- 著者: Wendy A. Cooper, Thang Tran, Ricardo E. Vilain, Jason Madore, Christina I. Selinger, Maija Kohonen-Corish, PoYee Yip, Bing Yu, Sandra A. O’Toole, Brian C. McCaughan, Jennifer H. Yearley, Lisa G. Horvath, Steven Kao, Michael Boyer, Richard A. Scolyer
- Corresponding author: Associate Professor Wendy A. Cooper (Tissue Pathology and Diagnostic Oncology, Royal Prince Alfred Hospital, Sydney, Australia; wendy.cooper@sswahs.nsw.gov.au)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2015
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 26024796
背景
PD-1 (Programmed Death-1)/PD-L1 シグナル経路は、腫瘍が宿主免疫から逃避するための中心的メカニズムとして近年注目されている。PD-L1 (B7-H1/CD274) は腫瘍細胞表面に発現し、CD8+ T細胞上のPD-1と結合することで、T細胞の活性化を抑制し、抗腫瘍免疫応答を失活化させる。この免疫チェックポイント経路の阻害は、がん治療において有望なアプローチであり、抗PD-1/PD-L1モノクローナル抗体などの免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、早期臨床試験において非小細胞肺癌 (NSCLC) を含む多様な固形腫瘍でその有効性を示してきた。特に、PD-L1の腫瘍発現は、これらの治療に対する奏効予測バイオマーカーとなる可能性が示唆されており、その評価が重要視されていた。
しかし、本研究が実施された2015年当時、早期切除可能NSCLCにおけるPD-L1発現の頻度、その臨床病理学的特徴との関連、および予後的意義を大規模かつ系統的に評価した研究は極めて限られていた。既存の研究の多くはアジア人集団を対象とし、症例数は52〜340例と小規模であった。さらに、免疫組織化学 (IHC) 解析に用いられる抗体クローン、陽性判定の閾値、および発現スコアリング法が研究間で大きく異なっており、結果の比較が困難であった。例えば、Pembrolizumabのコンパニオン診断薬として用いられる22C3クローンを使用したWestern集団での大規模コホート解析は当時存在せず、周術期ICIの開発が加速する中で、切除可能NSCLCにおけるPD-L1評価の信頼できる基盤データが強く求められていた。
腫瘍の免疫回避メカニズムは、Hanahan et al. Cell 2011によって提唱されたがんの新たな特徴の一つとして認識されている。PD-1/PD-L1経路の関与は、Iwai et al. ProcNatlAcadSciUSA 2002やFreeman et al. JExpMed 2000によって詳細に報告されており、その阻害が抗腫瘍免疫を回復させる可能性が示唆されていた。初期の臨床試験では、Topalian et al. NEnglJMed 2012やBrahmer et al. NEnglJMed 2012によって、進行がんにおけるPD-1/PD-L1阻害薬の有望な臨床活性が報告されていた。しかし、早期がんにおけるPD-L1の予後因子としての役割は未解明な点が多かった。特に、大規模なWesternコホートにおいて、Pembrolizumabのコンパニオン診断薬と同一の22C3クローンを用いたPD-L1発現の予後解析は不足しており、この知識ギャップを埋めることが喫緊の課題であった。
本研究は、オーストラリア・シドニーの2病院 (Royal Prince Alfred HospitalおよびConcord Repatriation General Hospital) で1990年から2008年にかけて切除されたNSCLC患者の大規模コホートを対象とした。Pembrolizumabのコンパニオン診断薬と同一の22C3クローンを用いたWestern集団における初のPD-L1大規模予後解析として、その結果は周術期ICI療法の開発と患者層別化に重要な情報を提供すると期待された。特に、PD-L1発現とEGFR/KRAS/ALK変異状態との関連についても、先行研究で矛盾する報告があったため、大規模コホートでの検証が不足していた。
目的
本研究の目的は、Stage I-IIIの早期切除可能NSCLC患者において、PD-L1発現 (Merck社の22C3クローンを用いた免疫組織化学染色) の頻度を特定することであった。また、PD-L1発現と様々な臨床病理学的特徴(組織型、年齢、性別、腫瘍グレード、腫瘍サイズ、病期、リンパ節転移、EGFR/KRAS/ALK遺伝子変異状態)との関連性を詳細に評価することも目的とした。さらに、最も重要な目的として、PD-L1発現が患者の全生存期間 (OS) に対して独立した予後的意義を持つかどうかを、多変量解析を用いて検証することを目指した。これにより、早期NSCLCにおけるPD-L1のバイオマーカーとしての有用性を確立し、将来的な治療戦略や患者層別化に資するエビデンスを提供することを意図した。特に、PD-L1発現の最適なカットオフ値を探索し、その予後予測能のロバスト性を評価することも重要な目的の一つであった。本研究は、Pembrolizumabのコンパニオン診断薬と同一の抗体クローンを使用することで、臨床応用への橋渡しを意識したデザインとなっている。
結果
PD-L1発現頻度と組織型別分布: 全NSCLC患者678例中、任意の強度でPD-L1染色が認められたのは32.8% (n=222) であった。5%以上の腫瘍細胞で染色を認めたのは20.1% (n=136) であり、高発現 (TPS ≥50%) は7.4% (n=50) に認められた。H-score ≥50を基準とした高発現率は8.4% (n=57) と類似した頻度であった。組織型別では、扁平上皮癌で8.1% (22/271例)、大細胞癌で12.1% (14/116例)、腺癌で5.1% (14/276例) と、扁平上皮癌および大細胞癌で高発現の傾向がみられたが、統計的有意差は認められなかった (p=0.072)。リンパ節転移52例中、PD-L1高発現は原発巣で2例 (3.8%) のみであり、転移巣でのPD-L1評価には限界があることが示唆された。病理医間の判定一致率はCohen’s kappa 0.79〜0.84と高く、22C3クローンを用いたTMA判定の再現性が確認された。本コホートはStage Iが373例、Stage IIが101例、Stage IIIが204例と多様な病期構成であった。PD-L1の染色強度は、ほとんどの陽性腫瘍で弱〜中程度であった (Figure 2)。
臨床病理学的特徴との関連: PD-L1高発現 (TPS ≥50%) は、若年患者 (高発現群の中央値年齢65.5歳 vs 低発現群69歳、p<0.05) および高グレード腫瘍 (Grade III: 11.1% vs Grade I: 0.0%、p<0.01) と有意に関連した。腫瘍サイズの中央値はPD-L1高発現群で42mm、低発現群で40mmであり、高発現群でわずかに大きい傾向がみられた (p=0.08)。一方、性別 (p=0.52)、腫瘍サイズ (p=0.08)、病期 (p=0.66)、リンパ節転移 (p=0.25) との関連は認められなかった。腺癌における分子生物学的評価では、EGFR変異腺癌33例の全例でPD-L1高発現は認められず (p=0.23)、EGFR変異とPD-L1高発現の間に負の関連が示唆された。KRAS変異状態 (p=0.26) およびALK状態 (p=1.0) との関連も認められなかった (Table 1)。これらの結果は、PD-L1発現が特定の臨床病理学的特徴と関連する一方で、既知のドライバー遺伝子変異とは独立している可能性を示唆する。
単変量OS解析と組織型特異性: 全NSCLC患者において、PD-L1高発現群 (TPS ≥50%) は低発現群と比較して、全生存期間 (OS) が有意に長かった (中央値113.2ヵ月 vs 85.5ヵ月、p=0.023)。この予後良好な関連は、特に扁平上皮癌 (p=0.023) および非腺癌 (p<0.01) で顕著に認められたが、腺癌では有意な関連は認められなかった (p=0.91)。PD-L1無発現 (0%) と弱発現 (≥1%) の間ではOSに有意差は認められなかった。Stage I-IIIで層別解析した場合も、扁平上皮癌におけるPD-L1高発現の予後良好効果は一貫して認められ、組織型による異質性が示された (Figure 3)。PD-L1高発現の閾値を32%から77%の範囲で変化させても、単変量解析において統計的有意性が維持された。
多変量Cox解析と独立予後因子の確認: 病期 (Stage II-III vs Stage I: HR 1.36, 95% CI 1.27-1.45, p<0.01) および年齢 (≥60歳 vs <60歳: HR 1.82, 95% CI 1.68-1.94, p<0.01) を調整した多変量Cox比例ハザード回帰モデルにおいて、PD-L1高発現 (TPS ≥50%) は独立した良好予後因子として確認された (HR 0.65, 95% CI 0.45-0.85, p<0.05)。H-score ≥50を基準とした場合も同様の結果が得られた (HR 0.59, 95% CI 0.4-0.8, p<0.01)。PD-L1のカットオフ値を33%から63%の広範な範囲で変化させても、多変量解析における予後有意性は維持され、閾値選択のロバスト性が確認された。OSイベントは678例中473例 (69.8%) であり、Kaplan-Meier曲線の成熟度は十分であった。サブグループ解析では、Stage I (p=0.018) およびStage II-III (p=0.048) のいずれの病期においても、PD-L1高発現群で予後良好の傾向が認められた (Table 2)。これらの結果は、PD-L1高発現が早期NSCLC患者の独立した予後良好因子であることを強く支持する。
考察/結論
本研究は、当時最大規模のWestern集団コホート (n=678) において、Pembrolizumabのコンパニオン診断薬と同一の22C3クローンを用いて、早期NSCLCにおけるPD-L1発現の臨床的意義を系統的に評価した。主要な知見は、(1) 早期NSCLCの7.4%がPD-L1高発現 (TPS ≥50%) であること、(2) PD-L1高発現が病期と年齢を調整した上で独立した良好予後因子であること (HR 0.65, 95% CI 0.45-0.85, p<0.05)、(3) この予後効果が扁平上皮癌および非腺癌で顕著であり、腺癌では認められないという組織型特異性を持つこと、の3点に集約される。
先行研究との違い: 早期NSCLCにおけるPD-L1発現の予後に関する報告はこれまで矛盾する結果が多く、特にWestern集団における大規模コホートでの統一された見解は得られていなかった。本研究で示されたPD-L1高発現が予後良好と関連するという一見逆説的な結果は、「適応免疫抵抗性 (adaptive immune resistance)」モデルで説明される。このモデルでは、PD-L1高発現腫瘍は、既存の活発なCD8+ T細胞浸潤 (TIL) を有しており、腫瘍が宿主の免疫圧力に反応してPD-L1を「防御的に」アップレギュレートしているとみなされる。このような免疫原性の高い腫瘍は、免疫チェックポイント阻害薬なしでも、内因性の免疫監視によって増殖が抑制されている可能性がある。実際、本研究でもPD-L1発現とTILの正相関が観察されており、これは先行するメラノーマ研究であるTaube et al. SciTranslMed 2012の知見と整合する。これまでのアジア人集団を対象とした研究ではPD-L1高発現が不良予後と関連するとの報告も多く、人種的・地域的な差異が示唆される。
新規性: 本研究で初めて、早期NSCLCにおけるPD-L1高発現が独立した良好予後因子であることを大規模Westernコホートで示したことは新規性がある。特に、扁平上皮癌および非腺癌における予後効果の特異性は、今後の治療戦略において重要な知見となる。また、EGFR変異腺癌ではPD-L1高発現が認められなかったという結果は、Akbay et al. CancerDiscov 2013で報告されたEGFR変異によるPD-L1誘導メカニズムとは異なる、適応免疫抵抗性による誘導の優位性を示唆するものであり、この点も新規の発見である。本研究は、Pembrolizumabのコンパニオン診断薬と同一の22C3クローンを使用し、その予後予測能を検証した点で、今後の臨床試験デザインに直接的な影響を与える可能性がある。
臨床応用: 本研究の知見は、切除可能NSCLC患者の7.4%がTPS ≥50%であるという事実に基づき、周術期ICI(術後Pembrolizumab: PEARLS/KEYNOTE-091試験、術後Atezolizumab: IMpower010試験)の恩恵を最大限受ける可能性のある集団を事前に同定できる可能性を示唆する。これは、患者層別化と個別化医療の推進に重要な臨床的意義を持つ。また、腺癌においてはEGFR/KRAS/ALK変異とPD-L1発現の関連が認められなかったことから、分子プロファイリングとPD-L1評価を独立して実施する必要があることが示唆され、臨床現場での意思決定に重要な含意を持つ。
残された課題: 本研究はTMAを用いた後ろ向き解析であるため、腫瘍内不均一性 (intratumoral heterogeneity) によるサンプリングバイアスの可能性が限界として挙げられる。ただし、各腫瘍から3〜6コアを採取することで、この可能性は部分的に軽減されている。また、1990年から2008年のコホートであるため、現代の治療環境とは異なる点も考慮する必要がある。本研究の患者集団はICI治療経験がないため、「予測的マーカー」としての意義は直接検証されていない。さらに、本研究の50%カットオフが後方視的最適化に基づく点も限界である。今後の検討課題として、前向き研究による検証や、より詳細な免疫微小環境解析との統合が求められる。
方法
本研究は、オーストラリア・シドニーのRoyal Prince Alfred HospitalおよびConcord Repatriation General Hospitalにおいて、1990年から2008年の期間に手術切除されたStage I-IIIのNSCLC患者678例を対象とした後ろ向きコホート研究である。本研究の主要なエンドポイントは全生存期間 (OS) と定義された。加えて、52例の患者から採取された対応するリンパ節転移組織も評価対象に含めた。病理診断はWHO 2004分類に基づき、病期分類はAJCC TNM分類第7版に従って実施された。患者の人口統計学的データ、病理学的特徴、TNM病期、および全生存期間に関する情報が収集された。
PD-L1発現の評価には、Tissue Microarray (TMA) を用いた免疫組織化学染色 (IHC) が実施された。各腫瘍から少なくとも3〜6個の1mm径コアが採取され、Merck社の22C3クローン抗体 (1:500希釈) を用いて染色された。PD-L1陽性細胞の割合と染色強度に基づき、H-score (0-300) も算出された。主要なPD-L1高発現の定義は、腫瘍細胞の50%以上に膜染色を認める場合 (TPS ≥50%) とされた。この50%というカットオフ値は、単変量解析で最も低いp値 (57%で得られたが、病理医の評価のしやすさを考慮し50%に丸められた) を示したことから選択された。H-score ≥50も補助的な高発現基準として用いられた。PD-L1のIHCスコアリングは2名の病理医 (WCとRV) が独立して実施し、Cohen’s kappa値が0.79〜0.84と高い一致率を示した。
腺癌患者においては、EGFRおよびKRAS遺伝子変異の検索がOncoCarta v1.0 PanelとMALDI-TOF質量分析法を用いて実施された。また、ALK融合遺伝子の評価は、まずIHC (Novocastra mouse monoclonal antibody p80 ALK antibody, Clone 5A4, NCL-ALK, Leica, Germany, および rabbit monoclonal ALK XP antibody, clone D5F3, 3633P from Cell Signaling Technology, USA) でスクリーニングされ、陽性例はFISH (Vysis LSI ALK Dual Colour, Break Apart Rearrangement Probe, Abbott Molecular, USA) で確認された。
統計解析には、R version 2.15.2が使用された。臨床病理学的変数間の関連は、Pearsonのカイ二乗検定 (カテゴリ変数) および2標本t検定 (連続変数) を用いて評価された。全生存期間 (OS) はKaplan-Meier法により推定され、群間比較にはログランク検定が用いられた。多変量解析は、前向きステップワイズ法を用いたCox比例ハザード回帰モデルによって実施された。統計的有意水準は両側p<0.05と設定された。PD-L1の最適なカットオフ値は32%から77%の範囲で有意な予後差を示し、特に57%で最小p値が得られたが、臨床的実用性を考慮し50%が採用された。本研究は、NCT番号は付与されていないが、後ろ向きコホート研究として倫理委員会の承認を得て実施された。