- 著者: Xiong A, Wang L, Chen J, Wu L, Liu B, Yao J, Zhong H, Li J, Cheng Y, Sun Y, Ge H, Yao J, Shi Q, Zhou M, Chen B, Han Z, Wang J, Bu Q, Zhao Y, Chen J, Nie L, Li G, Li X, Yu X, Ji Y, Sun D, Ai X, Chu Q, Lin Y, Hao J, Huang D, Zhou C, Shan J, Yang H, Liu X, Wang J, Shang Y, Mei X, Yang J, Lu D, Hu M, Wang ZM, Li B, Xia M, Zhou C
- Corresponding author: Prof Caicun Zhou (Shanghai Pulmonary Hospital, Tongji University, Shanghai, China)
- 雑誌: Lancet
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-03-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 40057343
背景
肺がんは世界におけるがん関連死の主要な原因であり、非小細胞肺がん (NSCLC) はその約85%を占める。Bray et al. CACancerJClin 2018 進行NSCLCのうち、ドライバー遺伝子変異陰性かつPD-L1陽性の腫瘍細胞陽性割合である TPS (tumor proportion score) が1%以上の患者に対する1次治療として、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ (pembrolizumab) 単剤療法は標準治療の一つとして確立されている。Reck et al. NEnglJMed 2016 しかし、ペムブロリズマブ単剤療法の無増悪生存期間 (PFS) 改善効果は、主にPD-L1高発現 (TPS 50%以上) 群で顕著であり、PD-L1低〜中発現 (TPS 1-49%) 群におけるPFS改善効果は限定的であるという課題が残されていた。Mok et al. Lancet 2019
この課題に対し、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法は有効性を示すものの、毒性の増加が懸念される。Gandhi et al. NEnglJMed 2018、Paz-Ares et al. NEnglJMed 2018 また、抗血管新生薬 (VEGF阻害薬) と抗PD-1抗体の併用は相乗効果が期待され、非扁平上皮癌においてはアテゾリズマブ (atezolizumab) + ベバシズマブ (bevacizumab) + 化学療法が有効性を示しているが、ベバシズマブは扁平上皮癌において致死的な出血リスクがあるため禁忌であり、使用が制限されている。Socinski et al. NEnglJMed 2018 これまで「免疫チェックポイント阻害薬単剤 vs 単剤」の直接比較において優越性を示した第3相試験は存在せず、最適な1次治療の選択肢は未確立であった。さらに、進行NSCLCの1次治療において、化学療法を併用しない免疫療法単剤同士の比較データは極めて不足しており、治療開発における大きなgapが存在していた。
イボネシマブ (ivonescimab) は、PD-1とVEGFを同時に標的とする完全ヒト型IgG1二重特異性抗体であり、協調的結合 (cooperative binding) を介して腫瘍微小環境における抗血管新生と免疫活性化の相乗効果を発揮する。初期臨床試験では有望な抗腫瘍活性が示されていたが、PD-L1陽性進行NSCLCの1次治療におけるペムブロリズマブに対する優越性は未解明であり、検証データが不足していた。この治療ギャップを埋めるため、本研究 (HARMONi-2) が計画された。
目的
本研究の目的は、PD-L1陽性 (TPS 1%以上) の未治療進行または転移性NSCLC (EGFR変異・ALK転座陰性) 患者を対象に、PD-1/VEGF二重特異性抗体であるイボネシマブ単剤療法の有効性および安全性を、標準治療であるペムブロリズマブ単剤療法と直接比較して検証することである。主要評価項目として、独立画像判定委員会である IRRC (independent radiology review committee) の判定による無増悪生存期間 (PFS; progression-free survival) におけるイボネシマブのペムブロリズマブに対する優越性を検証する。副次評価項目として、全生存期間 (OS; overall survival)、客観的奏効率 (ORR; objective response rate)、奏効持続期間 (DoR; duration of response)、病勢コントロール率 (DCR; disease control rate)、奏効までの期間 (TTR; time to response)、安全性、および健康関連QoL (HRQoL; health-related quality of life) を評価し、組織型 (扁平上皮癌 vs 非扁平上皮癌) やPD-L1発現レベル (TPS 1-49% vs 50%以上) などのサブグループにおける一貫性を明らかにすることを目的とする。
結果
患者背景および治療状況: 2022年11月9日から2023年8月26日までに879例がスクリーニングされ、398例が登録された。イボネシマブ群に198例、ペムブロリズマブ群に200例が割り付けられた (Figure 1)。患者背景は両群間でバランスが取れており、年齢中央値はイボネシマブ群65歳、ペムブロリズマブ群66歳、男性がそれぞれ83% (n=164/198) および85% (n=169/200) であった。扁平上皮癌は45% (n=181/398)、Stage IVは92% (n=367/398) であった。PD-L1 TPS 1-49%は58% (n=230/398)、TPS 50%以上は42% (n=168/398) であった (Table 1)。追跡期間中央値は8.7ヶ月であった。データカットオフ時点で、イボネシマブ群の54% (n=107/198) およびペムブロリズマブ群の44% (n=87/200) が治療を継続していた。
主要評価項目における無増悪生存期間の大幅な延長: IRRC判定によるPFS中央値は、イボネシマブ群で11.1ヶ月 (95% CI 7.3-NE) であったのに対し、ペムブロリズマブ群では5.8ヶ月 (95% CI 5.0-8.2) であった。イボネシマブ群はペムブロリズマブ群と比較して、病勢進行または死亡のリスクを49%有意に低減した (HR 0.51 (95% CI 0.38-0.69, p<0.0001)) (Figure 2A)。9ヶ月時点のPFS率は、イボネシマブ群で56% (95% CI 47-64) であったのに対し、ペムブロリズマブ群では40% (95% CI 32-48) であった。このPFSの顕著な改善は、事前規定された統計的閾値 (一側p<0.0073) を超え、主要評価項目を達成した。
PD-L1発現レベルおよび組織型を問わない一貫したPFSベネフィット: サブグループ解析において、イボネシマブのPFS改善効果は一貫して認められた (Figure 2F)。PD-L1 TPS 1-49%の集団において、PFS中央値はイボネシマブ群で8.0ヶ月、ペムブロリズマブ群で5.4ヶ月であり、病勢進行または死亡のリスクを有意に低減した (HR 0.54 (95% CI 0.37-0.78, p=0.001)) (Figure 2C)。PD-L1 TPS 50%以上の集団においても、PFS中央値はイボネシマブ群で11.1ヶ月、ペムブロリズマブ群で8.2ヶ月と、同様に有意な改善を示した (HR 0.48 (95% CI 0.29-0.79, p=0.003)) (Figure 2B)。組織型別では、扁平上皮癌においてPFS中央値が9.7ヶ月 vs 5.8ヶ月 (HR 0.50 (95% CI 0.33-0.76, p=0.001))、非扁平上皮癌において11.1ヶ月 vs 6.7ヶ月 (HR 0.55 (95% CI 0.36-0.84, p=0.005)) と、いずれもイボネシマブ群で良好であった (Figure 2D, 2E)。肝転移あり (HR 0.47 (95% CI 0.23-0.98)) および脳転移あり (HR 0.55 (95% CI 0.28-1.05)) の患者においても一貫した効果が確認された。
客観的奏効率および病勢コントロール率の向上: IRRC判定によるORRは、イボネシマブ群で50% (95% CI 43-57) であったのに対し、ペムブロリズマブ群では39% (95% CI 32-46) であった (Table 2)。DCRは、イボネシマブ群で90% (95% CI 85-94) であり、ペムブロリズマブ群の71% (95% CI 64-77) と比較して有意に高かった。奏効までの期間 (TTR) 中央値は、イボネシマブ群で1.5ヶ月、ペムブロリズマブ群で2.5ヶ月と、イボネシマブ群でより迅速な腫瘍縮小が得られた。奏効持続期間 (DoR) 中央値は両群ともに未到達であった。PD-L1 TPS 50%以上におけるORRは60% vs 48%、TPS 1-49%におけるORRは43% vs 31%であった。扁平上皮癌におけるORRは53% vs 31%であり、非扁平上皮癌では47% vs 45%であった。
管理可能な安全性プロファイルとVEGF関連有害事象: 治療関連有害事象である TRAE (treatment-related adverse event) は、イボネシマブ群の90% (n=177/197) およびペムブロリズマブ群の82% (n=163/199) に認められた (Table 3)。Grade 3以上のTRAEは、イボネシマブ群で29% (n=58/197)、ペムブロリズマブ群で16% (n=31/199) であった。重篤なTRAEは、イボネシマブ群で21% (n=41/197)、ペムブロリズマブ群で16% (n=32/199) に発生した。免疫関連有害事象である irAE (immune-related adverse event) の発生率は両群で同等であり、Grade 3以上のirAEはイボネシマブ群で7% (n=14/197)、ペムブロリズマブ群で8% (n=16/199) であった。期待されたVEGF関連有害事象は主にイボネシマブ群で多く、蛋白尿が32% (Grade 3以上は3%)、高血圧が16% (Grade 3以上は5%) であったが、これらは適切に管理可能であった。注目すべき点として、Grade 3以上の出血事象の発生率は両群ともに1% (n=2/197 vs n=2/199) と極めて低く、扁平上皮癌サブグループにおいてもGrade 3以上の出血事象はイボネシマブ群で0% (n=0/90) であり、ペムブロリズマブ群の1% (n=1/91) と同等であった (Table 4)。TRAEによる治療中止率は、イボネシマブ群で2% (n=3/197)、ペムブロリズマブ群で3% (n=6/199) であった。
健康関連QoLの維持効果: EORTC QLQ-C30を用いた全般的健康状態/QoLの悪化までの期間中央値は、イボネシマブ群で未到達 (95% CI 9.6-NE) であったのに対し、ペムブロリズマブ群では9.9ヶ月 (95% CI 8.0-NE) であった。両群間に有意な差は認められず (HR 0.92 (95% CI 0.63-1.33))、イボネシマブはペムブロリズマブと同等に良好なQoLを維持することが示された。12ヶ月時点の非悪化率は51% vs 46%であった。
考察/結論
- 先行研究との違い: 本研究は、進行NSCLCの1次治療において標準治療とされるペムブロリズマブ単剤療法を対照群とし、化学療法を併用しない「免疫チェックポイント阻害薬単剤 vs 単剤」の直接比較を行った。このアプローチは、従来の抗PD-1抗体とVEGF阻害薬の併用療法を検証した試験(LEAP-007など)や、化学療法をベースとした多剤併用療法を検証した先行研究と異なり、単剤療法同士での直接比較である。従来のペムブロリズマブ単剤療法では、PD-L1 TPS 1-49%の集団におけるPFS改善効果が十分に示されていなかったが、本試験では同集団においても明確なPFS延長が示された。
- 新規性: 本研究は、PD-L1陽性の未治療進行NSCLCにおいて、PD-1/VEGF二重特異性抗体であるイボネシマブが、標準治療であるペムブロリズマブに対して統計学的および臨床的に極めて有意なPFS改善効果を示すことを、第3相無作為化比較試験において世界で初めて実証した。このPFSのハザード比0.51(49%のリスク低減)という劇的な改善効果は、これまでに報告されていない極めて画期的な成果であり、二重特異性抗体による腫瘍微小環境の制御が臨床的に優れていることを新規に証明した。
- 臨床応用: 本知見の臨床的意義は極めて大きい。特に、扁平上皮癌においては、従来のVEGF阻害薬(ベバシズマブ)が致死的な出血リスクのために禁忌とされていたが、イボネシマブは扁平上皮癌患者においても重篤な出血を増やすことなく、安全に投与可能であることが示された。これにより、組織型を問わず、化学療法を回避したい、あるいは化学療法の適応とならないPD-L1陽性進行NSCLC患者に対する新たな1次治療オプションとして、臨床現場における実用化が強く期待される。
- 残された課題: 一方で、今後の課題としていくつかの制限事項 (limitation) が挙げられる。第一に、現時点ではOSデータが未成熟であり、PFSの改善が最終的にOSの有意な延長に寄与するかどうかは、今後の長期追跡解析を待つ必要がある。第二に、本試験は中国国内の施設のみで実施されたため、グローバルな患者集団への外挿性については慎重な検証が必要である。第三に、PD-L1 TPS 1-49%の集団においては、欧米などの臨床現場では化学療法 + 免疫チェックポイント阻害薬の併用が一般的であり、本試験の対照群であるペムブロリズマブ単剤が最適な比較対象であったかについては議論の余地がある。これらの課題を解決するため、現在グローバルで進行中の第3相試験による検証結果が待たれる。
方法
- 試験デザインと対象患者: 本試験 (HARMONi-2、NCT05499390) は、中国の55施設で実施された多施設共同無作為化二重盲検第3相試験である。対象は、18歳以上、組織学的または細胞学的に確認されたStage IIIB/CまたはIVのNSCLCで、手術または根治的化学放射線療法の適応がなく、EGFR変異およびALK転座が陰性、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status; 東部腫瘍臨床試験グループ全身状態) が0または1、未治療で、測定可能病変を有し、PD-L1陽性 (TPS 1%以上) の患者である。活動性の自己免疫疾患、活動性の中枢神経系転移、ステロイド治療を要する非感染性肺炎の既往、重篤な出血傾向を有する患者などは除外された。
- 無作為化と治療: 登録患者は、インタラクティブWeb応答システムを用いて1:1の割合で、イボネシマブ群 (20 mg/kg、3週毎、静脈内投与) またはペムブロリズマブ群 (200 mg、3週毎、静脈内投与) に無作為に割り付けられた。無作為化は、病期 (Stage IIIB/C vs IV)、組織型 (扁平上皮癌 vs 非扁平上皮癌)、およびPD-L1 TPS (1-49% vs 50%以上) で層別化された。治療は、IRRC判定による病勢進行、許容不能な毒性、または最大24ヶ月の治療完了まで継続された。
- 評価項目と統計解析: 主要評価項目は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors; 固形がんの治療効果判定基準) v1.1に基づき、マスクされたIRRCが判定した意図治療 (ITT; intention-to-treat) 集団におけるPFSである。副次評価項目には、OS、ORR、DoR、DCR、TTR、安全性、およびEORTC QLQ-C30 (European Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire) を用いたHRQoLが含まれた。統計解析では、PFSイベント数が185件に達した時点で事前規定の中間解析を行うこととされ、全体の一側α水準を0.025に厳格に制御するため、Lan-DeMets O’Brien-Fleming spending functionを用いた階層的検定手順が採用された。PFSの比較には層別ログランク (log-rank) テストを用い、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) は層別コックス比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) により算出した。カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いて生存曲線を推定した。