• 著者: Janis M. Taube, Robert A. Anders, Geoffrey D. Young, Haiying Xu, Rajni Sharma, Tracee L. McMiller, Shuming Chen, Alison P. Klein, Drew M. Pardoll, Suzanne L. Topalian, Lieping Chen
  • Corresponding author: Janis M. Taube (jtaube1@jhmi.edu) (Johns Hopkins Medical Institutions, Baltimore, MD, USA); Suzanne L. Topalian (stopali1@jhmi.edu); Lieping Chen (lieping.chen@yale.edu) (Yale University, New Haven, CT, USA)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-07-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22461641

背景

メラノーマは高い免疫原性を持ち、腫瘍特異的T細胞が容易に同定されるにもかかわらず、多くが無治療では進行し、自然退縮は稀である。この現象は、宿主免疫応答が腫瘍増殖を制御できない未解明なメカニズムの存在を示唆している。腫瘍微小環境における局所的な免疫抑制機構、例えば分泌性サイトカイン(TGF-βなど)、制御性T細胞(Treg)、骨髄由来抑制細胞(MDSC)などが、腫瘍細胞を免疫破壊から保護する抑制的な環境を形成していると考えられてきた。さらに、T細胞上のPD-1とその腫瘍リガンドであるB7-H1(PD-L1)の相互作用が、T細胞のアネルギー、疲弊、あるいはアポトーシスを誘導することで、免疫回避に関与することが示唆されていた Dong et al. NatMed 2002Freeman et al. JExpMed 2000Iwai et al. ProcNatlAcadSciUSA 2002。しかし、ヒトメラノーマにおけるB7-H1発現が腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の存在と地理的に相関するのか、またその誘導がIFN-γなどの炎症性サイトカインによって駆動されるのか(「適応的免疫抵抗性」仮説)については、これまで十分に検証されていなかった。

当時の免疫療法は、全身性のT細胞活性化を目的とした抗CTLA-4抗体であるイピリムマブが転移性メラノーマ患者の生存期間を延長することが示され Hodi et al. NEnglJMed 2010、Robert et al、大きな進展を遂げていた。しかし、イピリムマブは15〜30%の患者で重篤な免疫関連有害事象を引き起こすことが報告されており、その治療域は限定的であった。これは、CTLA-4のリガンドであるB7.1およびB7.2が腫瘍特異的に発現しないことに起因すると考えられる。これに対し、B7-H1/PD-1経路の相互作用は腫瘍微小環境により選択的に生じることが示唆されており、B7-H1はほとんどの正常組織では検出されないが、IFN-γなどの炎症性サイトカインによって様々な細胞種で高レベルに誘導されることが知られていた Dong et al. NatMed 1999。したがって、B7-H1/PD-1軸の阻害は、CTLA-4阻害よりも腫瘍微小環境に特異的で毒性の低いアプローチとして、腫瘍誘発性免疫寛容を逆転させる可能性が提唱されていた。

これまでの研究では、腎細胞癌、食道癌、胃癌、膵癌など一部の腫瘍種において、原発腫瘍細胞の5〜10%以上でB7-H1の細胞表面発現が不良な予後因子であることが報告されていた Thompson et al. Cancer Res 2006。また、TILにおけるB7-H1発現も患者の生存期間短縮と相関することが示唆されており、腫瘍微小環境におけるB7-H1発現が免疫抑制機能を発揮することが考えられていた。しかし、メラノーマにおけるB7-H1発現の臨床的意義については、相反する報告もあり、その役割は未解明な点が多かった。本研究は、ヒトメラノーマにおけるB7-H1発現のパターン、TILとの関連性、および臨床的意義を詳細に解析することで、この知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、150例のヒトメラノサイト病変(良性母斑から転移性メラノーマまで)を対象に、B7-H1の免疫組織化学(IHC)染色を実施し、以下の点を検証することである。(1) B7-H1発現と腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の地理的共局在関係を定量的に解析し、その相関の強さを評価する。(2) B7-H1陽性腫瘍のTIL境界部におけるIFN-γ産生をレーザーマイクロダイセクション(LCM)および定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)を用いて直接的に検証し、TILがサイトカインを分泌することで腫瘍のB7-H1発現を誘導するという「適応的免疫抵抗性」仮説のin vivoエビデンスを確立する。(3) B7-H1発現が患者の全生存期間と相関するかどうかを評価し、特に転移性メラノーマ患者におけるB7-H1発現の予後因子としての意義を明らかにする。(4) これらの結果に基づき、B7-H1/PD-1経路の誘導が、腫瘍細胞が内因性抗腫瘍免疫に応答して適応的に獲得する免疫抵抗性メカニズムであるという仮説を検証し、メラノーマが宿主の抗腫瘍免疫応答にもかかわらず免疫破壊から逃れるメカニズムを説明する。最終的に、本研究はB7-H1/PD-1経路を標的とする免疫療法の理論的根拠を強化し、PD-1阻害剤がB7-H1陽性腫瘍患者に利益をもたらす可能性を示唆することを目的とする。

結果

B7-H1陽性病変の98%がTILと共局在: 150例のメラノサイト病変のうち、57例(38%)がB7-H1陽性(≥5%)であった。B7-H1陽性病変全体の98%(56/57例)が少なくとも軽度以上のTILと関連しており、これはB7-H1陰性病変の28%(26/93例)と比較して統計学的に極めて有意な差であった(P<0.0001, Fisher’s exact test)。この強い相関は、良性母斑(B7-H1陽性例の100% vs B7-H1陰性例の15%, P<0.0001)、原発メラノーマ(B7-H1陽性例の100% vs B7-H1陰性例の43%, P<0.0001)、転移巣(B7-H1陽性例の96% vs B7-H1陰性例の22%, P<0.0001)を含むすべての病変サブタイプで一貫して確認された(Table 2)。B7-H1発現量と炎症浸潤グレードの間には強い正の相関が認められ(Spearman’s rho=0.71, P<0.001)、B7-H1発現は悪性度、Breslow厚、TNMステージとは有意な相関を示さなかった(P>0.3)。IHC組織所見では、B7-H1陽性腫瘍細胞はほぼ例外なくTILと直接隣接した境界部(advancing edge)に局在するインターフェースパターンを示した(Figure 1B, CおよびFigure 2A, B)。B7-H1発現がびまん性でTILのない領域まで及ぶ症例は、転移性メラノーマのわずか1例のみであった。その他の症例では、B7-H1発現はTILの近傍に地理的に限定されていた。良性母斑においても、B7-H1陽性14例すべてがTILと関連しており、B7-H1発現が悪性度に依存せず、炎症に依存することを示唆した。

B7-H1陽性腫瘍のTIL境界部でのみIFN-γ mRNAを検出: レーザーマイクロダイセクション(LCM)を用いて、5例のB7-H1陽性腫瘍と5例のB7-H1陰性腫瘍の腫瘍-TIL界面から細胞を採取し、qRT-PCRを実施した(Table 3)。白血球共通抗原であるCD45 mRNAは、B7-H1陽性/B7-H1陰性の両群の全10例で検出され、免疫浸潤の存在が確認された。一方、IFN-γ mRNAは、B7-H1陽性腫瘍の5例すべてで検出された(Ct値31.80〜35.17)が、B7-H1陰性腫瘍の5例すべてでは検出されなかった(Ct>45)。この結果は、TILから産生されるIFN-γがメラノーマ細胞のB7-H1発現を誘導するというin vivoエビデンスを直接的に提示するものである。培養したヒトメラノーマ細胞(537-mel cells)を用いたin vitro実験では、IFN-γ処理によりB7-H1発現が用量および時間依存的に誘導されることが確認された(Supplementary Figure S3)。これは、TILが分泌するIFN-γが腫瘍細胞のB7-H1発現を誘導するメカニズムを強く支持する。

B7-H1発現はメラノーマの組織学的サブタイプと相関するが、ステージとは無相関: 浸潤性原発メラノーマの組織学的サブタイプを解析したところ、表在拡大型および結節型メラノーマの45%(n=29例中13例)がB7-H1陽性(メラノサイト発現平均16%)であった。一方、悪性黒子型メラノーマ(n=3)、末端黒子型メラノーマ(n=7)、デスモプラスティック型メラノーマ(n=4)などの他のサブタイプはB7-H1陰性であった。このことから、B7-H1発現は組織学的サブタイプと関連があることが示唆された(P=0.033, Fisher’s exact test)。しかし、原発浸潤性メラノーマのBreslow厚とB7-H1発現の間には、単変量解析で相関は認められなかった(P=0.23, Wilcoxon rank-sum test)。また、54例のin situまたは浸潤性原発メラノーマ病変において、B7-H1発現は病理学的原発腫瘍ステージ(T1~T4)や患者の最高臨床病理学的TNMステージとは相関しなかった(それぞれP=0.43およびP=0.33, Fisher’s exact test)(Supplementary Table S1)。同様に、原発腫瘍のAISもBreslow厚(P=0.30)、病理学的腫瘍ステージ、または臨床病理学的TNMステージとは相関しなかった(それぞれP=0.64およびP=0.66)。転移巣におけるB7-H1発現を解剖学的部位別に解析しても、リンパ節、皮下組織、肺、その他の内臓部位との間に相関は認められなかった(P=0.516, Fisher’s exact test)。これらの結果は、B7-H1発現がメラノーマのステージとは関連しないことを示している。

B7-H1陽性転移性メラノーマで全生存期間が有意に延長: 99名の原発浸潤性または転移性メラノーマ患者を対象とした生存解析を実施した。原発浸潤性メラノーマ43例では、B7-H1陽性群とB7-H1陰性群の間で全生存期間に有意差は認められなかった(P=0.33, Figure 4A)。しかし、転移性メラノーマ56例のKaplan-Meier解析では、B7-H1陽性(n=24 patients)の患者の生存率がB7-H1陰性(n=32 patients)の患者よりも有意に良好であった(P=0.032, Figure 4B)。同様に、AISが5以上の転移巣を持つ患者でも全生存期間が延長した(P=0.014, Figure 4D)。TILの存在(軽度、中等度、重度のリンパ球浸潤および関連する組織球/マクロファージ)のみで全生存期間を評価した場合も、転移性疾患患者で改善された生存期間が認められた(P=0.017, Figure 4F)。これらの結果は、B7-H1発現、AIS、およびTILの存在が相互に関連し、患者の転帰に影響を与えるという仮説と一致する。転移性メラノーマ患者53例中23例(43%)が診断生検後に全身性免疫療法(IFN-α、高用量IL-2、ワクチン、抗PD-1 mAbなど)を受けていたが、B7-H1陽性群と陰性群の間で免疫療法を受けた割合に有意差はなかった(P=0.415)。このことは、B7-H1発現が免疫療法の効果を予測するバイオマーカーとなる可能性を示唆する。

考察/結論

本論文は、Taube et alが、ヒトメラノーマにおける「適応的免疫抵抗性(adaptive immune resistance)」という概念を初めて実証した研究であり、その後のPD-1/PD-L1免疫療法の理論的基盤となった極めて重要な論文である。

先行研究との違い: 従来の多くの報告がB7-H1発現を不良な予後因子(免疫回避の指標)と解釈していたのに対し、本研究はB7-H1発現が内在性の腫瘍免疫(TILによるIFN-γ産生)への反応として誘導されるという、対照的な観察結果を示した。特に、転移性メラノーマにおいてB7-H1陽性患者の全生存期間が有意に延長するという臨床観察は、他の腫瘍種で報告されていたB7-H1発現と不良な予後の関連とは異なり、PD-L1発現の解釈に新たな視点をもたらした。

新規性: 本研究で初めて、B7-H1発現がTILの存在と地理的に強く共局在すること、そしてB7-H1陽性腫瘍のTIL境界部でのみIFN-γ mRNAが検出されることを直接的に示した。これは、TILから産生されるIFN-γがメラノーマ細胞のB7-H1発現を誘導し、T細胞自身の殺傷を抑制するという「適応的免疫抵抗性」メカニズムのin vivoエビデンスを新規に提示したものである。この概念は、腫瘍が内因性の抗腫瘍応答に適応的に反応してB7-H1を上方制御し、TILによる殺傷を抑制するという、これまで報告されていないメカニズムを明らかにした。

臨床応用: 本知見は、PD-L1陽性腫瘍こそが免疫応答が起動しているにもかかわらず阻害されている状態(T細胞炎症型腫瘍)であり、PD-1ブロッキング療法の恩恵を最も受けやすいという現在の標準的理解を先取りした。B7-H1陽性転移性メラノーマでの生存延長(P=0.032)という臨床観察は、B7-H1/PD-1軸のブロッキングが「内因性の抗腫瘍免疫の解放」として機能するという治療的根拠を提供した。この研究は、抗PD-1/PD-L1療法(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブなど)の臨床開発における理論的礎石となり、PD-L1をバイオマーカーとして用いる研究の出発点として広く引用されている。

残された課題: 今後の検討課題として、B7-H1発現の誘導に関わるIFN-γ以外の分泌因子(IL-10, IL-6など)の役割や、B7-H1発現がTILと無関係に広範に認められる稀なケースにおける内在性経路の解明が残されている。また、異なる組織学的サブタイプ(例:末端黒子型メラノーマ)におけるB7-H1発現の欠如と、BRAF変異やc-Kit変異といった特徴的な発癌シグナル経路との関連性についても、さらなる分子レベルでの研究が必要である。これらの知見は、抗PD-1またはB7-H1抗体を用いた治療と他の相乗的な治療薬との合理的な併用療法を開発するために不可欠である。本研究のlimitationとして、レトロスペクティブなデザインであること、および免疫療法を受けた患者群の詳細な治療効果データが不足している点が挙げられる。

方法

本研究では、ジョンズ・ホプキンス病院の過去20年間の外科病理アーカイブから、150名の患者に由来するメラノサイト病変のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)切片を選択した。対象となった病変は、良性母斑40例(一般的な母斑10例、青色母斑2例、ハロー母斑13例、スピッツ母斑8例、異形成母斑7例)、in situメラノーマ11例、浸潤性原発メラノーマ43例(表在拡大型14例、結節型15例、悪性黒子型3例、デスモプラスティック型4例、末端黒子型7例)、および様々な部位の転移巣56例(リンパ節34例、皮膚/軟部組織8例、肺6例、その他の内臓8例)であった。

臨床病理学的特徴の評価: 各症例の元の組織学的診断はH&E染色スライドで確認され、組織学的サブタイプ、Breslow厚、病理学的Tステージなどの病理学的特徴が収集された。病理学的Tステージは、原発腫瘍のマイクロステージングに基づいており、Breslow厚、潰瘍形成、有糸分裂活性のパラメータが含まれる。必要に応じて、症例は現在の米国癌合同委員会(AJCC)基準(第7版)に再ステージングされた。各患者の最高TNMステージと全生存期間データが取得された。転移性疾患の患者については、治療レジメンに関する情報も収集された。追跡期間は、診断手技の日付から癌の進行、最終追跡、または死亡の日付まで計算された。

B7-H1免疫組織化学(IHC): B7-H1 IHCは、マウス抗ヒトB7-H1モノクローナル抗体(mAb)クローン5H1(アイソタイプマウスIgG1)を2 μg/mlの濃度で使用し、標準プロトコルに従って実施された。腫瘍細胞の膜表面染色が5%以上をB7-H1陽性と定義した。また、一部のスライドでは、ウサギポリクローナル抗体4059(ProSci)も使用してB7-H1 IHCが実施された。T細胞(CD3)、メラノサイト(S100)、マクロファージ(CD68)などの細胞系統マーカーのIHCも隣接する5μm切片で実施された。

B7-H1発現および宿主炎症応答の定量: B7-H1の膜染色パターンを示す腫瘍細胞の割合は、患者の転帰を知らされていない2名の病理医(J.M.T.とR.A.A.)によって独立して定量化された(5%未満、5~9%、その後10%刻みで100%まで)。スコアリングの相違は協議によって解決された。主にリンパ球と散在する組織球(組織マクロファージ、樹状細胞、ランゲルハンス細胞)からなる腫瘍への宿主応答(総称して「免疫細胞浸潤」)も、B7-H1膜発現の割合についてスコア化された。浸潤の強度は、なし(0)、軽度(1、稀なリンパ球)、中等度(2、リンパ組織球性凝集塊による腫瘍の局所浸潤)、または重度(3、びまん性浸潤)として評価された。Adjusted Inflammation Score(AIS)は、腫瘍内炎症の強度にB7-H1陽性炎症細胞の割合を乗じて定義された。特定の腫瘍切片においてメラノサイト細胞と直接関連しない炎症細胞によるB7-H1発現は、AISの計算には含まれなかった。腫瘍細胞によるB7-H1発現の割合、炎症性宿主応答におけるB7-H1を反映するAIS、およびTILの存在は、患者の全生存期間と相関解析された。

レーザーマイクロダイセクション(LCM)およびqRT-PCR: Arcturus PEN(Polyethylene Naphthalate)メンブレンガラススライド(Applied Biosystems)上に7μm厚の切片が作製された。LCMはLeica LMD6000レーザーキャプチャーマイクロダイセクション顕微鏡を用いて実施された。B7-H1陰性メラノーマ生検では、非壊死性腫瘍細胞を含む中心領域が採取された。B7-H1陽性腫瘍では、関連する浸潤免疫細胞とともに腫瘍細胞が切除された。qRT-PCRは、ヒトIFN-γまたはCD45のプライマー/プローブ調製物を用いて、標準プロトコルに従って実施された。3連測定のCt値平均と標準誤差が報告された。新鮮な末梢血単核細胞(PBMC)および活性化T細胞はIFN-γおよびCD45発現の陽性対照として、培養メラノーマ細胞(例えば537-mel細胞株)は陰性対照として使用された。

統計解析: 全生存期間は、診断生検の日付から最終追跡または死亡の日付までKaplan-Meier法で計算され、ログランク検定で解析された。B7-H1発現と臨床病理学的特徴との関連は、Fisher’s exact検定、Student’s t検定、およびχ2検定を用いて評価された。統計解析はSTATA V11ソフトウェアパッケージを用いて実施された。特に明記しない限り、すべての検定は両側検定であり、P値が0.05未満を有意とみなした。