% (207例) と極めて高頻度であった (p<0.0001)。これに伴い、臨床的に重大な脅威となるFNの発生率は、nab-パクリタキセル群で2.0% (5例) であったのに対し、ドセタキセル群では22.1% (55例) と劇的に高かった (p<0.0001) (Table 3)。一方で、非血液毒性であるグレード3または4の末梢感覚神経障害は、nab-パクリタキセル群で9.8% (24例) と、ドセタキセル群の0.8% (2例) と比較して有意に高頻度であった (p<0.0001) (Table 3)。治療関連死は両群ともに2例 (0.8%) であった。

QOL評価および治療継続性: 患者報告アウトカム (PRO) の解析において、肺がん特異的症状を評価するFACT-LCSスコアの推移には両群間で有意な差は認められなかった (Fig 4)。しかし、末梢神経障害による影響を反映するFACT/GOG-Ntxスコアは、nab-パクリタキセル群において治療開始後に有意な低下を示し、12週時点 (p<0.05) および18週時点 (p<0.01) でドセタキセル群と比較してQOLの悪化が認められた (Fig 4)。有害事象による治療中止率はnab-パクリタキセル群で31.0%、ドセタキセル群で24.1%であり、nab-パクリタキセル群における主な中止理由は末梢神経障害であった。

考察/結論

J-AXEL試験は、白金製剤既治療の進行NSCLC患者において、nab-パクリタキセルがドセタキセルに対しOSの非劣性を証明した初の第III相試験である。

先行研究との違い: 本研究は、欧米の標準治療であるドセタキセル 75 mg/m² とは異なり、日本の臨床現場における標準用量である 60 mg/m² を対照群として直接比較を行った点で、実臨床に即した極めて実用的な知見を提供するものである。ドセタキセル単剤療法は歴史的に高いFN発生率が課題であったが、本試験におけるドセタキセル群のFN発生率 22.1% は、過去の日本の第III相試験であるEAST-LC試験 Sugawara et al. IntJClinOncol 2019 やDELTA試験 Kawaguchi et al. JClinOncol 2014 の報告と一貫していた。

新規性: 本研究で初めて、既治療進行NSCLCにおいてnab-パクリタキセル単剤療法がドセタキセルに対しOSの非劣性を満たしつつ、PFS (HR 0.76, 95% CI 0.63-0.92, p=0.0042) およびORR (29.9% vs 15.4%, p=0.0002) において統計学的に有意な優越性を示すことが新規に実証された。特に、FNの発生率を22.1%から2.0%へと劇的に低減させたことは、タキサン系抗がん剤の安全性プロファイルを塗り替える画期的な成果である。

臨床応用: 本結果は、nab-パクリタキセルが既治療進行NSCLC患者に対する新たな標準治療選択肢として臨床現場で強く推奨されるべき根拠を与える。FNリスクの劇的な低下は、G-CSF (顆粒球コロニー刺激因子) 製剤の使用頻度や緊急入院のリスクを減少させ、外来化学療法の安全な継続を可能にする。末梢神経障害の管理には注意を要するが、適切な休薬や減量基準の適用によりコントロール可能であり、患者の併存疾患や忍容性に応じた個別化医療に貢献する。

残された課題: 今後の検討課題として、本試験が日本人患者のみを対象とした試験であるため、欧米の標準用量 (75 mg/m²) のドセタキセルに対する非劣性検証や、ドセタキセルとラムシルマブの併用療法 Garon et al. Lancet 2014 との直接比較が挙げられる。また、免疫チェックポイント阻害薬による前治療歴を有する患者における最適な治療シークエンスの確立や、75歳以上の高齢者およびEGFR遺伝子変異陽性患者における有効性のさらなる検証が今後の課題 (limitation) として残されている。

方法

本研究は、J-AXEL (Japanese Intergroup Study of Nab-Paclitaxel) と称される、日本国内の82施設が参加した多施設共同オープンラベル無作為化第III相非劣性試験として実施された (試験登録番号: UMIN000012230)。対象患者は、20歳以上で組織学的または細胞学的に確認されたStage IIIB/IVまたは再発NSCLC患者であり、白金製剤を含む1または2レジメンの細胞傷害性化学療法による前治療歴を有し、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) が0または1の症例とした。EGFR遺伝子変異陽性またはALK融合遺伝子陽性の患者は、対応するチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) による前治療歴があれば組み入れ可能とした。無症候性で安定した脳転移を有する患者の登録も許容された。適格基準を満たした合計503名の患者が、nab-パクリタキセル群 (n=252) またはドセタキセル群 (n=251) に1:1の割合でランダムに割り付けられた。nab-パクリタキセル群には、100 mg/m²を21日サイクルの1、8、15日目に30分かけて点滴静注し、ドセタキセル群には、日本での標準用量である60 mg/m²を21日サイクルの1日目に60分かけて点滴静注した。治療は病勢進行または許容できない毒性が発現するまで継続された。主要評価項目はOSであり、非劣性マージンはハザード比 (HR) の95.2%信頼区間 (CI) 上限値が1.25未満と設定された。副次評価項目にはPFS、RECIST version 1.1に基づくORR、FACT-LCS (Functional Assessment of Cancer Therapy-Lung Cancer Subscale) および FACT/GOG-Ntx (Functional Assessment of Cancer Therapy/Gynecologic Oncology Group-Neurotoxicity) を用いたQOL評価、および有害事象共通常用語基準 (CTCAE) version 4.0に基づく安全性が含まれた。統計解析には、OSおよびPFSの生存曲線推定に Kaplan-Meier 法が用いられ、ハザード比の推定には層別 Cox regression モデルが使用された。ORRの比較には Fisher’s exact test が用いられた。安全性はper-protocol集団 (n=494) で評価された。