• 著者: Jaafar Bennouna, Hélène Senellart, Sandrine Hiret, Nathalie Vaissiere, Jean-Yves Douillard
  • Corresponding author: Jaafar Bennouna (Centre René Gauducheau, Bd J Monod, 44805 Nantes, France)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-05-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21371774

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) の完全切除後における術後補助化学療法は、過去10年間でその有効性が確立され、特に病期IIおよびIIIAの患者において標準治療として位置づけられている。国際補助肺癌試験 (IALT) では、シスプラチンベースの化学療法4サイクルが5年生存率を4%改善することを示し (HR 0.86, 95% CI 0.76-0.98, p=0.03)、その後の追跡調査でも長期的な生存利益が示唆された Arriagada et al. NEnglJMed 2004。しかし、90ヶ月の中央値追跡期間後には統計的有意性が失われ、これは晩期毒性や併存疾患の影響が考えられる Arriagada et al. JClinOncol 2010。また、CALGB 9633試験では、病期IBの患者に限定してパクリタキセルとカルボプラチンによる補助化学療法を評価したが、主要評価項目である全生存期間 (OS) の改善には至らなかった (HR 0.83, 95% CI 0.64-1.08, p=0.12) Strauss et al. JClinOncol 2008。一方で、腫瘍径が4cm以上のサブグループでは有意な生存利益が認められた (HR 0.69, 95% CI 0.48-0.99, p=0.043)。

シスプラチンとビノレルビン併用療法を用いた2つの主要試験、JBR.10試験とANITA試験は、病期IIおよびIIIAのNSCLC患者における補助化学療法の生存利益を明確に示した。JBR.10試験では、病期IBおよびIIの患者において、補助化学療法群が観察群と比較して5年生存率を15%改善したと報告された Winton et al. NEnglJMed 2005。この生存利益は長期追跡でも維持されることが示されている Butts et al. JClinOncol 2010。ANITA試験 (Adjuvant Navelbine International Trialist Association) は、完全切除された病期IBからIIIAのNSCLC患者を対象に、補助シスプラチンとビノレルビンが観察と比較して全生存期間を8%改善することを示し、特に病期II (+13%) およびIIIA (+16%) での利益が顕著であった Douillard et al. LancetOncol 2006。これらの結果は、病期IIおよびIIIAの切除後NSCLC患者に対する補助化学療法が標準治療として確立される根拠となった。

しかし、進行期NSCLCにおいては、組織型が治療選択における重要な予測因子および予後因子として認識され始めている。例えば、ペメトレキセドは非扁平上皮癌に、ベバシズマブは非扁平上皮癌に限定して適応されるなど、組織型に基づいた治療戦略が確立されている Scagliotti et al. JClinOncol 2008。このことから、術後補助療法においても組織型が治療効果に影響を与える可能性が示唆されていたが、ANITA試験の初期報告では組織型別の詳細な解析が十分に実施されておらず、この点に知識のギャップが残されていた。シスプラチンとビノレルビン併用療法が腺癌と非腺癌で同等に有効であるか、あるいは特定の組織型でより効果的であるかを明らかにすることは、個別化された補助療法戦略を構築する上で極めて重要である。これまでの研究では、補助化学療法の効果における組織型の影響について一貫した見解が不足しており、この知識ギャップを埋めることが喫緊の課題であった。

目的

本研究の目的は、ANITA試験の事前に計画されたレトロスペクティブなサブグループ解析として、完全切除された病期IBからIIIAのNSCLC患者における組織型(腺癌 vs 非腺癌:扁平上皮癌、大細胞癌、その他)別に、補助ビノレルビン+シスプラチン療法の観察に対する全生存期間 (OS) および無病生存期間 (DFS) の効果を評価することである。これにより、組織型が補助化学療法の予後因子または予測因子となり得るかを検討し、個別化された治療戦略の確立に資する情報を提供することを目指す。本解析は、組織型が治療効果に与える影響に関するこれまでの研究における未解明な点を明らかにし、より効果的な治療戦略の構築に貢献することを意図している。

結果

試験集団と組織型分布: ANITA試験に登録された840例中、腺癌は291例 (34.6%)、非腺癌は549例 (65.4%) であった。非腺癌の内訳は、扁平上皮癌が493例 (89.8%)、その他のNSCLCが56例 (10.2%) であった。観察群では腺癌が146例、非腺癌が287例であり、化学療法群では腺癌が145例、非腺癌が262例であった。患者のベースライン特性は、観察群において腺癌と非腺癌の間で年齢、パフォーマンスステータス、術後病期(IB、II、IIIA)はバランスが取れていた。化学療法群では、病期IBの発生率が腺癌で40.0%に対し非腺癌で33.6%、病期IIIAでは腺癌で37.2%に対し非腺癌で42.7%と、わずかな不均衡が認められた。肺全摘術は非腺癌患者でより頻繁に行われており、これは扁平上皮癌が中心部に発生しやすいことと関連している可能性が示唆される (Table 1)。

化学療法コンプライアンス: 化学療法コンプライアンスに組織型による差は認められなかった (Table 2)。化学療法群の患者のうち、腺癌患者131例と非腺癌患者236例が化学療法を受け、これは実験群に登録された患者の90%に相当する。ビノレルビンとシスプラチンの両薬剤の用量強度は、腺癌群と非腺癌群で類似していた。シスプラチンの平均投与回数は腺癌群で3.2回、非腺癌群で2.9回であった。

全集団における全生存期間 (OS) の再確認: 全集団において、化学療法群のOS中央値は65.7ヶ月 (95% CI 47.9-88.5) であり、手術単独群の43.7ヶ月 (95% CI 35.7-52.3) と比較して有意な改善が認められた (HR 0.80, 95% CI 0.66-0.96, p=0.017)。化学療法による生存の絶対利益は、1年で2.8%、2年で4.7%、5年で8.6%、7年で8.4%であった。

観察群における組織型別の予後: 観察群において、腺癌は非腺癌と比較して予後不良である傾向が示された (Fig. 1A)。腺癌のOS中央値は37.3ヶ月であり、非腺癌の45.5ヶ月と比較して短かった (調整済みHR 0.86, 95% CI 0.66-1.11)。5年生存率は腺癌で38.2%、非腺癌で45.0%であった。この結果は、切除後NSCLCにおいて腺癌が不良な予後因子である可能性を示唆している。

腺癌サブグループにおける補助化学療法の効果: 腺癌サブグループでは、補助化学療法が観察と比較して有意なOS改善をもたらした (Fig. 1B)。化学療法群のOS中央値は未到達 (NR) であり、観察群の48.6ヶ月と比較して大幅な延長が認められた (HR 0.71, 95% CI 0.52-0.97, p=0.016)。5年生存率は化学療法群で54.6%、観察群で40.7%であり、化学療法による絶対利益は13.9%であった。7年生存率は化学療法群で48.9%、観察群で36.2%であった。

非腺癌サブグループにおける補助化学療法の効果: 非腺癌サブグループにおいても、補助化学療法はOSの改善傾向を示した (Fig. 1C)。化学療法群のOS中央値は62.3ヶ月であり、観察群の52.4ヶ月と比較して延長が認められた (HR 0.82, 95% CI 0.65-1.03, p=0.097)。5年生存率は化学療法群で49.0%、観察群で43.2%であり、化学療法による絶対利益は5.8%であった。7年生存率は化学療法群で40.8%、観察群で34.1%であった。扁平上皮癌のみの解析でも、HR 0.76 (95% CI 0.59-0.97) と同様の傾向が示された。

組織型と治療効果の交互作用: 組織型と治療効果の交互作用検定はp=0.46であり、統計的に有意な差は認められなかった。しかし、腺癌における補助化学療法の5年生存率の絶対利益が13.9%であったのに対し、非腺癌では5.8%と、腺癌で約2倍以上の大きな利益が認められており、臨床的には意義のある差であると考えられた。補助化学療法により、観察群で認められた腺癌の予後不良傾向は解消され、化学療法群では腺癌と非腺癌の5年生存率はそれぞれ52.1%と50.8%と類似していた (調整済みHR 0.93, 95% CI 0.69-1.25)。

無病生存期間 (DFS): 無病生存期間においても、腺癌サブグループでHR 0.73 (95% CI 0.56-0.94, p=0.014)、非腺癌サブグループでHR 0.80 (95% CI 0.64-1.00, p=0.050) と、両組織型で改善が認められたが、腺癌でより大きな効果が示された。病期別のサブ解析では、病期IIの腺癌でHR 0.65、非腺癌でHR 0.85、病期IIIAの腺癌でHR 0.71、非腺癌でHR 0.82と、いずれの病期においても腺癌で補助化学療法の効果が大きい傾向が確認された。

考察/結論

ANITA試験の組織型別サブグループ解析により、シスプラチンとビノレルビンによる補助化学療法は、完全切除された病期IB-IIIAのNSCLC患者において、組織型によらず有効であることが示された。しかし、その効果の大きさには組織型間で異なる傾向が認められた。特に、腺癌サブグループでは全生存期間のハザード比が0.71 (95% CI 0.52-0.97, p=0.016) であり、5年生存率の絶対利益は13.9%と、非腺癌サブグループのハザード比0.82 (95% CI 0.65-1.03, p=0.097) および絶対利益5.8%と比較して、より大きな利益が認められた。組織型と治療効果の交互作用検定は統計的に有意ではなかった (p=0.46) ものの、臨床的な効果量の差は無視できない。

先行研究との違い: 進行期NSCLCにおいては、組織型が治療選択に決定的な役割を果たすことが確立されている。例えば、ペメトレキセドは非扁平上皮癌に特異的な効果を示し、ベバシズマブは扁平上皮癌患者では禁忌である。本研究の結果は、術後補助療法においても同様の層別化の可能性を示唆しており、これまでの補助化学療法に関するメタ解析では組織型による効果差が明確でなかった点と対照的である。LACEメタ解析 Pignon et al. JClinOncol 2008でも腺癌サブグループで相対的な効果向上傾向が認められており、本ANITA試験の結果と一致する。IALT試験では組織型による効果差が明確でなかったことから、シスプラチンとビノレルビン併用療法の腺癌に対する特異的な効果が示唆される。

新規性: 本研究で初めて、観察群において腺癌が非腺癌と比較して予後不良であること (5年生存率38.2% vs 45.0%) が示された。しかし、補助化学療法を導入することでこの予後差が解消され、腺癌の予後が非腺癌と同等になることが新規に示された。これは、腺癌が補助化学療法に対してより高い感受性を持つ可能性を示唆する。この機序としては、腺癌が扁平上皮癌よりも化学療法感受性が高い傾向にあること、ビノレルビンのチューブリン結合感受性が組織型間で異なること、あるいは腺癌の免疫・血管新生プロファイルの違いが治療応答に影響している可能性が考えられる。

臨床応用: 本知見は、切除後NSCLC患者の個別化された補助療法戦略の策定に重要な臨床的意義を持つ。扁平上皮癌の患者においても補助化学療法の利益は否定されないが、その効果の絶対値は小さい可能性があるため、毒性と利益のバランスをより慎重に評価する必要がある。扁平上皮癌の症例では、カルボプラチンとパクリタキセルなどの異なるレジメンや、補助免疫療法(例:IMpower010試験、PEARLS試験)への移行が重要となる可能性がある。一方、腺癌の症例では、従来のシスプラチンとビノレルビン併用療法、あるいはアテゾリズマブなどの免疫チェックポイント阻害剤を併用した術後療法が適切な選択肢となる。

残された課題: 本研究にはいくつかの限界が残されている。第一に、本解析はレトロスペクティブなサブグループ解析であり、無作為化されていないため、結果の解釈には注意が必要である。第二に、組織型間で患者特性(性別、喫煙歴、病期)にわずかな差が認められ、これが結果に影響を与えている可能性を完全に排除することはできない。第三に、現代の詳細な組織分類(腺癌のサブタイプ分類や分子病理学的層別化)は実施されておらず、EGFR変異やKRAS変異、PD-L1発現などのバイオマーカー情報も利用できなかった。これらの因子は、治療効果の予測に重要な役割を果たすことが知られている。最後に、本研究の結論はシスプラチンとビノレルビン併用療法に限定されるため、他の補助化学療法レジメンへの一般化は制限される。今後の検討課題として、これらの分子病理学的因子を考慮した前向き研究や、異なる補助化学療法レジメンにおける組織型別の効果を評価する研究が必要である。

方法

ANITA試験は、1994年12月から2000年12月にかけて患者登録が行われた国際多施設共同第III相無作為化比較試験 (RCT) である。対象患者は、年齢18歳から75歳、WHOパフォーマンスステータス2以下で、原発性NSCLCの完全切除(全切除断端陰性)を受けた病期IB (T2N0のみ)、II、またはIIIAの患者であった。合計840例の患者が、ビノレルビン+シスプラチンによる補助化学療法群 (n=407) または観察群 (n=433) に1:1で無作為に割り付けられた。

化学療法群の患者は、ビノレルビン30 mg/m²を週1回、最大16回投与し、シスプラチン100 mg/m²を1日目、29日目、57日目、85日目に投与する4週間サイクルを最大4サイクル受けた。両群の患者は、臨床診察、血液学的検査、腫瘍検査に関して同様の評価を受けた。追跡調査は最初の2年間は3ヶ月ごと、その後は死亡または最終追跡まで6ヶ月ごとに行われた。主要評価項目 (primary endpoint) は両群間の全生存期間の比較であり、副次評価項目は無病生存期間と安全性であった。

本レトロスペクティブ解析では、組織型(腺癌 vs 非腺癌)および治療群(化学療法 vs 観察)別に全生存期間を評価した。組織型は、中央病理レビューにより腺癌(細気管支肺胞上皮癌を含む)、扁平上皮癌、大細胞癌、その他のNSCLCに分類された。本サブ解析では、腺癌(adenocarcinoma、bronchioloalveolar carcinomaを含む)と非腺癌(扁平上皮癌、大細胞癌、未分化癌、混合型)の2群比較を主とした。

統計解析には、各治療群および各組織型サブグループ内の生存期間を記述するためにカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いた。本解析は事後記述的解析であるため、p値は提供されない。ただし、全生存期間について、既知の予後因子(性別、WHOパフォーマンスステータス、病期)で調整した後、組織型または治療群のハザード比 (HR) と95%信頼区間 (95% CI) を推定するためにコックス回帰 (Cox regression) モデルが実施された。データ解析はSAS®システムソフトウェアバージョン8.2 for Windows®を使用して行われた。化学療法コンプライアンスについては、投与サイクル数、投与量、用量強度、および相対用量強度を組織型別に解析した。