- 著者: Giorgio Scagliotti, Nasser Hanna, Frank Fossella, Katherine Sugarman, Johannes Blatter, Patrick Peterson, Lorinda Simms, Frances A. Shepherd
- Corresponding author: Giorgio Scagliotti, MD, PhD (University of Torino, Department of Clinical and Biological Sciences, San Luigi Hospital, Orbassano, Italy)
- 雑誌: The Oncologist
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-02-16
- Article種別: Review
- PMID: 19221167
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) は、世界的に罹患率および死亡率の高い悪性腫瘍であり、進行期NSCLC患者に対するより効果的な治療戦略の確立が喫緊の課題である。近年、治療効果を予測する因子(predictive factors)の同定が進み、個別化医療への期待が高まっている。Pemetrexedは、thymidylate synthase (TS) を主標的とし、dihydrofolate reductaseおよびglycinamide ribonucleotide formyl transferaseを副次標的とする多標的抗葉酸薬である。TSはピリミジン合成の律速酵素であり、その過剰発現がpemetrexed耐性と相関することが前臨床研究で示されている。興味深いことに、組織学的にTS発現は扁平上皮癌で腺癌より有意に高いことが報告されており (mRNAおよびタンパクレベルでp<0.0001) Scagliotti et al. JClinOncol 2008、これがNSCLC組織型によるpemetrexed感受性の差の分子的基盤として仮説されていた。
これまで、NSCLCの治療選択において組織型が重要な予測因子として認識されることは少なかった。しかし、上皮成長因子受容体 (EGFR) チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) の効果が腺癌患者で高いことが報告されるなど、組織型が治療効果に影響を与える可能性が示唆され始めた Shepherd et al. NEnglJMed 2005。Pemetrexedに関する2つの大規模第III相NSCLC試験、すなわち化学療法既治療患者を対象とした二次治療試験 (pemetrexed vs. docetaxel) Hanna et al. JClinOncol 2004と、化学療法未治療患者を対象とした一次治療試験 (cisplatin + pemetrexed vs. cisplatin + gemcitabine) Scagliotti et al. JClinOncol 2008のそれぞれで、予備的な組織型による有効性差が示唆されていた。これらの結果は、pemetrexedの有効性が組織型によって異なる可能性を示唆するものであったが、その詳細な検討と統計学的な検証は未解明な部分が残されていた。特に、一次治療試験の結果を受けて、pemetrexedは欧州、カナダ、米国で非扁平上皮NSCLCの一次治療(シスプラチン併用)として承認されたが、その根拠となる詳細な組織型別解析が不足していた。
本レビューは、これら2つの大規模第III相試験のデータを統合的に詳細解析し、NSCLC組織型がpemetrexedの治療効果に与える影響を包括的に評価することを目的とする。これにより、組織型に基づく治療選択の重要性を確立し、より個別化されたNSCLC治療戦略の発展に貢献することが期待される。本研究は、これまでの治療選択において組織型が十分に考慮されてこなかったという知識のギャップを埋めるものであり、個別化医療の進展に不可欠な情報を提供する。
目的
本レビューの目的は、進行NSCLC患者を対象とした2つの大規模ランダム化第III相試験(二次治療におけるpemetrexed対docetaxel、および一次治療におけるcisplatin + pemetrexed対cisplatin + gemcitabine)において、NSCLC組織型(非扁平上皮癌 vs. 扁平上皮癌)がpemetrexedの治療効果に与える差(予測的効果)を詳細に検討することである。具体的には、全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) について、治療と組織型間の統計学的に有意な交互作用 (THI; treatment-by-histology interaction) を検定し、各組織型サブグループにおけるKaplan-Meier解析およびCox比例ハザードモデルによるハザード比 (HR) 推定を通じて、pemetrexedの有効性の組織型依存性を明らかにすることを目指す。また、対照薬であるdocetaxelおよびcisplatin + gemcitabineについても同様の解析を行い、pemetrexedに特異的な効果であるかを確認することも目的とする。本解析は、組織型に基づく治療選択の臨床的意義を確立し、個別化医療の推進に貢献することを目指す。
結果
2次治療試験 (pemetrexed vs. docetaxel、n=571) における治療×組織型交互作用: OSおよびPFSについて、治療と組織型間の交互作用が統計学的に有意であった (OS: p=0.001、PFS: p=0.004)。非扁平上皮癌患者では、pemetrexed群がdocetaxel群よりも有意に長いOSを示した (HR 0.78; 95% CI 0.61〜1.00; p=0.047)。一方、扁平上皮癌患者では、pemetrexed群がdocetaxel群よりも短いOSと関連していた (HR 1.56; 95% CI 1.08〜2.26; p=0.018)。PFS解析においても同様の傾向が認められ、非扁平上皮癌ではpemetrexed優位の傾向 (HR 0.82; 95% CI 0.66〜1.02; p=0.076) があり、扁平上皮癌ではpemetrexed劣位 (HR 1.40; 95% CI 1.01〜1.96; p=0.046) であった。Docetaxelについては、組織型による有効性の差は認められなかった。これらの結果は、pemetrexedの有効性が組織型によって異なることを明確に示している (Table 3)。
非扁平上皮癌サブグループにおける詳細解析 (2次治療試験): 非扁平上皮癌サブグループ内の詳細解析では、大細胞癌患者においてpemetrexed群のOS HRが統計的に有意に優位であった (HR 0.27; 95% CI 0.11〜0.63; p=0.003)。腺癌患者における客観的奏効率 (ORR) はpemetrexed群で12.8%に対しdocetaxel群で9.9%であり、大細胞癌患者ではpemetrexed群で12.5%に対しdocetaxel群で3.7%と、pemetrexed群が優位であった。対照的に、扁平上皮癌患者のORRはpemetrexed群で2.8%に対しdocetaxel群で8.1%であり、その他NSCLC/NOS患者ではpemetrexed群で3.7%に対しdocetaxel群で10.0%と、docetaxel群が優位であった (Table 4)。これらの結果は、非扁平上皮癌の中でも特に大細胞癌においてpemetrexedの顕著な有効性が示唆される (Figure 1)。
1次治療試験 (cisplatin + pemetrexed vs. cisplatin + gemcitabine、n=1,725) における治療×組織型交互作用: OSおよびPFSについて、治療と組織型間の交互作用が両方で統計学的に有意であった (OS: p=0.002、PFS: p=0.002)。非扁平上皮癌患者では、cisplatin + pemetrexed群がcisplatin + gemcitabine群よりも有意に長いOSを示した (HR 0.84; 95% CI 0.74〜0.96; p=0.011)。一方、扁平上皮癌患者では、cisplatin + pemetrexed群がcisplatin + gemcitabine群よりも短いOSと関連していた (HR 1.23; 95% CI 1.00〜1.51; p=0.050)。PFS解析では、非扁平上皮癌でcisplatin + pemetrexed群が優位な傾向を示したが統計的有意差はなかった (HR 0.95; 95% CI 0.84〜1.06; p=0.349)。扁平上皮癌ではcisplatin + pemetrexed群が劣位であった (HR 1.36; 95% CI 1.12〜1.65; p=0.002)。Cisplatin + gemcitabineについては、組織型による差は認められなかった (Table 3)。
非扁平上皮癌サブグループにおける詳細解析 (1次治療試験): 非扁平上皮癌サブグループ内の詳細解析では、腺癌患者におけるOS HRはcisplatin + pemetrexed群で有意に優位であった (HR 0.84; 95% CI 0.71〜0.99; p=0.033)。大細胞癌患者においても、OS HRはcisplatin + pemetrexed群で有意に優位であった (HR 0.67; 95% CI 0.48〜0.96; p=0.027)。腺癌患者のORRはcisplatin + pemetrexed群で28.9%に対しcisplatin + gemcitabine群で21.7%と、pemetrexed併用群が有利であった。対照的に、扁平上皮癌患者のORRはcisplatin + pemetrexed群で23.4%に対しcisplatin + gemcitabine群で31.4%と、gemcitabine併用群が有利であった (Table 4)。これらの結果は、非扁平上皮癌患者、特に腺癌および大細胞癌において、cisplatin + pemetrexedが生存期間の延長に寄与することを示唆する (Figure 3)。
安全性プロファイルと組織型による差異の不在: 両試験において、pemetrexedは組織型にかかわらず良好な忍容性を示した。Grade 3-4毒性の発生率は、組織型別に統計学的な有意差は認められなかった。1次治療試験では、有害事象による入院、輸血、併用薬の使用も組織型サブグループ間で同様であった。このことは、pemetrexedの安全性プロファイルが扁平上皮癌と非扁平上皮癌で変わらないことを示しており、毒性ではなく有効性 (efficacy) の差が組織型に基づく治療選択の根拠となることを裏付けている。全体OS中央値は、2次治療試験 (n=571) でpemetrexed群8.3ヶ月 vs. docetaxel群7.9ヶ月と非劣性であり、1次治療試験 (n=1,725) ではcisplatin + pemetrexed群10.3ヶ月 vs. cisplatin + gemcitabine群10.3ヶ月と同等であった。全体OSが同等であるにもかかわらず、組織型サブグループで明確な交互作用が認められたことは、組織型がpemetrexedの治療効果を予測する重要な因子であることを強調している (Figure 2)。
PFS解析の詳細と一貫性: 2次治療試験のPFS解析では、非扁平上皮癌においてpemetrexed群が優位な傾向を示したものの統計的有意差はなかった (HR 0.82; 95% CI 0.66〜1.02; p=0.076)。しかし、扁平上皮癌ではpemetrexed群が劣位であった (HR 1.40; 95% CI 1.01〜1.96; p=0.046)。1次治療試験のPFS解析でも、非扁平上皮癌でcisplatin + pemetrexed群が優位な傾向を示したが統計的有意差はなかった (HR 0.95; 95% CI 0.84〜1.06; p=0.349)。扁平上皮癌ではcisplatin + pemetrexed群が劣位であった (HR 1.36; 95% CI 1.12〜1.65; p=0.002)。PFSではOSほど非扁平上皮癌におけるpemetrexedの明確な優位性は示されなかったものの、OSとPFS双方で扁平上皮癌におけるpemetrexedの劣位という交互作用が両試験で一貫して認められた。この一貫性は、pemetrexedの組織型依存的な効果が単なる偶然ではないことを強く示唆している。
分子機序の示唆: TS発現が扁平上皮癌で有意に高く、腺癌で低いことが前臨床および臨床的に示されており (mRNAおよびタンパクレベルでp<0.0001)、これがpemetrexed感受性の組織型差の主要な分子的基盤であると考えられる。また、腺癌でより高頻度に欠失するmethylthioadenosine phosphorylase (MTAP) 遺伝子が、pemetrexedのde novoプリン合成阻害に対する感受性を高める可能性も代替仮説として提示された。さらに、S-phase kinase associated protein (Skp2) も扁平上皮癌で高発現することが報告されている。1次治療試験の付随薬理ゲノミクス研究では、低TS mRNA発現がcisplatin + pemetrexedの長いTTP (time to progressive disease) およびTTF (time to treatment failure) と関連していたが、サンプル数不足のため統計的有意差は認められなかった (仮説生成的な結果)。日本人対象の第II相試験やpemetrexed維持療法に関する第III相試験でも同様の組織型効果が確認されており、対照薬の違いによるアーティファクトではないことが示された。
考察/結論
本レビューでは、2つの独立した大規模第III相試験において、統計的に有意な治療と組織型間の交互作用がOSとPFS双方に一貫して認められた。非扁平上皮癌患者におけるOSのハザード比はそれぞれ0.78 (95% CI 0.61〜1.00) および0.84 (95% CI 0.74〜0.96) とpemetrexed群が優位であった一方、扁平上皮癌患者では1.56 (95% CI 1.08〜2.26) および1.23 (95% CI 1.00〜1.51) と明確に劣位を示した。
先行研究との違い: 2009年以前のNSCLC化学療法では、組織型は治療選択の根拠として広く認識されていなかった。プラチナ併用療法、docetaxel、gemcitabineは、扁平上皮癌、腺癌、大細胞癌に対してほぼ同様の効果を示してきた。本解析は、組織型がpemetrexedの有効性の統計的有意な予測因子であることを、n=571およびn=1,725という2つの独立した大規模試験で初めて確認した統合解析である。対照薬 (docetaxel/gemcitabine) では組織型依存的な効果が認められなかった点が、pemetrexed固有の性質であることを明確に示した点で、これまでの報告と異なる。さらに、pemetrexed vs. プラセボの第III相維持療法試験でも同様の組織型効果が報告されており、対照薬に依存しないpemetrexed固有の現象であることが裏付けられた。
新規性: 本研究で初めて、pemetrexedの有効性がNSCLCの組織型によって大きく異なることを、大規模な臨床試験データに基づき統計学的に厳密に検証し、その予測的役割を確立した。特に、非扁平上皮癌患者における生存期間の延長と、扁平上皮癌患者における生存期間の短縮という、対照的な効果を明確に示した点は新規性がある。これは、単一の抗がん剤が組織型によってこれほど明確な差を示すことがこれまで報告されていなかったため、肺がん治療における新たなパラダイムシフトを示唆する。
臨床応用: これらの知見は、欧州、カナダ、米国でのcisplatin + pemetrexedの非扁平上皮NSCLC一次治療としての承認 (2009年) および扁平上皮癌への使用非推奨の直接的な根拠となった。現在 (2009年時点) のガイドラインでは、非扁平上皮NSCLCに対してpemetrexedが優先的に推奨され、扁平上皮癌ではgemcitabineやdocetaxelが選択されるという「histology-driven treatment selection」の確立に貢献した。大細胞癌サブグループでのOS HR 0.27 (95% CI 0.11〜0.63; p=0.003) や腺癌でのHR 0.84 (95% CI 0.71〜0.99; p=0.033) は、非扁平上皮組織型の中でも有効性に差がある可能性を示唆し、将来的なより詳細な層別化治療への道を開く臨床的意義がある。
残された課題: 本解析の限界として、施設病理報告値を使用し中央病理レビューがないため、組織型分類の精度に限界がある点が挙げられる。また、後向き事後解析の性質上、交互作用の統計的有意性は有益性の大きさを保証するものではない。2009年時点ではEGFR/ALKなどのドライバー変異検索が一般化される以前であり、非扁平上皮癌というカテゴリに分子的に多様な腫瘍群が含まれていることも考慮が必要である。バイオマーカーとして候補となるTS発現やMTAPは、組織型の代替マーカーとして前向き検証が必要であり、進行中のITACA (International TAilored Chemotherapy Adjuvant) 試験でのTS/ERCC1遺伝子発現レベルに基づく個別化化学療法の可能性が今後の重要な課題として提示された。喫煙状況や民族性といった予後因子が結果を交絡させた可能性も残された課題である。
方法
本研究は、NSCLC患者を対象とした2つの独立した大規模ランダム化第III相試験の事後解析および事前規定サブグループ解析として実施された。本レビューでは、これらの試験データを統合的に評価した。
2次治療試験 (pemetrexed vs. docetaxel):
- 対象: 化学療法既治療の進行・転移NSCLC患者n=571例が登録された Hanna et al. JClinOncol 2004。
- 適格基準: 病期IIIまたはIVのNSCLC、先行化学療法1レジメンのみ、ECOG PS 0〜2、良好な骨髄・腎・肝機能を有することが求められた。除外基準には、先行docetaxelまたはpemetrexed治療、グレード3または4の末梢神経障害、研究開始前6週間で10%以上の体重減少などが含まれた。
- 介入: 患者はpemetrexed 500 mg/m²(10分静注)またはdocetaxel 75 mg/m²(1時間静注)を21日ごとにday 1に投与された。治療は病勢進行、許容できない毒性、または治療中止の要求まで継続された。
- 腫瘍効果判定: 2サイクルごとにSouthwest Oncology Group (SOGO) 基準に基づいて評価された。
1次治療試験 (cisplatin + pemetrexed vs. cisplatin + gemcitabine):
- 対象: 化学療法未治療の進行NSCLC患者n=1,725例が登録された Scagliotti et al. JClinOncol 2008。
- 適格基準: 組織学的または細胞学的に確認された病期IIIBまたはIVのNSCLC、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 基準による測定可能病変が少なくとも1つ、ECOG PS 0〜1、適切な骨髄・臓器機能を有することが求められた。
- 介入: 患者はcisplatin 75 mg/m² day1 + gemcitabine 1,250 mg/m² day1/8、またはcisplatin 75 mg/m² day1 + pemetrexed 500 mg/m² day1のいずれかを21日ごとに最大6サイクル投与された。pemetrexed投与群およびcisplatin + gemcitabine群の患者には葉酸およびビタミンB12が補充され、全患者に予防的デキサメタゾンが投与された。
- 腫瘍効果判定: 2サイクルごとにRECIST基準に基づいて評価された。
統計解析: 両試験とも、OSおよびPFSについてCox比例ハザードモデルを用いて共変量調整済み治療×組織型交互作用 (THI; treatment-by-histology interaction) を検定した。THI HRは、非扁平上皮癌におけるpemetrexed/対照薬のハザード比を、扁平上皮癌におけるpemetrexed/対照薬のハザード比で割った値として定義された。THI HRが1.00より小さい場合、非扁平上皮癌患者におけるpemetrexedの相対的利益が扁平上皮癌患者よりも大きいことを示す。組織型サブグループ別に、Kaplan-Meier法により非調整within-armメジアンが推定され、Coxモデルにより共変量調整済みbetween-arm HR (95% CI) が推定された。解析はintent-to-treat原則に基づき実施された。組織型分類は、独立した中央病理レビューなしに、各施設からの病理報告値に基づき腺癌、大細胞癌、扁平上皮癌、その他NSCLC/NOSの4群に分類された。本レビューでは、これらの研究デザインと統計解析手法を評価し、エビデンスレベルのグレーディングは行わないが、その堅牢性を確認した。